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ひとりぼっちの女の子

第一部『cursed_rain』


第一章『スレイヤー達』 


 とある洞窟の奥深く、人間の戦士と大柄な『ハイエルフ』が剣を撃ち合わせていた。


 陽の光の届かない深い横穴。


 その地面を紅く光る石だけが仄かに照らしていた。


 剣と剣がぶつかり合う度に火花が散り、洞窟内の光量をわずかに上げる。


 目を凝らすと、地面には『エルフ』達が転がっているのが見えた。


 彼らは皆、体の何処かを切り裂かれ息絶えていた。


 そして、人間の戦士が持つ剣は血でドス黒く染まっている。


 死体の山を築いた犯人は明らかだった。


 人間とハイエルフの殺し合いは最初は互角に見えた。


 だが、徐々に体格で劣る人間の戦士が押され始めていた。


 人間の戦士の身長は150セダカと少し。


 アタッカーとしてはかなり小柄だと言えた。


 一方、ハイエルフの身長は200セダカ近く有った。


 これは冒険者の平均身長と比べても明らかに大きい。


 身長の差と同様に膂力にも差が有ったのか。


 人間の戦士はハイエルフの剣戟を受けきれなくなっていった。


「っ……!」


 ついに人間の戦士の手から剣が弾き飛ばされた。


 丸腰になった人間の戦士にハイエルフの剣が振り下ろされる。


 それに対し、人間の戦士は太ももの位置に有る袋へと素早く手を伸ばした。


 人間の戦士は地面に転がりながら袋から取り出したナイフを放った。


「グワーッ!」


 奇妙な形状のナイフを眼球に受け、ハイエルフは悲鳴を上げた。


 背を丸め、明らかな隙を作る。


 怯んだハイエルフに対して人間の戦士は剣を持たぬまま間合いを詰めた。


 そして……。


 人間の戦士は『何か』をハイエルフの胸に押し当てていた。


「くたばれ」


 次の瞬間、ハイエルフの胸に太い杭を打ち込んだかのような風穴が開いていた。


 ごぷり。


 ハイエルフは口と傷口から血液を噴出して倒れた。


 周囲には他に命は無かった。


 一人生き残った人間の戦士はよろよろと歩き出した。


「また……生き残ったか……」


 戦士の呟きを聞いた者は居なかった。


 我を除いては。


 人間の戦士が立ち去ると、後にはただエルフの死骸の山だけが残された。


 ……。


 ナルガーイ歴995年。


 ノベールナロー大陸の南にあるアルカデイア島、その北端に位置する港町、ヘイジマルの中央通り。


 港町だけあって通りは中々に賑わっていた。


 アルカデイア建築の特徴は高い建物が少ないことだ。


 僻地だから建築技術が未発達なのか、それとも、土地が余っているせいなのか。


 ……どっちでも良いか。


 屋根は水色の瓦が多いね。


 その色は海よりは空の色に近い。


 そんなヘイジマルの町を『青いローブを着た少女』が歩いていた。


 実際は少女と言って良い年なのかわからない。


 少なくとも外見はそうだった。


 内面? さぁ?


 とにかく今のうちは少女と言うよ。


 少女のローブ前面の隙間から覗き見えるのは島の民族衣装、カルナだった。


 カルナの色はローブと同じく青系統だったけど、ローブより薄い色をしていたね。


 身長は147セダカで、この世界の成人女性の平均より低い。


 髪の色は青みがかった銀髪で瞳の色は紅。


 珍しい瞳だが、一流の戦士には紅い目が多いと言われている。


 紅い瞳はノート石(魔石)と同じ色で、強力な魔力が宿ると信じられていた。


 頭の上には魔法使い然とした幅広で先の尖った帽子。


 後頭部で髪をまとめているがポニーテールと言うほどきつく縛っているわけでもない。


 特殊な髪留めでゆったりと髪をまとめるこのやり方は、島の南部で見られるものだった。


 まとめた髪は肩甲骨の下まで達している。


 髪留めと帽子を併用しているせいで帽子がやや不安定だった。


 少女は感情が一切こもらないのっぺりとした表情で『大きな看板』を抱えていた。


 看板には文字が書かれているが、何故か発光しており、周囲の人々はそれを奇異の目で見ていた。


 看板に書かれている文字は『冒険者志願、パーティに入れてください』。


「パーティを探してるの?」


 看板を重そうに持ちひょこひょこと歩く少女についに声がかかった。


 声をかけたのは『耳が尖った』少女。


 どうやら『アレンジ』らしい。


 アレンジとは呪いの雨で『体が変質』した人間とその子孫を言う。


 アレンジは『先祖の呪い』を受け継いでいる事が多い。


 彼女の尖った耳も先祖の特徴を受け継いだものだろう。


 『種族名』は……すぐに出てくるよ。


 アレンジの少女の頭髪は美しい金色。


 頭の左右で結び、ツインテールにしていた。


 髪留めの飾りは島の西側の森に生えている『シンドの木』の葉をモチーフにしたもの。


 瞳の色は銀髪の少女と同じく紅で、身長は160セダカ後半。


 出る所は出て引っ込む所は引っ込んだ、豊満さとスリムさを兼ね備えた体をしている。


 服の上には緑色のフード付きマント。


 マントの下の白を基調とした衣服は、大陸はおろか、島でも珍しい様式だった。


 特段使っている生地が特殊なわけでもないが、なんとなく神秘的な雰囲気を感じさせた。


 二人の少女は共に整った顔立ちをしていたが、美人と言えるのは金髪の少女の方だった。


 銀髪の少女の容貌は金髪の少女と比べるといかにも幼く見える。


 だが、立ち振舞いは逆だった。


 金髪の少女は常に体のどこかが動いていて、落ち着きが無い。


 おまけに耳をぴょこぴょこ動かすという変わった特技を持っていた。


 風貌は大人びているにも関わらず、どことなく幼さを感じさせた。


「ねぇ、聞いてる?」


 銀髪の少女は金髪の少女の美しさに目を引かれ、返事をするのを忘れてしまっていた。


 別に同性愛者だったわけじゃない。


 同性でも見惚れる美しさ。


 それだけ金髪の少女が美しかったということだね。


 もし本当に同性愛者だったら、顔よりもまずおっぱいを見たはずさ。


 さて、しまったと思った銀髪ちゃんは慌てて看板に文字を書き加えた。


 文字を書き加えた道具はペンやチョークではなく『紅く光る石』だった。


 テンプレート(魔導器)だろう。


 どういう仕組なのか、古い字は消え、新しく書いた字だけが看板の表面で発光する。


「私は『ハルナ=サーズクライ』です。『リメイカー』です」


 看板にはそう記されていた。


 リメイカーとはいわゆる魔術師のことだね。


 前に言ったと思うけど、魔術のことをこの世界では『リメイキング』略して『リメイク』と言う。


 リメイク使いのことをリメイカーと呼ぶのさ。


 『リメイキンガー』じゃあ語呂が悪いしね。


「そうなんだ。私は『ミミル=ナーガミミィ』。弓使いよ」


「冒険がしたくて村から出てきたの。よろしくね」


 金髪の少女、ミミルは一貫して明るい表情だった。


 それにつられてか、銀髪の少女、ハルナが纏う雰囲気もどことなく柔らかくなる。


「はい。よろしくお願いします」


「それで、その看板は何? 何かの芸かしら?」


 ついにミミルが核心を突きに行ったね。


 答えにくいことなのか、無表情気味のハルナの表情がほんの少しだけ曇った。


 ほんの少しだけね。


 君には区別がつかないかもしれないな。


 まあ、ハルナ検定2級を取れば判別出来るレベルさ。


「実は……」


 ミミルの質問の答えをハルナはゆっくりと看板に書き出していく。


「私は、『言葉が話せない』ので」


 ハルナはそう書いた。


 それを見て、ミミルのハルナを見る目が変わる。


 今までの人懐っこい微笑はどこかに行ってしまったね。


「私が田舎者だからってバカにしてるの?」


 ミミルの目は怒るような、疑うような目つきに変わってしまった。


 ついさっきまで楽しそうにしていられたのにね。


「いえ……私は……」


 ハルナは何かを書こうとするが、上手くまとまらないようだった。


「言葉が話せないリメイカーなんて居るわけがないじゃない」


「いくらなんでも騙されないわ。さよなら」


 ハルナが何かを書き終える前にミミルはハルナに背を向けてしまった。


 書きかけの文字は読まれることが無い。


 ミミルの黄金の髪が雑踏の中へと消えていく。


 そうしてハルナは取り残された。



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