リトルジャイアント
身長17セダカの少女、クザンは項垂れた。
「確かに、私は呪いで小人にされてしまった身だ」
「だが……」
クザンの胸部が紅く光った。
「この光は……!」
次の瞬間……。
そこには身長169セダカほどの凛々しい美少女が出現していた。
「私は女神様の加護によって、一日に十分間だけ『巨人化』することが出来る」
「巨人……?」
「私が知っている巨人とは少し異なるような気がするのですが……」
「どっちかというと、普通の人じゃない?」
「う、うるさい!」
クザンは顔を赤くして怒鳴った。
「加護の力……。お前……転生者か?」
オヴァンが尋ねた。
「転生者? オリジンのような連中のことか? どうしてそう思う?」
クザンは首を傾げた。
「加護というのは転生者が授かる者では無いのか?」
「いや。私は転生者ではない。そもそも、私の時代には転生者というのは居なかった」
「ふむ……」
「もう良いだろう。勝負だ!」
「わかった。お前達、手を出すな」
「はい」
「うん」
オヴァンが金棒を構え前に出た。
円形の広間の中央へと。
クザンはオヴァンの対面に移動した。
クザンの手には双剣。
二人は武器を構えたまま向かい合った。
先に仕掛けたのはクザンの方だった。
クザンの剣は刃渡り50セダカ程度とやや短い。
一方で、オヴァンの金棒の長さは2ダカール有る。
原則として、戦闘においてはリーチが長い方が有利になる。
オヴァンは金棒のリーチを生かし、クザンの斬撃をいなした。
クザンは自身の剣の間合いにオヴァンを捉えることが出来ない。
正面からの攻撃が通用しないのを見るとクザンは一度離れた。
「中々やるな」
クザンがオヴァンの武を褒めた。
だが……。
「そうか? こちらは期待しすぎたようだ」
オヴァンは拍子抜けした様子だった。
確かに、クザンの身のこなしは中々のものではあった。
冒険者で言えばインターバル7には相当するかもしれない。
間違いなく一流の剣士だ。
だが、一流の剣士などオヴァンにとっては見慣れたものでしか無かった。
「女神の騎士……思っていたほどでは無いな」
「……言葉もない」
「私は……私達は……無力だった。」
「『邪悪』に敗れ、全ては穢された」
「今、この世界がこうなっているのは……全て私達のせいだ」
「女神の騎士は……邪神に敗れた……?」
「だが……!」
「この程度だと思われては困る!」
クザンは怒号と共に二本有る剣の片方を地面へと突き立てた。
「む……!?」
瞬間、オヴァンの足元にリメイクサークルが出現していた。
仮面の紋様が一瞬で剥げ、オヴァンの動きが静止した。
オヴァンはまるで凍りついたかのように動かなくなった。
「ブルメイ……!?」
その間にクザンはオヴァンとの距離を詰めた。
地面に刺した剣をその場に残したまま駆ける。
オヴァンに近付いた所でクザンは呪文を詠唱した。
リメイクの専門家であるハルナですら聞いたことが無いような呪文だった。
クザンが短く詠唱を終えると、地面に刺さった剣の周辺にサークルが出現した。
地面の剣が浮かび上がり、彼女の手元へと戻る。
オヴァンの足元のサークルが消滅した。
オヴァンの静止が解けた。
「っ!?」
オヴァンの静止が解けた時、クザンはオヴァンのすぐ前まで接近していた。
静止状態では意識も無くなるらしい。
オヴァンは驚きつつも素早くバックステップ。
直前までオヴァンが居た地点をクザンの剣が切り裂いた。
クザンの剣先が僅かにオヴァンを捉えていた。
薄皮を切り裂かれ、オヴァンの胸から血が垂れた。
オヴァンは金棒を前方へ向けクザンを警戒した。
「オヴァンさん! 防御フレイズが解けています!」
ハルナが大きく書いた。
「奴がリメイクを使うようなら頼む」
「……はい」
「妙な術を使うようだな」
オヴァンはクザンの双剣を見て言った。
「アルエクス33、時縛剣サザン=ガーク」
「オリジンがブルードラゴンの守護者を引き受けた代償に私にくれた剣だ。この剣でお前の時を縛った」
「時を……? 大した力だな」
「……だが、時を止められるのはほんの一瞬のようだな」
「そうでなければ俺は既にこの場に立ってはいないはずだ」
「さらに、時を止めるには剣を地面に突き刺す必要が有る」
「正解……と言いたいところだが、甘いぞオヴァン」
「む……!?」
クザンは再び剣を地面に刺した。
オヴァンの足元にリメイクサークルが出現。
オヴァンの意識が途絶えた。
オヴァンの意識が戻った時にはクザンの姿は彼の視界から消え失せていた。
(奴はどこに……!?)
オヴァンは危機感から地面に転がった。
斬撃はオヴァンの後ろから来た。
それまでオヴァンの胴体が有った位置をクザンの剣が切り裂いていた。
オヴァンは体勢を立て直すと再び距離を取った。
「ブルメイ……!」
ミミルが心配そうに言った。
「問題ない。黙って見ていろ」
「うん……」
「問題ないだと? まだ私に勝てるつもりか?」
「そうだな。お前の能力だが……」
「お前が時間を一瞬しか縛れないのなら俺の背後に回り込むことは不可能」
「だが、長時間止められるなら後ろに回らずとも前から刺し殺せば良い」
「つまり……」
オヴァンは金棒を地面に放り投げた。
そして、旅袋から短剣を二本取り出し、クザンとの間合いを詰めた。
クザンは双剣でオヴァンを迎え討つ。
リーチの差は逆転していた。
オヴァンの短剣はクザンの双剣よりも短い。
だが、金棒のリーチに頼らなくてもオヴァンの圧はクザンを凌駕していた。
「っ……!」
オヴァンの短剣に圧され、クザンは退いた。
二人の距離が離れた瞬間……。
クザンは慌てて剣を地面へと突き刺そうとした。
その時……。
オヴァンはさらにクザンに向かって大きく踏み込んだ。
「しまっ……!」
クザンの剣が氷の地面を突いた。
オヴァンの足元を囲むようにサークルが出現した。
オヴァンの動きが停止する。
「これは……?」
そう言ったのはミミルだった。
オヴァンは静止していた。
クザンと共に。
二人は同時に停止し、動き出す気配も無かった。
「どうなってるの?」
ミミルは不思議に思いながらオヴァンへと近付いていった。
「サークルに入らない方が良いですよ」
ハルナが書いた。
「どういうこと? ハルナは何が起きたのかわかってるの?」
「はい」
「つまり、彼女のオリジナルの力は、相手の動きだけを止めるものでは無かったということです」
「オヴァンさんの周囲のサークルが、彼女の位置にまで達しているでしょう?」
「この剣は、サークルの中の物を縛る」
「それは、剣の持ち主である彼女も例外ではなかったということです」
「オヴァンさんはサークルが出現する直前に間合いを詰めて彼女をサークル内に巻き込んだのですね」
「短剣を選んだのは、敢えて射程の短い武器を使うことで間合いが離れにくいようにしたのでしょう」
「それはわかったけど……」
「これ、いつまで固まってるの?」
「さあ……?」
「とりあえず……彼女をサークルから引きずり出してみましょう」
オヴァンの全身はサークルの中に有った。
一方、クザンは体の一部がサークルからはみ出している。
ハルナはクザンのサークルからはみ出ている部分を掴み、思い切り引っ張った。
うんとこしょ。
どっこいしょ。
全身がサークルの外に出るとクザンの意識が戻ったようだ。
「あっ……」
クザンが声を上げた。
クザンの視界には自分に弓矢を突きつけるミミルの姿が映っていた。
……。
「私の負けか。悔しいぞ……」
勝負が終わり、クザンはオヴァン達三人と向かい合っていた。
「引き分けで良いんじゃない? 結局は三人がかりだったんだし」
ミミルが言った。
「手を出すなと言ったはずだがな……」
オヴァンが不満気に言った。
「だって、いつまで固まっているかわからなかったもの」
「ずっと固まっている可能性も有りましたからね」
「別に、大したことは無い」
クザンが言った。
「ほんの一年ほどだ」
「そう……」
「とにかく、一応は俺達の勝ちだ。この先を探索させてもらうぞ」
「私を殺さないのか? 剣を奪おうとは思わないのか?」
「興味が無い。そもそも、元は小人用のサイズだろう? 加護で巨大化させているだけで、俺達には使えない」
「そうか……」
「その慈悲を見込んで頼みが有る」
「頼み?」
「あいつに……『この奥に居る人物』に危害を加えないで欲しい。お願いだ」
「別に、俺達は解呪のオリジナルを探しているだけだ」
「奥に居る人物とやらには全く興味も無い。心底どうでも良い。毛ほどの関心も無い」
「そうか……。それはそれで複雑な気分だが……」
「ありがとう。オヴァン」
クザンは頭を下げた。
「結局、お前が守っていたオリジナルというのは、その剣のことなのか?」
「それは……」
その時、氷の町に声が響いた。
「クザン様」
それは年を取った男の声だった。
「彼女達を私の所へ連れてきて下さい」
「おい……! 喋ると寿命が……!」
慌てた口調のクザンに対し、男の声は落ち着いて答えた。
「良いのです。彼女を私の所へ」
「……わかった」
クザンは広場の出口へと歩いていく。
その先には氷の塔が見えた。
「来い」
「ブルードラゴンの主が呼んでいる」




