表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/190

チャーミングガール 

 オヴァン達が帝都に来てから一週間が経過した。


 オヴァン達は宿から図書館へと向かうために中央通りを歩いていた。


 昼間は別れて行動するとしても、なるべくハルナの送り迎えをする。


 ミミルがそう提案し、オヴァンもそれに乗った。


「調査の方はあとどれくらいで終わりそうだ?」


 オヴァンが尋ねた。


「実は……そろそろ終わりにしても良いのでは無いかと考えています」


「えっ? あの本全部読んだの!?」


「いえ。まだ半分程度ですが」


「半分でも凄いわよ」


「そうですか?」


「それで、終わりにしても良いというのは?」


「書物に記されている内容にある程度の『パターン』が見えてきたのです」


「おそらくは残りの書物にもそのパターンに沿ったお話が記されているのでは無いでしょうか?」


「パターン? 結局、この国のオリジナルは俺達が探している物なのか?」


「結論を言えば……」


「この国に有るオリジナルは目的の物とは異なる物だと思われます」


「なーんだ。残念」


「どういうオリジナルなんだ?」


「書物の伝承では、オリジナルの形状は『壺』か『鎖』のどちらかとして記されています」


「壺と鎖? 全然別の物みたいだけど」


「形はそうですね。ですが、この二つにはその用いられ方に大きな共通点が有るのです」


「共通点って?」


「それは、言い伝えにおいて、これらのオリジナルが化物を『封印』するのに用いられているということです」


「化物……デッドコピー級か」


「おそらく」


「何にせよ、私達が探すオリジナルとは異なる性質を持っているようです」


「ふむ……」


 その時だった。


「皇帝陛下だ!」


「皇帝陛下がご帰還なさったぞ!」


 中央通りがざわめきに包まれた。


 オヴァンが振り返ると、雑然としていた人々の群れが綺麗に左右へと別れていた。


 そのさらに向こうから軍勢がやってくるのが見えた。


 オーシャンメイル軍のようだ。


「皇帝が帰ったのか……」


 オヴァンが呟いた。


「あの、私達も脇にどいた方が良いのでは無いでしょうか?」


「ふむ……」


 オヴァンには皇帝にオリジナルのことを尋ねたい気持ちが有った。


 だが、ハルナの調査が間違っているとも思わなかった。


 一瞬迷った後、オヴァンは道の脇に移動した。


 やがて軍勢の先頭がオヴァン達の近くへとやってきた。


(まさか……あれが皇帝?)


 軍勢の先頭は屋根のない豪奢な猫車だった。


 猫車の周囲はサーベル猫に乗った兵士達が警護している。


 猫車の座席には十歳ほどの背の低い少女が座っていて、隣には角の生えたメイドの姿が有った。


 そのさらに前には手綱を操る御者の姿も見える。


(こんな子供が大国を統べる皇帝だというのか……?)


 オヴァンの内面で驚きの感情が膨れ上がった。


 その時だった。


「妖女! 覚悟!」


 オヴァンの向かい側の建物の屋根から人影が跳んだ。


 人影の手には煌めく白刃が有る。


 皇帝の猫車に対する奇襲だった。


 襲撃者の靴裏にはノート石の輝きが有り、テンプレートで跳躍力を強化しているようだった。


 上空からの襲撃に猫に乗った護衛達の反応が遅れる。


 襲撃者は兵達に阻まれることなく皇帝の猫車の後部へと飛び乗った。


 護衛の兵達は猫車へ向けて槍を構えたが、一拍遅い。


 猫車には屋根が無い。


 何の防備も無かった。


 襲撃者の斬撃が……。


「ぐっ……」


 奇襲は失敗に終わった。


 猫車の後部に飛び乗ったオヴァンの手が襲撃者の腕を掴んでいた。


 ぎりぎりと腕を圧迫され、襲撃者の手から刀が落ちた。


「何だ貴様は……!」


 襲撃者はオヴァンを睨んだ。


 襲撃者は二十代後半ほどの精悍な男性だった。 


「通りすがりの者だが」


「何故邪魔をする……!」


「反射だ」


 オヴァンは素直に答えた。


 丸腰の子供を、武器を持った大人が殺そうとした。


 それでなんとなくオヴァンの体が動いていた。


 オヴァンは皇帝の人となりも知らない。


 頭で考えて助けたわけでは無かった。


 もし皇帝が帯剣していれば助けなかったかもしれない。


「馬鹿な……!」


「すまんな」


 オヴァンは襲撃者を投げ飛ばした。


 襲撃者の背が通りの地面へと打ち付けられた。


 倒れた襲撃者を槍を持った猫兵達が取り囲んだ。


「ぐ……」


「どうしましょうか?」


 護衛の一人が上官の騎士らしき人物に尋ねた。


「殺せ」


 騎士は即答した。


「はっ」


 護衛兵は襲撃者に槍を突きこもうとした。


「止めなさい」


 猫車の上から皇帝が声をかけた。


「はっ」


 兵士達は槍を収めた。


 皇帝はメイドと共に猫車から降りた。


「殺すことは無いわ」


 皇帝、ネーデルは言う。


「話し合えば分かりあえる。そうでしょう?」


 そう言ってネーデルは襲撃者の方へ歩いた。


 兵士たちがネーデルのために道を開ける。


 襲撃者は上体を起こしてネーデルを睨みつけた。


「分かりあえるだと……!? 戯言を……!」


 襲撃者の強い怒気を受けてもネーデルの外面に揺らぎは見られなかった。


 胆力が有る。


 オヴァンは傍目にそう判断した。


「あなたは誰? どうしてこんなことをしたの?」


 ネーデルは襲撃者に問いかけた。


「陛下の仇だ」


「陛下?」


「俺はキオトル。貴様に滅ぼされたジャクス王国の戦士だ」


「貴様の首を取り、亡き陛下の墓前に捧げるつもりだったが……」


「結局はこのザマだ。……殺せ」


「まあ、辛かったのね」


 そう言って、ネーデルはキオトルの頬に手を伸ばした。


 キオトルの周囲は兵士たちが囲んでいるが、手足を拘束されたわけではない。


 屈強な戦士は素手でも人を殺せる。


 それが小さな子供であれば尚更。


 ネーデルの振る舞いはあまりにも無防備だと言えた。


(今なら……殺せる……?)


 キオトルの頭にそんな考えがよぎった。


 刺客であれば当然の思考だった。


 だが、キオトルの体は何かに縛られたかのようにピクリとも動かなかった。


(どうして……動かない……? 動けない……?)


「よしよし」


 ネーデルがキオトルの頬を撫でた。


 紅い指輪を身に着けた右手で。


「う……?」


 キオトルの頭ががくりと垂れた。


 そして数秒後、キオトルの頭が持ち上がった。


「ああ……俺はなんということを……」


 キオトルの表情には悔恨が浮かんでいた。


 その瞳は今にも涙を零しそうなほどに潤んでいる。


「あなたのような魅力的な女性に刃を向けてしまうなんて……万死に値します」


「良いのよ。大事なのはこれから」


 ネーデルは微笑んで言った。


「良かったら、あなたの力を私に貸してくれるかしら?」


「ヨロコンデー!」


 キオトルは快諾した。


 その様子を見て、オヴァンは内心戦慄していた。


(何が起きた……?)


 皇帝を憎んでいたはずの戦士が、一瞬にして彼女に忠誠を誓っている。


 何かおぞましい事が起こっているに違いなかった。


(まさか……あの指輪が……)


「そこのあなた」


 ネーデルの瞳が猫車の上のオヴァンへと向けられた。


 得体の知れない妖女を前にオヴァンの筋が強張った。


「ありがとう」


 妖女は朗らかに笑んだ。


「あ……? ああ……」


「あなたのおかげで私は命を落とさずに済んだわ」


「もし良かったら、今夜の夕食にでも招待させてもらえないかしら?」


「それは……」


 オヴァンは逡巡した。


 この皇帝は……不気味だ。


 敵ではないはずだが、あまり近付きたいとも思えなかった。


 オヴァンが黙っていると……。


「ああ……」


 皇帝はハルナ達の方へ首を向けた。


「お友達もご一緒して構わないわよ」


(猫車の上から……見ていたのか……)


(通行人に過ぎない俺達のことを……)


 オヴァンの考えは固まった。


「悪いが、遠慮させて貰おう」


「貴様! 陛下のお誘いだぞ!」


 誘いを断ったオヴァンに兵達が殺気を向けた。


「止めなさい。全く、荒っぽいわねえ」


 皇帝がそう言うと兵士達は従順に殺気を収めた。


「だけど……」


「命の恩人にお返しをしないわけにはいかないわ」


「それなら心配しなくても良い」


「俺は……俺達はとあるオリジナルを探している者だ」


「この国にオリジナルが有ると聞いてやって来た。オリジナルについての話を聞かせて欲しい」


「良いわよ」


「有り難い」


「それじゃあ、夕食の時間にでもゆっくりとお話させて貰うわね」


「それは……」


 明確に敵対しているわけでもない。


 いくらオヴァンでもここまで言われて誘いを断るのは難しかった。


「わかった」


 こうして、オヴァン達は皇帝の晩餐へと招待されることになった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓もしよろしければクリックして投票をお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ