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激突

 草木一本生えない広大な『セキガハール砂漠』で二つの軍隊が対峙していた。


 南に布陣したのは南東部一の大国である『オーシャンメイル帝国』の軍。


 その北から『ガイウス国』の軍がオーシャンメイルの軍を睨みつけていた。


 兵数では大国であるオーシャンメイルが有利。


 一方、ガイウスの兵達は精強で知られていた。


 ガイウス軍は一糸乱れずオーシャンメイルの軍を待ち構える。


 その堂々たる様子にガイウス国王のゲーテルは自軍の勝利を予感した。


 ゲーテルの背は人並みでは有るが、鎧の下にある胸板は驚くほど厚い。


 腕の太さも常人の倍は有り、屈強な戦士であることが見て取れた。


 太い赤髪を長く伸ばし、顎は髭で覆われていた。


(勝てる)


(有象無象の集団に、我が軍が敗れるはずが無い)


 オーシャンメイルが大国となったのはほんの最近の事。


 王が代替わりして以降、突然に戦勝を繰り返してその領土を拡大させていた。


 制圧した他国の軍を吸収したおかげで兵数こそ多いが、それで全体の練度が保てているかは疑問だった。


(来い……!)


 ゲーテルは自身が乗るサーベル猫の手綱をぎゅっと握りしめた。


(目にもの見せてくれる!)


 ……その時だった。


「何だ……!?」


 ゲーテルは背後を振り返った。


 戦場ではないはずの後方の陣から兵士達の怒号が聞こえてきた。


(奇襲か? いや……)


 開けた砂漠だ。


 兵を伏せられる余地など無かったはずだ。


(まさか……強力なオリジナルを掘り当てたとでも言うのか……?)


「伝令!」


 戸惑うゲーテルの側面に伝令の猫が走り込んできた。


「何が有った!」


 ゲーテルは怒鳴りつけるように聞いた。


「裏切りです!」


「何だと……!?」


 ゲーテルは耳を疑った。


「コバヤック将軍が裏切り、兵を本陣へと向けています!」


「コバヤックが……!?」


 コバヤックは忠義の将だ。


 何代にも渡り国を支えてきた名臣の一族の末裔。


 ゲーテルとも兄弟のように育ち、気心が知れた仲だった。


 そんなコバヤックが自分を裏切ったなど、信じられなかった。


「何かの間違いでは無いのか……!? そんな馬鹿なことが……!」


 ゲーテルは伝令の言葉を疑った。


「いいえ。間違いではありませんよ」


「っ!?」


 伝令が腰の刀を抜いた。


 そのままゲーテルの腹へと刃を滑らせる。


 外界では『罵倒術』とも呼ばれる刀剣を使った暗殺術だった。


 その名は『言葉よりも速く斬る』という剣術の理念を表している。


 殺すと言葉にした時には既に相手を殺している。


 そういう技だった。


 伝令はコバヤック子飼いの暗殺者だった。


 ガイウス軍はその末端までが武勇に優れる。


 ゲーテルが反応しようとした時には既に手遅れになっていた。


「む……ぐ……」


 刀が甲冑ごとゲーテルの腹を裂き、臓物を零れさせた。


 ゲーテルは猫から落ち、地面へと倒れた。


 地面に打ち付けられた重装備が鈍い音を立てた。


「陛下!」


「このっ! よくも!」


 暗殺に気付いた周囲の兵が伝令へと突きかかった。


 伝令は無抵抗に兵達の槍を受けた。


 伝令の口から血が溢れた。


「やりました……。ネーデル様……」


 伝令はそう言って倒れた。


(何故だ……どうして……)


 腹に刃を受けたゲーテルの意識は薄れつつあった。


(コバヤックの裏切り……あり得ることでは無い……)


(いったい……何をしたというのだ……)


(妖女め……)


 周囲のリメイカーの治療も虚しく、ガイウス王ゲーテルは絶命した。


 ……。


 オーシャンメイル軍本陣。


 屋根の無い戦争用の猫車の椅子の上。


「上手く行ったみたいね」


 ガイウス軍の足並みが崩れたのを見て、少女が言った。


 少女の髪はすらりと伸びた桃色。


 瞳も同じ色をしていた。


 身長は139セダカ。


 小顔で手足がすらりと伸び、身長の割にはスタイルが良く見える。


 容貌は美少女と言っても差し支えない。


 無邪気そうな眼差しをしながら、口元はきゅっと引き締まっていた。


 頭には金の王冠を被り、戦場だというのにフリルのついた水色のドレスを着ていた。


 手には武器の一つも持たず、ただ、右手の中指で『紅い指輪』が光っていた。


 少女の名はネーデル=メッサー。


 十歳という驚異的な若さで帝国を治め、版図を広げ続けている皇帝だ。


 その常勝無敗から、自国の民達は彼女を『戦姫』と讃えた。


「そのようですね」


 ネーデルの隣に座っていたメイドが答えた。


 彼女の名前はツクヨ=アルジェント。


 身長は165セダカ。


 髪は黒のショートで、瞳の色は緑。


 服装は紺のメイド服にエプロン。


 体型はスレンダーで、切れ長の目をしていた。


 彼女の外見で最も特徴的なのは、頭の側面から生えた角だった。


 彼女の頭からは焦茶色のざらざらとした角が天を衝くように生えていた。


 ツクヨもネーデルと同様、武器らしい武器は持っていなかった。


 ネーデルと同様に右手の中指に赤い指輪を嵌めていた。


「全軍突撃!」


 ネーデルが号令を発した。


 およそ戦場には似つかわしくない幼い声。


 傍目には滑稽だったが、それを笑う者は誰も居なかった。


 兵達の中に笑んでいる者は居た。


 それは勝利を確信した喜悦の笑みだった。


 急ごしらえとは思えない滑らかな動きで全軍が前に出た。


 オーシャンメイルの軍勢がガイウス軍に切り込んだ。


 王を失った軍勢はさしたる抵抗も出来ず、オーシャンメイル軍に蹴散らされていった。


 ネーデルは自身の右手に視線を落とした。


 彼女の右手の中指では紅い指輪が光っている。


 少女は思う。


(負けるはずが無い……)


(この『力』が有る限り……私は絶対に負けない……)


 ……。


 決戦の一月ほど前。


 ガイウス王都の通りに、ガイウスの重鎮コバヤックの姿が見えた。


 腕に自信が有るコバヤックは警護の兵士も連れずに一人で道を歩いていた。


「将軍様」


 通りの端からコバヤックに声をかける者が居た。


 コバヤックが視線を向けるとそこには二人の少女の姿が見えた。


 二人は身長に差が有り、年が離れているように見えた。


 姉妹だろうか。


 コバヤックはそう考えた。


 二人共、紫色のフードを目深に被っている。


 占い師の格好をしていた。


「何だ」


「私達、旅の占い師なんです。武運を占わせては貰えませんか?」


 背の低い方の少女が言った。


 幼い声だ。


 コバヤックは占いになど興味は無かった。


 だが……。


「見てもらおうか」


 コバヤックはそう答えた。


 貧しい少女達に金を恵んでやるのも悪くない。


 万が一間者であれば切り捨てれば良い。


 そう考えてコバヤックは少女たちに近付いていった。






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