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キャットウーマン

 おごりの酒は美味い。


 それがこの世界の法則だった。


 オヴァンはぐびぐびと酒を飲み進め、ついには十個目の酒瓶を開けようとした。


「さて、そろそろ本題に入って良いか?」


 とどまるところを知らないオヴァンに対し、オーシェのストップがかかった。


「まだ飲み足りないが……」


 オヴァンは名残惜しそうに酒瓶を見た。


「貧乏講師の財布がすっからかんになっちまうよ」


 オーシェは懐から財布を取り出してひらひらと振った。


 薄い財布だった。


「そうか。話を聞かせてもらおう」


「『竜人ブルメイ』、あんたに『依頼』を頼みたい」


「俺を知っているのか?」


「そりゃそうだ。大陸最強の冒険者。誰でも名前くらいは聞いたことが有るだろう」


「お前が話しかけてきたのは俺が名乗る前だったと思うが」


「あんたがこの町に来るということはわかっていた」


「どういうことだ?」


「神殿があんたの行動を予知したんだ。今回の俺は……神殿の使いって所だな」


「お前は学校の講師なのだろう? どうして神殿の使いなどやっている」


「仕事柄、色んな連中と付き合いが有ってな」


「仕事?」


「俺は学校の……そう。雑用係みたいなもんだ」


「ふむ……? それで、依頼というのは?」


「他でもない、あの『害虫』の話だ」


「あれは……デッドコピー級だったな」


「そう思うか?」


「ああ」


「……実は、あの虫がこの町に出たのは初めてじゃない。これで二回目だ」


「一回目の時は、学校の講師が襲われた」


「その時は講師に付いていた護衛のおかげであの虫を退治出来たんだが……」


「講師に護衛が付くのか?」


「いや。私兵みたいなものだ。襲われた講師は良い所のおぼっちゃんでな」


「ロクですか?」


 ハルナが看板を挟んだ。


「ああ。そういえばクラスメイトだったか……」


「大昔の話ですが」


「まあ、その通りだ。ロクが襲われ、護衛のシムが捨て身の攻撃で虫を撃退した」


「シムは重症を負ったが、ここはリメイクの聖地だからな。命に別状は無かった」


「問題は……あの虫が一体じゃないらしいということだ」


「現に、二体目が現れたわけですしね」


「それで、トライアック(特許庁)の神官が、『化物の巣』の位置を割り出した」


「問題は、誰に虫の退治を頼むかという話だったんだが……」


「シムはかなりの手練だった。冒険者で言えばインターバル7に相当するだろう」


「凄腕だな」


「ああ。そんなあいつが死にかけるレベルとなると、並の冒険者じゃ厳しい」


「それでどうするかと悩んでいた所、神官があんたの到着を予知したというわけさ」


「なるほど。だが、妙だな」


「何が?」


 ミミルが尋ねた。


「普通、デッドコピー級が出現するときは、そのずっと前から対策を整えておくものだ」


「辺境の島にデッドコピーが出る時ですら、事前に俺達……オクターヴに依頼が有った」


「だが、今回、俺はあの化物が出現してからこの町に来ることになった」


「神殿のネットワークが有れば事前に俺に依頼をすることも可能だったはず……」


「つまり、どういうこと?」


「神殿は……トライアックは……」


「あの化物の存在を予知出来なかったということか?」


「痛いとこを突かれたねぇ」


 オーシェは頭を掻いた。


「あんまり大声で言わんでくれよ? 怖がる連中が居るからな」


「俺は酒を九本飲んだ」


 オヴァンは十本目の酒瓶を開けた。


「これで十本目だ。酔っぱらいのたわごとなど、誰も聞いてはいないだろう」


「酔うと声が大きくなるぜ」


「俺はならん」


「だと良いがね」


「どうして……」


 ハルナが書いた。


「どうして神殿は化物の予知に失敗したのですか?」


「さあな。俺は神殿の人間ってわけじゃないし……」


「とにかく、神殿にとってのイレギュラーが起こったんだ」


「それはいったい……」


「そういうこともあるだろう」


 オヴァンは十一本目の酒瓶を開けた。


「覚えているだろう? トゥルゲルに雨が降ったのを」


「まさか……あの黒い化物が関係しているというのですか?」


「さあな」


(だが……出てくるのなら殺す)


 オヴァンは自身の内面に殺意を充溢させた。


「黒い化物? 何の話だ?」


 オーシェが聞いた。


「別に。こっちの話だ」


「そうか。それで……頼まれてくれるか?」


「良いだろう」


「有り難い」


「だが、名指しで雇おうと言うんだ。それなりのモノは払って貰えるんだろうな?」


「参ったな……。あんまり経費をかけると神殿の連中に怒られるんだが……」


「俺達はオリジナルを探している」


「オリジナルの情報を寄越すのなら、安値で引き受けても良い」


「オリジナルか……」


「そういえば、『帝都』の宝にオリジナルが有ると聞いたことが有る」


 オヴァン達は今、大陸の南東に位置する『オーシャンメイル帝国』の西端に居た。


 帝都は帝国の中央、マーネヴから見て東に有った。


 帝都からさらに東へ旅するとそこには温泉街アーリマンが有る。


「ふむ……」


「どうだ? まけてくれるか?」


「良いだろう」


 オヴァンは頷いた。


「デッドコピー退治の相場から二割引いた額で引き受けよう」


「う~ん……もう一声」


「俺は安くない。無茶な金額を提示しているつもりも無い」


 オヴァンは軽々と退治してしまうが、本来クロス退治というのは命がけの仕事だ。


 中でもデッドコピー退治の危険度は、並の冒険者ではまず生きては帰れないほど。


 さらに、今回は神殿の予知が外れるなど、不審な要素が多い。


 それらの点を考慮するとオヴァンの提示した額はむしろ良心的であると言えた。


「……わかった」


 オーシェもそれがわかっているので渋々首を縦に振った。


 直後、オーシェは言葉を付け加えた。


「ただ、一つ条件を付けさせて欲しい」


「話してみろ」


「俺の弟子を同行させて欲しい。実戦経験を積ませたいんだ」


 オーシェの提案はオヴァンには無謀なことのように感じられた。


「今回の敵はおそらくデッドコピー級だ。ルーキーには早いと思うが」


「それよりも、エルフ退治にでも行かせたらどうだ?」


「いや、あいつは才能は有るんだ。エルフ程度じゃあ役不足でな」


(程度……)


 ハルナは自身がエルフ相手に醜態を晒したことを思い出した。


「才能が有るからこそ、油断しやすいところが有って、それが不安なんだ」


「ここらで一度、鼻っ柱を折られるくらいの体験をした方が良い」


「随分期待しているんだな。そいつに」


「ああ。あいつは天才だからな」


「ふむ……? 良いだろう。子守をしてやる」


「ありがとう! 恩に着る!」


 オーシェは妙に嬉しそうに頭を下げた。


 ……。


 次にオヴァン達が集まったのは学校の校舎裏だった。


 オーシェは宣言通り、自分の弟子を同行させていた。


「ほら、自己紹介しろ」


 オーシェが弟子に言った。


「やっほー。よろしくね」


 軽い口調で言った弟子の頭をオーシェがはたいた。


「ワン子、名前」


「うぅ……」


「えっと、ボクはキール。キール=オルベルンだよ。よろしくね」


「オルベルン?」


 オヴァンはその名字に聞き覚えが有った。


「俺の養子だ」


「そうか……」


 オーシェが連れてきたのは『ミャオル族』の子供だった。


 ミャオル族とは、『猫』に酷似した姿を持つアレンジだ。


 他に獣の特徴を持ったアレンジと言うと、オーグ族が居る。


 ロクの部下であるシムがそうだ。


 彼は尻尾が生え、耳が獣のような形をしていたが、他の部分は人間と違い無かった。、


 一方のミャオル族は、全身がふさふさとした毛に覆われている。


 顔は猫そのもの、尻尾は二本で青黒い毛並みをしていた。


 身長は130セダカほど。


 服装は申し訳程度に薄手のシャツと半ズボンを身にまとっている。


 シャツは赤く、ズボンはベージュ。


 ズボン側面にナイフホルダーが有り、左右に一本ずつナイフを収納していた。


 オヴァン達にはキールが男なのか女なのかも判断がつかなかった。


 声は少女のようだが、物腰は少年のようにも見える。


「オヴァン=ブルメイ=クルワッセだ」


「ミミル=ナーガミミィよ。よろしく」


「ハルナ=サーズクライです」


「ハルナ? ひょっとして、ゼロのハルナ?」


 キールが無邪気な口調で言った。


 それを聞いてハルナの目が細まる。


「ワン子」


 オーシェは再びキールの頭を叩いた。


「なんで……?」


 キールは頭の叩かれた部分を手でさすった。


「悪いな。まだまだ子供で……」


「本当に連れて行っても大丈夫なんだろうな?」


 キールの体はハルナよりもさらに一回り小さい。


 どうにも頼りない外見をしていた。


「足手まといにはならんと思う。まあ、役にも立たんかもしれんが」


「酷いなぁ。ボク、ちゃんと役に立つよ」


「お前の『技』が通用しない相手も居る。今日はそれを勉強してこい」


「そんな人、居ないと思うけど……」


「今日の相手は人以外だ。良いからマジメにやれ」


「はーい」


「それじゃあ、よろしく頼む」


「それで、俺達はどこに行けば良いんだ?」


「『旧校舎』だ。ロク達は、旧校舎の見回りに行く途中で襲われた」


「化物達はそこに巣食っているらしい。場所は……サーズクライなら知ってるな?」


「……はい」


「それじゃあ行きましょうか。ネコネコ団の初依頼よ」


「ネコネコ……?」


 オーシェが顎の無精髭を撫でた。


「気にするな」





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