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訊け、我が咆哮を

 空中戦が始まった。


 トルクが繰るシルヴァがデッドコピーへと肉薄していく。


 両者の速力に大した違いは無かった。


 いや……デッドコピーの方が僅かに上回っているかもしれない。


 だが、機敏さと判断力においてはトルク達の方が上回っていた。


 デッドコピーの攻撃を回避しながら、トルクはその腹を槍で突いた。


 だが、硬いデッドコピーの体表は槍の刃を通さなかった。


「刃が通らない……?」


 トルクはデッドコピーとの戦闘経験が無かった。


 ……いや。


 このデッドコピーは通常のデッドコピーよりもさらに強大な化物だ。


 化物の圧倒的な耐久力にトルクは困惑した。


「援護します」


 ハルナがフレイズを綴った。


 トルクの直下にリメイクサークルが出現し、彼の槍が雷で覆われた。


「ありがとうございます!」


 トルクは再びデッドコピーへの攻撃を再開した。


 デッドコピーの隙を見出し、脆そうな部位に槍を打ち込む。


 トルクの長槍がデッドコピーの腹を抉った。


「ピイイイイイイッ!」


 槍の一撃を受けたデッドコピーが叫んだ。


「効いてる……けど、致命傷を与えるほどじゃない……」


 自分にこの怪物を殺すことは出来ない。


 そう感じながらもトルクは二度三度と攻撃を繰り返した。


 だが、敵の動きを完全に止めるほどのダメージを与えることは出来ない。


 その時……ミミルが鞍の上に立ち上がっていた。


「ミミルさん……?」


「むかつく……」


「私だけやること無くて、役立たずみたいじゃない」


 ミミルは揺らぐドラゴンの背で緩やかに弓矢を構えていた。


 精神を集中し、狙いを定める。


 深く、鋭く。


 風と、的と、自分だけ。


 それだけがミミルの世界になった。


 矢が放たれた。


 その矢は硬い体表を避け、デッドコピーの右目を貫いていた。


 デッドコピーが羽を伸ばして絶叫した。


「そうか……! 目か!」


 内心騎士道精神に欠けると思いながら、トルクは長槍をふるった。


 トルクの長槍がデッドコピーの左目を穿った。


「ァァァアァァァァァァッ!」


 化物は悲鳴を上げ、空中で確かに静止していた。


 完全なる隙。


 その瞬間……。


 オヴァンの顔の前方から『轟く熱線』が噴出した。


 直径1ダカールは有る熱線がデッドコピーの胴体に伸び、そして貫いた。


 圧倒的熱量に胴体を焼き尽くされたデッドコピーは力無く地上へと落ちていった。


 外観よりもさらに鋭い熱線はデッドコピーの生命を焼き尽くしていた。


 デッドコピーは黒い粘液へと変じ、蒸発していった。


 後にはオリジナルの仮面だけが残された。


「オヴァンさん、今のは……?」


 ハルナが疑問を書いた。


「俺の『ブレス』だ」


「ブレスって、あなたは……」


「俺は……」


「俺の前世は『ドラゴン』だ」


 ……。


 戦いが終わり、オヴァン達は地上へと降りた。


「前世がドラゴンって……どういうこと?」


 ミミルが尋ねた。


「俺は転生者だ」


「それ、その転生者っていうのは何なの?」


「俺の魂は、別の世界からこの世界へとやって来た」


「俺は別の世界でドラゴンの王だった」


「神に仕え、人々を助ける存在だった」


「だが……」


「俺は敗れた」


「敗れた? 何にですか?」


 ハルナが聞いた。


「悪行の神の軍勢だ」


「『異世界の神』が、俺達の世界を『侵略』しようとやって来た」


「俺達は立ち向かったが、悪行の神が操る『鉄の巨人』たちは恐るべき力を持っていた」


「次々と仲間は討たれ、俺達は世界樹の頂上まで追い込まれた」


「世界樹って、あの世界樹?」


「世界樹は、神々の家だ。夫婦である二人の神が世界樹から人々を見守っていた」


「決して踏み込ませてはならない、神聖な場所だった」


「その神聖な場所に、連中は土足で踏み入ってきた」


「残された仲間は少なかった」


「追い詰められた俺は敵のリーダーらしき巨人に向かっていった」


「奴の喉笛に食らいつき、俺は奴と心中することに決めた」


「何をしたのですか?」


「世界樹の縁を飛び出し、落下するに任せた」


「俺と奴は遥か地上へと落ちていった」


「俺は世界樹から落ちて死んだが、敵も恐らく無事では済まなかっただろう」


「守るべき神々がどうなったのかは俺にはわからない」


「そして、俺の魂は長く狭間の世界を彷徨っていたようだ」


「狭間の世界?」


「世界と世界を繋ぐ世界だ」


「狭間の世界を延々と彷徨っていた俺の魂は、やがてこの世界の女神に拾われることになった」


「女神は俺に選択を迫った。この世界に転生するか、それともあの世に行くかと」


「俺にはまだやり残したことが有った。だから、転生することに決めた」


「やり残したことって?」


「神を救う。あるいはそれに並ぶ偉業を行う」


「それくらいのことを出来なくては、偉大な父に会わせる顔が無い」


「なんとも、壮大な話ですね」


「けど、前世はドラゴンって言っても、今は人間なんでしょう?」


 ミミルが疑問を挟んだ。


「ああ」


「それなのに、どうしてドラゴンのブレスを使えるの?」


「俺のブレスは闘気……魂の力だ」


「強い魂さえ持っていれば肉体は関係ない」


「俺の世界では優れた武術家は肉体から魂の力を放出することが出来た」


「確か……気功……とか言ったか」


「そんなことが出来る人、見たこと無いけど?」


 ミミルが胡散臭そうに言った。


「この世界には居ないらしいな」


「どういうことでしょう?」


 ハルナは疑いを持たずに尋ねた。


「俺の居た世界とこの世界では微妙に物理法則が異なる」


「転生者は……というか、世界を渡った存在は、前に居た世界の法則を行使出来るらしい」


「アナザーフィジクスとか言うらしい」


「原理としては、俺という存在は前の世界の一部であり、この世界の存在では無い」


「別の世界の一部である俺がこの世界と接触しているのだとか……」


「聞いた話だから、細かいことはわからんが……」


「大丈夫よ。聞いてるこっちもチンプンカンプンだから」


 ミミルは肩をすくめた。


「……とにかく、俺は以前居た世界の法則である、魂力の放出や性質の変化を行う事が出来る」


「代償として、リメイクを使うことは出来ない」


「この世界では魂力の何割かはリメイクちからに変換されるらしい」


「だが、法則の異なる俺の魂はリメイクちからを生み出すことが出来ないというわけだ」


「その分、魂力を全て闘気に回せるから、戦士としてはこの世界の誰よりも強い」


「俺の元々の魂が強いというのも有るだろうがな」


「なるほど……」


 ハルナは頷いた。


 どうやら自分なりに理屈を飲み込んだようだった。


 ミミルは顔をしかめていた。


「さて、この辺りで良いだろう」


「……どうやら、お客さんが来たようだ」


 オヴァンは顔を上げた。


 すると、オヴァン達の方へ何体ものドラゴンが飛んできているのが見えた。


「あれは……」


 トルクが呟いた。


「父上……」





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