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スターゲイザー

 雲上の国はその日も晴天だった。


 高所に有るトゥルゲルの空気は地上の人間が吸うには少し息苦しい。


 だが、同時に澄み渡ってもいた。


「ブルメイ、ハルナ、お帰りなさい」


 その日はレースの二日前だった。


 オヴァンが宿の庭にドラゴンを着陸させたところにミミルが声をかけた。


 ドラゴン乗りが多いトゥルゲルは地上の町よりも空き地が多い。


 スマウスの巨体を収められるだけのスペースも用意されていた。


 鞍の上にはハルナの姿も有る。


 二人はスマウスを乗りこなすための練習から帰ってきたところだった。


 オヴァンがスマウスを手に入れた直後はミミルも練習に付き合っていた。


 だが、スマウスに乗る度にミミルは酷く酔った。


 毎回酔わされていてはたまらないと思って徐々に別行動をするようになった。


 ミミルは本当は三人で遊びたいと思っていたが、レース前なので仕方無い。


 我慢して一人で時間を潰すようにしていた。


 幸い、森から出てきたばかりのミミルには見るもの全てが物珍しい。


 ただ少し寂しいだけだった。


「ああ」


 オヴァンはミミルの出迎えに短く答えた。


 そしてスマウスの背から降りた。


 少し遅れてハルナも鞍から降りてきた。


 その手中には一冊の分厚い本が有った。


 ハルナはドラゴンの上で読書を楽しめるらしい。


 自分には無理な芸当だとミミルは思った。


「ただいま帰りました」


 ハルナは本を旅袋に仕舞うとテンプレートで言葉を綴った。


「そういえば、ハルナは何の本を読んでいるの?」


 なんとなく興味を持ってミミルは尋ねた。


「最近は……『恋愛小説』を読んでいますね」


「恋愛……? それって面白いの?」


 ミミルは普段小説を読まない。


 それがどんな内容なのか見当がつかなかった。


「若い頃は……嫌いでしたね。面白さを理解出来ませんでした」


「嫌い……? つまらないの?」


「当時の私には恋愛小説の登場人物の言動はとても『不合理』に感じられたのです」


「ふごーり?」


「例えば……ミミルさんは好きな人が出来たらどうしますか?」


「どうって……友達になる?」


「そういう好きではなく……大人の……男女の好きです」


 ハルナはちらとオヴァンを見た。


 帽子が遮っているおかげでオヴァンはハルナの視線に気付かなかった。


 ただ、女子が好きそうな話題だなと思って距離を置いていた。


「男女の好き……『恋』のことね。お姉ちゃんから聞いたことがあるわ」


「はい。ミミルさんは自分が恋をすることになったらどうしますか?」


「ごめんなさい。想像もつかないわ」


 ミミルはハルナの問いに答えられなかったことを詫びた。


 恋を知らないこと自体にはなんとも思っていない様子だった。


「そうですか。私は……こう思っていました」


「とっとと自分の想いを告げれば良い。それで無理ならさっさと諦めれば良いと」


 勉学が好きなハルナは物事を1か0かで考えるのが好きだった。


 昔は。


「ですが、小説内の人物達は、ただ想いを告げるだけのことに沢山の遠回りをしていました」


「その様子は、私には酷く不合理に見えました」


「馬鹿馬鹿しい、全く理に合わない小説。それが恋愛小説に対する当時の私の評価でした」


「当時って……今は違うの?」


「……はい」


 ハルナは笑った。


 いつものように、親しい者にしか読み取れないような微かな笑みだった。


 オヴァンの位置からはハルナの笑みは見えない。


 ミミルだけがハルナの微笑みを真っ向から受けた。


 ミミルは困惑した。


 ただの微笑に『ミミルの知らない何か』が籠められているように見えたからだ。


 笑顔に宿ったそれが何なのか知りたいと思った直後、ハルナが言葉を続けた。


「この歳になってようやく、小説の登場人物の気持ちが理解出来るようになったのです」


「恋愛小説を読むことが面白いと思えるようになってきました。ただ……」


「何?」


「読んでいて辛いと思うこともあります」


「辛い? 文字を読むのが?」


「いえ」


「それなら何が?」


「ハッピーエンドの物語を読むと、現実もこんな風に上手く行けば良いのにと思います」


「そして、バッドエンドの物語を読むと……」


「胸が張り裂けそうな気持ちになります」


 ハルナは微笑を浮かべたままだった。


 だが、その瞳は少し潤んでいた。


「そうなんだ。恋愛小説って凄いのね」


「よろしければお貸ししましょうか?」


「止めておくわ。恋ってよくわからないし、私、文字って苦手なの」


「そうですか……」


「だけど……もし良かったら、どんなお話なのかハルナが聞かせてくれる?」


「わかりました」


「あっ、そうだ。そういえば……」


 ミミルは唐突に話題を代えた。


「明日、ドラゴンレースの『前夜祭』が有るんだって」


「そうらしいですね」


「皆で行きましょうよ」


「はい」


「……わかった」


 そういうことになった。


 ……。


 そうして翌日の夕方になった。


 オヴァン達はスマウスに乗って『町から離れた高原』へと移動した。


 前夜祭の会場は町ではなくこの高原らしい。


 オヴァンはスマウスの背から祭りの会場を見下ろした。


 広々とした高原には凹凸が少ない。


 人の手で均されているらしいことが見て取れた。


 高原の一角には数多くの屋台が配置され、その周辺は人々で賑わっていた。


「あそこにドラゴンを停めるみたいですね」


 ハルナは屋台の集まりから少し離れた場所を看板で差した。


 そこにはドラゴンや羽猫が集まっているのが見えた。


 オヴァンは真っ直ぐにそこへ向かうとスマウスを着陸させた。


 大きな羽音と共に現れたスマウスの威容に気圧され周囲のドラゴンや猫が距離を取る。


 オヴァン達の周囲に広いスペースが生まれた。


 一行は窮屈さを感じること無くその背から降りた。


「行くか」


 オヴァン達は屋台が立ち並ぶ一角へと向かった。


 日は暮れかけているが、テンプレートの照明のおかげで屋台周辺は明るい。


 屋台の近くをぶらぶらと歩いているとオヴァンはあることに気付いた。


 人々の多くが一つの方角に視線を向けている。


「何か有るのか?」


 オヴァンは人々が見る方へと視線を向けた。


「あそこにドラゴンが並んでいるわね」


 ミミルが指差した方にドラゴンが横一列に並んでいた。


「ふむ……? 少し待っていろ」


 オヴァンは屋台の一つに歩み寄ると棒付きの丸い菓子を三つ持って帰ってきた。


 そのうちの二つをハルナとミミルに渡す。


「ありがとうございます」


「ありがと」


 ハルナは無表情で、ミミルは微笑みながらその菓子を受け取った。


「どうやら『レース』をやるらしいな」


 ドラゴンが並んでいる方を見ながらオヴァンが言った。


「レース? レースは明日じゃないの?」


「本戦とは違う。ほんの『短いレース』だ。レース主催者であるカーゲイルのドラゴンだけで行うらしい」


「それじゃあ私たちは出られないのね」


「出たいのか?」


「……酔っちゃうから良いわ」


「そうか」


「何なら、『賭け券』でも買うか?」


「賭け券? 何それ?」


「どのドラゴンが勝つかに金を賭けるんだ」


 オヴァンは屋台の一つを指差した。


 その屋台は賑わっている祭りの会場の中でも特別な熱気を纏っているようだった。


「あそこで券が買える」


「へぇ。行ってみましょう」


 オヴァン達は賭け券売り場へと近付いていった。


 売り場の隣には看板型のテンプレートが有り、そこに文字が浮かび上がっているのが見えた。


「あれは?」


 ミミルは看板型テンプレートを指差した。


「出場するドラゴンと配当の倍率が記されているようだ」


「倍率? どういうこと?」


 ……。


 オヴァンはミミルに配当や賭け券の仕組みについて説明した。


「なるほど」


 説明を受けたミミルはうんうんと頷いた。


 そして配当が記された表に視線を向けた。


「つまり……どの券を買えば良いのかしら?」


「深く考えるな。所詮は遊びだ。買いたい券を買えば良い」


「そうね。そうするわ」


 ミミルはオヴァン達から離れるとカウンターの列に並んだ。


「良いのですか?」


 ハルナがオヴァンに咎めるような視線を送った。


「何がだ?」


「世間知らずの彼女に賭け事なんて教えてしまって」


「俺が教えなくてもいつかは知ることになるだろう」


 オヴァンは列に並ぶミミルを見た。


 ミミルはオヴァンの視線に気付くと笑顔で手を振ってくる。


 可愛らしい娘だとオヴァンは思った。


 オヴァンは軽く手を上げてミミルに答えた。


 それを見たミミルはさらに強く手を振った。


「俺達は冒険者。『ごろつき』なんだからな」


「オヴァンさんは……ごろつきなんかでは無いと思います」


「そうでもないさ」


「英雄ブルメイです」


「英雄……」


 オヴァンは何かを馬鹿にするような苦笑を浮かべた。


「そんな奴は居ない」


 ……。


 賭け券を買い終えたミミルがオヴァン達の元へと戻ってきた。


「一枚か」


 ミミルの手には小さな賭け券が一枚だけ握られていた。


 慎ましいミミルの買い方を見てオヴァンは微笑ましいものを感じた。


「ええ。どのドラゴンにしたと思う?」


 ミミルがにこにこと笑いながら聞いた。


「シルヴァだろう」


 オヴァンは即答した。


「えっ!? どうしてわかったの!?」


 ミミルは耳をピンと跳ね上げて賭け券を見せた。


 そこにはシルヴァの名前が記されていた。


「表を見て、シルヴァの名前が有ることに気がついた」


「他に知っているドラゴンが居ないからな。彼女に賭けるだろうと思った」


 オヴァンは自身の推論を語った。


 だが……。


「不正解!」


 ミミルは勝ち誇ったような顔をした。


「む?」


「私がシルヴァを選んだのは知っているドラゴンだからじゃ無いわ」


「どういうことですか?」


 何か深い理由でも有るのか。


 興味を惹かれたハルナが看板を挟んだ。


「シルヴァの番号が三番だったから買ったの。私の好きな数字なの」


「そうか」


「ええ。だからブルメイの負け。負けなのです」


「参った」


 オヴァンは諸手を挙げて降参のポーズを取った。


「ふふふ。さあ、行きましょう。レースを見逃しちゃうわ」


「ああ。そうだな」


 オヴァン達はレースを見やすい位置に移動することにした。


 一番良い位置には既に人だかりが出来ていたが、特に贅沢を言うつもりも無かった。


「出場しているのは大きなドラゴンばかりね」


 スタート地点に並んだドラゴンは全部で十二頭。


 シルヴァを除くドラゴンは全て10ダカールを超える大型竜だった。


「そうだな。シルヴァが小さく見える」


 対するシルヴァの体長は8ダカールほど。


 大人の中に一人だけ子供が混じっているように浮いて見えた。


「シルヴァは大型のドラゴンにも勝てる……そういうことでしょうか?」


「わからないけど、勝ってほしいわ」


 そう言ってミミルは自分の手の中にある賭け券を見た。


「あら……?」


 突然にミミルが気の抜けた声を上げた。


「どうした?」


「シルヴァに乗ってるの、トルクじゃないみたい」


「見えるのですか?」


 三人とレースに出場するドラゴンとではそれなりの距離が離れている。


 ハルナにはドラゴンの上に誰が乗っているかなど判別がつかなかった。


「ええ。トルクよりも小さい。女の子かしら?」


「始まるようだ」


 オヴァンがそう言ってすぐ、ドラゴン達の隣に有る銅鑼が鳴らされた。


 ドラゴン達は一斉に飛び上がった。


 ドラゴン達が向かう先には『巨大な木製のゲート』が設けられていた。


「あれを最初に通ったドラゴンが優勝のようですね」


 ハルナがゲートを指差して書いた。


「直線レースか……」


「シルヴァがんばれーっ!」


 ミミルは拳を振り上げてシルヴァを応援した。


 だが……。


 シルヴァは徐々に周囲のドラゴン達から引き離されていった。


 そして……。


 オヴァン達は名前も知らない大きなドラゴンが最初にゲートをくぐった。


 それから次々に大型竜がゲートをくぐっていった。


 シルヴァは敗けた。


 最下位だった。


 ……。


「負けちゃったわね」


 ミミルが耳を垂らして言った。


 その手の中には価値が無くなった賭け券が有った。


 紙くず同然のはずのその券をミミルは捨てる気が無いらしい。


「やはりシルヴァの体格では大型のドラゴンには勝てないということなのでしょうか?」


 ハルナもシルヴァが勝つと思っていたのかもしれない。


 レースの結果を少し不思議に思っている様子だった。


「だが……トルクはシルヴァに乗ってレースに出ると言った」


「はい」


「トルクは優れたドラゴン乗りなのだろう? わざわざ遅いドラゴンに乗ることがあるだろうか」


「ひょっとして、腕を示すためでしょうか?」


「ふむ?」


「遅いドラゴンでレースに勝つことで自分の腕を誇示しようとしているのかもしれません」


 ハルナは冷徹に利益という物差しでトルクを測った。


「それは違うと思うけど」


 そんなハルナの考えをミミルは否定した。


「ミミルさん?」


「どうしてそう思う?」


「だって……トルクはシルヴァのこと大切にしてるみたいだったから」


「シルヴァを自分の引き立て役になんかしないと思う」


「ただ……シルヴァのことが好きなんだと思う」


「そうか……」


「しかし、あの遅いドラゴンでレースに勝てるのでしょうか?」


 ハルナの疑問を受けてオヴァンはレースの内容を思い返した。


 速力の無いシルヴァが大型竜達に引き離されていく様を。


「さっきのレースは直線勝負だった」


「もしかするとシルヴァはコーナーで真価を発揮するドラゴンなのかもしれない」


「つまり、シルヴァに勝つには直線で引き離す必要があるということでしょうか?」


「そうなるかな……」


 オヴァンはそう言いながらも何か釈然としないものを感じていた。


 それが何なのかはオヴァン自身にもわからなかった。


 ……。


 レースが終わり、日が沈みきった。


 夕焼けが終わり、闇が支配する時間になった。


 夜空に星が瞬いても、高原から人だかりが消える様子はない。


 前夜祭はまだ続いていた。


 オヴァン達は備え付けられていた椅子に座ってのんびりとしていた。


 特に何をするでも無かったが、オヴァンにとっては退屈な時間でも無かった。


 オヴァンは祭りが好きだった。


 参加しても良いし、見ているだけでも良い。


 緩やかに時が過ぎていく。


 やがて……。


 オヴァンは夜空に多くのドラゴンが飛び上がるのを見た。


 ドラゴンの体はきらきらと輝いていた。


 全身をノート石で飾り立てられているようだ。


 ドラゴンは夜を恐れる。


 飛び上がったドラゴン達は顔を少し下に向け、ぎこちなく飛んだ。


 一方で、乗り手達には昼も夜も関係が無い。


 怯えるドラゴンを御しながら鞍に備え付けた袋に手を入れた。


 乗り手達はドラゴンの背から何か光るものを落とした。


 光るものはぽとぽとと高原に降り注ぎ、地面を明るく彩った。


「わぁ……。何かしら?」


 ミミルが目を煌めかせながら言った。


「ノート石だろうな」


 オヴァンがそう言ったその時……。


 高原の中央、空いたスペースに『大きな人の姿』が浮かび上がった。


 高さ10ダカールを超えるその姿は高原の端からでも視認することが出来た。


「えっ!? 巨人!?」


 突然に現れた人の姿にミミルは体を震わせた。


「落ち着け」


 旅袋から弓矢を取り出そうとしたミミルの手をオヴァンの手が押さえた。


「テンプレートで人の姿を映し出しているんだろう」


「そっか。あんなに大きな人が居るわけが無いものね」


 ミミルは落ち着きを取り戻すと旅袋から手を抜いた。


「ブルメイの手って大きいのね」


「男だからな」


「ええ……。そうね」


 それからミミルは大きな人の姿を冷静に見た。


 その人物は年若い少女だった。


 トゥルゲルの人間であればそれがトルクの妹の『シルク=カーゲイル』だとわかっただろう。


 地上から来たオヴァン達はシルクと面識がない。


 トルクに妹が居るということも知らなかった。


 よく見ると少女の体は透けており、体の向こう側の景色が見通せた。


「皆様、本日は『ドラゴンレース前夜祭』にようこそ」


 やがて、シルクの声が高原に響いた。


 体と同様に声も常人の数倍の大きさが有った。


「これより例年の行事である『星集めの儀』を開始いたします」


 シルクは堂々と言葉を続けた。


 衆目の前で発言することに対する怯みなどは一切無いらしい。


 場馴れしているのか、元来の性格がそうさせるのか。


「参加者の皆様には外界の物語、『西遊記』にちなんで星集めをして頂きます」


「今、ドラゴン乗り達がばらまいているのは『外界の魔術文字が刻まれた星型の石』です」


「石にはそれぞれ『仁』『義』『礼』『智』『忠』『信』『孝』『悌』の文字が刻まれています」


 シルクは手に持ったテンプレートを使ってそれぞれの文字を浮かび上がらせて見せた。


 妙に画数の多い不思議な魔術文字がオヴァン達の瞳に映った。


「西遊記では八つの星を集めると『ドラゴンの神』が現れて願いを叶えてくれると言われています」


「お祭りで使う石は偽物ですので神様は出てきませんが……」


「八つの文字を揃えた方々には主催者であるカーゲイルから『賞品』が送られます」


「それでは、星集めをお楽しみ下さい」


 シルクがぺこりと頭を下げると高原の中央に映し出された彼女の姿が消えた。


 その直後、レースにも使われていた銅鑼が鳴らされた。


 星集めが始まったらしい。


 真っ先に動き出したのは小さな子どもたちだった。


 子どもたちは短い脚を動かして地面の煌めきへと駆けていく。


 保護者達がやれやれといった感じで子どもたちの後を追っていった。


 ミミルも子どもたちと一緒に駆け出した。


 だが、オヴァン達が動かないのを見て元の場所に戻った。


「行かないの?」


「あまり慌てると転ぶぞ」


「別に慌ててはいないけど……」


 そう言いつつもミミルの耳はせわしなく上下している。


「のんびりしてると賞品が無くなっちゃうんじゃない?」


 ミミルは早く石を集めに行きたいという雰囲気を全身から発散させていた。


「別に……大した賞品ではないと思いますよ」


 少し冷めた面持ちでハルナが書いた。


「えっ? どうしてわかるの?」


「大人たちからやる気が感じられませんから」


 ハルナの視界内には真剣に石を集める大人の姿は見当たらなかった。


 本気になっているのは小さな子どもたちだけだ。


「賞品が豪華なのであれば真っ先に大人たちが動いているはずです」


「あまり賞品が豪華なら本気の奪い合いが起こってもおかしくはありません」


「参加者同士で問題が起こらないように敢えて賞品を安くしているのでしょうね」


「そう……」


「けど、賞品が安物でも一生懸命やった方がきっと楽しいわ」


「それは……そうかもしれませんね」


「行きましょう」


「はい」


 ミミルが小走りで駆け出した。


 ハルナもその後に続く。


 ミミルは屈み込むと『手のひら大の星型の石』を拾い上げた。


 そして、楽しそうにハルナに見せた。


 オヴァンはやれやれといった感じで二人の後を追っていった。




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