ネクストオデッセイ
ミミルの『インターバル』を『3』に修正。
第一部 『cursed_rain』
第二章 『ドラゴン発見伝』
トルク=カーゲイルが物心ついてすぐ、彼は父が経営するドラゴン牧場に連れてこられた。
トルクが牧場に着いた時、空を何体ものドラゴンが飛び回っていた。
いくつもの勇姿が大空で翼をはためかせていた。
その光景にトルクは心躍らせた。
トルクがわくわくしながら空を見ていると、牧場の従業員の一人が一頭のドラゴンを連れてきた。
美しい銀の鱗を持ったドラゴンだった。
体長は3ダカール程度。
雄大さを売りにするカーゲイルのドラゴンとしてはまだまだ子供だった。
だが、それでも子供であるトルクの三倍は大きかった。
トルクが『白銀のドラゴン』に見入っていると、父が口を開いた。
「これをお前に与える」
「良いのですか!?」
トルクは目を輝かせた。
「二度聞くな」
「申し訳ありません。それで……」
「彼の名前はなんというのでしょうか?」
「…………」
父は答えなかった。
代わりに従業員が口を開いた。
「名前は『シルヴァ』です。それと、彼ではありません。シルヴァは『雌』ですので」
「シルヴァ……」
トルクはシルヴァに見入った。
ただ、雌だというのは少し残念だった。
男同士の方が良い友だちになれると思ったからだ。
男と女というのは……なんとなく良くない。
トルクは本能的にそう感じていた。
だが、それでも構わないと思えるほどの魅力がシルヴァにはあった。
嬉しい。
こんな立派なドラゴンが貰えるなんて、今日はなんて良い日だろう。
トルクはそう考えた。
「はじめまして。シルヴァ」
彼は礼儀正しく挨拶をした。
ごつん。
挨拶をしたトルクの頭を父の拳骨が叩いていた。
大きく手加減をされてはいたが、トルクにはわからない。
ただ殴られたと感じた。
少し悲しくなったし、殴られても泣かない自分を誇らしいとも思った。
「ドラゴンに媚びるな」
父が言った。
「お前が上で、ドラゴンは下だ」
父は厳しい顔でトルクを見下ろしていた。
「ドラゴンを『支配』しろ。それがカーゲイルの当主の務めだ」
「はい……」
トルクは素直に頷いた。
頷きながらもトルクは釈然としなかった。
トルクの視界の中にはずっとシルヴァの姿が有った。
陽光に照らされ、シルヴァの鱗が白銀に輝いていた。
(綺麗で……大きくて……カッコいい……)
幼いトルクにとって、眼前のシルヴァは何よりも偉大な存在に映った。
もしドラゴンが下等な存在だとしても、きっとシルヴァは違うはずだ。
シルヴァは特別なドラゴンに違いない。
そう思った。
そして、こんな特別なドラゴンを貰える自分もまた特別な存在なのだと思った。
この日……。
トルク=カーゲイルはシルヴァと友達になった。
少なくとも……。
トルクはそうであると信じていた。
……。
ハルナ=サーズクライはアルカデイア島から『大陸を目指す船の上』に居た。
風は逆風。
ハルナは甲板に立って海の方を見ていた。
隣に立つ竜面の男、オヴァン=ブルメイ=クルワッセはそう思っていた。
……けど、愚神の目は誤魔化せない。
ハルナは海を見るふりをしてオヴァンの方をちらちらと伺っていた。
何故か。
理由は簡単だった。
単にハルナが女としてオヴァンに惹かれ始めていたからだ。
……いや。
始めていたというのは適当では無いかもしれない。
ハルナがオヴァンに惹かれ始めたのは港町でオヴァンに助けられた時だ。
それから少しの旅をして、彼の正体を知り、素顔も見た。
少しずつオヴァンへの恋慕は重なってゆき、既に完全に恋に落ちたと言っても良かった。
だから、船旅で身体を持て余したハルナの目的はオヴァンと男女の仲になることだった。
一人さみしく船室で眠るよりは彼氏と一緒のベッドで寝た方が楽しいに決まってっているしね。
端的に言えばハルナはオヴァンを落としたかった。
だが、悲しいかな。
モノにしたかった。
ハルナは青春期をリメイク(魔術)の研究ばかりして過ごした。
だから、恋愛の経験値が全くと言って良いほど無かった。
だから、どうすればオヴァンを自分のものに出来るのかわからない。
さらに言えば、ハルナはオヴァンをゲイかもしれないと思っていた。
たとえ愛を告げても、オヴァンは自分を抱いてはくれないかもしれない。
「すまない。俺は男しか愛せないんだ」
もしこんな答えが帰ってきたら、いったいどうすれば良いのか。
思考が暴走したハルナは甲板の上で固まって動けなくなった。
両目が怪しくグルグルと回っていたが、帽子のおかげでオヴァンには見えなかった。
一方、ハルナの苦悩になど微塵も気付かずにオヴァンは帆船の旅を満喫していた。
うきうきとした心持ちで水面を眺める。
竜の仮面には紅い紋様。
ハルナのリメイクに守られているおかげで突然死の心配をする必要が無くなった。
それに、今まで寂しい一人旅だったのが、ハルナという頼れる仲間とパーティを組むことが出来た。
自分を救ってくれたハルナに対してはいくら感謝をしてもしきれない気持ちだった。
帽子に遮られ、オヴァンからはハルナの表情は見えない。
(どうせいつもの無表情なのだろうな)
オヴァンはそう決めつけながら、甲板の方をぐるりと見回した。
「ん……?」
ハルナとは逆方向、左に5ダカールほどの位置で乗客がしゃがみ込んでいた。
柵に手をついて俯いている。
『フード付きマント』のせいで顔は見えない。
だが、どう見ても船旅を楽しめている様子ではなかった。
オヴァンはその乗客に歩み寄った。
ハルナはオヴァンが去ったのにも気付かず、彼にかけるべき言葉を検索していた。
「大丈夫か?」
オヴァンが乗客に声をかけた。
「気持ち悪い……。何かの病気かしら……」
フードの下から返ってきたのは女性の声だった。
「大分酔っているようだな」
「酔う……? お酒なんか飲んだことないけど……」
「船酔いというものが有るんだ。船に乗るのは初めてか?」
「うん……。船酔い……?」
「船に揺られると気持ち悪くなったりするんだ。知らないのか?」
「知らなかった……。どうしてこんなに揺れるの……? 船長さんの腕が良くないのかしら……」
「いや。腕は良い」
オヴァンは断言すると船が進む方角を見た。
「そうなの……?」
「風はちょうど真南を向いている。だが、船は蛇行を繰り返しながら上手く北へと切り上がっている」
切り上がるというのは彼女にとって聞き慣れない言葉だった。
だが、敢えて意味を確認するような元気は今の彼女には無かった。
「クルーの腕が良い証拠だ。……それでも船というのは揺れるものだがな」
「うう……船なんて嫌い……」
「ふむ……」
オヴァンは左手で自分の顎をつまんだ。
オヴァンは船酔いの薬を持っていなかった。
元々酔いや病気に強い体質なので薬を一切必要としないからだ。
(ハルナ……彼女はなんとなく病弱そうだな)
特に根拠のない自分勝手なイメージを抱くとオヴァンはハルナの隣へと戻っていった。
「ハルナ」
オヴァンはハルナを呼んだ。
すると彼女の身体がびくりと震えた。
「な、なんですか!?」
言葉を喋れないハルナはテンプレート(量産魔導器)を使うと自前の看板に少し震えた文字を書いた。
文章が完成するとテンプレートの効果によって文字が音声として放たれる。
その声が失われたハルナの声と同じものなのか、オヴァンは知らない。
「酔い止めを持っているか?」
そう言われるとハルナは不思議そうにオヴァンの瞳を見た。
「オヴァンさん……船酔いをされたのですか?」
「いや。俺は酔わん。他に酔っている奴が居る」
「そうですよね」
「む……?」
「ええと、酔い止めは持っていません。すいません」
「ハルナも船酔いはしない方か?」
「普通ですね。全く酔わないということも無いですが」
「そうか……」
あてが外れたオヴァンはさらに甲板を見回した。
するとオヴァンは見知った人物を発見した。
オヴァン達が居るのとは反対側の柵から海を見ている男が居た。
行商人のクロー。
金縁眼鏡と鍔の無い帽子を身につけた小男で、オヴァンが先刻居た島で知り合った人物だった。
(クロー……俺達と同じ船に乗っているのか)
(『偶然』か……?)
警戒心は抱いたが、クローは有用な男だ。
オヴァンはまっすぐにクローの方へと歩いていった。
「お前もこの船に乗っていたのか」
オヴァンが声をかけるとクローは甲板の方へ振り返った。
「これはこれは、ブルメイの旦那。奇遇ですね」
「そうだな。それで、酔い止めの薬は持っているか?」
「あっしを誰だとお思いですか? 旅のお供にクロー=マクロ。当然用意してありやすよ」
そう言ってクローは自分の上着に縫い付けられた旅袋を叩いた。
「そうか。売ってくれ」
「まさか、オクターヴのブルメイともあろうお方が、船酔いですか?」
クローはそう言ってからかうように微笑した。
「俺ではない。猛烈に酔っている奴が一人居てな」
オヴァンは親指でうずくまった乗客の方を指差してみせた。
「また違う女性を連れてるんですか?」
「連れではない。ただ……困っているから……」
「それはお優しい。あっしら普通の人間とは器が違うようだ」
「下らん世辞を言うな」
「こいつは失礼。それでは薬をどうぞ」
クローは旅袋から黒い錠剤が入った瓶を取り出した。
「助かる」
オヴァンも自分の旅袋に手を入れた。
そして、袋から金貨を一枚取り出すと薬瓶と交換した。
「一度に三粒飲ませて下さい」
「わかった。じゃあな」
オヴァンはクローから離れ、薬瓶を片手にうずくまった乗客の方へ戻っていった。
「酔い止めの薬だ。三粒飲め」
オヴァンは乗客に薬瓶を差し出した。
乗客は震える手で薬瓶を受け取った。
「ありがとう……」
そして瓶のコルク栓を掴んだ。
「……抜けない」
船酔いのせいで手に力が入らないらしい。
オヴァンは瓶をひょいと取り、コルク栓を抜いてやった。
「うぅ……本当にありがとう……」
乗客は二度目のお礼を言った。
そして瓶を傾けると薬を取り出し、口の中へと放り込んだ。
「苦い……」
「文句を言うな」
「ごめんなさい」
薬を飲み終えた乗客が顔を上げた。
フードに隠れていた顔がオヴァンへと向けられた。
「お前は……」
オヴァンの目線が彼女の長い耳へと移った。
耳はぐったりと下方へと垂れ下がっている。
乗客の正体は見知った女性だった。
ミミル=ナーガミミィ。
南の島で出会ったアレンジ(亜人)。
森の奥深くに隠棲する少数民族、『ナーガミミィ族』の少女だった。
「何をしている?」
「酔ってる」
「そうか」
オヴァンはミミルに背を向けた。
彼の手をミミルがぎゅっと掴んだ。
「待って行かないで助けて……」
「はぁ……」
オヴァンは溜息をついた。
そしてミミルの後ろ側へと回った。
オヴァンはしゃがみ込むと彼女の背中に手を伸ばし、優しくさすり始めた。
「何……?」
「こうされるとなんとなく楽にならないか?」
「そんな気もする……」
「そうか」
拒絶する様子も無かったのでオヴァンはミミルの介抱を続けた。
しばらくそうしているとハルナが近付いてきた。
「しゃがみオヴァンさん、それと……ミミルさん? 何をしているのですか?」
「『ソニックブーム』を撃つための『パワー』を溜めているんだ」
オヴァンはそう答えた。
嘘だ。
実際はオヴァンよりも先にミミルが口を開いた。
とても残念だ。
「酔ってる……」
ミミルはへろへろとした声でそう言った。
「だそうだ」
「……なるほど?」
事情を飲み込んだハルナは看板にフレイズ(呪文)を綴った。
するとミミルの周囲にリメイクサークル(魔法陣)が展開される。
「あれ……?」
やがてサークルが消失するとミミルは立ち上がった。
「気持ち悪いのが無くなった……」
彼女の顔色はリメイクを受ける前よりも見違えて良くなっていた。
ミミルがフードを外すと彼女の美しい金髪が周囲を照らした。
「『状態回復のフレイズ』をかけておきました」
「凄い。何でも使えるのね」
ミミルはきらきらとした瞳をハルナへと向けた。
その眼差しはハルナにとって眩しすぎるように感じられた。
「何でもは使えませんが……」
ハルナは俯いた。
鍔広の帽子が紅い二つの輝きを遮ってくれた。
ハルナの帽子が滑り落ちそうになったのを見てオヴァンはそっと帽子に手を添えた。
「使えるのは勉強したフレイズだけです」
「ハルナは勉強家なのね。私、リメイクって苦手なの」
ミミルは苦笑いを浮かべて自身の頭頂を軽く掻いた。
「リメイクちからは有るって言われたんだけど、フレイズを覚えるのが苦手で……」
「お姉ちゃんが教えてくれようとしたんだけど、ちっとも身につかなかったわ」
「そうですか。人には向き不向きが有りますからね」
「そう思う?」
「はい。それにしても」
ハルナは話題を切り替えた。
「向こうでクローさんにもお会いしたのですが……」
「島で知り合った人達が『偶然同じ船に乗っている』なんて、奇遇ですね」
ハルナがそう言うとミミルの耳がぴくぴくと動いた。
「え? ええ……そうね。偶然ね。偶然」
ハルナはミミルの様子を怪訝に思った。
だが……。
「ひいいいいいいっ!」
男の悲鳴がハルナの思考を断ち切った。
悲鳴は甲板の反対側から上がっていた。
聞き覚えのある声だった。
「クロー……!」
オヴァンが唸った。
クローの小柄な身体が宙に浮かび上がっていた。
自力で浮かんだわけではない。
ぬめぬめとした白い触手がクローの身体に絡みついていた。
「クロス(魔物)だ! クロスが出たぞ!」
「イカだ! あの触手は間違いなくイカだ!」
脅威の襲来に気付いた船員達が叫んだ。
「…………」
敵の存在に気付いたオヴァンは自らの旅袋に右手を入れた。
そして中から愛用の金棒を抜き出した。
巨大な金棒の重量をものともせずにクローに向かって駆けていく。
駆けるオヴァンの前方で海面が盛り上がった。
「イカだ! やっぱりイカだ!」
船員の一人が叫んだ。
海上に『巨大なイカの化物』が姿を現していた。
水面から上に出ている部分だけでも6ダカールは有る。
巨大イカはそのぎょろりとした目で船体を睨みつけた。
「だ、旦那ぁ! 助けてくだせぇ!」
触手に吊り上げられたクローがオヴァンに懇願した。
オヴァンは返答することなく高く跳んだ。
船側面の柵を飛び越え、イカの頭上へと。
オヴァンの両足がイカの頭部を踏みつけた。
「むっ……!」
オヴァンの足がずるりと滑った。
イカの頭頂は急勾配で、おまけに粘液でぬるりとしていた。
バランスを取るのがやっとだったが、オヴァンは構わず金棒を振り上げた。
そして振り上げた金棒を力任せに振り下ろした。
豪腕の打撃を受けてイカの巨体が揺れる。
滑り落ちそうになったオヴァンは船へと跳んだ。
甲板へと着地し、一撃を叩き込んだイカを振り返る。
「浅いか……」
オヴァンの目が細められた。
イカの化物は健在。
多少のダメージは有ったはずだがそれでもまだピンピンしていた。
不安定な足場からではたとえオヴァンでも仕留めきるには到らなかったらしい。
さらに加えるならば、イカの身体は弾力に富み、打撃への耐性を持っているようだった。
(打撃では駄目か……)
オヴァンは旅袋に手を入れて剣を探った。
……二秒ほど袋を探ってオヴァンの動きが停止した。
(俺は何をしている?)
(……剣はもう無い。捨てたはずだ)
オヴァンは剣の代わりに一本のダガーを取り出した。
「旦那ぁ……苦しい……助けて……」
オヴァンの攻撃に怒ったのか、イカは触手でクローの体を締め付けた。
早く助けなくてはクローの身が危ない。
オヴァンはダガーを投擲する構えを取った。
オヴァンの力であれば、たとえ小型の短刀であっても触手の一本くらいは切り落とせるはずだった。
だが……。
(当たるか……?)
オヴァンはナイフ投げにはあまり自信が無かった。
的が止まっていればそれなりには当てられる。
だが、イカの触手は不規則にゆらゆらと動き回っていた。
誤って短刀が当たればクローの生命など蝋燭の火よりも簡単に消し飛ぶはずだ。
オヴァンはじっと狙いを定めた。
その時……。
「任せて!」
オヴァンの背後からミミルの声がした。
見ると、ミミルが弓矢を構えていた。
弓はただの弓ではない。
ノート石(魔石)を用いて作られたテンプレートだった。
その証として、ミミルの周囲には自然現象ではあり得ない旋風がビュウビュウと吹いていた。
テンプレートによって生み出される事象はリメイクと同種のものだ。
リメイク抵抗力の無いオヴァンの身体が緊張で固まった。
(大丈夫だ)
(この仮面が俺を守ってくれる)
そう思いながらもオヴァンはテンプレートを操るミミルから目が離せなかった。
ミミルが矢を放った。
矢は竜巻を纏い触手へと向かっていく。
オヴァンの頭上を通過し、さらに先へ。
……命中。
矢は見事にイカの触手へと矢傷を穿った。
矢傷はそれ自体は小さい穴にすぎない。
だが、矢がまとった竜巻がうねり、触手に風穴を開けた。
大穴が開いたイカの触手から体液が噴き出し、甲板を黒い粘液で汚した。
筋力を失ったのか、クローの拘束が解かれた。
クローの体が甲板へとドタリと落ちた。
ミミルの矢の影響でオヴァンのリメイク防御の紋様が一つ削れていた。
仮面を被っているオヴァン本人にはその変化はわからない。
「さて……」
触手一本を損傷したとはいえ、化物はまだまだ健在だった。
金棒の一撃は通用しない。
『化物を倒す手段』は……実は有る。
だが……。
(船の上であれを使っても良いものか)
オヴァンはほんの数瞬悩み、そして決断した。
その時……。
オヴァンの視界の隅に輝くものが有った。
オヴァンは輝きの方へと視線を向けた。
輝きの中心にハルナが立っていた。
ハルナの周囲に黄金のリメイクサークルが展開していた。
サークルはすぐに消滅した。
直後、イカの周囲にいくつもの岩石が出現した。
リメイクで作られた岩石はイカの周囲でふわふわと滞空した。
「『足場』に使って下さい」
ハルナの言葉を受けてオヴァンは跳んだ。
金棒と共に。
そして岩盤へと着地。
化物は岩盤を叩き落とそうとしたが、殺気を持ったオヴァンの前では鈍重に過ぎる動きだった。
オヴァンは平らな岩石の地盤を踏みしめ、腰の入った一撃を化物へと放った。
イカは触手で防ごうとするが、あまりにも遅い。
オヴァンの暴風のような一撃がイカの頭部へと直撃した。
イカの頭部の上半分が吹き飛び、海中へと没した。
ドス黒い血が断面から撒き散らされる。
頭の半分を失ったイカは力を失い海中へと沈んでいった。
そして、あとには水面に浮かぶ黒い粘液だけが残った。
化物が完全に水没するのを見届けるとオヴァンは岩石のブロックから船へと跳んだ。
役目を失ったブロックはぼろぼろと崩れて消えていく。
船上に戻ったオヴァンは床に座り込んだクローへと声をかけた。
「大丈夫か?」
「へぇ。おかげさまで」
「そうか。まさか、こんな広い海原で大型のクロスに出くわすとはな」
「全く、『運が悪かった』ですね」
「……そうだな」
クローの無事を確認したオヴァンは金棒を旅袋の中に仕舞った。
そしてクローから離れた。
「ブルメイ」
戦いを終えたオヴァンの方へミミルが歩み寄ってきた。
ハルナもオヴァンに近付いてきていたが、ミミルがオヴァンの前に立ったのを見てその足を止めた。
ミミルは微笑みながら言った。
「どう? 私の弓は? ブルメイが助けられなかったあの人を私が助けたんだから」
「良い腕だ。助かった」
オヴァンは素直に礼を述べた。
「そ、そう?」
ミミルの長い耳がほんのりと赤くなった。
「あのイカを倒したからまたインターバルが上がるのかしら?」
ミミルは胸の等級証に手を伸ばした。
等級証の色は青色。
少し前まで見習いのインターバル1だったが、テルの推薦もあって『インターバル3』に昇格していた。
「上がらないだろう。依頼を受けて倒したわけでは無いからな」
「そっか。残念」
「気にするな。お前の腕ならインターバルなどすぐに上がるだろう」
「そう? そうよね。フフフ」
「ひょっとして……私って結構凄い?」
ミミルは自慢の耳をぴょこぴょこと跳ねさせて笑った。
オヴァンも悪い気分ではない。
「そうだな」
微笑んで言った。
「おい、あんたら、良くやってくれたな」
事態を見守っていた船員達がオヴァン達に近付いてきた。
「ありがとよ」
「あんた達のおかげで船を沈められずにすんだぜ」
「でっけぇイカだったな」
船員達は代わる代わる礼を述べた。
『酔い止め』の薬とリメイクの効果が切れるまで、ミミルは上機嫌だった。




