表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/190

つまりはこれからもどうかよろしくね

 ナルガーイ歴1000年。


 大陸の南の、とある島。


 港町の酒場。


 年齢30歳ほどの流れの冒険者がカウンター隣の壁とにらめっこをしていた。


 木板の壁面に、いくつもの紙がピン留めされていた。


 冒険者への依頼を記した紙だった。


「んん……?」


「どうした兄さん」


 冒険者に話しかけたのは酒場のマスターだった。


「こんだけ依頼が有るのに、『エルフ退治』がねえな。普通、エルフ退治ってのは最後に残るもんだが……」


「兄さん、大陸から来たのか?」


「わかるのか?」


「ああ。この島にはエルフは居ない。島の人間なら皆知ってることさ」


「へぇ」


「ちょっと前までは居たんだがな。ある冒険者が島のエルフを全部退治してしまったんだ」


「ある冒険者?」


 その時、入り口の扉が開く音がした。


「丁度いい所に来た。あいつだよ」


 言われて冒険者は入り口の方を見た。


 入ってきたのは身長172セダカほどの青年。


 後頭部でまとめた赤茶色の髪を揺らしながら、青年はまっすぐカウンターに歩いてきた。


「依頼を終わらせてきた」


 青年はカウンターに記憶石を置いた。


「あいよ」


 マスターは特に詳細を聞かず、カウンター奥の部屋に入っていった。


 マスターが戻ってくると青年の前に金貨の入った革袋が置かれた。


 隣で見ていた冒険者は不思議に思った。


 やけに簡単に金を出すものだ。


 チェックが甘いのではないか。


 だが、冒険者は青年の等級証を見て納得した。


 胸にかけられている等級証の色は白。


 最高位の等級、『インターバル8』である証だった。


 青年は報酬を旅袋に入れるとそのまま酒場から出て行った。


「インターバル8……こんな島に……?」


 独り言か、マスターに声をかけたのか、とにかく冒険者は呟いた。


「ああ。あいつはこの島の産まれなんだ」


「へぇ……」


「一年前、この島に出現したデッドコピー級をソロで退治したことでインターバル8に認定された」


「デッドコピーを……ソロでか? 化物じゃねえか」


「だからインターバル8っていうんだ」


「違いねえ」


「名前はテラー。別名スレイヤー。クロス退治の依頼を専門に引き受けることからそう呼ばれている」


「あいつが島のエルフを……? エルフ退治なんて、インターバル8のすることじゃねえだろ」


「エルフによって家族を失ったそうだ」


「『復讐』ってわけか? ありえねえ。暗い奴だなぁ」


「どうだろうな……」


「あ?」


「『人助け』かもしれないだろう?」


「そっちの方がよっぽどありえねえな」


「そうかな」


 マスターはスレイヤーが去った扉の方を見た。


 扉の隙間から明るい日差しが差し込んでいるのが見えた。


 ……。


 町を歩いていたスレイヤーは花屋を見つけるとその中に入った。


 それからしばらくすると花束を一つ持って花屋から出てきた。


 それから猫屋へと向かう。


 脚の速いサーベル猫を借りると町の外へ出た。


 スレイヤーは平原の東に向けて猫を走らせた。


 何日か旅をしてスレイヤーがたどり着いたのはオリジンが遺した遺跡の入り口だった。


 彼は猫を木に繋ぐと遺跡への階段を下っていった。


 狭い遺跡の通路を歩き、幾つかの階段を降り、スレイヤーは遺跡の最奥にまでたどり着いた。


 そこは黒い雨がデッドコピーを産むまでの間、オリジナルが安置されていた部屋だった。


「会いに来たよ。姉さん」


 スレイヤーは部屋の中央に向けて優しい声をかけた。


 部屋の入り口にはいくつもの火の玉が浮かび上がっていた。


 侵入者を追い払うためにスレイヤーが設置したリメイクのトラップだった。


 部屋に異常が無いのを確認するとスレイヤーは部屋の中央まで歩いて行った。


 そこには『五年前のままの姿のエルフスレイヤー』が横たわっていた。


 スレイヤーは姉の隣に花を添えた。


 エルフスレイヤーの周囲には四つの赤い石が置かれていた。


 四つの石は鎖の輪によってひとつなぎにされていた。


 かつてオヴァンが手に入れたオリジナルだった。


 四つの石を底面の頂点として、青い半透明のピラミッドが出現していた。


 エルフスレイヤーはその半透明のピラミッドの中に居た。


「まだ解呪のオリジナルは見つかっていない。もうちょっと待っていて欲しい」


 スレイヤーは意識の無い姉に言葉をかけた。


「この間、ミミルに会ったよ。けど、二人とはしばらく会ってないみたいで」


「……あいつら、今頃どこで何をやってるのかな?」


 スレイヤーは部屋の天井に開いた穴を見上げた。


 この島の名前はアルカデイア。


 魔物による被害の少ない安全な島であることから、理想郷と呼ぶ者もあった。


 ……。


 再び、ナルガーイ歴995年。


 エルフスレイヤーにクロス化の時が迫っていた。


 オヴァンは金棒をエルフスレイヤーに振り下ろそうとして腕に力をこめた。


 そのとき……。


「待って下さい」


 オヴァンを止めたのはハルナだった。


「何だ?」


 ハルナの制止を受けてオヴァンは金棒を下げた。


 ハルナは仮面越しに見えるオヴァンの瞳に仄かな弱さを見た。


(オヴァンさんも……本当は彼女を殺したくないんだ)


 ハルナはそう確信すると次の言葉を綴った。


「彼女を『救う方法』が有るかもしれません」


「本当か!?」


 テルが飛びつくように問うた。


「どうするんだ?」


 オヴァンは平坦な声で尋ねた。


「……『解呪のオリジナル』です」


 オヴァンはハッとして自分の左手に持った石を見た。


「まさか、これが解呪のオリジナルだと言うのか?」


「いいえ」


「それは解呪のオリジナルではありません」


「……そう都合良くはないか」


「ですが……そのオリジナルは、『対象を変わらない状態で保存する』ことが出来ます」


「そのオリジナルでエルフスレイヤーさんを保存し、その間に私達が解呪のオリジナルを見つける」


「これが、エルフスレイヤーさんを助けることが出来る、唯一の方法だと思います」


「問題として、私達がオリジナルを見つけられなければ、彼女はずっとこのままになってしまいますが……」


「どうしますか?」


「やってくれ」


 テルが言った。


「俺は……姉さんに生きて欲しい」


「そうか……わかった……」


 エルフスレイヤーが苦痛の滲む声で言った。


「テルの言う通りにしてくれ……」


「はい。オヴァンさん、オリジナルを」


 ハルナの指図を受けてオヴァンはオリジナルを彼女に渡した。


 ハルナはオリジナルを受け取ると四つの石をエルフスレイヤーの周囲に配置していった。


 紅い石が正方形を形作った時、それらの石を頂点にピラミッドが出現した。


 ピラミッドに囲まれたエルフスレイヤーはその動きを止めた。


 呼吸すら無い。


 完全にその存在を静止させていた。


「これでひとまずは安心です」


 オリジナルの動作を確認するとハルナが書いた。


「石を動かすとオリジナルの効果は解けてしまいますが……」


「俺が姉さんを見守っていくよ」


「良いのか?」


 オヴァンが問うた。


「ああ」


 テルは迷わなかった。


「あんた達は、解呪のオリジナルを頼む」


「わかりました」


 ハルナは力強く頷いた。


「必ず解呪のオリジナルを見つけて戻ります」


「頼んだぞ」


 テルはそう言うとピラミッドへと視線を移した。


「姉さん……」


 テルの手がピラミッドの表面に触れた。


 ひんやりと冷たい感触が有った。


「解呪のオリジナルが見つかったら……二人でパーティを組もう」


「もし嫌だって言っても、強引に引っ張って連れていくからね」


「パーティ名は……スレイヤーが二人だから……そうだな……」


 テルは思い浮かんだパーティ名をそっと呟いた。



 ……。



 半月後、オヴァンは港に居た。


 相変わらず竜の面をかぶっている。


 仮面の紋様は既に消滅していた。


 フレイズの効果時間が切れたのだろう。


 オヴァンは大陸行きの船へ向かって足を向けた。


「…………」


 船の近くまで来るとオヴァンは立ち止まった。


「終わったな……」


 小さく呟いた。


「そこの優しい冒険者さん」


 声がした。


 オヴァンは驚いて振り返った。


 オヴァンの眼前に大きな看板を持った少女が立っていた。


 少女は素早く手を動かすと看板に文字を綴り始めた。


「実は私、仲間を探しているのですが……」


「私とパーティを組んで、一緒にオリジナルを探しませんか?」


「俺は……」


「リメイカーとパーティを組むことは出来ない」


 そう言ってオヴァンは俯いた。


 そして僅かな沈黙の後に顔を上げた。


「……というのは『嘘』だが」


 オヴァンの口元が悪戯っぽい微笑を浮かべていた。


 対するハルナの表情も柔らかい。


「遺跡では助けられた。あの『おまじない』をまたやってくれるか?」


「はい。喜んで」


 オヴァンは仮面を外すとハルナの方へ寄越した。


 それはオヴァンにとって最大限の信頼の証だった。


 ハルナの手が竜面に触れた。


 その時……ハルナは初めてオヴァンの素顔を見た。


「あ……」


 ハルナの顔がみるみる紅くなっていった。


 顔を真っ赤に染めながらハルナは書いた。


「『嘘じゃない』じゃないですか……!」


「む?」


 オヴァンは首を傾げた。


 それから二人は船に乗り込んでいった。


 ……そんな二人の後をひょこひょことついていく人影が有った。


 緑色のフード付きマントを身に着けた謎の人物。


 深くかぶったフードの隙間からは、『ぴょこぴょこと動く長い耳』が覗き見えるのだった……。



  第一章 スレイヤー達 了


  次章 ドラゴン発見伝へ続く……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓もしよろしければクリックして投票をお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ