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話をしよう。あれは今から……その2

「だから、神の寿命というのは得てして世界の寿命より短いものなんだよ」


「そういうものか」


 男は無表情だった。


「うん、そういうものなんだ」


 それから愚神は男の顔を見上げた。


「それにしても君は背が高いね。モテるだろう」


 男は少し間を置いてから口を開いた。


「どうだろうな。いや、モテなかったと言っているわけじゃない」


「……だが、それが背が高かったからかと言うと、どうだろうな」


「自信家なんだ。君は」


 男は『自分の美徳は一つではない』と言っているらしかった。


「自信? 事実だと思う」


「俺は平均より優れた能力を持っていた」


「女は優れた男に惹かれる」


「だから異性にも好かれた。それだけだ」


 どうやら、彼は謙遜という概念が無い世界から来たらしいね。


「けど、木から落ちて死んじゃったんだ」


 カッコ悪いね。


「全く……無様だった。返す言葉もない」


 無表情だった男の表情が歪んだ。


 自分の死に方によほど悔いが有ったのか。


「まあ、トラックに潰されて死ぬより良かったじゃないか」


「トラック?」


「いや、何でもないよ」


 統計によると、自動車に轢かれて死んだ人間の魂は外界に流れ着きやすくなっているらしいね。


 え? 自動車を知らない? 乗り物だよ。


 凄いスピードで走るらしいよ。


 トラックというのは自動車の一種だ。


 まあ、愚神も実物を見たことは無いんだけどね。


 トラックは自動車の中でも人間をひき肉にする能力に特化しているらしいね。


 拷問用の自動車だろうか。


 トラックに限らず、死の瞬間に体に衝撃が加わっていると魂が『飛んで行きやすくなる』らしい。


 と、友達のエマちゃんが言っていた。


 ほんまかいな。


 嘘かもしれないね。


「けど、羨ましいね。我なんかは女神なのにちっともモテないから」


「それで、最近はファッションに凝ったりもしてるのさ」


 愚神は左腕の包帯を男に見せた。


 さらに右手で左目の眼帯を指差した。


「どうだい? 似合うかい?」


 その時の愚神はちょっとドヤっていたと思うよ。


 我に惚れちゃったかい? ……なんて。


 けど……。


「なんだその変な皮は」


 一刀両断だったね。


「皮じゃないよ!? 包帯だよ! 傷に巻く布だよ! 見てわからないのかい!?」


「ファッションというものはサッパリでな」


「……よくそんなので女の子にモテたものだね。イケメンは得だね」


「それで……よくわからんがつまり……」


「うん」


 わかってくれたか。


「お前は腕を怪我しているのか?」


「ファッションだよ!?」


「さっきまで何を聞いていたんだい!?」


「異世界で流行りのジャケガン=ファッションだよ! わかんない!?」


「すまん……」


 男は申し訳なさそうに頭を下げた。


 からかっているのではなく、本当にファッションというものに関心がないようだった。


「はぁ。もう良いよ」


「トカゲと同程度の知能である君に、高尚なファッションの理解を求めた我が間違っていたよ」


「……悪かったな」


「それじゃあ本題に入ろうか」


「長い前フリだったな」 


「ああ。話が長いのが我の悪い癖でね。ちなみに、我の長話の最高記録は……」


 女神の話は長い。君も覚悟しておくと良い。


 いや、嘘だよ。楽しいよ?


 時間なんかスッパリ忘れてしまうさ。


「本題」


「ああ、ごめんよ。つい脱線してしまって……。これからは気をつけるからね。怒らないで欲しい」


「さて……」


 愚神はごほんと咳払いをしたよ。


 愚神は元々清浄なる女神だから痰なんか無いのだけど、当時はちょっと風邪気味だったね。


 女神は清浄だからトイレにも行かない。常識だね。


 お風呂にも入らないんだ。


 ……ちょっと、別に臭くないから、後ずさらないでくれるかな?


 清浄だよ? おかげさまで清浄そのものだ。


 だから、そんな態度を取られると傷つくよ。


 さておき、愚神は男に何が起きたのか話すことにした。


「わかっていると思うけど、君の肉体は死んでしまった」


「……そうか」


 男はあっさりと自分の死を受け入れたようだ。


 話が早くて助かったね。


「それで、体から抜け出した魂は、『狭間の世界』を彷徨っていた」


「狭間の世界?」


「『世界と世界の間の世界』だよ。ややこしいかな? 要は、『世界同士のつなぎ目』だよ」


「自分の世界から飛び出した魂は、狭間の世界を旅することになる」


「この時、意識は朦朧としているようだね。肉体が無いせいだ」


「君も自分が何年彷徨っていたか覚えていないだろう?」


 その時、男が不思議そうに言った。


「何年? そんなに長い間彷徨うものなのか?」


「ああ。百年彷徨う魂も有るよ。君がどうだかは知らないけどね」


 君はどうかな? 死んだ後のことを覚えてる?


 ……。


「それで、君の魂は、『我の世界のすぐ側』まで漂って来ていた」


「我は君の魂の輝きを見つけ、我の世界へと招き入れたんだ」


「……何のために?」


「一つは君の魂を『保護』するため」


「……保護?」


「肉体に守られていない魂は傷つきやすい」


「魂のまま彷徨っていると、それを狙った『邪悪な存在』に取り込まれてしまうことが有る」


「だから、我ら神々は彷徨う魂を見つけると、なるべく保護するようにしているのさ」


「保護して……どうする?」


「その神によるね。神といっても善良な神ばかりでは無いから」


「善良で無い神は……何をするんだ?」


「悪行の神々は魂を捕獲してエネルギー源に使ったり、強引に転生させ兵士として使ったりする」


 そこ、後ずさらない。


「お前は?」


「ちょっと邪悪かな。晴れ時々邪悪くらいの塩梅だ。けど、悪いようにはしないよ」


 君も拾われたのが愚神で良かったね。


 いや、本当に。


 何だいその疑わしい目つきは。


 エネルギー源にされたいのか?


「俺をどうする?」


 男はそう尋ねた。


「我はスタンダードタイプだね。君に選択を迫ろうと思う」


「選択……?」


 君にも選んでもらうことになるから、これからの話を良く聞いておくと良い。


「選んで欲しい」


「我の世界に『転生』するか、それとも……」


「『地獄』に行くのかをね」


 ……あれ?


 驚いたかな?


 思い返すと、あの時の彼も驚いているようだったよ。 


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