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七人のサムバディその2

(え……?)


 ハルナは言葉もなく驚いた。


 まだ実際の実力を見てはいないが、テルのインターバルは7。


 世界でも有数のリメイカーだ。


 その彼より上だというのなら、エルフスレイヤーの才能は並大抵では無い。


 ハルナはエルフスレイヤーの戦いを少し見ただけだが、彼女の武装は完全に『剣士』のそれだった。


 そんな彼女に『リメイクの才能』が有るというのは意外だった。


「どうして……エルフスレイヤーさんは『リメイクを使わない』のですか……?」


「あいつは『リメイクの教育』を全く受けていないんだ」


「……この島には『リメイクの学校』が有りませんからね」


 ハルナはしみじみと書いた。


「それは問題じゃない。なんなら俺が教えてやっても良いんだ」


「けど……あいつは勉強なんかしている時間が有ったらエルフを殺すんだって言って……」


「バカなんだ。あいつは……」


「よくわからないけど、エルフ退治をしながらリメイクの勉強をすれば良いんじゃないの?」


 ミミルが疑問を口にした。


「初歩的なレベルのリメイクであればそれでも習得出来るでしょう」


「ですが、実戦レベルのリメイクを習得するには真剣に取り組んでも何年もかかると言われています」


「付け焼き刃の学習ではモノにならないかもしれませんね」


「へぇ……。そうなんだ」


「あいつは……」


 テルは苛立たしげに言葉を継いだ。


「あいつはインターバル5なんかに収まってる器じゃない」


「その気になれば、『英雄』にだってなれたはずなんだ……」


「それを……エルフ退治なんかに人生を費やして……」


「あいつは……何をやっているんだ……!」


 テルは両拳をぎゅっと握りしめた。


「年下の俺に追い抜かれて……悔しくないのかよ……!」


 テルの拳が自身の太ももを叩いた。


「あなたは……エルフスレイヤーのことが嫌いじゃないの?」


「『大嫌い』さ」


 テルはハッと息を吐き出して笑った。


「あんなやつ……大嫌いだ」


「あなたとエルフスレイヤーさんはいったい……」


「待て。口を閉じろ」


 突然にテルが真顔になった。


「え?」


「『何か』が近付いてくる。恐らくは『人間』だ」


「わかるのですか?」


「炎がそう言っている」


 三人が囲んでいる炎はテルが作った『魔術の炎』だ。


 故に、その揺らめきも実在の炎とは少し異なる。


 テルは術者本人にしかわからない『何か』を炎から感じ取っているようだった。


「『仮面』を付けろ」


 テルは旅袋から『カンガルーの仮面』を取り出して装着した。


 そして間髪入れずフレイズを詠唱する。


 遅れて二人も仮面を被った。


 ハルナがミミルに視線をやるとミミルの顔に『猫の仮面』が有るのが見えた。


(木彫りだ……)


 新人らしい仮面にハルナは内心共感を覚えた。


 二人が仮面を被り終わった直後、テルはフレイズを一つ完成させた。


 三人の周囲に赤いリメイクサークルが広がっていく。


 テルはさらに二つ目のフレイズを詠唱し始めた。


(『攻性フレイズ』……!)


 人影すら見えないうちにテルは既に臨戦態勢に入っている。


 それに気付いたハルナは周囲への警戒心を強めた。


 テルと同じ方角を向いて身構える。


 直後……。


 『林の中』から『飛来する物』が有った。


(…………!)


 ハルナの瞳に高速で襲い来る『矢』が映った。


 全部で四本。


 そのうちの一本は『ハルナに直撃する軌道』を取っていた。


 ハルナは咄嗟に看板の位置をずらすことで身を守ろうとした。


 だが……。


 突然に矢が燃え上がった。


 矢は急速に燃え尽きていき、ハルナに届くことなく『焼失』した。


 四本の矢の全てがハルナ達の眼前で燃え尽きていた。


「え……!?」


 状況の掴めないミミルが驚きの声を上げた。


 リメイカーであるハルナには『テルが構築した結界』が矢を防いだということがわかった。


(『炎の結界』……)


 どうやらハルナ達は『何者かの攻撃』を受けたらしい。


 その攻撃をテルのリメイクが阻んだようだ。


 敵は林のどこかに潜んでいるのだろうが、周囲は暗かった。


 ハルナには敵影を捉えることは出来なかった。


 一方で焚き火の炎はハルナ達を照らしている。


 襲撃者からはハルナ達の姿は丸見えだろう。


(何をすれば……。反撃……? それよりまず敵の姿を……)


 ハルナは思案した。


 本人からすればそれは決して長い時間ではないつもりだった。


 だが……。


(え……?)


 ハルナの思考が終わるより先に『テルの二つ目の詠唱』が完成していた。


(早い……!)


 テルの詠唱速度は平均より少し速い程度。


 だが、彼の行動には迷いが無かった。


 ハルナが何一つ行動を起こせないうちにテルは自らのアドバンテージを確立していく。


 テルの周囲に『サークル』が出現し、その頭上に『十個の火の玉』が現れた。


 それは加速しながら木々の間を進んでいく。


 そして林の中で散らばって停止し、暗闇を照らし出した。


 林の奥が照らされたことで『複数の人影』が見えた。


 敵影は全部で『七つ』。


 全員が『白いフード付きローブ』を着用し、フードを深く被っている。


 ハルナはその姿に対して幽鬼のような印象を覚えた。


「何者だ!」


 テルが襲撃者に向けて怒鳴った。


 相手は答えない。


 テルはその一瞬で『話し合いの余地がない』と判断した。


 そして瞬時に攻撃へと移った。


 テルはビッと手刀を天へ向け、振り下ろした。


 次の瞬間、滞空していた火の玉が急加速した。


 林に点在する十個の火の玉のうち七個が敵に向かって突進した。


 それは弓矢よりも速く、そして激しい。


 火の玉の急激な加速に襲撃者達の回避は間に合わない。


 七つの火の玉がそれぞれ襲撃者の体に接触した。


 その次の瞬間、火の玉が弾けた。


 爆炎が襲撃者達の全身を包み込んだ。


 ハルナ達の視界から一瞬襲撃者達の姿が消える。


 炎が晴れた時、『七人中六人』がぶすぶすと煙を上げて倒れていた。


 敵は幽鬼では無い。


 どうやら『生身の人間』だったらしい。


 どうやって防いだのか、襲撃者のうちの『一人』だけは平然と立っていた。


 何にせよ、敵の過半数が無力化されたようだ。


 ハルナはテルの手腕に感服した。


 林の中から男達の『うめき声』が聞こえてくる。


 どうやら襲撃者達にはまだ息があるようだ。


 『手加減』をする余裕すら有ったらしい。


 ハルナはルーキーの自分とトップクラスの冒険者の違いを実感した。


 単純なリメイクの腕前ではない。


 経験した場数の違いが判断力の差を産んでいるようだった。


 ハルナはリメイクの能力には絶対的な自信を持っていた。


 だが、リメイクの技量が優れていても判断が鈍ければ生き残れないのだと実感した。


「油断するな」


 テルが仲間へと注意を促した。


 まだ敵は一人残っている。


 残った一人の襲撃者が剣を構えて前進した。


 テルは残った火の玉で襲撃者を照らした。


 相手の素顔は見えないが『長身』で手足が長い。


 おそらくは『男性』だろう。


 襲撃者の白ローブはあちこちが焼け焦げて穴が開いている。


 だが、その下に見える衣服は綺麗で何の損傷も見えなかった。


「リメイクかテンプレートで防いだのか?」


 仲間二人に聞かせるようにテルが言った。


 テルの視線がミミルに向かう。


 ミミルはシューターでテルとハルナはリメイカーだ。


 どうやら敵は『リメイクに対する対抗手段』を持っているらしい。


 セオリーで言えばこの敵に対してはミミルが向かわなくてはならない。


 ミミルは一応は敵に弓を向けてはいた。


 だが、人間を射て良いのかどうかの判断がつかないようだった。


(俺も昔はそうだったがな……)


 テルはミミルから視線を外した。


 そして旅袋から『杖』を取り出した。


 金属製の簡素なデザインの杖。


 長さは120セダカほどで先端にノート石が嵌っていた。


 このタイプの杖には使用者のリメイクの威力を増幅する効果の物が多い。


 今まで杖を取り出さなかったのは、杖無しでもリメイクの威力に十分な自信が有ったからだろう。


 テルは杖の先端を襲撃者に向け、接近戦が出来る姿勢で待ち構えた。


 だが、敵はテルの間合いよりも遥か遠くで足を止めた。


 林道に出ず、『林の中』に留まっている。


 そして旅袋から『何か』を取り出した。


 数は六つ。


 それは『小さなナイフ』のように見えた。


 通常のナイフと異なるのは、そのナイフには『柄がない』ということだった。


 短い刃の『根元』には柄の代わりに『丸い宝石』が付けられている。


 宝石は紅い。


 恐らくはノート石だ。


(投擲用のテンプレートか)


 テルはそう推測した。


 そして、襲撃者はその刃を投擲した。


 そこまではテルの予想通り。


 だが……テルの予測は半分しか当たらなかった。


「な……!?」


 襲撃者の『想定外の行動』にテルはうめき声を上げた。


 襲撃者は『テルの方』へではなく『倒れた仲間』へと刃を投擲していた。


 地に伏す襲撃者達にテンプレートの刃が突き刺さった。


 肉が裂かれ、血が溢れる。


 次の瞬間、テル達の視界が灼熱に染まった。


 ナイフ型のテンプレートから膨大な炎熱が湧き上がっていた。


 爆炎は襲撃者達を飲み込み、さらに大きく膨れ上がっていった。


「ひゃぁっ!」


 ミミルが悲鳴を上げた。


 炎がミミル達の方へも押し寄せてくる。


 ミミルは思わず目を閉じた。


 だが、爆炎が彼女達まで届くことは無かった。


 テルが張った『結界』が爆炎を阻み左右へと分断していた。


 ハルナはそれを予想していたので慌てた様子も無い。


 派手な反応をしたのはミミル一人だった。


 それに気付いたミミルは耳を赤くすると姿勢を正した。


 やがて爆炎が晴れた。


 敵の気配は無い。


 テルは『火の玉』を飛ばして襲撃者達が居た場所を照らした。


 襲撃者達の痕跡は完全に焼失していた。


 激しい爆炎の後には無残になぎ倒された木々だけが残っていた。


 ……爆発が強すぎて血肉が残らなかったのは残念だね。


 どうにも見栄えが良くない。


「逃げたか……」


 誰に聞かせるでもなくテルは呟いた。


「な……何が起きたの?」


 ミミルが震え声で尋ねた。


「テンプレートで仲間を始末したんだろう」


 テルの口調には多少の苦々しさが混じっていた。


「そんな……どうしてそんなことをする必要が有るの?」


「『口封じ』だろうな」


「正体を知られて困る人達が私達を襲ってきたということでしょうか?」


「そうだな……」


「いったい『何者』で、どうして『私達』を狙ったのでしょうか?」


「わからない」


 テルは首を左右に振った。


「だが、どうせロクな理由じゃない」


「そうですね」


「少なくとも、ただの盗賊では無いように思える」


「わかるの?」


「ああ。俺はルーキーだった頃から盗賊に縁が有ってな」


「良く襲われては逆に身ぐるみを剥がして路銀にしていたもんだ」


「……たくましいですね」


「もう休め。念のためリメイクで広範囲に『結界』を張っておく」


「わかりました」


 ……。


 テルはテントを使わないらしく三人は『寝袋』に入ることになった。


 横になったハルナは『先程の戦い』のことを思い返していた。


 ハルナは何も出来なかった。


 結果だけを見れば、パーティは無傷で危機を切り抜けることが出来た。


 だが、あれが『最適解』のはずは無かった。


 それに、もしあの時自分が一人だったら……?


 いったい何が出来ていただろうか。


 どうするのが、何のフレイズを使うのが最適だったのか。


 自分一人で七人の襲撃者を退けることは出来たのだろうか。


 あれこれ考えているうちにハルナは眠りに落ちていった。




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