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七人のサムバディその1

 三頭の猫が『夜の林道』を走っていた。


 進路は東。


 猫の背にはそれぞれ『テル』、『ハルナ』、『ミミル』の姿が見えた。


 猫の速度は通常よりもやや遅い。


 森育ちのミミルが猫に慣れていないためだった。


 ミミルは前かがみになっておっかなびっくり猫にまたがっていた。


 林道の『比較的開けた場所』でテルは猫の歩調を緩めた。


 それに合わせて残りの二人も猫を減速させた。


 やがて三人の猫は足を止めた。


 テルは猫を反転させると二人の方を向いて言った。


「この辺りでキャンプにしよう」


 三人は猫から降りた。


 そして猫が逃げないように近くの木に繋ぐことにした。


 ミミルは猫を繋ぐのは初めてだったがテルは丁寧にやり方を教えた。


 テルが何度か繰り返して見せることでミミルは『頑丈なロープの結び方』を習得した。


 ハルナはそれを傍らから見ていた。


(面倒見が良い……)


 ハルナはオヴァンが彼に自分を任せようとした理由がわかるような気がした。


 そして、疑問も抱いた。


 オヴァンは最初からテルの人柄を知っていたのだろうか。


 テルはハルナが思っていた以上に『真面目な少年』のようだ。


 その彼がどうしてエルフスレイヤーには強く当たるのか……。


 わからないことだらけだった。


 ……。


 テルがリメイクで『焚き火』を作った。


 実在の炎と違い、薪が無くても消えることが無い。


 三人は焚き火を囲んで食事をした。


 食事の内容はパンと干し肉、木の実など。


 冒険者だけではなく旅人達に広く愛好される食べ物だった。


 家庭の温かい料理と比べると寂しい味わいだが、携帯性に優れ保存が効く。


 冒険者には果実酒を愛飲する者が多いが、三人は酒を飲まないらしい。


 水を煮沸して茶葉を入れて飲んだ。


 ……。


 ……ちなみに、愚神はあまり物を食べない。


 特にこの頃は全く物を食べなかった。


 神は半不死だから栄養を取らなくても肉体が維持出来るんだ。


 ただ、神になっても味覚が失われるわけじゃあない。


 好んで食事をする神も居るね。


 食べ物は一切食べないのに大酒飲みという変わった神も居る。


 愚神は普段は食べないけど、貰った物は食べるタイプだね。


 たまにエマちゃんがお土産を持ってきてくれたりするんだ。


 閻魔大王なのに肉とか持ってくるんだけど、良いのかな?


 彼女は年々俗っぽくなってきているような気がするね。


 ひょっとすると、そのうち地獄をクビになるかもしれない。


 南無。


 ……さて、話を戻そうか。


 ハルナは黙々と食事を進めた。


 テンプレートが無いと会話が出来ないので食事中はどうしても無口になる。


 それに、組んだばかりのパーティで何を話して良いのかもわからなかった。


 テルもハルナの第一印象ほどは多弁では無いようだ。


 焚き火も薪を使ったものでは無いので木々が弾ける音も聞こえてこない。


 有るのは炎が噴き上がる音と僅かな食事音だけ。


 静かだった。


 どこにでも有る夜の静けさだ。


 淡々と食事を進めていると、ミミルがハルナの隣に移動してきた。


 ハルナが見たところ、ミミルは落ち着きがないタイプのようだ。


 沈黙に耐えられなかったのだろうか。


 テルではなくハルナの方に来たのは同性の方が話しやすいからだろうか。


「ねえ、ハルナ……」


「何でしょう?」


 看板とテンプレートを手にとってハルナは要件を尋ねた。


「この間はごめんなさい。あなたを嘘つき呼ばわりしてしまって」


「いえ。もう済んだことですから」


 ハルナは気にしていない風を装う。


「…………」


 ミミルにはまだ後ろめたさが残っている様子だった。


 次の言葉が出てこない。


「ですが……」


 言葉を継いだのはハルナの方だった。


「優しいオヴァンさんは悪い人ではありません」


「あの人は私のために泥を被ってくれただけなんです」


「だから、あの人を悪く言うのは止めて下さい」


 ミミルは頷かなかった。


 代わりに放たれたのは疑問の言葉だった。


「彼……オヴァンは『どういう人』なの?」


「私も出会ったばかりで、詳しくは知りません」


 ミミルは怪訝そうな顔をした。


 出会ったばかりの人間を信用しても良いのか。


 そう考えているようだった。


「詳しいことは知りませんけど……あの人は……凄い人です」


「凄い?」


「ええ。とっても力持ちなんですよ」


「確かに、逞しい感じだったわね」


「そういうレベルじゃないんです。とにかく凄いんです」


「良くわからないけど……」


 ミミルは微妙な表情を崩さなかった。


(確かに、ただ凄いとだけ言われても困りますよね……)


 ハルナはオヴァンが建物を破壊した時の話をしようかと思い、止めた。


 信じてもらえないと思ったからだ。


「あなた、インターバル2になったのね」


 ミミルはハルナの胸の等級証に目を留めた。


「はい。全部あの人のおかげです。これで飢えずに済みそうです」


「そう……」


 ミミルは自分の胸元に手を伸ばした。


 そこでは『紫色の金属板』が焚き火の光を反射して輝いていた。


「先を越されちゃった。私はまだインターバル1だから、頑張らないとね」


「……ミミルさんは、どうして冒険者に?」


「それは……」


「『外の世界』を知りたかったから」


「外?」


「ええ。私の種族、『ナーガミミィ族』は、島の西、深い森の中に住んでいるの」


「『一族の掟』で、私達は『森から出てはいけない』ことになっている」


「けど、私はそんな掟に縛られるのは嫌だった」


「だから、森から逃げ出して冒険者になることにしたの」


「掟を破って大丈夫なのですか?」


「黙って出てきたから、お姉ちゃんは今頃カンカンかな」


 ミミルは苦味の混じった笑みを浮かべた。


 姉との仲は悪くなかったのだろう。


 ハルナはミミルの口調からそう推測した。


「どうして森を出てはいけないのでしょうか?」


「私達の一族は呪われているんですって」


 ハルナはミミルの『長い耳』に視線を向けた。


 それはミミルの先祖が『黒雨の呪い』を受けた証だ。


 アレンジの中には普通の人間とは似ても似つかぬ姿になった者も居る。


 他のアレンジと比較するとナーガミミィの外見は人と殆ど変わりが無かった。


 『内面』にもそれほど差が有るようには思えない。


 少なくともハルナにはそう思えた。


「今の時代、呪いなんて珍しくも無いですけどね」


 そういうハルナ自身も呪いを受けた身だ。


「……そうね。ただ呪われているというだけじゃないの」


「『森から出たナーガミミィ』はその呪いで必ず『命を落とす』と言われているわ」


「命を?」


「ええ。そう伝えられているわね」


「大変じゃないですか。大丈夫なんですか?」


「森を出た直後は私もちょっと怖かったんだけどね……」


「見ての通り、ピンピンしてるわ」


 ミミルは胸の前で両の拳をぎゅっと握ってみせた。


 生まれ持っての美しさのおかげで何気ない動作が芸術のように見える。


「森から出る前と何一つ変わらない」


「つまらない『迷信』だったのよ。それを怖がって森に引きこもってるなんて、バカみたい」


「そうですか……」


「無事でよかったですね」


「ええ。全く」


 ミミルはようやく混じりもののない笑顔を作った。


 同性のハルナですら魅了されるような魅力的な笑顔だった。


「ねえ、今度はハルナのことを聞かせて」


 警戒心が薄らいだのか、ミミルはハルナとの距離を縮めた。


「ハルナはどうして冒険者になったの?」


「呪いを解くためです」


「呪いを……解く?」


「はい」


「呪いを解いて、自分の『声』を取り戻す。そのために『解呪のオリジナル』を探しています」


「解呪? そんなオリジナルが有るの?」


「有ります」


 決定的な証拠が有るわけでは無い。


 だが、ハルナはそう断言した。


 解呪のオリジナルは有る。


 なくてはならない。


 必ず。


「何か『手がかり』は有るの?」


「……いえ。大きな手がかりは有りません」


「どこか『オリジンの遺跡』に隠されているのではないか……。今はそう考えています」


「遺跡って世界中に有るんでしょう? 大変ね」


「そうですね」


 そのときハルナの脳裏に竜面の男の姿が浮かんだ。


「あの人と出会わなかったら、挫けていたかもしれません」


「オヴァン?」


「はい」


「あの人ともちゃんと話がしたいわね。悪い人だって決めつけちゃったから……」


「いい人です」


「それは、実際に話してから決めるわ」


「意外と強情ですね」


「会ったばかりの人間を信用するなってお姉ちゃんが言ってたもの」


「間違ってはいませんが……」


「それでも、オヴァンさんはいい人ですよ」


「そうだと良いわね」


 ミミルは微笑みながらテルの方へと顔を向けた。


「あなたはどうして冒険者に?」


「え? 俺か?」


 テルは急に話を振られて少し驚いた様子だった。


「ええ」


 テルと視線が合うとミミルは軽く頷いてみせた。


「最初は……ただの『成り行き』のようなものだった」


「だが、俺が冒険者を続けていたのは……」


 テルは目を細めるとじっと焚き火を見た。


 ミミルはテルが言葉を続けるのを待った。


「『エルフスレイヤー』を『超える』ためだった」


「それなら、もう達成したことになりますね」


「エルフスレイヤーさんはインターバル5、あなたは7ですから……」


「いや」


「俺の『目的』は……ちっとも達成されちゃ居ない」


「どういうこと?」


「あいつは本当は『凄い奴』なんだ」


「あいつは……あいつの『リメイクちから』は……」


「『俺よりも上』なんだ」




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