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この世の果てで呪詛を歌う少女

 ……。


 さあ、『邪神を殺す者』オヴァンの物語を再開しようか。


 といっても、これは『脇道の話』だけどね。


 良いじゃないか。


 我は長話が好きだ。


 君はひょっとすると長話が嫌いかもしれないけどね。


 まあ、そんなことは関係が無いさ。


 どうせ、逃げられないだろ?


 ……。


 天体観測所の観測室。


 エルフスレイヤーの短剣がエルフの胸部を刺し貫いていた。


「ア……ガァ……」


 エルフの胸から流れた血が地面を濡らしていく。


「…………」


 エルフスレイヤーが短剣を引き抜くとエルフの体が地面へと崩れ落ちた。


 絶命寸前のエルフにも少女は容赦しない。


 エルフスレイヤーは即座にエルフの首を踏み折った。


 生理的な■■感を誘う音が室内に響く。


 エルフの首があらぬ方向にねじ曲がったのを確認すると少女は視線を上げた。


(あと一匹……)


 エルフスレイヤーはこれまでに『魔銃の弾』を『四発』消費していた。


 彼女はその結果として五体のエルフを殺害することに成功している。


 魔銃の弾丸は高価だ。


 エルフ五体を殺すのに弾丸四発の消費は『大赤字』と言えた。


 エルフスレイヤーは目先の収支にあまり関心が無かった。


 たまに赤字の依頼が有っても良い。


 エルフを殺せて、長期的に見て黒字になっていればそれで良い。


 エルフを殺すには何よりも生き延びる必要が有る。


 そして、戦いの場で手札をケチる事は即座に死に繋がる。


 死ねば装備は奪われ、エルフ達の武器として利用されることになる。


 ……あるいは『死よりおぞましい目』に会わされる可能性も有った。


 だから、エルフスレイヤーは装備を消費することに頓着しなかった。


 とはいえ、ハルナの情報では残りのエルフは一体のみ。


 一対一で楽に勝てる相手だ。


 流石のエルフスレイヤーも魔銃を使うつもりにはなれなかった。


 エルフスレイヤーは『短剣』と『盾』を構えると残りの一体を探して天体観測室をうろついた。


 『長机の裏』にエルフが隠れていないか、一つ一つを確認していく。


「……!」


 やがて、エルフスレイヤーは入り口から見て一番奥の右側に有る長机の裏にエルフを発見した。


「ギ……ギィ……」


 エルフスレイヤーを見たエルフは弱々しく呻いた。


 襲い掛かってくる様子は無い。


 何故か……。


 そのエルフの体は『通常のエルフ』よりもさらに『二回り小さい』。


 戦う術を知らない『子供のエルフ』だった。


 子供エルフは突然現れた殺戮者に立ち向かうことも出来ずぶるぶると震えていた。


「……なんだ。子供か」


 エルフスレイヤーは短剣と盾を下げるとゆっくりとエルフに近付いていった。


 両者の距離が近付いていく。


 そして、両者の手と手が届くほどの距離になった時……。


 エルフスレイヤーは『子供エルフの腹』に『短剣』を突き刺していた。


「ギアッ……!?」


 子供エルフは悲鳴を上げると後ずさった。


 短剣が抜け、エルフの腹から赤黒い血が流れる。


 エルフスレイヤーは脚を上げた。


 後ずさるエルフの顔面を思い切り蹴りつける。


 体重差の有る相手の蹴りを受けてエルフの体が倒れた。


 鉄兜の奥、エルフスレイヤーの瞳が爛々と紅く輝いていた。


「怯えるな。向かってこい。醜悪に笑え」


「貴様らエルフに慈悲を乞う権利など無い」


「私にはエルフに与える一片の慈悲も無い」


 エルフスレイヤーは子供エルフの脚の上に跨った。


 そして短剣を高々と振り上げる。


 子供エルフの体に短剣が振り下ろされた。


「ヒギャ……アァァァ……!」


 腹の皮が裂かれ内蔵にまで刃が突き刺さる。


 濁った血が床へと飛び散る。


 明らかな『致命傷』だ。


 だが、エルフスレイヤーの手が止まることは無かった。


 さらにもう一撃。


 異音と血臭が室内に充満する。


 四、五、六。


 祈りをこめて振り下ろす。


 正しき怒りで在れ。


 正しき怒りで在れ。


 正しき怒りで在れ。


 エルフスレイヤーの表情は窺い知れない。


 瞳だけがただただ紅く……。


 死にゆく妖精の子を冷たく見下ろしていた。


「ヒゥ……ゥ……………………」


 子供エルフの呼吸が止まった。


 小さな体に幾度も剣を突き立てられたことで胴体からは『臓物の破片』が飛び出していた。


「はぁ……はぁ……」


 エルフスレイヤーは息を荒くしながらも立ち上がった。


「慈悲は……ない……」


 足を持ち上げ、そして振り下ろす。


 ぼきり。


 いつもよりも容易くエルフの首骨は砕けた。


 足を持ち上げ、そして振り下ろす。


 ぼきり。


 いつもよりも容易くエルフの首骨は砕けた。


 足を持ち上げ、そして振り下ろす。


 ぼきり。


 いつもよりも容易くエルフの首骨は砕けた。


 ぼきり。


 ぼきり。


 ぼきり。


 ぼきり。


 ぼきり。


 ……。


 やがて『子供エルフの頭部』は原型を残さないただの『肉塊』になった。


「子供……」


「子供は……念入りに……」


「う……」


 突然にエルフスレイヤーが膝をついた。


「うぇぇ……」


 喘ぎの後、『鉄兜の隙間』から『吐瀉物』が溢れ出した。


 吐瀉物はびしゃびしゃと垂れ、子供エルフの死骸と混じり合った。


 ……。


「はぁ……はぁ……」


 嘔吐が収まったエルフスレイヤーは汚れた兜を脱いだ。


 そして旅袋から布を取り出して兜の汚れを拭った。


 掃除した兜を被り直すと僅かに胃酸の臭いがした。


 普段エルフの相手をしている少女は悪臭には慣れていた。


 ……それでも惨めな気分だった。


(何度目だ……)


(いつになったら慣れるんだ……私は……)


 エルフスレイヤーは立ち上がった。


 再び部屋を見渡す。


「六体……終わりか……?」


 ハルナの言葉が正しければ全てのエルフは絶命したはずだった。


 エルフスレイヤーは念のため『観測室の外』に有る『屋上』へ向かった。


 確認してみたがエルフの姿は無い。


 ただ『爽やかな青空』が上空に広がっているだけだ。


 気持ちの良い陽光と僅かな吐瀉物の臭い。


(場違いだ)


 エルフスレイヤーはそう思った。





 ……。


 ……おっと、この場面は少し叙情的になりすぎてしまったかな?


 ちょっと力が入りすぎてしまったね。


 すまない。


 我はこういう場面が大好きなんだ。


 退屈な日常の場面なんかよりよっぽど素晴らしい。


 君もそう思わないかい?


 ……そう? 変わっているね?


 それにしても、良い話は何度話しても良いものだね。


 君で何人目だったかな。この話をするのは。


 三人目だったかな?


 よく覚えてないけど。


 ……まあ、どうでも良いか。


 それじゃあ続きを話すよ。





 ……。


 エルフスレイヤーは『天体観測室』を出て『階段』に向かった。


 そして階段の中央を降りていく。


 階段を降りた所に二人の人物の姿が見えた。


 ハルナとオヴァンだ。


 前にエルフスレイヤーが見た時はオヴァンは吐血して地面に倒れていた。


 立ち上がっている所を見ると傷は癒えたらしい。


 エルフスレイヤーが近付いていくとオヴァンの方から口を開いた。


「助けられたようだな。ありがとう」


 淡々とした口調でオヴァンは礼を述べた。


「いや……。私はエルフを殺しに来ただけだ」


「助かった」


「…………」


「俺はオヴァン。オヴァン=クルワッセだ」


「ハルナ=サーズクライです」


「……エルフスレイヤー」


「聞き慣れない名だな。『本名』か?」


「いや。この名前は……」


「私の『誓い』のようなものだ」


「ふむ? それで、『報酬』について話がしたい」


 オヴァンは金銭の話を切り出した。


 下世話なようだが取り分の問題を曖昧にしておくとロクなことにはならない。


 オヴァンは経験からそれがわかっているようだった。


「私は十匹のエルフを殺した。そっちは二十と少し」


「私が四、そっちが六で良いか?」


 エルフスレイヤーは自分が妥当だと思った取り分をオヴァンに告げた。


「欲張らないんだな。こっちは命を助けられた身だが」


「……そっちが暴れてくれたおかげで装備の損耗が少なく済んだ」


「『十匹を三回殺す難易度』と『三十匹を一度に殺す難易度』は決して同じでは無いからな」


「私は非力だ。大勢を相手にすると、どうしても道具に頼ることになる」


「だから……こちらも助けられた」


「そうか。それなら良い」


 三人は一緒に外へ向かった。


 階段を降り、入り口へと向かう。


 『入り口の階段』を降りた所でエルフスレイヤーは建物を振り返った。


「どうした?」


 オヴァンが訪ねた。


「…………」


 少し間を置いてエルフスレイヤーが口を開いた。


「この建物は砦ではないが、守りやすく攻め辛い構造をしている」


「またエルフが住み着いたら厄介だ。爆破でも出来れば良いのになと思っていた」


「爆破?」


「もっとも、そんな大量の火薬を用意する金は無いが」


「ふむ……」


「要は、この建物を使えなくすれば良いんだな?」


「そうだが……」


「わかった」


 オヴァンは旅袋に手を入れた。


 何か『長い物』を引きずり出し始める。


「それは……?」


 『袋から取り出された物』を見てエルフスレイヤーは目を丸くした。


 オヴァンが旅袋から取り出したのは長さ二ダカール近い『巨大な鉄塊』だった。





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