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行きます

 ラウルを見失ったミミルは孤児院へと戻ってきた。


 ミミルが戻った時、孤児院の庭にラック達の姿は無かった。


 代わりにオウカが庭に立っているのが見えた。


 オウカはミミルの存在に気がつくと、彼女の方に歩み寄ってきた。


「サンドはどこ? 家の中かしら?」


 ミミルが尋ねた。


「……あいつらはここには居ないのであります」


「何かあった?」


「ラックが攫われたのであります」


 ……。


 オウカは自分が知り得る限りの事をミミルに話した。


「そう……。それじゃあ私もサンド達を追うわ。あなたはここに残って子供達の世話を……」


「お断りであります」


 オウカはミミルの隣を駆け抜け、庭の外へ向かった。


「何をするの……!?」


 庭を出ていこうとするオウカをミミルが呼び止めた。


「行く所が有るのであります! 子供たちの面倒は、お前が見るのであります!」


「ちょっと……!」


 ミミルの制止も聞かず、オウカは駆け去って行った。


 ミミルは困った顔をして孤児院を見た。


 子供たちを残して行くわけにはいかない。


 サンド達の事が気がかりだったが、ミミルは仕方なく孤児院に入った。


 ミミルが玄関ホールに入ると、階段から誰かが降りてくるのが見えた。


「ミミル……?」


 階段の途中で少女が口を開いた。


「あなたは……ひょっとしてネーデル……?」


 ……。


 数日後。


 オウカを乗せた羽猫が南東の遺跡へと辿り着いた。


 かつて彼女が百年を超える時を過ごしたガルダ=ムゥの遺跡だった。


 遺跡の格納庫の前に、白いドラゴンの姿が見えた。


 オウカは猫をドラゴンの隣に着陸させた。


「どうしてお前がここに居るのでありますか」


 オウカはドラゴンを睨んだが、当然ドラゴンは答えなかった。


 彼女は猫を外に残し、格納庫の中へと入っていった。


 格納庫の中に、見覚えのある人影が有った。


 オウカとさほど背の変わらない、小柄な少年の姿。


 オウカの双子の兄、オウガ=マージンゲイルがプロトガルダを見上げていた。


「オウガ……!」


 オウカはオウガを睨みつけた。


 オウカの声を聞き、オウガが振り向いた。


「やあ……久しぶりだね。オウカ」


 オウガが振り返ると、大量の警備ロボットが現れ、オウカを取り囲んだ。


 オウカが居ない内に、彼女のプラントを奪って使用していたらしい。


「驚かないのでありますね」


 オウカは警備ロボットを気にしない素振りで言った。


「まさか。驚いてるよ。ただ、万が一という可能性も有った」


「ガルダ=ムゥはコクピットをベイルアウトさせることが出来る機体だからね」


「けど、それはあくまでも可能性の話だ。生きていたんだね。嬉しいよ」


 言葉とは裏腹に、二人の間には警備ロボットの防壁が完成していた。


「……警戒されたものであります」


「警戒しないと思うんだ?」


「……昔のことを根に持つなであります。根暗」


「酷いな。……まあ、事実だけどね。ここしばらくは機械いじりばかりしていたよ」


 オウガはプロトガルダに歩み寄るとその脚に触れた。


「そいつを寄越すのであります……!」


「まだ世界征服を諦めて無かったのかな?」


「当然であります。しかし、それとこれとは別問題なのであります」


「別問題?」


「オウカの知り合いが誘拐されたのであります」


「舐めたマネをした連中には、それ相応の報いが必要なのであります」


「友達が出来たの? 君に?」


「別に、友達では無いのであります。ただ……ほんの少しだけ世話になったのであります」


「へぇ……。オヴァン達が現れるまで、俺達の世界は狭すぎたのかもしれないね」


「何が言いたいのでありますか?」


「君は変わったかもしれないと言ったんだ」


「オウカは変わらないのであります」


「そう?」


「とっととガルダ=ムゥを寄越すのであります」


「悪いけど、これを貸すことは出来ない」


「侵略目的には使わない……と言っても信用しないのでありますね」


「そうじゃない。出来れば信用したいと思っているよ」


「超絶自己中な君が、誰か他人のために動くなんて、好ましいことだと思う」


「……けど、俺もこれが必要でね」


「必要……? おとなしいお前が、ガルダ=ムゥを何に使うというのでありますか?」


「まさか……今になって世界が欲しくなったとでも言うのでありますか?」


「実はね……俺もぶっ飛ばしたい奴が居るんだ」


「オウガ……変わったでありますか?」


「かもね。……オウカ、空は良い物だね」


「意味がわからないのであります」


「それで、誰をぶっ飛ばしたいというのでありますか?」


「大神殿……。俺の友達を攫った奴らさ」


「奇遇でありますね。オウカの知り合いを攫った連中も、大神殿から来たらしいのであります」


「へぇ……。ねぇ、オウカ。手を組もうか。俺は君にプロトガルダを貸し出す」


「無事に目的を達成出来たら、君は心臓を俺に返す。この条件でどうかな?」


「……わかったのであります。それじゃあ、コクピットを開けて欲しいのであります」


「良いよ」


 オウガが手元のテンプレートを操作すると、プロトガルダ操縦席の入り口が開き始めた。


 操縦席が開いたのを確認すると、オウカは移動式階段を駆け上った。


 オウカが操縦席に座ると、入り口がゆっくりと閉まり始める。


「待って。俺も行くよ」


「お断りであります」


「え?」


「悪いでありますね。こいつはタダで貰っていくのであります」


 外にオウガを残したまま、プロトガルダの操縦席は入り口を完全に閉じてしまった。


「知ってた」


 オウガは手元のテンプレートのボタンを押した。


「のわ~っ!」


 プロトガルダの操縦席が本体から切り離され、地面へと落下した。


 操縦席はゴロゴロと転がり、格納庫の壁面にぶつかって停止した。


 オウガは作業ロボットに命令を出すと、操縦席を自分の近くまで持ってこさせた。


 オウガはテンプレートで操縦席の入り口を開いた。


「あうぅ……」


 操縦席の中ではオウカが目を回していた。


「止めてよね。これやるとコクピットに傷がつくんだから」


 オウガはロボットを操り、操縦席をプロトガルダに再装着させると、自身も後部座席に乗り込んだ。


「さ、行こうか。俺達の敵をぶん殴りに」



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