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バーストエラー

この回から急激にオリジナリティが上昇しますが

どうか最後まで付き合って頂ければ幸いです。(作者)


等級証の色を修正。

 オヴァンは『ボロボロの木戸』を押し開いた。


 ハルナは片手に短剣、もう片手にテンプレートを持ってオヴァンについていく。


 看板は再びオヴァンの旅袋の中に預けていた。


 最初にオヴァンが、次にハルナが天体観測所の中へと入っていった。


 中に入った二人はまず周囲の様子を窺った。


 木戸の奥に有ったのは『広い通路』だった。


 『通路の左右』には『扉』が見えた。


 外周の窓や扉と比べると屋内の扉は状態が良かった。


 扉の奥がそれぞれが『何の部屋』なのかは通路側からは想像がつかない。


 大きい建物だ。


 あるいは用途のない『空き室』なのかもしれない。


 オヴァンはまず『一番手前』に見える『通路右側の扉』に近付いていった。


 その時だった。


 急に『オヴァンの前の扉』が『勢い良く引かれた』。


 『扉』は『部屋の内側』へと引き込まれていく。


「ギャオッ!」


 即座に『室内のエルフ』が跳躍し、オヴァンへと『奇襲』を仕掛けた。


 エルフの右手には『石斧』が握られていた。


 ビュッと、オヴァンはダガーを振った。


 下から上へ。


 力みのない自然体のスイングだった。


 たった一度の斬撃でエルフは『縦一文字』に切り裂かれ『真っ二つ』になった。


 どしゃりとエルフが落下する。


 エルフの死体はぴくぴくと震えた後、動かなくなった。


「これで二体」


「お見事です」


 看板が無いのでハルナは文字を壁に書いた。


 ……。


 二人は探索を続けた。


 それからも角を曲がったり扉を開いたりする度にエルフは『奇襲』を仕掛けてきた。


 だが、オヴァンは紙切れでも切り裂くかのように容易くエルフ達を撃退していった。


 エルフを何体か倒すと『安物の短刀』の『刃』が取れた。


 エルフが頑丈なわけではなく、普通の短刀ではオヴァンの『剛力』に耐えきれないらしい。


 オヴァンは折れた短刀を捨て、旅袋に手を入れた。


 ここまでハルナの出番は無かった。


 ハルナのダガーは綺麗なままだった。


 オヴァンは『替えのダガー』を取り出すとハルナの方を向いた。


「このように、エルフを殺すこと自体は簡単だ」


「不意打ちしか出来ない矮小な連中だ。まず負けることは無い」


(本当に?)


 ハルナは疑わしそうな視線をオヴァンに送った。


「たまに『毒』を使う奴が居るが、あらかじめ対策をしておけばどうということもない」


「『体の大きい珍種』が出ることもあるが、強さは『平均的な大型のクロス』より劣る」


 『ハイエルフ』のことはさっき話したね。


 オヴァンは話を続けた。


「上級の冒険者であれば何の問題もなくクリア出来る『容易い依頼』のように思えるが……」


「問題は……連中が隠れるのを好み、見つけ出すのに難儀するということだな」


「エルフは一匹でも見逃すと他所に巣を作って繁殖する」


 ……繁殖の方法は聞かない方が良いよ。


 とにかく良く増えるとだけ認識しておけば良い。


「だから、『一匹残らず』仕留める必要が有るが……」


「こういった広い建物で小柄なエルフを探すのは意外と面倒だ」


 オヴァン達はまだ一階に居た。


 建物が広いのでエルフを見つけるのは中々に手間だった。


「でしたら……」


 何を思いついたのか、ハルナは壁に文字を書き出した。


「私が『生命探知』のフレイズを使いましょうか?」


「生命探知?」


「はい。フレイズの『効果範囲内に居る生き物』を『探知』することが出来ます」


「そうか」


「それなら頼もうか」


「はい。おまかせ下さい」


 ようやく出番が出来たハルナは意気揚々とフレイズを地面に綴っていった。


 ハルナの手の動きは早く、あっという間にフレイズは完成する。


 ハルナの周囲に『サークル』が出現した。


 ハルナは目を閉じている。


 探知中は『瞼の裏』に『通常の視覚とは別の景色』が見えるらしい。


 夢のようなものかな?


 サークルが消えるとハルナは続けて床に言葉を綴った。


「『この階に一匹』、『二階に五匹』、『全部で三十一匹』ですね」


「この階の奴は? どこに居る?」


「はい。恐らくは……」


「あの『木箱』の中だと思います」


 ハルナはオヴァンの背後を指差した。


 『通路脇』に『木箱』が転がっているのが見えた。


「そうか」


 オヴァンは真っ直ぐに木箱に向かって歩いて行った。


 距離が詰まっていく。


 3ダカール……2ダカール……そして……1ダカール。


 その時、突然に木箱がはねのけられた。


 木箱の下からエルフが飛び出してくる。


「ギエピーッ!」


 エルフは飛び上がった。


 その手には『折れた槍』が握られていた。


 穂先はボロボロに赤茶けている。


 刺されると健康に悪そうだった。


「ブォッ!」


 飛び上がったエルフに『ニンジャ』の『カラテ』のような鋭い『ハイキック』が直撃した。


 エルフの全身が砕け散り、壁に『赤黒い染み』が出来た。


 ……ああ、『ニンジャ』というのは『外界』の『魔術を使う暗殺技能者』のことだね。


 『ソーサラス=スタッバー』とも言う。


 彼らは暗殺武術である『カラテ』と『ニンポ』と言われる魔術を高いレベルで使いこなす。


 最強のニンポである『ティルトなんとか』というモノは『核融合爆発』を引き起こすらしい。


 『核融合爆発』というのは島一つを消滅させるほどの恐ろしい科学現象だね。


 この世界にもニンジャのような立ち位置の戦士は居る。


 だけど、個人でそのレベルの破壊を起こせる戦士はこの世界には居なかった。


 ニンジャが邪神の尖兵でなくて本当に良かったと思うよ。


 その戦闘能力の高さからニンジャは半神的存在だとも言われているらしいね。


 おそらくはニンジャの一人一人が神になる資質を持っているのだろう。


 きっとニンジャというのは定命の者では無いに違いない。


 つまり、彼らの魂力は……。


 おっと、熱くなってしまった。


 愚神は外界の話をするのが好きでね。


 ごめんね。


 オヴァン達の話に戻るよ。


 ……。


「便利な技だな」


 エルフを壁の染みに変えたオヴァンはハルナのリメイクに対する感想を述べた。


「ハイキックがですか?」


 ハルナからするとオヴァンの膂力の方が巫山戯た魔法のように感じられた。


「『生命探知』だ。二階も頼む」


「はい。おまかせ下さい」


 一階のエルフを全滅させた二人は二階へと向かった。


 ハルナの足取りは軽い。


 ようやくオヴァンの役に立てたのだ。


 オヴァンの役に立てているという実感からハルナは『ウッキウキ』になっていた。


 『ウッキー』というのは外界に存在する『猿』という動物の鳴き声だ。


 つまり、ハルナは『猿』のようにはしゃいでいたということだね。


(私はこの人の役に立てている……)


(この人の……『パートナー』になれる……?)


 そう思っていたのだろうね。


 ……。


 二人は順調に六階までの探索を終えた。


 そして七階に登る。


 階段を上りきった所でハルナは再び『生命探知』のフレイズを使った。


「この階には『生き物の反応』は有りませんね」


「『残りのエルフ』は上……『最上階』に集まっているようです。結構な数ですね」


「そうか。……『階段』が見当たらないな」


 『一階から七階までの階段』はひとつなぎになっていた。


 だが、今まで使っていた階段は『八階』には繋がっていないようだ。


「どこかに有るはずです。探しましょう」


「そうだな」


 二人は階段から離れて歩き出した。


 途中に有る扉は無視した。


 生命反応が無いので部屋を調べる必要は無い。


 通路を歩いて行くと階段の有る『広間』を発見した。


 今までの階段とは違い、幅が6ダカールは有る『大階段』だった。


 他の階と違い、七階は階段に多くの面積を割いているらしい。


「大げさな階段だな」


 左右に有る『手すり』には『繊細な彫刻』が為されていた。


 階段一つに結構な予算がかけられているらしい。


「そうですね。上に有るのは『天体観測室』でしょうが……」


「なるほど。『この建物のメイン』ということか」


 二人は階段に足をかけた。


「む?」


 二人が『階段の先』を見ると何か『大きな影』が見えた。


 それは真円ではないが『丸っこい形状』をしていた。


「あれは……」


「『岩』でしょうか?」


「『岩』だな」


 『階段を抜けた先』に直径1、5ダカールは有る『岩』がいくつも配置されていた。


「どうして階段の上に岩が有るのでしょうか?」


 ハルナは腕に字を書いて尋ねた。


「おそらく、エルフ達が頑張って運んだのだろう。涙ぐましい努力だな」


「何のために?」


「転がして、『侵入者を押しつぶす』ためだろうな」


「ですよねー」


 ゴロリ。


 岩の奥にエルフでも居たのか。


 上方の岩全てがタイミング良くごろごろと転がり始めた。


 やっと仕掛けを活かせる時が来たんだ。


 エルフ達はわくわくしていただろうね。


 わくわくさんだ。


「下がっていろ」


 走れば逃げられそうだったがオヴァンはそうしなかった。


 別にエルフの努力に報いたかったとかそういうわけではない。


 オヴァンは立ち止まったまま旅袋に手を入れた。


 ハルナはそれを見て何か『テンプレート』を使うのだろうと推測した。


(私が……)


 ハルナはオヴァンを制止すると前に出た。


 かがみ込んで『階段』に『テンプレートの先端』を当てた。


「何を……」


「私の『爆裂フレイズ』であんな岩、吹き飛ばしてみせます」


 ハルナは床にフレイズを書き始めた。


「待て……!」


 オヴァンは慌てて手を伸ばした。


 ハルナの口へ。


 フレイズを止めるために反射的にしたことだ。


 間違いだった。


 普通のリメイカーならこれで止まる。


 だが、ハルナのリメイクは『声』でなくて『文字』によるもの。


 いつも敵にするように『喉』を潰していれば流石に止まっただろう。


 だが、味方であるハルナにそこまでのことをするわけにはいかなかった。


 ハルナのフレイズはあまりにも高速。


 オヴァンが次の手を打つ前にハルナの『攻性フレイズ』が完成してしまっていた。


 リメイクサークルが展開され、『ハルナの頭上』に『巨大な火球』が形成された。


 火球は空気を裂いて岩に向かって飛び込んでいく。


 『火球』と『先頭の岩』が衝突した。


 大爆発が起きる。


 爆炎が二人の視界を埋め尽くした。


 その『余波の熱風』が術者であるハルナに吹き付ける。


 やがて爆炎が晴れ、そして煙と砂埃が晴れた。


 階段上の全ての岩石は跡形もなく『爆発四散』していた。


 砂埃を吸ったハルナは『母音の無い奇妙な咳』をした。


「あつ……ちょっとやりすぎましたかね」


 目的を達成したハルナは満足気にオヴァンの方を見た。


 これでまた活躍出来た。


 ハルナはそう考えていた。


(え……?)


 直後、ハルナの顔がさっと青ざめた。


 満足感など微塵も残らない。


 オヴァンが『階段の下』に『倒れ伏して』いた。


 理由はわからない。


(オヴァンさん!?)


 ハルナは慌てて階段を駆け下りた。


 座り込んでオヴァンの様子を見る。


「グ……ァアッ……!」


 オヴァンは『吐血』した。


 吐き出された赤黒い血が地面を濡らした。


 呪われた血だった。


(吐血……『内臓』にダメージが……!?)


(病気……? そんな風には見えなかった……)


 その時、ハルナの脳裏に今までのオヴァンの言葉がよぎった。


「『リメイカー』の喧嘩に巻き込まれるのは御免だったからな」


「……実は、俺も呪われている。だから、呪いの辛さはよくわかる」


「絶対に『攻性フレイズ』を使うな。それさえ守れば連れて行っても良い」


(まさか……呪いのせい……?)


(私が……私のリメイクがオヴァンさんを……?)


 ハルナの体がわなわなと震えた。


 ハルナはオヴァンの言葉を『戦いの邪魔をされたくない』程度の意味だと思っていた。


 それがもっと『致命的な意味』を持っていたのだと今になってようやく気付いた。


(呪いの理不尽さは良く知っていたはずなのに……!)


 ハルナは自分の無能さが腹立たしかった。


 だが、今は自分を責めている時では無かった。


 オヴァンは『攻性フレイズ』は禁止したが、『それ以外』については特に何も言わなかった。


 だから『回復フレイズ』は効く。


 効くはずだ。


 オヴァンを治療しなくてはならない。


 そう思っていたのだが……。


「……!」


 いつの間にかハルナの周囲を『四つの影』が取り囲んでいた。


 新手のエルフ。


 さっき岩を落とした連中だろう。


 全員が武器を構えていた。


 ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。


 ……そんなに岩を落とせたのが楽しかったのかな?


「ヒャァッ!」


 ハルナに一番近いエルフが『ナイフ』で斬りかかってきた。


 ハルナも『ダガー』で迎え撃つ。


 だが、精神的動揺のせいか力が入らなかった。


 エルフのナイフがハルナのダガーを弾き飛ばした。


 ハルナのダガーは床をカラカラと転がっていった。


 手元にはテンプレートが有ったが手が震えて動かなかった。


 直近のエルフは得物を失ったハルナを見てニタリと笑った。


(岩は落とせたし女は殺せるし、今日はなんて良い日なんだ)


 そう思っていたのかもしれない。


 ハルナにとどめを刺そうとナイフを高々と振り上げた。


「ギョガッ!?」


 エルフが悲鳴を上げた。


 ナイフを振り上げた『エルフの喉』に『小さな刃』が突き刺さっていた。


 それは『スリーケン』と呼ばれる『投げナイフ』。


 『柄』が無く、『三つの刃』が『120度ずつ等間隔』に並んでいる。


 『スリー』は外界語で3を意味する。


 そして、『ケン』は刃。


 『スリーケン』とは『三つの刃』を現す外界語だった。


 『スリーケン』で『頸動脈』を刳られたエルフは、血を噴き出して仰向けに倒れた。


 ハルナは『ナイフが飛んできた方角』を見た。


 エルフ達の視線もそちらを向く。


 オヴァン達が通ってきた通路の方に『小柄な人物』が立っていた。


 身長は150セダカ半ば。


 ハルナより10セダカほど高い程度か。


 男性だとしたら小柄。


 女性だとしても長身とは言えない。


 頭には『鉄兜』。


 兜は『顔の前面』までがっしりと覆っておりその『表情』は窺い知れない。


 『パーティを組む冒険者』であれば普通は『獣を模した仮面』を使う。


 単純な防御力を重視した兜は『ソロの冒険者の証』だった。


 全身を『隙間のない革の防具』で守っている。


 さらに、急所には鉄製の防具。


 防具の全てが使い込まれた質感をしていた。


 首からかけた『等級証』は『黄色』。


 『インターバル5』、『上級下位の冒険者』の証だった。


「誰……?」


 予想外の闖入者に向かってハルナは問いかけた。


「エルフスレイヤー」


 帰ってきたのは澄んだ女性の声。


 兜のせいでくぐもって聞こえるが、『若者』の声のように感じられた。


「エルフ……スレイヤー……?」


 耳慣れない言葉を聞いてハルナは聞き返した。


「私は……」


「『エルフを殺す者』だ」


 殺戮者は宣誓した。


 すなわち、『全てのエルフを殺す』と。



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