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エルフハンターズ

 なんだか納得いかない顔だね?


 何が気に入らないのかな?


 いや。エルフだよ。


 エルフで間違いが無い。


 ハルナが町で出会った子?


 『ミミル』の種族なら『ナーガミミィ族』だよ。


 ちゃんと名乗ったじゃないか。


 『ミミル=ナーガミミィ』って。


 ああ。


 ナーガミミィ族も耳が尖っているね。


 うん。


 確かに『エルフ』っていうのは『耳が尖った人』のことだ。


 よく知ってるね?


 そう。


 外界の物語にそういう人達が出て来るらしいんだね。


 この世界のエルフもその『エルフ』が由来になっているんだ。


 うん?


 『ナーガミミィ族』は滅多に人前に姿を現さない『少数民族』だったからね。


 一方で、『エルフ』達は『世界中』に居た。


 『耳の尖った人』と言われてこの世界の人達がどっちを連想するか……。


 考えなくてもわかるだろう?


 まあ、彼らが人なのかどうかというのは線引きが難しい問題ではあるけどね。


 とにかく、この世界でエルフと言えば、あの化物達のことだったよ。


 ちなみに、エルフには『ハイエルフ』とかいった個体も居る。


 『ハイ』は外界語で『高い』という意味だ。


 つまり、『ハイエルフ』とは『背が高いエルフ』のことだね。


 通常のエルフより体の大きい、人間の大男のような個体のことだ。


 この『ハイエルフ』は力が強く、人間の戦士でも苦戦すると言われているよ。


 ……だから、なんなんだい? その顔は。


 さあ、納得したのなら話を続けるよ。


 納得して。


 しなさい!


 ……。


 階段のエルフは武器を持ったまま階段の上を動かなかった。


 武器を掲げ、奇声を上げて威嚇はしてくるが、襲い掛かってくる様子は無い。


(臆病というのは本当みたいですね)


 弱腰の相手を見てハルナはなんとなく気分に余裕が持てた。


「どうしますか? 私がリメイクで……」


 さらに活躍の場を得ようとハルナはオヴァンへ視線を送った。


 そんなハルナに対しオヴァンは『ダチョウ』をした。


「攻性フレイズは使うなと言ったはずだが。約束を忘れたのか?」


「いえ。覚えてます。覚えてますけど……」


 ハルナは視線でエルフを示した。


「けど、アレに近付きたくなくないですか……?」


 エルフは弱そうではあるがおぞましい外見をしていた。


 少しでも遠くから片付けたいというのがハルナの心境だった。


 この時ハルナ達とエルフの直線距離は15ダカールほどだった。


「一理あるが」


「ふむ……」


 そう言うとオヴァンは腰を曲げた。


 そして地面へと手を伸ばし、一片4セダカほどの角ばった石を拾い上げた。


 オヴァンは拾い上げた石を宙に浮かせて弄んだ。


 そして……びゅんと投げた。


 次の瞬間、『破裂音』と共に『エルフの頭部』が『消滅』していた。


「え……?」


 頭部を無くしたエルフは首から血を噴き出しドバタリと倒れた。


 『赤黒い血』が階段を汚していく。


 エルフに特殊な不死性は無い。


 『絶命』したのは明らかだった。


「な、何をしたんですか? テンプレートを使ったんですか?」


 その異様な光景にハルナは驚きを隠せなかった。


 文字を書く手も震えている。


「投石だ。見るのは初めてか?」


「いえ、田舎のちびっこがやっているのは見たことがありますけど……」


「普通は頭をふき飛ばしたりはしないと思うのですが……」


「俺は力持ちだからな」


 オヴァンはこともなげに言った。


「いやいやいや」


 オヴァンはハルナのツッコミを無視して天体観測所の入り口を見た。


 階段の先にボロボロの木戸が半開きになっているのが見える。


「さて、門番は片付けたわけだが……」


「先程のおっさんが発狂したような声、あれは仲間に外敵の存在を伝えるための『遠吠え』だ」


「すると、エルフがぞろぞろと出てくるんですか?」


 ハルナはその光景を思い浮かべてぞっとした。


「いや。エルフは臆病で薄情だ。仲間を助けに出てきたりはしない」


「良かったです」


 ほっとする。


「連中はずっと身を隠し、俺達を殺す機会を窺っているはずだ」


「たとえば、あの窓を見てみろ」


 オヴァンは二階の窓を指差した。


 土台が高いので通常の建物の三階の高さに有る。


「何ですか? またダッシュですか?」


 ハルナは言われるままに窓を見上げた。


 元は木製の窓枠が有ったのだろうが既に失われている。


 開口部の奥は薄暗くてハッキリとは見えなかった。


 何か見えないかとじっくりと見ると、『影』が動くのが見えたような気がした。


 その時、窓からビュッと『何か』が飛び出してきた。


 突然のことにハルナは反応出来ない。


 いや、予測していたとしても動けたかどうかはわからないが……。


 体をびくりと硬直させたハルナの眼前。


 いつの間にかオヴァンが『矢』を握っていた。


 『鏃の先端』はハルナの仮面の『2セダカ手前』で止まっていた。


 窓から何者かが矢を射たらしい。


 オヴァンが居なければハルナは仮面に矢の直撃を受けていただろう。


「な……ななな……!?」


 ハルナは看板に何か書こうとしたが手が震えて文字の体裁を為さなかった。


「エルフにしては良い腕だ」


 ぼきりと、オヴァンは矢の鏃の部分だけを折り取った。


 そしてピッと窓に投げ返した。


「ギィッ!?」


 ハルナの耳に微かなうめき声が届いた。


「当たったか。コントロールには自信がないんだが、今日は調子が良いな」


「……エルフは弓を使うんですか?」


「ん? 言っていなかったか?」


「はい」


「実はそうなんだ」


「……………………」


「ひょっとすると他にも言っておいた方が良いことが有るのではないですか?」


「どうだろう。思いつかないが」


「後で思い出されても困ります」


「ふむ……」


 オヴァンは首を傾げた。


「やはり思いつかないな」


「この建物は窓が多い。あまりぼうっとするなよ」


「ぼうっとしていたつもりは無いのですが……」


 ハルナはそそくさと走り出した。


 建物の方へ。


 土台部分を背にして建物に張り付く。


「ここなら安全ですね」


「いや」


「そこ、エルフが出てくるぞ」


 オヴァンはハルナのやや上方を指差した。


「えっ?」


 ハルナの真上の窓からエルフが身を乗り出していた。


 手には短剣。


 ハルナを見下ろして邪悪な笑みを浮かべている。


 ハルナに襲いかかるべくエルフは窓から飛び降りた。


「!?!?!?!?」


 ハルナは咄嗟に看板を突き出した。


 真上へ。


 ハルナの看板がエルフの腹部を強打した。


「ヴッ!?」


 エルフの骨格は人間に近い。


 肋骨に守られていないみぞおちを打たれ、エルフは『自動車』にはねられた猫のような奇声を上げた。


 看板に進路を塞がれたエルフはハルナの隣へと落下した。


 ばきり。


 エルフの頭部が踏み砕かれた。


 いつの間にかオヴァンがハルナの傍へと移動していたらしい。


 エルフの頭部は柔らかいトマトのようにぶちゅりと潰れ、赤黒い血を撒き散らした。


「良い動きだった。いつも大きな看板を持ち歩いているだけのことはあるな」


「これなら接近戦でエルフに遅れを取ることもあるまい」


 ハルナは目を細めてエルフの死骸を見た。


 あまり直視したい物では無かった。


 エルフの頭蓋骨は跡形もなく粉砕されていた。


「……頭蓋骨というのはそれほど柔らかいものでは無いと思うのですが」


「俺は力持ちなんだ」


「…………」


「あれ……?」


 ハルナはエルフの死骸に違和感を覚えた。


「どうした?」


「クロスオーバーが死ぬと黒い粘液に変化するはずですが……」


「そうだな。普通はそうだ」


「エルフはクロスオーバーでは無いのですか?」


「さあな。……そもそも、クロスとは何だ?」


「黒い雨で生き物が呪われることで産まれる怪物……でしょう?」


「なら、俺達とクロスの違いは何だ?」


「私達……?」


「俺達は呪われている。血も濁り、普通の色では無くなってしまっている」


「アレンジ(亜人)もそうだな。連中の血は赤黒い」


「俺達の体は普通の人間とは異なっている。穢れている」


「なら……俺達はクロスオーバーなのか?」


「そんな……そんなことは無いでしょう」


「私達は……人間です」


「どうしてそう思う? アレンジとクロスの違いは何だ?」


「どうしてと言われても……」


「そう……思いたいじゃないですか……」


「そうか。だったらそれ以上の事は考えるな」


「……はい」


 オヴァンはハルナから離れていく。


 その足は階段に向かっていた。


「さて、中に入るぞ。狭い室内では看板で戦うのは不利だと思うが……」


「俺の短剣を貸そうか?」


「……お願いします」


 ハルナは『オハ゛ン の たんけん』を装備した。


 なんと! ハルナは魔法剣士にクラスチェンジした!


 攻撃力が3ポイント上がった!


 さらに……!


 他には特になし!


 良かったね。



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