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理由

「城をうろちょろする子供が一人減った。ほんの少し動きやすくなったな」


 レイ達の寝室で、オーシェがそう言った。


「行きましょうか」


 テンがソファから立ち上がった。


 レイとオーシェも立ち上がる。


 サンドから少し遅れて、レイ達も部屋を出た。


「まずはタグルさんの部屋でしたね」


「どこに有るんだ?」


「その辺のメイドに聞けば分かるだろ」


 ……。


 メイドに部屋の位置を尋ね、三人はタグルの部屋の前に来た。


 オーシェはタグルの部屋の扉をノックした。


「ちょっと待ってくれ」


 部屋の中からタグルらしき声が答えた。


 少し待つと扉が開き、タグルが姿を見せた。


「ブルメイの友達か……何の用かな?」


 タグルはオーシェとは初対面だったが、後ろのレイとテンを見てそう判断した。


「その……息子さんがあなたを探してましたよ」


 オーシェが言った。


「ルオナが? どうして?」


「詳しい事情はわかりませんけど、何だか急いでいる様子でしたね」


「ルオナはどこに?」


「今は庭の方に居ると思います」


「そうか……。ありがとう」


 タグルはポケットから鍵を取り出すと自分の部屋に鍵をかけた。


 そしてレイ達の前から立ち去っていった。


「よくああも簡単に嘘をつけるな」


 レイは呆れた様子だった。


「嘘をつく方が本当のことを言うより簡単さ。世の中には真実より嘘の方が多いからな」


 オーシェは念のためタグルの部屋のドアノブを回してみた。


 当然だが、開かない。


「用心深い」


 オーシェは懐から針金を取り出した。


 それを鍵穴に差し入れると、ほんの数秒でカチリという音が鳴った。


「ま、こんなもんだ」


「……本当に先生なんですか?」


「ああ。人生の教師ってやつだ」


「反面教師だ」


「役に立っただろう?」


「…………」


「レイ、俺達二人で中を調べる。お前は廊下を見張っていろ」


「……妙なことはするなよ」


「この子のおっぱい触ったりか? 仕事中はしないさ」


「とっとと行け」


「ああ。見張りよろしくな」


 オーシェとテンはタグルの部屋へと入った。


 部屋の中央奥に仕事用の机が有り、部屋の左右には本棚などが並んでいた。


 遊びの無い実用的な執務室のようだった。


「お前はあっちからだ。急げよ」


 調査はテンプレートに反応が有るか調べるだけで良い。


 本棚の中などを一々調べる必要は無かった。


 オーシェはてきぱきと調査を進めていった。


「あっ!」


 テンが声を上げた。


 オーシェはテンの方へ視界を向けた。


「テンプレートが……」


 テンのテンプレートが光っていた。


 オーシェはテンの方へ駆け寄って行った。


「見つけたか……! って、待て」


 オーシェはテンの周囲を見回した。


 近くにテンプレートを隠せそうな物体は見つからない。


 テンは入り口のすぐ近くに立っていた。


「扉の向こうのレイに反応してるだけだろう」


「あっ、そうか」


 その時、テンのテンプレートが光るのを止めた。


「あれ?」


「レイが扉の前から動いたんだろう。とっとと他を調べろ」


「……わかりました」


 執務室を調べ終わったがオリジナルの反応は無かった。


 執務室には隣の部屋へ通じる扉が有った。


 二人は扉を抜け、隣室へと移動した。


 隣室には大きなベッドが有った。


 どうやら寝室のようだった。


 あまり物が多い部屋では無かったが、執務室よりは個人の趣味が感じられる内装をしていた。


 二人はテンプレートを使って寝室を調べたが、反応は無かった。


「よし、撤収するぞ」


「はい」


 二人は寝室の出口へと向かった。


「ん……?」


 その時、サイドボード上のある物がテンの目に止まった。


「人形……? けど、これは……」


「どうした?」


「いえ。なんでもありません」


 二人は寝室を出て、さらに執務室の出口へと直行した。


 部屋を出ると廊下の向かい側にレイが立っているのが見えた。


「誰も来なかったか?」


 オーシェがレイに尋ねた。


「一人通ったが、何事もなく通り過ぎた。それで、終わったのか?」


「ああ。異常は無かった。俺はタグルが犯人かもしれないと思っていたんだが……」


「どうして彼が犯人だと?」


「王に一番消えて欲しいと思っているのはあの男じゃないかと思った」


「国王の唯一の子供であるブルメイが居なければ、この国の王位継承権は弟のタグルが持つことになる」


「だが、ブルメイ王子が帰ってきたら自分の王位継承権が脅かされるかもしれない」


「だからブルメイ王子が帰ってくる前に王に死んで欲しかったんじゃないかと思ったんだが……」


「けど、とりあえずは外れだったな。確定とまでは言えないが、部屋には何も無かった」


「そうか。次はどうする?」


「タグルの嫁さんの部屋に行ってみるか」


「確か……すぐ隣の部屋でしたよね」


「あそこだな」


 オーシェはルキの部屋の前に立つと扉を叩いた。


 それからあまり間を置かずに扉が開かれた。


「はい」


 扉の向こうにはタグルの妻、ルキが立っていた。


「あの……実はですね……」


 オーシェは慇懃な口調でルキに話しかけた。


「何でしょうか?」


「実は、広い城なので迷子になってしまって……」


「まあ大変。お部屋の場所がわからないのですか?」


「いえ。実は……」


 オーシェは親指でレイを指差した。


「こいつがおしっこを漏らしそうなんです」


「な……!?」


「あらあらまあまあ」


「それで、よろしければこいつをトイレにまで案内してやってくれませんか?」


「わかりました。さ、いらっしゃい」


(この……!)


 レイはルキに引かれて徐々に遠ざかっていった。


 その視界から消えるまで、レイは顔を真っ赤にしてオーシェを睨みつけていた。


 ルキの部屋からオリジナルの反応は無かった。



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