表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/190

羅針盤

 村での生活が始まった。


 最初の何日かをオヴァン達はのんびりと過ごした。


 だが、ある日オヴァンが言った。


「そろそろ旅に出ようと思う」


 そこはハルナの寝室だった。


「わかりました。今準備を……」


 オヴァンは既に旅装を整えていた。


 部屋着だったハルナは着替えの有る箪笥に視線を向けた。


「俺一人で行く」


「え……?」


「俺がミミルと解呪のオリジナルを見つける。ハルナはここで待っていてくれ」


「ですが……オヴァンさんは私のリメイクが無いと……」


 オヴァンは自身の竜面を軽く叩いた。


「リメイクの効果はしばらくは保つ。効果が切れるまでにここに帰ってくれば良い」


「ですが……」


「俺はもう……お前に傷ついて欲しくない」


「そんなの……おかしいですよ。私達……仲間じゃないですか……」


「別に脚なんか無くても、私は戦えます」


「だけど、心配なんだ」


「それはわがままです。ただのオヴァンさんのわがままです」


「かもしれない。だが……頼む」


 オヴァンは頭を下げた。


 そこまで言われてしまうとハルナには言い返すことが出来ない。


 この日、ハルナは冒険者では無くなった。


 ……。


 オヴァンは一人で大陸に出かけていくようになった。


 情報屋などからオリジナルの噂を聞きつけるとスマウスに乗って旅立っていく。


 そして、リメイク抵抗の紋様を減らして手ぶらで帰ってくる。


 たまに野菜なんかを大量に持ち帰ってくる時もあった。


「クロスを退治した礼に貰った」


 そう言った。


 そんな日々が続いた。


 オヴァンが紋様を0にして帰ってくるときも有った。


 そんな時、ハルナは青ざめずにはいられなかった。


 旅に連れて行って貰えないハルナはテンプレートの研究を始めた。


「何をしているんだ?」


 ある日、家に帰ってきたオヴァンがハルナに尋ねた。


「テンプレートを自作出来ないかと考えています」


「そうか。ハルナはテンプレーターだったな」


「はい」


「それで、何のテンプレートを作っているんだ?」


「作りたいものは二つ。1つ目は、義足のテンプレートです」


「義足?」


「はい。シムさんから頂いた本に、義腕のオリジナルについての研究が記されていました」


「その理論を応用すれば、義足だって作れるようになるはずなのです」


「もし私がまた歩けるようになったら、私を冒険に連れて行って下さい」


「……わかった」


「約束ですよ?」


「ああ。約束だ」


「それで、二つ目は……解呪のテンプレートです」


「解呪だと……? 出来るのか?」


「わかりません。ですが、全てのオリジナルは理論上、テンプレートとして複製可能です」


「解呪のオリジナルがどのような仕組みなのかが分かれば、解呪のテンプレートも作れるはずなのです」


「そうか。頑張れ」


「はい」


 ……。


 ハルナはテンプレートの研究を進めた。


 オーシェのツテでマーネヴの学校から呪いに関する研究データを取り寄せた。


 だが、どうしても解呪のテンプレートを完成させることは出来なかった。


 オリジンが遺した資料には偏りが有った。


 ハルナは少ない情報から理論を組み立てようとしたが、行き詰まってしまった。


 成果が出ないままに日々が過ぎ去って行った。


 村の人達からはオヴァンとハルナは内縁の夫婦だと思われるようになった。


 アルキナは二人が結婚式を挙げないのかと村の人達に聞かれるようになった。


 さらに年月が過ぎ去った。


 ある日、オヴァンは一人で大陸の遺跡を探索していた。


 そして……。


「これは……?」


 遺跡の最深部でオヴァンはあるものを発見した。


 オヴァンは遺跡で発見した物を家へと持ち帰ることにした。


「ただいま」


「お帰りなさい」


「お帰りなさ~い」


 家の扉をくぐったオヴァンをサーズクライ一家が出迎えた。


「実はこんな物を見つけた」


 オヴァンはオリジナルらしき物を食卓の上に置いた。


 それは直径5セダカ程度の円筒で、高さは2セダカ程度。


 上面にはガラスが張られていて筒の中が見えるようになっていた。


 筒の中央には紅い石で出来た針が設置されていた。


「遺跡に有った。多分オリジナルだと思う。解呪のオリジナルだとは思えないが……」


「本に記述が有ったと思います。持ってきますね」


 ハルナは試作品の義足を使って家の二階に上がっていった。


 跳んだり跳ねたりは出来ないが、ゆっくり歩く程度のことなら出来るようになっていた。


 彼女は二階から何冊かの本を持って戻ってきた。


 そして、その内の一冊をテーブルの上で広げた。


「おそらく、このオリジナルではないでしょうか?」


 ハルナはページ内の図を指し示した。


 そこにはオヴァンが持ち帰った物とそっくりの絵が記されていた。


「何のオリジナルかわかるか?」


「はい。それは『人探し』のオリジナル、『イエジ=ベイル』ですね」


「人探し……?」


「それを持って、探したい人のことを念じることで、針はその方角を指し示します」


「それはつまり……」


「はい」


「このオリジナルが有ればミミルさんを見つけることが出来ます」


「ミミルに会いに行こう」


 オヴァンは力強く言った。


「私が会いに行って良いのでしょうか……」


 ハルナの迷いを見て、オヴァンはオリジナルを手に取った。


「見ろ」


 そして手に持ったオリジナルをハルナに見せた。


「俺が手に取ってもこのオリジナルは動かない。俺にリメイクちからが無いからだ」


「一緒に行こう。来てもらわなくては困る」


「今まで冒険には連れて行ってくれなかったくせに、強引ですね」


 ハルナは苦笑した。


「それは……仕方ないだろう」


「そうですけどね」


「行くぞ」


「わかりました。ですが、今日は特別な日ですから……」


「わかっている。だから間に合うように帰ってきたんだ」


「ギリギリでしたけどね」


「すまん」


「良いですけど」


「何か手伝おう」


「それでは、町まで行ってお買い物をしてきてもらえますか?」


「わかった」


「メモを用意しますね」


 オヴァンはメモを受け取ると家を出た。


 スマウスに乗って町へと飛び立っていく。


 ハルナ達はオヴァンを見送ると家に戻った。


 ハルナは食卓に向かうとその上に有るオリジナルを見た。


 手の平に乗せてみる。


 そしてミミルのことを念じた。


 スッとオリジナルの針が動いた。


 針は北を指し示していた。


「この方角にミミルさんが……」


 ハルナは針が指した方角に体を向けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓もしよろしければクリックして投票をお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ