共闘。
思わぬ味方の参戦で取り合えずの窮地は脱したが、依然として状況は芳しくない。
何故なら参戦した味方は人ではなくモンスターだからだ。
しかも、俺が以前気紛れで助けたあのゴブリンだ。俺の見る限り傷は完全には癒えきっていないようだ。それなのにコイツは俺を助けてくれた。そんなコイツを見捨てて自分だけ逃げようなんて事は死んでも出来ない。いや、出来そうもない。そんな事をしたら俺は人として大切な何かを失ってしまうだろう。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、このゴブリンは戦意旺盛で棍棒を構えてホーンラビットと対峙していた。
「任せて良いか?」
俺はモンスターを相手に何を言ってるんだと思うが、コイツに頼るしか今の状況を打破する事は出来ない。
「・・・・・・。」
俺の言葉を理解しているのかゴブリンはコクリと頷いた。
「頼む。」
俺は何故だか分からないが、モンスターであるこのゴブリンを信じて背中を預ける事にした。
俺とゴブリンは背中合わせになり、それぞれ目の前にいるホーンラビットを相手に対峙した。
俺は剣をゴブリンは棍棒を構える。本来ならば、ホーンラビットは元来臆病なモンスターであるから普通ならこの時点で逃げるのだが、今回は時期が悪い。何故ならこの時期モンスターは繁殖期で行動が活発化しており、それに伴い臆病である筈のホーンラビットでさえ好戦的になる時期だからだ。全くもってツイてない。
今更ながらそんな事も言ってられないか。
俺の目の前にいるホーンラビットは今にも俺目掛けて突っ込んで来そうな勢いだ。
見た目はこんなにも愛らしいのに。
俺は人の言葉がこのゴブリンが理解出来ていると信じて話し掛ける。
「なぁ。俺が今から言うことを聞いてくれ。多分俺達の目の前にいるホーンラビットは2匹共興奮しているから突っ込んで来る筈だ。その時がチャンスだ。俺の合図で左右に避けろ。出来るか?」
「・・・・・・。」
コクリと頷く。
やっぱりコイツは俺の言葉を理解している。そう確信した。
「良しっ!準備は良いか?」
ホーンラビット2匹は俺達をその鋭利な角で串刺しにする為、後ろ足に溜めをつくり今にも跳び跳ねて来る勢いだ。俺はその様子を見計らいカウントする。
「1・・・。」
「2の・・・。」
「3・・・っ!!今だっ!!避けろっ!!」
俺の合図と共にホーンラビットは俺達目掛けて突っ込んで来たっ!それと同時に左右へと別れて跳びホーンラビットの攻撃を避けた。俺達が真横へと避けた事により跳び跳ねたホーンラビット同士はお互いに正面衝突となり角同士が鍔迫り合いの様な形になり勢いが相殺された。
直ぐ様体勢を整え俺は剣をホーンラビットの横っ腹を突き刺した。
「キッ!キュウゥゥゥ。」
ホーンラビットは力なく息絶えた。
「ふぅぅ。」
俺が一息吐いた後、もう1匹のホーンラビットの方に視界を向けると、あっ!もう片付いてる。棍棒の打撃により明らかに首が違う方へと向いたホーンラビットが横たわっていた。
「ははっ。お前凄いな。」
俺の素直な感想だ。ってあれ?何だかホッとしたら急に体の力が・・・俺はその場に座り込んでしまった。
「情けねぇな。こんな事位で。」
足に力が入らずその場に座り込み、今更ながら両手もカタカタと震えていた。あれ?俺、今、どんな顔してる?笑っている筈なのに何で目から涙が零れるんだろう・・・・・・。
「ふっ・・・ぐぅぅぅ・・・。」
死ぬかもしれない恐怖から安堵し、生を再実感し涙を流す。ただ男だから泣くわけにはいかないと思いやせ我慢するのだが、自然と涙が零れ、またそれに憤りを感じる俺。
ひとしきり泣いた後、助けてくれたゴブリンに目をやるとゴブリンはとても優しい眼をして静かに俺が泣き止む迄待っていてくれた。
「ははっ。ごめんな。情けない所見せちまって。お前、俺の言葉が分かるんだろ?助けてくれてありがとな。」
俺は涙を袖で拭いゴブリンにお礼を言った。お礼を言われたゴブリンは少し照れくさそうに体をモジモジとさせていた。やっぱりコイツは俺の言葉を理解している。
「良しっ!」
俺は自分の体が動く事を確認してから立ち上がり、気絶しているホーンラビットに止めを刺した。その後、1匹ずつ解体を始めた。俺が一通り作業を終える迄、ゴブリンはずっと静かに俺の解体作業をジッと見つめていた。
「ほらっ!これやるよ。助けてくれたお礼だ!こんな事位しか俺には出来ないけどお前にやるよ。」
俺は解体したホーンラビットの肉をキッチリ半分に分けてゴブリンへと渡そうとした。するとゴブリンは首を横に振り受け取ろうとはしなかった。
「?これじゃ不満か?それならこれでどうだ?」
俺は解体した肉を全部渡そうとしたが、それも拒否された。
「う~ん、困ったな・・・。後はやれる物がないぞ。」
後は俺がしてやれる事は無いんだが・・・。流石にどうすれば良いか分からず悩んでいると今まで寡黙だったゴブリンが口を開いた。