とあるゴブリンの独り言。その1
私は今、異世界で生きています。生きていますと言ってはいますが、転移ではなく転生して第2の人生としてこの異世界で生きています。とは言っても私は人ではなくゴブリンとしてですがね。
そもそも私の前世は人でした。日本に住んでいた極々普通の女子高生でした。
ただ1つだけ違うとしたらそれは私の死に方が宜しく無かったからだと思います。
私の死因、それは自殺です。
私は生に何ら未練はありませんでした。日々周りから蔑まれ疎まれていました。
両親は私には何ら関心も示さず学校で私が虐められていようが全く無関心でした。
学校の教師も見て見ぬふり、他の生徒もそうでした。当然友人も私の傍を離れていきました。
私を助けてくれる人は誰一人としていませんでした。
人は独りでは生きていけません。当然虐められている人も独り孤独に耐える事は出来ません。
貴方は虐められた事はありますか?
逆に虐めた事もありますか?
どんな気分ですか?
少しでもその人の気持ちになって考えた事が一瞬でもありますか?
つまりはそういう事です。
私はこの世界に生にしがみつく程の希望を見出だす事が出来ませんでした。
私は気づいたら駅のホームに立っており、通勤快速が通る瞬間飛び込んでいました。
後は想像通りの結末です。
皆さんは【神】を信じますか?
私は信じていませんでした。
運命が自分に降りかかる瞬間迄は。
私は目が覚めると一面真っ白い空間にいました。天井も無くただただ真っ白い空間。
そこには椅子が1つだけ。
私が置いてある椅子に恐る恐る座ると【神】を名乗る子が現れました。
自らを【神】と名乗る子はまだ姿形が幼い感じがしました。
幼い感じと表現したのは【神】の後光が余りにも眩しくて影と声しか分からずそこでしか判断出来なかったからです。
私は椅子に座ったまま【神】を名乗る子に体感時間にして一時間以上お説教をされていました。
私より外見が子供からの一時間以上のお説教。とてもシュールですね。
お説教の内容はと言うと簡単に要約すると、
1、生を無駄にするな。
2、自殺するな。
3、別の世界に転生をして生を全うしろ。
以上の3点。3つ目は完全にどさくさ紛れに言われた感じですね。
拒否はしたのかって?勿論しました。ですが、【神】に対して私に拒否権なる物は存在しませんでした。
私は拒否も許されず強制的に異世界へと転生させられました。
ゴブリンとして・・・・・・。
あぁ・・・私の次の人生は人間ですら無いんですね。これも私の行いが招いた【神】からの罰なのでしょうか?もしそうだとしたらあんまりじゃないでしょうか。
もしかしたらこうも考えられるのでしょうか?
人間という存在には希望はありません。
故に敢えて別の種族として転生し、生を全うしろと?
そう考えた時期も確かにありました。
ゴブリンという種族はとても仲間意識が強い種族みたいで単独行動をする事が殆んどありません。それ位、単体だと弱い種族なんです。
そんな仲間意識の強いゴブリンに転生した筈なのに・・・私はそのゴブリンからもつま弾きにされました。
理由は分かっているんです。
それは私が他とは違い転生者だから。
私は転生をした際、前世での記憶も引き継いで異世界へと転生しました。私は今度こそ良い生を送ろうと前世での記憶を活かして行動しました。これが最大のミス。
前世の記憶を持っているだけでもかなり異質なのに、それに輪をかけて今の私の種族はゴブリン。想像してみて下さい。皆同じように行動しているのに独りだけ違う事をしていたらどう思いますか?
浮いてますよね?はい。浮いてました。私だけ。
私は同じゴブリンからしてみたら全くの異端者でした。
そんな私はゴブリンからも嫌われ危うく殺されかけました。
前世でも嫌われ、今世でも嫌われた私は一体どうすれば良いんですか?
全身傷付き、ゴブリンの集落からも追い出された私は、後は静かにその生を終える所でした。あの人に会うまでは・・・・・・。
その人は、傷付いた私を宿まで連れていき、あろうことか手当て迄してくれ食事迄食べさせてくれました。ゴブリンである私をです。
その人は黒髪黒目の青年で、とても優しく、そして悲しい瞳をしていました。何だか私に似てる・・・そんな気がしました。
私はそんな事をふと思いながら気を失いそのまま朝まで寝てしまいました。
私は翌朝、目を覚ますとまだ寝ている青年にお礼をし、その場を後にしました。本当は何かお礼をしなくてはいけないのでしょうが、生憎と今の私にはどうする事も出来ません。
私に出来る事は彼が外で困った時に何かしらお手伝いをしてあげる事位しか私には出来ません。
なので、私は陰ながら彼を見守る事にしました。見つからない様に。何だかこれだと私、ストーカーみたいですね。
助けて貰った日から3日後、彼は森でホーンラビットに襲われていました。今の時期は繁殖期を迎えどのモンスターも興奮しやすいので危険度も高いのです。彼も冒険者と呼ばれる類いの人ならその位は知ってる筈なんですが・・・。
これは恩を返すチャンスです。
私はホーンラビットに襲われ逃げる彼と追うホーンラビットを追い掛けました。
彼は上手く攻撃を避けていましたが、最後に攻撃をしてきたホーンラビットに危うく突き刺される所でしたが、私はベストのタイミングを見計らいホーンラビットに持っている棍棒で一撃を加えました。
どうやら彼は私があの時、助けたゴブリンだと気付いてくれたみたいです。良かった。