宇宙空間における戦闘形態の推移について━宇宙戦争黎明期の考察━(概論)
1章 緒言
今日において,宇宙への進出は人類の夢と言っても過言ではない.現在,国際社会では2027年に施行された新宇宙憲章に基づき各国が自由に宇宙開発を行っている.(中略)
しかし,新たな開拓地で開発を行うということは,互いの国が勢力を争うようになることと同義である.よって,ここでは宇宙空間における戦闘がどのようになるのかを考察することとする.
2章 定義について
今回,宇宙空間での戦闘行為について考察するが,それには様々な定義を行う必要がある.この項では宇宙に関する言葉の定義を示すことにする.
(1)宇宙の範囲
国際航空連盟の定義に従い,海抜高度100kmのカーマン・ライン以上とする.
(2)戦闘行為
官民問わず,宇宙空間内において戦時国際法が適用される場合とする.
(後略)
3章 有効と考えられる兵器
宇宙空間内では通常兵器は機能しない.通常兵器で機能するものは大陸間弾道ミサイルぐらいだろう.(中略)すなわち宇宙空間内においても機能する兵器が必要となるだろう.
そこで,今存在する技術から今後四半世紀以内に実現可能な技術より,可能性のある兵器の形を記述することにする.
(1)レールガン
現在,最新鋭の艦艇に装備され始めている兵器.物体を電磁誘導により加速させ射出する.技術的には2010年代でも可能な兵器であるが,電源設備など課題が多く一時期開発が中止になっていた.現在では高性能の発電技術が確立したため,再び開発が行われている.レールガンは衛星軌道上のスペースデブリ及び隕石対策にも使えると考えられているため,各国の開発競争が行われる.
(2)神の杖
アメリカ空軍が核兵器に代わる戦略兵器として開発した対地攻撃用軍事衛星兵器.重金属を用いた金属の棒を静止衛星軌道上から地上に落とす運動エネルギー兵器である.衛星軌道上という優位な場所から金属棒を投下することにより,全世界を攻撃可能で高い命中率を誇る.かつ金属棒の探知が困難なため,核兵器を凌ぐ兵器になると考えられた.しかし金属棒をどのように静止衛星上に運ぶのか,実際に威力はどの程度になるのか未知数であったため,開発は中止となった.現在はスペースデブリの大気圏再突入の可能性がここ十年で大幅に増加したため,これに乗じた兵器が開発されることが危惧されている.
(3)人工衛星漸減装置群
数十年前から増加するスペースデブリに対して,回収する方法を模索した結果に確立した装置群のことである.現在この装置群に属するのは,前述したレールガン狙撃装置,レーザー光線を用いた高出力レーザー照射装置,ネットにより捕縛する投網回収装置ほか数種である.現在主流なのは網による捕縛であるが,この回収装置を稼働中の人工衛星に対して使用する可能性があるため,対策法の立案が急務となっている.
(後略)
4章 宇宙空間での戦闘方法
宇宙空間での戦闘行為は,地上のそれとはまったくの別物になると考えられる.(中略)ここでは,複数のケースの場合を考えてみることにする.
ケース1 衛星対衛星戦の場合
衛星軌道上で人工衛星同士が戦闘に入るとする.
近距離の場合,3章(3)に記述した投網回収装置による人工衛星の制御不能を誘うことが可能であると考えられる.(中略)
中遠距離の場合は,3章(1)に記述したレールガンが使用されると考えられる.(中略)この時,計算通りの狙撃が行えれば強力な武装となり得るが,逆に少しのミスがあると弾丸が目標に当たらないどころか自身も危険にさらす恐れもあると思われる.
また遠距離の場合において,小型爆弾を使用する戦術を執る可能性は捨てきれない.これは衛星軌道上に静止ないしは別方向に精密機器を破壊できる程度の爆弾を流しておくことで,特定または無差別に人工衛星を攻撃する戦法である.簡潔に言えば宇宙空間での機雷と呼べるだろう.(後略)
ケース2 衛星対地戦の場合
対地攻撃用軍事衛星兵器による対地攻撃または爆撃を行う.これには3章(2)で述べた通り,質量のある物体を真下に落下させる方法と安定翼を装備した炸薬弾を滑空させて空爆させる方法がある.
前者は攻撃目標に対して,(中略)ピンポイントでの攻撃が可能である.しかしこの方法では攻撃の前兆を見せることになるため,物体を投下する前に衛星を攻撃される可能性がある.
後者は,ある程度離れた場所から炸薬弾を滑空させて攻撃することが可能である.これの場合,前者より広い射程距離を誇り,(中略)弾頭を付け替えれば核攻撃も可能である.だが,前者よりも一発当たりの値段が高いため連続攻撃には向いていない.
また人工衛星の特性上,地球上を周回しているため地上すべてを攻撃可能である.(中略)よって補給の続く限り,反撃の目を見ることは滅多にないと考えられる.
(後略)
5章 深宇宙空間内における戦闘の模様
宇宙に進出する以上,地球のような重力圏の及ばない空間に突入するのは避けようのない事実である.現に太陽系の外(地球から距離にして約1.5*10^10km)から最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリまでの約4.2光年の間は,ほぼ何もない状態である.
(中略)
しかし深宇宙空間での戦闘は現在のところ,発生する見込みはゼロに等しいと考えられる.事実,地球から最も遠くに到達した人工物である「ボイジャー1号」でさえ打ち上げから60年以上経つ2038年1月1日現在では太陽から約211.75天文単位の星間空間を航行中である.ボイジャー1号は,(中略)スイングバイ航法によって現在地まで航行できたのである.
現在,星間航行に比推力可変型プラズマ推進機《VASIMR》を用いる機体が主流となってきている.しかし,機体が変わったと言ってもそれはあくまでも惑星重力圏外での推力維持のための手段に過ぎず,スイングバイ航法を利用する点においてはこれまでと何ら変わりはないのである.
(後略)
6章 SF作品にみられる宇宙船
SF作品には必ずと言っていいほど多種多様な宇宙船が登場する.その他にも大型の人型ロボットが宇宙空間で激しい戦闘を行うシーンも見かける.これらは人間が持つ想像力によって,あたかも現実のように見せかけている.(中略)そこで,このような宇宙船や機体は本当に実現可能なのかを,簡潔に考察することにする.
・宇宙船の場合
SF作品に登場する推進器を持つものは,基本的に宇宙船自体の大きさに対して搭載出来ると思われる燃料の量が一致していない.これには作品ごとに説明が入るが,おおよその分類では核融合によるガスの噴出を用いたエンジン,無限のエネルギーを用いたエンジンなど現実的なものから非現実的な推進剤を利用している.(中略)実際にロケットに使用される液体燃料では,1万トンを超える宇宙船を簡単に動かすことはほぼ不可能に近いと考えられる.
・人型ロボットの場合
宇宙空間内において力のつり合いは非常に重要である.例えば無重力空間で完全に静止している状態で体をねじると,ヘソあたりから上と下が反対方向を向くように見える.これは作用反作用の力が働いて,あたかも上半身と下半身が別々に動いているように見えるからだ.(中略)人間の骨格を元にしてロボットを作製する場合,腕(肩から手首まで)だけでも自由度は7以上あるといわれている.実際に人型二足歩行ロボットを作製すると,肩と手首の関節で合わせて6自由度,肘の関節で1自由度の計7自由度で構成されている.(中略)手首を動かしただけでも作用反作用の力は小さいながらも発生するため,宇宙空間での移動は細心の注意を払うことになるだろう.
また,(中略)地上で活動するロボットもそこまで大型にならずに,民間の作業用もしくは軍の後方支援用に限られると考えられる.
7章 結言
これまで,宇宙空間における戦闘の模様について考察してきた.(中略)簡潔にまとめれば,人類は地球と月の重力圏外での戦闘は発生する可能性が極めて低いと予測される.
また,今回の考察が必ずしも全て正解ではないことを述べておく.
8章 参考文献
(後略)
この論文風短編小説は、作者個人が真面目に検討した現実に存在しうる兵器および戦術を示した考察文です。特定のものを否定するものではありません。
また論文の書き方には注意を払っていますが、ところどころ間違いがあるかもしれません。間違っても論文を書く際には参考にしないでください。