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9.雪の流派



 「ここが私の家だよ!」

 大きな門の前に立ち雪が言った。


 「いつ見ても大きいね」


 昔から続く由緒ある家系なので、雪の家の敷地はとても広い。庭と道場もあり、和風の家には部屋が数え切れないくらいある。遊びに来た桃が何度も迷子になった程だ。


 「せっかくここまで来たんだし、ダメ元で戦ってみる? この時間ならちょうど道場で瞑想してると思うよ」


 「自信は無いけどやってみようかな。兄さんいい?」


 「別にいいが殺さないように気を付けろよ」


 「そんな事しないよ……」


 「よし、そうと決まればレッツゴー!」


 雪の案内で道場に入るとひんやりとした空気にさらされる。靴を脱いで中に入ると雪の父が中央で背を向けて座っていた。石のように動かないがその存在感は凄まじい。


 「雪か」


 振り向くことなく雪の父が声をかけた。


 「うん、ただいまー。瞑想の邪魔してごめんね、実は今日お父さんにプレゼントがあります!」


 「ほう、お前が親孝行とは珍しいな。その前に……桃ちゃんいらっしゃい、ゆっくりしていくといい。後ろの二人も雪のお友達かな? いらっしゃい」


 雪の父は振り向くと桃たちに声をかけた。


 「はい、お邪魔しております。急に伺ってすみません」

 そう言って、桃はペコリと頭を下げる。それを見て雪の父はにっこりと笑った。


 「相変わらず礼儀正しい良い子だね。それに比べてうちの娘ときたら……」

 頭を抱える父をみて雪はムスッとした顔浮べる。


 「どうせ私は桃とは違いますよーだ。そんなこと言うとプレゼントあげないぞ!」


 「そのプレゼントとはなんだ?」


 「食客希望者よ」


 「ほう」


 雪の父は一瞬目を見開いたあとニヤリと笑った。その眼光は見るだけで相手を萎縮させてしまいそうなほど鋭い。


 「すばらしいプレゼントだ、嬉しいぞ。それでその相手はどこだ?」


 相手を探す父の前に雪がドヤ顔でカシオペアを連れて行く。


 「カシオペアと言います。今日はぜひ師範の胸をお貸し下さい、よろしくお願いします」


 礼儀正しく挨拶をするカシオペアに雪の父は困惑する。


 「初めましてお嬢さん。外国の方かな? 私は銀彦かねひこと申します。しかしこんな娘がただ泊まりたいのではなく食客とは信じられん。いや、雪が連れてきたという事は強いのは間違いないのか?」


 「そういう事。少なくとも私よりは強いよ」


 「そうか、ならば手加減無用だな」


 そう言うと銀彦はすくっと立ち上がりカシオペアと向かい合う。


 「聞いているとは思うが食客となるには私を倒すか認めさせねばならない。勝負は一切の武器防具の使用を禁じるが己の身体能力を高める手段はとっても良いというのが古来からの決まりだ。宜しいかな?」


 「はい、分かりました」


 カシオペアが了承し、二人は四メートル程離れて対峙した。


 「身体能力を高める手段って何? ドーピングとかって事?」

 ルールに疑問を持った桃が雪に聞く。


 「うーん、そこんとこが私にもよく分からないんだよ。昔から伝わってる決まりがただ残ってるだけだと思うけど」


 「だがこのルールは圧倒的にカシオペア有利だ」


 「えっ? なんで?」


 アインは聞いてきた雪に上から目線で答える。


 「ふっ、時の力が時間停止中にしか使えないと思ったら大違いだ。補充出来ないから次に時間を止める量を残す必要はあるが、ごく一部の優秀な時集めはいつでも力を使えるんだよ。当然カシオペアは使える」


 「すごいけど、だとすると銀彦さん大丈夫かな……」


 「大丈夫でしょ、父さん無駄にタフだし。それよりプリン君の話聞く限り、これまるで時集めのためのルールみたいに思えてきた」


 「アインだ」




 「あれ? 似てない?」


 桃が構える二人を見ると、その構えがよく似ていた。


 「ホントだー、なんでー?」


 実際に流派を学ぶ雪もその類似に驚く。対峙する銀彦も驚きを隠せなかった。


 「ただ真似ているわけではない……。分家の者か? いや、そんなはずは」


 困惑する銀彦へ突然カシオペアが肉薄する。勢いをそのままに左の脇腹に向けて強烈な蹴りを入れる。腰の時計が淡く光っている事から、時の力で強化しているのがわかる。


 「ぐっっ」


 ぎりぎり左手で防御に成功するが少女の蹴りとは思えない重さに衝撃を受ける。しかし態勢は崩さず反射的に右手で反撃をしようとするがすぐにやめてしまった。

 気付いた時にはすでに間合いにカシオペアは居らず、油断なく銀彦の様子を伺っていたのだ。

 銀彦は苦笑いを浮かべると両手を挙げた。


 「降参だ、食客として君を認めよう。ぜひここを使ってくれ。食事と部屋を提供しよう」


 「やった! さすがカッシー! どーだ父さん参ったか。でもあきらめるの早くない?」


 「ああ完敗だ、これ以上続けても勝負は見えている。連れてきてくれて感謝するぞ雪よ。所でお前はこの方から指導を受けているのか?」


 「うん、修行つけてもらってる」


 「そうか……」


 銀彦は一瞬カシオペアの懐中時計を見た。


 「雪よ、これよりお前は当家の鍛錬に参加する必要はない。代わりにこの方に師事して技術を磨け。これは玄野家当主からの命令だ」


 「言われなくてもそのつもりだけど? 父さんよりカッシーの方が強いし」


 「薄情な娘だ……。だがお前は、初代しか使えなかったという玄野家の奥義をすでに身に付けてしまったのかもしれんな」


 「何それ?」


 「独り言だ、気にするな。さて、部屋へ案内しよう。そちらの少年も一緒でよいのかな?」


 「はい、兄のアインと言います。よろしくお願いします」


 「いや、ケイン君はいらないからどっか行ってて」


 「いい加減にしろよお前!」


 こうしてカシオペアとアインは雪の家にお世話になる事になり、代わりにカシオペアが時間のある時に玄野家の門下生に指導する事となった。




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