6.模擬戦
公園へ移動していると、桃は途中でいつもの浮遊感を感じた。
「あれ? もしかして時間切れ?」
「大丈夫、私がまた止めて延長するから。桃がまた止めようと思ったら大体1日くらい待たないといけないから注意してね」
そう言ってカシオペアが腰につけた時計に触れると桃はまた浮遊感を感じた。一方二人の前ではアインと雪が騒がしく言い争っていた。その様子を見て桃はうんざりした表情を浮かべる。
「あれからずっとケンカしてる、よく飽きないなぁ」
「あんなに楽しそうな兄さんは久しぶり。すっかり仲良しだね!」
桃にはとても仲が良いようには見えなかったが、カシオペアがとても嬉しそうにしていたので別にこのままで良いかと放っておくことにした。
公園に着くと早速二人は向かい合って睨んでいる。すぐにでも戦い始めそうだ。間にニコニコしたカシオペアが立ち、桃はカシオペアの横でわたわたしていた。
「覚悟しろよ脳筋バカザル女。例え天才でも長年の努力には勝てないって事を分からせてやる」
「そっちこそ覚悟しろコノヤロー。こっちだって物心つく前から古武術を習ってきたんだ。お前みたいなヒョロイもやし男に負けないぞ!」
「相手が降参するか、気絶させたら勝ち。危ないと判断したら私が止めに入ります。それでは……始め!」
カシオペアの合図で模擬戦が始まった。だが勝負は一瞬だった。
短剣を構えたアインの懐に雪が一瞬で飛び込む。時の力でかなり強化しているようで一歩で五メートル近くの距離を一瞬でつめてしまった。
「はやっ!」
アインは対応しきれず短剣で防御は出来なかったが、二人の間に半透明の壁のようなものが現れた。どうやらアインが防御のためのシールドを張ったようだ。
「どりゃあああああ!」
そんなもの関係あるかと言わんばかりに踏み込み、態勢を低くした雪がボディブローを放つ。銀色に輝く雪の拳は無情にもシールドを一瞬で破壊しアインの腹部へ吸い込まれる。
「ぐぇ……」
正確にみぞおちを殴られたアインは衝撃で後方に吹っ飛ぶ。同時にそれ以上の速度で雪がアイン目掛けて跳んだ。踏み込んだ地面は大きく抉れて砂煙が舞う。
「とう!」
そのままの勢いで雪はアインの顔面に飛び膝蹴りをお見舞いした。
「そこまで!」
メキッとアインの顔が嫌な音を立てたところでカシオペアがストップをかける。
雪の圧勝であった。
桃は無残な姿で敗北したアインに駆け寄り介抱しようとする。
「怪我人が出来たしせっかくだから時の力を使った治療を教えようか」
頭を必死に縦に振ってカシオペアから指導してもらい、桃は何とかアインを治療する事ができた。
「はっ!」
桃の治療の甲斐あってアインはすぐに目を覚ましたが、その表情はこの世の終わりに直面したような悲痛なものだった。
「俺は負けたのか……」
「やっぱり雑魚だったねパイン君。これからは身の程をわきまえて言動に気をつける事だ。ガッハッハ!」
「調子に乗りすぎ!」
桃が耳を引っ張ると雪は威張るのをやめた。
「いたたたた、ごめんなさいやり過ぎました!」
「なんで桃はあいつをコントロール出来るんだ?」
驚きながら桃と雪を見ていたアインにカシオペアが優しく声をかけた。
「これだけ完敗したんだから、兄さんもこれからはあんまり調子乗っちゃダメだよ」
カシオペアに注意されたアインは真剣な表情になって答える。
「そうだな、やっぱり俺は弱い。カシオペアの足を引っ張ってばかりだ。もっと強くならないと……」
「さぁ、体もあったまったし待ちに待った修行の時間だ! カッシー先生お願いします」
桃から解放された雪は元気よくそう言うとカシオペアにペコリと頭を下げた。カシオペアの事は強者と認めているようだ。
「よし、始めようか! 兄さんも一緒にね」
「お手柔らかに頼むよ」
アインは苦笑いをしつつカシオペアに答えるのであった。