3.才能の開花
桃は雪の後方を守るようにして襲いかかってくる敵を斬り伏せていく。
不思議と恐怖心は薄れ、流れるように剣を振るうことが出来た。
その戦い方は初めてとは思えないほど美しく、舞うようであった。
一方雪は実家で習っていた武術を利用し、拳で次々と敵を倒していく。
一見武骨なように見えるその戦い方は実際には無駄を極限まで省いた効率の良い戦い方で、桃よりも速いスピードで怪物の数を減らしていった。
敵の数は順調に減り、数分で新たに現れた十数匹の怪物達を倒し切ることができた。
そんな様子を見ていたカシオペアが嬉しそうに近づいてくる。
「初めてでこんなに戦えるなんて二人ともすごい! もう兄さんよりは強いんじゃない?」
「納得できない、オレのこれまでの努力はなんだったんだ……。だが一緒に戦うのは止めておけ、さっき言った通りとても厳しい戦いになるぞ。それにこの世界の時を守れたとしても大元を叩けるとは限らない、世界を渡って戦いが続くかもしれないんだ」
「絶対にここで決着をつけるよ、どんな手を使ってでも」
右頬に手を当てながらカシオペアが呟く。その赤い目が決意に満ちている。
「実際に狙われてるのは私達の世界なんだから協力するよ! ね、桃?」
桃は雪の言葉に大きく頷く。
自分たちの時間を守りたいのはもちろんだが、強さと共にどこか儚げに見えるカシオペアの助けになりたいと思っていた。
「二人ともありがとう。みんなで力を合わせればきっと勝てる!」
嬉しそうに微笑むカシオペアはとてもきれいで、桃は出会って間もないのに憧れてしまっていた。
いつかこんな風に強くてきれいな人になりたいと心の中で思いながら見惚れていると、隣の雪がそわそわしながらまた周りを気にし始めた。
まだ暴れたりないらしい、ふだん雪の言動に慣れている桃もさすがに呆れてしまう。
「あれだけたくさん倒したから近くにはもう敵はいないんじゃない?」
「よし、なら遠征だ!」
雪は両手についた手甲をぶつけながら張り切っているが、アインがそれを止めた。
「探す必要はない、そろそろ時間だ」
ふわっと体がわずかに浮くような感覚がする。
桃にはこの感覚に覚えがあった、もうすぐ時間が動き出す合図だ。
今の姿を街中で見られたら大変なので、桃は慌てて雪と一緒に元の姿に戻る。
意識するだけであっさりと変身を解くことができた。
「それじゃあ一応身を隠そう。二人も騒ぎになりたくなかったら元の位置に戻っておいた方がいいよ、突然現れたり消えたりしたら皆ビックリするから」
「カシオペアさん、こんな凄い力をくれてありがとう! 私頑張るね」
桃は両手を握り込んでやる気をアピールするとカシオペアは笑顔で応えた。
「こちらこそ一緒に戦ってくれてありがとう。 それと、『カシオペア』って呼んでくれていいよ」
「わかったわカシオペア、これからよろしく」
「よろしくカッシー!」
「そのカッシーっていうのは少し恥ずかしいのだけれど……」
「変更は不可能です、私の中ではもう『カッシー』ですので」
なぜかドヤ顔で胸を張る雪を見て苦笑いを浮かべながらカシオペアとアインはビルの陰に消えていった。
桃と雪が元の場所に戻ってすぐに時間はいつも通り動き始めた。
普通に歩く人達を見ているとさっきまでの出来事が夢のように思えたが、左手の腕時計から感じるただならぬ力が現実であったと桃に確信させた。
「プレゼント買って帰ろうか」
「そうだね。それにしてもこれから世界を守るために化け物達と戦っていくなんて、楽しみでワクワクするよ!」
能天気な雪を見て桃も苦笑いしつつ元々の目的であったプレゼント選びに戻っていくのであった。