2.戦いの始まり
「これであなたも時の力を使って一緒に戦える」
カシオペアの言葉は混乱した桃にはほとんど届いていなかった。
日曜の朝に放送されているような魔法少女などに憧れはあったが突然そういった服装にされると驚きと恥ずかしさで頭が真っ白になってしまう。
隣でアインは頭を抱えている。
「さあ、行こう!」
さも当然のようにカシオペアが桃の手を取り走り出そうとする。だが桃は心中穏やかではなかった。
「ちょ、ちょっと待って! 戦うならあの子と一緒に行かせて!」
そういって雪の方を指差した。見知らぬ二人とよく分からない化け物相手に戦うのは避けたい、せめて知っている人が一人でも近くにいてほしいと桃は思ったのだ。
それなら今隣にいる親友の雪は適役だ、巻き込んでしまうのは申し訳ないが仕方がない。雪は古武術をならってるし、なんとなくこの状況を楽しんでくれそうな気がしていた。
「いいよ、あなたがそう言うなら」
カシオペアは今度は雪に触れる。すると雪のスマートフォンが光を放ち、雪は銀色姿に一変していた。
「うおぉぉぉぉぉ! 何これカッコいい、かわいい! カッシーありがとう!」
おおよそ女の子とは思えない雄叫びを上げ、ポニーテールを揺らしながら雪がカシオペアに抱き付く。
「カ、カッシー?」
「そう、カシオペアだからカッシーね。わたしは雪、この子は桃!」
カシオペアは目を丸くし、アインはさらに頭を抱えて座り込んでしまいそうだ。こんな状況でもいつも通りの元気な雪の様子を見て桃は少し安心して落ち着くことができた。
しばらく抱きついていた雪は満足したのかカシオペアから離れると周りを見渡し始めた。
「さっきいた灰色のやつをぶっとばせばいいんだよね? どこだー、出てこーい!」
「まずは二人から詳しく話を聞こう。相手がどんな奴かとか、時の力が何なのかを知らないと始まらないよ」
「それもそうだね、カッシー説明よろしく!」
冷静になった桃は暴走しかけている雪を止める。このままだといつもの調子で突っ走りかねない。
「あいつらは『時集め』の怪物たち。止めた時間の中で杭を打って、その世界の時と空間を奪おうとしているの。防ぐためにはとにかく『時集め』を倒して杭を壊すしかないの」
「奴らの数には限りがない。終わりの見えない辛い戦いだ、実力のない素人は止めておけ」
「やっぱり悪い奴らなんだ、やってやる!」
アインの忠告を聞きもせず雪が決意を固めている。もう止まる気は無いようだ。
「あなた達が手に入れたのは私達の世界にあった時間の力を操る能力。自分の時間を早めたり、身体能力をあげたり、こうやって止められた時間の中を動くことができたりするの。今二人の持っている時を刻むものに力を宿したから、好きな時にその姿になって使えるよ。ただ、連続して使える力には限りがあるから気を付けて」
「本来きっかけを与えられてもすぐに使える物では無いはずなんだが、なんでお前らはあっさり使えているんだ? オレはあんなに苦労したのに」
アインは納得出来ないようで、ムッとした顔でこちらを睨んでいる。
「えーっと、やっぱり才能じゃない? 私と桃は天才だから!」
「緊張しちゃうからあんまり持ち上げすぎないでよ。私は雪みたいに運動神経よくないし」
「でも桃は勉強すごくできるじゃん。あっ、いた!」
急に雪が駆け出した。時の力のおかげだろうか、信じられないほど速い。向かう先を見ると時集めの怪物たちがこちらに向かってきている。
「勝手に行くな! くそっ、なんでもう使いこなしているんだ」
アインが追いかけるが雪の方が速い。怪物たちの元に着いた雪は勢いそのままにぶん殴った。
「どりゃああああああ!」
怪物がはじけ飛ぶ、後ろに控えていた怪物たちも2・3匹が吹っ飛んだ。
「雪、すごい……」
桃が驚いていると、カシオペアが再び手を引いた。
「さすがあなたの友達だね。さあ、私たちも行こう!」
雪も巻き込んでしまった以上もう行くしかない。桃は覚悟を決めてカシオペアとともに走り出した。体が綿のように軽く感じる、さっきの雪以上のスピードが出ているようだ。アインとほぼ同時に雪と合流する。
「お前もそんなあっさりと使いこなすなんて、どうなっているんだ」
アインは相当ショックを受けているようで呆然としている。そんな中雪はというとノリノリで敵を吹き飛ばす、とても楽しそうだ。しかし何も考えずに進んでいるせいで次第に化け物たちに囲まれてきている。
このままではまずいと思った桃は雪の背後に回った怪物に切りかかった。
自然と体が動き、自分でも信じられないほどの速度で剣が振り下ろされる。怪物は頭から両断されて消えてゆく。すぐに雪に近寄り、背中合わせになって囲い込んでくる怪物たちと対峙する。
「いっつも雪は考えなしに動きすぎ!」
「えへへ、ごめんごめん。きっと桃がフォローしてくれると思って突っ走っちゃった。ねぇ、一度でいいから言ってみたかったセリフがあるんだけど言っていい?」
「?」
「私の背中、お前に任せた!」
満面のドヤ顔で言い切った雪は再び怪物に向かっていく。
「相変わらず好きだねそういうセリフ!」
こうして桃と雪の戦いは幕を開けた。