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16.受け継ぐ想い



 激しく打ち合いながら、余裕ができ始めたウェルズがカシオペアに声をかける。

 「まさかクロートから継承していたとは思わなかったからびっくりしたわよ。でも結局いつもの流れになったわね♪ それであなた、今回はほんとに引かないつもりなの?」


 カシオペアはちらりと桃の方を見ると、ウェルズを睨んだ。


 「うん。引かないし、姉さんもここで倒す!」


 「そう……。じゃあさよならね、カシオペア」


 そう言うとウェルズは攻撃に緩急をつけて防戦一方のカシオペアを翻弄する。

 さらに打ち合う中で突然全力の力を込めてカシオペアの剣を弾いた。


 消耗したカシオペアは対応できず剣を跳ね上げられ、左手から武器を放してしまう。



 「カシオペア!」


 桃の声を聞きカシオペアは笑みを浮かべた。


 (ありがとう桃。力、湧いてきたよ)



 ウェルズはがら空きになったカシオペアの腹部にめがけて槍を突き出す。

 それに対してカシオペアはあろうことかウェルズに向けて踏み込んだ。


 「武器もなしに突撃なんて、相撃ち狙いにしてもありえないわね!」


 戸惑うことなくウェルズはカシオペアめがけて槍を走らせるが、カシオペアの右手を見て目を見開いた。




 その時カシオペアの頬の傷からは青い光が零れ、右目も青く灯っていた。


 そしてその右手には……




 桃と同じ水色の剣が握られていた。




 臆することなく飛び込んだカシオペアは腹部を貫かれても怯まない。


 迷わずウェルズをその水色の剣で切り裂いた。



 「その剣はあの女の……。そうか、あの時継承を受けていたのね」


 「違うよ姉さん。継承は受けてない、想いを受け継いだだけよ」


 「どちらにせよこちらからすれば同じことよ、一杯喰わされたわね。でも勝負はこちらの勝ち。あなたは致命傷だけど、私は何とかなるわ♪」


 「いいえあなたの負けよ、姉さん。ここまで力のコントロールを奪えば、あとはあの人が倒してくれるから」



 「カシオペアー!」


 我慢できず桃がカシオペアへ駆け寄った、後には雪とアインも続く。そのあまりの気迫と速さに驚いたウェルズはカシオペアから槍を引き抜きその場から離れる。


 カシオペアは力なく地面に倒れた。



 「そんな……、待っててすぐに治すから!」


 急いでカシオペアから学んだ治療を試すが効果がない。

 焦る桃の目からたくさんの涙がこぼれる。



 「ありがとう桃、でももういいよ。私は助からない」


 「そんなことない! 絶対、絶対助けるから!」


 鼻声で叫びながら何度も効果のない治療を続ける桃の頬にカシオペアが手を当てる。


 「ごめんね、桃。いきなり現れてこんな戦いに巻き込んで。こんなこと言うのは図々しいのはわかっているんだけど、もう一度私のお願い聞いてほしいの」


 「うん……」


 もう助からないことを悟った桃は手を止め、涙を流しながらカシオペアの声に耳を傾けた。


 「姉さんと、父さんを止めてほしいの。もう私にはできないから」


 「わかった、きっと止めて見せる。約束する」


 カシオペアはそれを聞くとにこりと笑い、赤い光を放ちながら消えていった。


 残された赤い懐中時計も光を放つと桃の胸の中へ吸い込まれていった。




 「手こずったけどようやく最大の障害を排除できたわ。でもまだまともに力を使えないわね、転移もしばらくできないかも」


 そういってウェルズが左肩から斜めにつけられた傷を治療しようとすると突然剣による攻撃を受ける。なんとか避けて相手を見ると桃が立っていた。



 右手には水色の剣を、そして左手には赤い剣を握っていた。

 左目も赤くなっている。



 「お前、カシオペアから継承を……。いや、それよりその姿見覚えがある。そうか、お前があの時の女の!」


 言い終わるのを待たずに桃が切りかかる。


 「なぜカシオペアの技術を使いこなせる! 継承を受けても力量不足では無駄に終わるはずなのに!」


 流れるように桃の両手から放たれる攻撃をウェルズは何とか防ごうとする。

 しかしカシオペアから受けた傷の影響で力のコントロールを失った彼女桃の猛攻を防ぎきれない。

 

 抵抗むなしく、ウェルズは桃の持つ赤い剣に切り裂かれた。



 その時桃はカシオペアとの約束を守ろうと必死だった。

 カシオペアを失った悲しみは大きく、ウェルズに対して恨みもある。

 しかし、継承を受けてから桃はカシオペアの心からの願いを感じ取っていた。

 『もう後戻りできなくなってしまった家族を、たとえ殺すことになってでも止めて救いたい』

 桃はその願いに何としても応えたかった。




 動きが止まったウェルズを桃の攻撃が幾度もとらえる。



 「がはっ」


 ついに限界を迎えたウェルズは、槍を手放し膝をついた。


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