俺のターン、相手デッキのカードを一体破壊するごとに幼馴染の恥ずかしい秘密が一つ暴露される
今、俺たちの間では、とあるカードゲームが流行っている。『アドヴァンスド・ディープ・ヴァイタル』――略してADVだ。
日本語に直訳すると、一つ上の深い生命力といったところだろうか。初めは「なんだそれ」と思ったものだが、遊んでみたらなんともゲームの内容を適確に現していると感じた。このゲームは実に面白いものだったのだ。
最近はクラスのみんなと昼休みにこのゲームをするのが日課になりつつある。昼休みのチャイムが鳴るとお互いに弁当を持ち寄って、それを賭けた盛大なカードゲーム大会が教室の中で繰り広げられるのだった。
学校の規則で『賭け事は禁止』となってはいるものの、日本の法律でも許されているように食事を賭ける程度のことなら教師もうるさく言えないのだ。
俺にこのゲームを教えてくれたのは、クラスメイトの通称・赤ダコこと、『赤田心音』。俺の幼馴染である彼女は、ことあるごとに俺を色んな騒動に巻き込む、いわゆるトラブルメーカーというやつだった。
「ねえ、ケータ。今日は私とバトルしてよ。今度こそ負けないんだから」
心音が俺にバトルを申し込んでくる。
「ん〜、心音は弱くて相手にならないんだけど、そこまで言うのなら構わないぜ。でも少しはマシになったんだろうな?」
俺はそう言うとデッキをテーブルに並べ始める。
その様子を見ていた颯太が突然みんなに聞こえるように言った。
「おっ、赤ダコ夫婦がバトルを始めるぞ」
その赤ダコ夫婦ってのはやめて欲しいと何度も言っているのだが聞いてくれやしない。まあ俺と心音は幼稚園の頃からずっと一緒だし、割とこういうのには慣れてしまっているので二人ともスルーしているのだが……
颯太の一言でクラスメイトの殆ど全員がこのバトルを観戦することになったみたいだ。
心音もデッキを並べ終わったようで、俺たちはゲームを開始する。
「「ゲーム・スタート。バトルフィールド・オープン」」
俺と心音がそう叫ぶと教室が突然、様変わりして大きなバトルフィールドと化す。
「今日は草原フィールドか」と、誰かが言った。
このゲームは超ハイテクノロジーのおかげで現実世界にいろいろと影響を与えることができるのだ……と言ってもその実態はただのヴァーチャル・リアリティ空間であり、要するに教室全体がVR対戦カードゲームの会場となっているだけである。
これは俺の父親世代あたりから、子供が産まれてきた際に仮想現実体感装置と呼ばれるチップを脳内に組み込むのが流行り出したことで実現可能になったものだ。
クラスの中には貧乏でチップを入れて貰えなかった連中も少なからず居り、そんな彼らはバトルが始まると、そそくさと教室を後にするのだった。
「あっ、私からだね……。じゃあ行くよ。私のターン!」――
今回のバトルは心音が先攻のようだ。さて、どう攻めてくるのか……。
心音が続けて言う。
「カード・オープン! フィールドに『丸トカゲ』を三体セット。丸トカゲ三体で同時アタックよ!」
なるほど、いきなりライフを削りに来たか。しかしこのゲームのライフは両者とも十からスタートだ。これを受けてもこちらのカードが出しやすくなるだけだ。
心音は俺のライフを三つ削ると満足そうに「ターンエンド」と告げた。
心音を見やるとものすごいドヤ顔をしてるが、自分が不利になってるだけなのに気づいていないようだ。
やれやれと、俺は呆れながらターンの開始を告げる。
「じゃあ、俺のターン! デッキの上からカードを三枚ドロー、更に削られたライフのコストにより三枚を追加ドロー。カード・オープン! ……えっと、『ダブルヒキガエル』だな。ダブルヒキガエルの効果で更にカードを一枚ドロー。ドローしたカードは……『岩ガメ』か。岩ガメでアタック! 岩ガメのアタック時効果発動! 相手のデッキを使用できなくする。これでターンエンドだ!」
フッ、勝負あったな……。俺が勝ちを確信していると心音は不敵な笑みを浮かべて言う。
「もう勝ったつもりでいるの? ケータ。甘いわよ。私のターン! フィールドにいる丸トカゲをデッキに戻してコスト回復。回復したコストで禁断魔法発動! 召喚!『国語辞典』。ケータにダイレクト・アタックよ!」
心音は紙を何百枚も束ねたような分厚くて四角い物体――彼女が言うところによると『国語辞典』というらしい――を手に持つと、それを俺に向かって投げつけてくる。
俺は投げられた物体をただの紙の束だと油断していたため、腹にまともに喰らってしまい、余りの痛みに蹲る。
心音は「フフン、どう? 効いたでしょう?」と言うと、「ターンエンド」を告げた。
俺は自分の腹をさすりながらターンを開始する。
「くっ、俺のターン! 心音がそのつもりなら俺だって……。体力減少により最終究極魔法発動! カード破壊技『悪魔の囁き』。スキルカード以外をドローするまで永遠にカードを引くことができる。更にデッキの効果でスキルカードをドローするたびに相手のデッキにあるカードを一枚破棄。岩ガメの特殊効果で相手デッキのカードを一体破壊するごとに恥ずかしい秘密が一つ暴露される!」
このゲームは本来ならスキルカードの封入率が極端に低いのだが、俺のデッキは違う。この魔法のためだけにスキルカードを大量に用意してあるのだ。
「じゃあ心音、覚悟はいいか? 行くぞ。」――俺の怒涛のラッシュが始まる。
「ドロー! ……スキルカード。相手のカードを一枚破棄。心音は七歳までオネショをしていた」――
「ドロー! ……スキルカード。相手のカードを一枚破棄。心音はいつも家の中ではパンツ一丁で過ごしている」――
「ドロー! ……スキルカード。相手のカードを一枚破棄。心音は十歳の頃まで幼馴染のケータ……って、俺かよ! ……と一緒に風呂に入……ってなんだこれ。こんなことまで暴露されるなんて聞いてないぞ」――
「ドロー! ……スキルカード。相手のカードを一枚破棄。心音は幼馴染のケータ……の……事が……好……ッ? わあああぁっ、コレ無し!」
思わぬところで俺がダメージを受ける。
心音を見ると顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
「こ、今回の勝負は無しってことにしようぜ」
俺が提案すると、心音も「うん……」と、恥ずかしそうに頷いた。
まさか心音が俺のことをそんな風に見てたなんて……
俺は心音をチラリと見ると顔をそらし頬をポリポリと掻いた。
クラスメイト全員が俺たちを見て冷やかすが、もう今までのように『赤ダコ夫婦』と言われてスルーできる自信が持てそうにない。俺も実は心音の事が……
ある日の昼休み、俺たちはそんな風にお互いを意識し始めるのだった。
――――おしまい――――
カードゲームよくわからないまま、なるべくそれっぽく作ったので、いろいろと不自然なところがあったかと思います。まあ、カードゲームが書きたかったのか恋愛ものが書きたかったのかよく分からない中途半端な作品になっちゃいましたが、その辺軽く流してくれると幸いです。