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Sweet Witch  作者: 波止 晴信
2/7

2話

 授業が終わり放課後になった。 部活動に励む時間になった。

 俺が所属しているのは『オカルト研究会』。 通称、オカ研と呼ばれるお悩み相談所みたいな部活だ。 メンバーは部長の綾地さんに俺、一年生の因幡さん、紬そして前生徒会長の戸隠先輩の四人だけ。

 それでも女子の間では噂になっていて、ちょくちょくと相談者がここを尋ねに来る。

 が、今日は何もなかった。 基本、相談者が来なければ雑談をして終わりの部活。 来ないと早々に終わってしまうのもこの部活。

 俺は紬と一緒に帰り、みんなと別れ、最後に紬とも別れた。

 紬が帰っていく姿を見届けたあと、家ではなく喫茶店Schwarzeシュバルツ Katze・カッツェに足を運んだ。

 店内に入ると「いらっしゃいませー」と親友の仮屋が営業スマイルから普通の顔に戻っていく。


「なんだ保科(ほしな)か。 一人? 椎葉さんと一緒じゃないんだ」

「今日はちょっと」

「ふ~ん……。 っと気を抜きすぎた。 お好きな席へどうぞ、お客様」


 俺は店の奥の席に座りブレンドを注文した。

 少し待つと、桃色の髪をしたこの店の店主————相馬 七緒がカップを持ってやってきた。


「すまない、保科君。 寧々はまだ学校にいるらしいんだ。 もうしばらく待ってはくれないか?」

「綾地さんも一緒に出たんですけど……。 ……カケラ、ですか?」

「いや、そうじゃないんだ。 保科君は心配せずとも、ここでゆっくりするといい」


 相馬さんはそう言う。 でもそうはできない。 綾地さんのカケラ回収には少なくとも俺に責任がある。

 以前、俺には心に穴が空いていた。 魔女だった母さんから他人の感情を五感で感じる能力を受け継いだせいで、他者と線引きし人間関係を希薄にしてきました。 自分を守るために。

 今では紬のおかげもあって塞ぐことはできたけど、綾地さんのカケラ回収は終わってはいない。

 それに綾地さんには別に協力してもらってることがある。

 紬のアルプであるアカギについて。 アルプは心のカケラが集まるにつれて人間に近づいていく。 逆に言うとカケラがないと人間から遠ざかってしまう。

 いまのアカギは渡り鳥になっている。 以前まではできていた人の姿をとることも、言葉を話すことも出来なくなってしまった。

 その責任も俺にある。 暴走していた子犬のアルプを捕まえるために、今まで集めていた心のカケラを俺に渡してくれた。

 紬はまたアカギを元の人間の姿をとれる状態まで戻してあげたいと言った。 でも魔女になれるのは生涯で一度きり。 紬はもう心のカケラを集めることはできない。

 その代わりを買って出てくれたのが綾地さん。 綾地さんたちは俺たちの願いを快く引き受けてくれた。

 相馬さんは「自分のテリトリー内で問題を起こしてしまった責任をとらせてほしい」と言ってくれた。 綾地さんも同じ考えでいた。

 今の綾地さんは、自分の分のカケラ回収とアカギのためのカケラ回収を行ってくれている。 カケラを回収する機会なんて滅多にないのに俺たちのお願いのために動いてくれている。

 だからここでのんびりしているわけにはいかない。


「ありがとうございます。 でも俺にも、なにか手伝えることがことがありかもしれません」


 席を立とうとすると、相馬さんがそれを制止した。

 

「私も歯切れが悪くて申し訳ないが、寧々の方から保科君には絶対に言わないでほしいと釘を刺されているんだ。 わかってほしい」

「ですが————」


 相馬さんと口論をしていると店に綾地さんが入って来た。 肩で息をして急いで来たのだろうか。


 「寧々、こっちだ」相馬さんが手を振りながら呼ぶ。 「ありがとうございます、七緒」綾地さんはレモンティーを注文して席に座った。


「遅くなって申し訳ありません」

「それはいいんだけど、何かあったの?」

「な、何もないですよ」


 口内にじわっと嫌な味が広がる。 能力のおかげで嘘か本当かを見極めるのは容易にはなった。


「綾地さん……」

「……本当は、あり、まし、た。 でも私の問題であって、保科君にどうこうできるようなものではないのは確かです!」

「カケラの回収ではないんだね?」

「はいそうです。 その……突然、オ、オナ、~~~~~」


 最後の方をごみょごみょと言い濁して聞き取れない。


「ごめん。 よく聞こえなかった。 もう一回お願いできるかな?」

「で、ですからね! そ、その、オ、オナ、オナ、ニーしてました……」

「あ、あぁ~……」


 サーとした乾いた空気が流れる。

 綾地さんが魔女になる為に支払った代償は『発情』。 時間、場所構わず発動してしまうらしい。


「その、ごめん……」

「私だって学校でしたくないんですよ……。 でも仕方ないんですよ……。 そういう代償になってしまったんだから、諦めるしかないことは分かってるんです。 でも、それは聞かずに察してくださいよ。 私がこういうことだって、知ってるくせに保科君は私をいじめて遊んでいるんです。 楽しいですか? 楽しいんでしょうね。 ……もうやだぁ、お家帰るぅ」 

「本当にごめん!」


 頭の中で因幡さんの言葉が反芻する。


『デリカシーの欠如ですよ! うわぁ……もうやだ。 このマジエロヘンタイ先輩!』


 紬にもやってなきゃいいけど……。

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