ある日の木曜日
物事を理解することは大切だ。そう、何をするにしても状況把握が大事だ。僕はそういつかの誰かに言われた言葉を思い出していた。そして、僕の目の前には至るところが荒らされた部屋とその根元が立っていた……
時間を戻して話をしよう。朝、僕は何時ものように家を出た。その時は何も起こる気も無かった。それから夕方になり、帰宅をしようとした時、携帯が鳴った。彼女からの電話だ。珍しな彼女からかけてくるなんて、とか思って電話をとると、
「た、助けて欲しい。とにかく大変なんだ、急いで帰ってきてくれ!」
と言う突然の彼女からのSOS。そして直ぐに通話は切れてしまった。かけ直しても応答はない。これは何かのイタズラ?いや、彼女が?僕は起こりうる限りの最悪の事態を想定する。身体に纏わり着く恐ろしさを振り払って僕は走り出した。
そして現在に至る。息を切らしながら、自宅に入ると、そこは荒らされた部屋とその中央には小さい子どもの姿が。
「子ども……子どもだってッ!?」
予想外の子どもの登場で困惑していると、キッチンから彼女が疲れきった顔を出す。
「あの、僕にこの状況の説明を下さい」
「はい…」
なぜこんな事になったか。それは彼が家に居ない昼時まで戻る。
私が食材の買い出しをして家に帰るとき、道で泣いている子どもがいた。どうして泣いているのか訊ねると、子どもは迷子になってしまったみたいだった。初めは交番に送ろうと思ったが、万が一私の素性を聞かれると答えられそうにない。だから家に一度荷物を置いてそれから親探しを手伝おうと考えた。そう、そこまでは問題は無かった。子どもが家まで付いてくるのはいい。家に入ってくるのもまだ許せる。でも、どうしたら他人の家のソファで直ぐにスヤスヤ寝られるんだ!?子供は考えも行動も良くも悪くも裏表無い。
だからこんな自分のやりたいことが出来る。それが私にはそれが羨ましく感じた。でも、自分にはそんな事が出来るほど純粋では無くなってしまった。
まぁ、そんな私情はこの際置いておく。取り敢えずはこの子どもをどうするかだ。しばらく寝かせて起きたら探しに行こう。それまでは横に座ってテレビでも見ていよう。どうやら私はここで選択を間違えていたみたいだ。
気が付くと私も眠ってしまったらしい。時刻は日が暮れようとしている頃だった。寝過ぎた事を後悔しながらも横にいるはずの子どもを見ると姿がない。と言うか気付くと色々と物が散らかっている。そして、テーブルの上でティッシュを出して遊ぶ子ども……
「ちょ、ちょっと待てぇー!一体何をしてるんだ!」
流石にこれは口から出てきてしまった。
「大体、他人の家のものを勝手に散らかす奴があるか…って聞いてないし、あっコラどこに行く気だ!そっちは風呂場だぞ、待て!おい!」
……気が付くと家は空き巣にあったかのように物がひっくり返りっていた。かれこれ二時間子どもを追いかけ回して疲れきった私は、電話をすることにした。
「た、助けて欲しい。とにかく大変なんだ、急いで帰ってきてくれ!子どもが部屋を散らかして困ってい……あれ、電話が切れてる…って、やっぱりお前の仕業か」
部屋にはしゃぐ子どもの声が響く。
「で、キッチンに避難して僕の帰りを待っていたと」
「そう言うこと、私はもう疲れたよ。後はお願い」
「参ったな、子どもの相手とか得意じゃないんだけどな」
僕はもしこれが誘拐とか拉致監禁で捕まったりしないかとか嫌な想像をしながらも子どもに近づき、自己紹介がてら色々聞いてみた。
「こんにちは」
「おじちゃんだぁれ?」
時として子どもの言葉は鋭いナイフになる。僕はおじちゃんって言われるほど年は取ってないんだけどな……
「お兄さんはこの家にあのお姉さんと一緒に住んでる人だよ。初めまして、君の名前はなにかな?」
「えっとね、あたしのなまえはハナです。ななさいです!」
「おおう、年齢まで教えてくれてありがとう。じゃあハナちゃんはどうしてここにいるのかな?」
「あのね、まいごになっちゃったの。だからお姉ちゃんに付いてきたの」
「そっか迷子かぁ、じゃあハナちゃんお家の住所とか分かるかな」
「えっと住所は分からないの……」
ですよねー。迷子だもんねー。分からないよね、分かったら苦労しないもんね。よし次の作戦だ。
「ええっとじゃあ、ハナちゃんお家の近くにはなにかある?」
「えっとねー、となりのお家に大きい犬さんがいてね、でも、スッゴくおとなしくてね、それで近くの公園でよく遊ぶの。あとね、あとね、○□学校がすごく近いの!」
「成る程、○□学校の近くってことは隣町の方かな。ところでハナちゃんどうして迷子になっちゃったの?」
「ママとね、お買い物してたらいつの間にか知らないところにいたの」
ん?いつの間にか知らないところにいた?あれ、これもしかして。
「ハナちゃんもしかして超能力が使えるの?」
「ちょーのーりょく?知らなーい。でも、トランプはあたし強いよ!だって何のカードなのか透けて見えるの!」
「ハナちゃんそれ超能力だよ…」
「へぇー、それってスゴい?」
「チョースゴいよ」
透けて見えるってことはつまり透視能力か、羨ましい。っていうか超能力使える人って彼女以外にもいたのか。
「それじゃハナちゃんお兄さんハナちゃんのお家が分かったから一緒に行こうか」
「えっ!おじちゃんお家が分かるの!?すごい!どうして分かったの?」
「だって○□学校の近くなら通勤でよく通るからね。じゃ、行こうか」
「うん!あっそうだ、お姉ちゃん遊んでくれてありがと!また遊ぼうねー!」
「私との追いかけっこは遊びだったのか…」
「ハハハ…それじゃあハナちゃん家に送ってくるよ」
「せいぜい捕まってくんなよー」
「怖いこと言わないでくれよ…」
こんな感じでお巡りさんにビクビクしながらもハナちゃんは無事に家に送り届けることが出来た。実は、ハナちゃんの親も探していたらしく、隣町に行くとすぐにハナちゃんは親と再開することが出来た。そんな事後報告を彼女にしていると、
「羨ましいね」
と言っていた。僕はそれに対して何がとかは聞かない。代わりに、そうだね。と言ってあげること位しか思い付かなかった。