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ご都合主義  作者: タンクルオステウスと化したCPQR
3/8

ある日の月曜日

憂鬱。

その一言に尽きる1日だ。週の始まりで、仕事があり、通勤ラッシュでおまけに天候はどしゃ降りの雨ときた。休みたい。しかし、彼女がそうさせてくれる筈もなく、

「バカ言ってないで早く準備しなよ。はい、これ弁当」

等といってくる。しかもこんなブルーマンデーなのにやけに上機嫌だ。あぁ、いつかの右腕左足を手に入れてから身体を好きに動かせられて気分が良いのだろう。

全く、その手足を買ってやったのは一体誰何ですかね。と聞いてみたいくらいだ。それを言うと、嫌みを返されそうなので言わないが。


「じゃあ、いってくる……」

彼の気分は暗く、心なしか足取りも重かった。

「いってらしゃーい」

軽く手を振りながら送り出す。男の人はこういう時抱きしめてあげると元気が出るのだろうか。今までは出来なかったが、これからはやってあげようかな。なんて今までの自分じゃ考えないような事をふと、浮かぶことが多くなった。

「さて、そろそろ始めますか」

彼を送ったあと毎日掃除をする。これは義務じゃない。でも、やっておかないと落ち着かない私が何処かにいる。それに、これまでの私ならいくら器用に動けると言っても終わるのに昼までかかっていた掃除が今では二時間そこらで出来てしまう。やはり、五体満足と言うのは良いものだ。確かに、機械甲冑の手足のパフォーマンスが素晴らしいと言うのもあるだろうが、自由に動き回れる事がこんなにありがたいこととは思ってもいなかった。これは買ってくれた彼に感謝でもするべきかな。何をしてあげようかな。こうやって、他人に進んで何かしてあげようとかは考えたことが無かった。どうしてだろう。不思議に想うくらい今まで出会った人間の中で一番彼は愉快で私に優しかった。


親、それは子を育て、子の成長を見守る存在。だが、私の両親は違った。父親はギャンブルに溺れ家庭を省みない奴だった。母親はアルコール中毒の薬物中毒でもあった。妊娠しているときも平気でやっていたのだろう。私もよくも無事に産まれてこれたものだ。薬物のお陰かどうかは知らないが私には生まれつき変わった能力があった。一つは、相手の思考を読み取る能力。幼少期の頃には、親の考えを無意識に読み、会話をしていたのを気味悪がられた親に殴られた。後もう一つある、

ランダムな所に瞬間移動できる能力。これを初めて使ったのは親に山に置き去りにされたときだった。泣きながら山の中を歩くと気付いたら目の前に家の玄関があった。親の帰りを待っていると、親が帰って来た。私を見つけた親は突然私の横腹に足裏をめり込ませてきた。何度も何度も何度も骨が折れるまで何度も繰り返した。そんなこんなで親に不気味がられた私は諭吉が書かれた束を100枚と引き換えに一つの屋敷に送られた。能力を使えば、また親の元には帰れたが、その時の私には屋敷の方がマシに見えた。だけど、実際は親の元より数倍ヘドが出る所だった。


屋敷、もう今では嫌悪感しかない所。社会の薄汚れた部分を覗いたのも、手足を失ったのもここだった。屋敷の主人に教えられたのは主人には絶対服従と言うことと、奉仕の仕方位だ。家事や教養なんてのは周りの大人達から見て聞いた事から学んだ。

何年か経ったある日、部屋の掃除をしていると、応接室から声が聞こえてきた。何の気なしに耳をすませると、中から話し声が聞こえてきた。

「ーは、少女をーでー」

何を話しているのかよく聞き取れなかった。でも、中で話していた主人の思考が読めてしまった。

『そういえば今回手に入った奴隷は上物だったな、いつかに買ってやった親に売られた憐れなガキより役に立ちそうだ。あいつ、そろそろ要らないかな』

思わず声をあげてしまった。

「おい!誰だ、……なんだお前か、話を聞いていたのか。丁度いいこの際だ、お前にはペットの餌にでもなって貰って頂こうじゃないか」

あの時の主人の顔は忘れられない、人の命をどうとも思わずに弄ぶクズ野郎の顔だ。

そのあと地下室に連れられて、ナイフを渡され、

「猛獣どもに食べられて死ぬか、自ら命を絶つか好きに選ばせてやる。選べ」

そんなのはどちらも嫌に決まっている。そう言うと、

「なら、苦しんで死ね、私を愉しませろ。泣き叫んで命乞いをしろ。ほら、こうやって!」

その瞬間、私は逃げようとしたが、気付けば足にナイフの刃が深く突き刺さっていた。

「ッ!!ーーーーー~!?」

声になら無い叫びをあげながら悶えていても、容赦なく、次の刃が襲う。足を引きずりながらも交わそうとするが、今度は腕を貫く。更に、下腹部を強く蹴り飛ばされた私は、檻に放り込まれた。そこで待っているのは、餓えた猛獣達の咆哮と牙だった。

動かない手足なら私にはいらない。

私は手足を猛獣共にくれてやった。誰が見ても死んだと思わせられるようにした上で、瞬間移動を使った。実際には使ったと言うより偶然起きたようなものだったが、それは起きた。


気付くと民家に移動していた、噛み千切られた手足は初めから無かったかのように綺麗に無くなっていた。

なんだ、初めから私には手足が1本ずつしか無かったのか。

それは半ば諦めを抱いた感想だった。でも、取り敢えずはここが何処なのか状況を整理しないと…その時、横に人の気配がした。振り向くと腰を抜かした男がいた。

それが彼との出会いだった。私を初めて見たとき硬直していたが、暫くしたら何事も無かったかの様に生活し始めた。しかし、頭の中を見るとパンク寸前で私を宇宙人だと思い込んでたりした。彼の行動と思考のちぐはぐ具合に拍子抜けした私はいくらか精神的に落ち着きを取り戻していた。でも、それから彼に話しかけようとした時には私を人形程度にしか見ていなかった。


それからなんやかんやあって今に至っている。今じゃ私が彼を世話しているような関係だ。以前は生きるのに頭がいっぱいで、必死だった。それが、彼との生活に馴れてしまうと色々と彼の駄目な所が見えてきて、つい手を出してしまう。お陰で家事や家計簿が出来るようになった。最近は彼に頼んで勉強を教えてもらっている。なかなか彼の教え方は分かりやすかった。字がろくに読めなかったのが今では芥川龍之介の本が読める程になる位だ。彼には感謝している。色々と教えてくれて、私を受け入れてくれて。

私は彼の帰りを待ちながら彼の好物のカレーを作って待っている。

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