ある日の日曜日
目が覚めると時刻は昼手前で、周りを見るとベッドには僕一人だけだった。あくびをしながらリビングに入ると、トーストのこんがり焼けた匂いと油の焼ける音がしていた。
「おはよう」
僕はキッチンで料理をしている彼女に声をかけた。
「もう昼、待ってて今目玉焼き焼いてるからさ」
僕はソファに腰を掛けるとテレビを点け、天気を確認した。
晴れ、雨の降る気配は無し、雲一つ無い快晴になると言っていた。
よし、今日は良い読者日和だ。後でベランダに椅子でも置いて本を読もう。そう思っていると、
「出来たよ、昼飯」
と彼女が言う。
「あぁ、わかった。料理運ぶよ」
「助かるよ、朝は誰かさんが寝てたお陰でキッチンで食べたけどね」
そうやって彼女は皮肉を言う。
「せっかくの休日位じっくり寝ても良いだろう?」
なんて言い訳を彼女に言うが、
「わざわざ夜に私が寝るのを待ってマスなんてかいてなきゃいいのに」
「僕は男の子なんだからしょうがない」
「公開オナニーでもしてればいいよ、この猿」
「さ、飯が冷めてしまうから食べよう」
しらっと話をかわす僕に彼女はジト目で睨むが、しばらくしたら料理を食べ始めた。彼女が作る料理は美味しい。一体どうやって片腕だけで美味しい料理を作れるのか僕には疑問だ。僕なんか腕が二本あるのに彼女よりうまく作れない。
「なぁ今度料理を教えてくれよ、どうやって作ってるんだ?」
「教えない」
「イジワルだなぁ」
「だってボクが料理をする必要なんて無いだろ。私がいるんだ、ボクは料理を運ぶだけでいいの」
「じゃあ君が倒れたとき一体誰が料理を作るんだ?」
「私が倒れたときは作る人はいないね、飢え死にしなよ雄豚」
「ハハハ、その時が楽しみだな」
「所で今日の予定は?」
「晴れている。ベランダで読書」
「読書?官能小説で抜くのは読書に入るの?」
「官能小説じゃないし、女忍者が主人公の漫画だし」
「余計にダメでしょ、それ」
昼過ぎ、僕はベランダで本を読んでいる。筈だった。現在彼女に連れられ、一軒の店の前に立っていた。「機械甲冑、売ります、買います」と看板のかかった店の前に。
「ここでの買い物って誰持ちなの」
「決まってるじゃん。ボク」
「デスヨネー」
店に入ると中には上から下までズラリと並ばれた甲冑やらロボットの数々が迎え入れてくれた。彼女は器用に店の奥に進んでいくと、カウンターに佇む老人がいた。彼女はその店主に話かけた。
「私に合う右腕と左脚はないかな。多少高くても買うからさ、彼が」
「おい、店主頼むから一番安いやつにしてくれよ」
「うるさいな、で、ご主人あるのかい」
ご主人は見定めるように彼女を見ながら
「ある、少し待っとれィ」
とか良いながら天井から吊るされた紐の一つを引っ張った。
ガガガガ……
騒々しい音と共に一つの腕と脚が目の前に落ちてきた。
「雑だなぁ」
思わず口に出してしまった。
「ウチのは軽くて頑丈が売りじゃからこれぐらい平気よォ」
「あ、ホントだ軽い。試しに着けても?」
「構わんよ」
彼女が装着した腕と脚はまるで前から生身の身体に付いていたかのように彼女のスタイルを崩さなかった。
「これなら朝一人で朝食を運べそうだ」
「悪かったな、朝が弱くて」
「なら私にこれを買ってくれ」
「へいへい。店主、ここはカード使える?」
「現金で買うやつの方が少ないわい」
ご機嫌にスキップをして帰る彼女。夕焼けに反射するガンクロームの手足は小さな機動するモーターの音が聞こえるだけで機械らしくない滑らかな動きを見せる。
「ねぇ、今日の晩御飯の材料買い行きたいんだけど」
「あぁ、歩いてだろ」
「分かってるね」
まぁ、あれだけ機嫌よくスキップしてるんだから好きなように動いてみたいのだろうなとは察しがつく。
「買いすぎちゃった」
そりゃ好きなだけポイポイとカートに載せていったらそうなるだろうよ。
「荷物持つよ、かして」
しかし、彼女が渡してきた袋は半分だけだった。不思議思っていると、彼女は空いた左腕を差し出した。意図が分からないでいると、
「手、空いてるんだから繋ごうよ」
心なしか顔を赤くしている彼女。戸惑う僕。
「ほら、行こっ」
無理やり握られた彼女の腕は細く、そして温かかった。この温かさがいつまでも感じられるといいな。なんて小さな願いを考えながら僕は彼女と歩いていく。それに反応するように彼女の握る手は強くなった。