Behind the scenes04:Arthur / アーサー
「到着は予定通り、依然、本航海に異常なし。西暦2095年、12月23日18時00分。これで、良しと……」
「キャプテン、冥王星基地の管制塔と通常通信の海域に入りました」
「そうか、気持ち早いぐらいだが、明朝送る予定だった入港手続きのパス・メールを送っておいてくれ。貨物船ノース・ランド号、本船の到着は予定通り。明日の入港時刻まで軌道上にてステーションとランデブーを維持すると……」
そう言ってアーサーは、皆よりも早くコクピットを離れると、船長である自分に与えられていた個室に戻った。
普段は寝る以外、その肩書きを窮屈に思う性格のせいか、航海日誌をつける時ですら寄りつかない部屋であった。が、一つだけ、家族の写真を見る時だけ、ソソクサとこの部屋に彼は戻っていった。
ぼんやりと船の窓から見える白い惑星。
とっておきのラム酒をボストン・バッグの底から取り出すと、アーサーは家族の写真と宇宙空間に浮かぶ冥王星を見比べるように呟いた。
「おかげさんで、今回も無事到着……」
そう言って久しぶりのラム酒を口につけると、心地よく咽が焼けてゆくのが分かった。これは船長になって以来、旅の片道、目的の星についた時、儀式的に行うアーサーの習慣のひとつだった。
地球に残してきた家族に、照れ屋な彼として行える唯一の感謝の気持ちの表れでもあった。
そして、もう一口グラスの酒を流し込むと、雪と氷に覆われる星との偶然さに言葉を漏らした。
「そうか、地球を出た時、夏だったな……」
家を離れて早6ヶ月。冷静に考えれば予定通り、しかし、いつの間にか季節は冬を迎えている。年中旅をしているアーサーにとっては、そんな思いだった。
「そうか、明日、クリスマスだ。頼んでおいたプレゼント……」
地球の家を離れる前。当然、家族と一緒にクリスマスを迎える事が出来ないと分かっていたアーサーは、妻や子供達へのプレゼントを、その日に届けられるよう手配していたのを思い出した。
しかし、ここは遥か太陽系の外れ。それを確認する術など無い事を知っている彼としては、まさに神様に祈るしか無かった。
「メリー・クリスマス」
END