蒼いメインテーマ
「寛先生、すみませんでした。体のこと黙っていて…」
「やはりそうだったか。ひろみ、これからどうするんだ?」
「赤ちゃんを産むことにしました」
「そうか、拓哉と話し合ったんだな。
それならオレが口をはさむことないな。
次期のトップ娘役を決めて拓哉と結婚したらいい。
ひろみ、よかったな。幸せになれよ」
「ありがとうございます、寛先生」
「オレと瑠璃子には子どもはできなかったから羨ましいよ。
生まれる子供を大切にしろよ、ひろみ」
寛先生から祝福されてよかった。
寛先生、ありがとうございます。
私は先生のそばで仕事ができてよかったです。
これからは拓哉のために一生懸命尽くします。
「ひろみ、退団するんやって?」
「今、同期生のなかで大騒ぎよ。
ひろみの次に誰がトップになるのかって。
結婚だから祝福するのが自然の流れだけど、
あたしたち同期生にとっては淋しいわ」
圭織と雅が私の退団に複雑な気持ちでいる。
本当の理由は知らされてないからわからないでもない。
私だって別れは辛い。
長い月日を共に過ごした同期生と別れるのは私も淋しい。
「ひろみ、退団は残念だけど幸せになってね」
そう言ってくれたのは加奈子先輩だ。
「はるみが結婚して涼子も婚約。
私の同期も結婚して幸せにやっている子がいるから羨ましいわ」
「加奈子先輩、いろいろお世話になりました」
「ひろみ、拓哉くんと幸せにね」
加奈子先輩の温かい言葉で私は拓哉との生活を夢見ていました。
「今回は休演になったから代役は未来が務めるわ。
それは心配しなくていいからね」
「はいっ、わかりました」
「寛先生が千秋楽であなたに歌ってもらう機会をつくっているの。
今のうちに練習をしておくといいわ。
あなたは水木真理恵の一番弟子なんだから、
先生の思い出の曲を歌うのもいいわね」
真理恵先生の歌を歌う?
そんなことできるだろうか?
「あなたをダイヤモンドのように光り輝く歌姫に育てるわ」
そう言った先生の言葉を思い出す。
真理恵先生、私はドリームランドのトップ娘役になりました。
先生に今の姿を一目見てほしかったです。
先生に教えてもらった日々を今も忘れていません。
先生のおかげで今の私があるのですから。
私、先生の歌を歌ってみます。
どうか、天国で見ていてください。
「ひろみ、休演は残念やな。せやけど体が大事やし無理したらあかんで」
「ありがとう、圭織」
「千秋楽でのさよならショーが楽しみや。
ひろみのことやから大きなショーを考えていると思うで。
退団しても今までと変わらないからな。
うちらは友達やで、忘れんといてや」
うちらは友達。
圭織は、この言葉を使うのは二度目だ。
一度目は拓哉が学校を停学になった時だった。
その時は寛先生から交際を認めてもらっていなかったため
退団を覚悟していた時だった。
そして二度目の言葉は私の結婚退団。
ありがとう、圭織。
あなたとはいつまでも友達だよ。
圭織だけじゃない、美紀も未来もそして雅も大切な友達。
ありがとう、これからもよろしくね。
「ひろみ、あなたは声楽の先生に歌いたい曲を提出するようにしてね。
その曲をさよならショーで歌うから今から練習していてちょうだい」
「はいっ、わかりました」
「あなたを育ててくれた真理恵先生に見せたかったわね。
あなたが頑張っている姿は天国の先生はちゃんと見ているわ。
しっかり頑張ってね」
「ありがとうございます、瑠璃子先生」
退団が決まってから私は声楽の柏木先生の個人レッスンを受けていた。
拓哉が水平塾のミュージカルを頑張っているように
私も子供に恥ずかしくない生き方をしたい。
私のためじゃない。
これから生まれてくるわが子のために私は母親としての勇姿を焼き付けよう。
拓哉と二人で育んだ小さな命を守っていく。
それが今の私ができることだから。
私の体のことを知っているのは圭織と雅だけ。
二人は他の同期には黙っていると言ってくれた。
とくに未来は私の代役を控えているから話さないほうがいいと思ったのだろう。
美紀はお喋りだから内緒の話はできないと圭織が言っていた。
二人には申し訳ないけど、結婚してから赤ちゃんのこと話すよ。
「ひろみ、元気な赤ちゃん産みや。
あんたやったら、いいお母さんになっているやろな。
赤ちゃん産まれたら知らせてな。
その時は美紀と未来も連れてくるから」
「ありがとう、圭織」
「退団しても仲良しでいてね。私も応援するから」
「ありがとう、雅」
そして、いよいよ本公演の幕が開き、
私はさよならショーの歌の練習に集中していた。
真理恵先生からもらった曲目から歌を選んだ。
曲目は『Imissyou』にした。
これはドリームランドの仲間とのお別れの意味を込めて選んだ。
この曲で最後の舞台になる私をお客様に見せたい。
有終の美を飾って朝霧裕美とお別れしたい。
4年生まで短かったけど楽しい思い出ができた。
同期生や支えてくれた先輩方、そして忘れてはいけない
寛先生をはじめとする先生方、本当にありがとうございました。
私は最後まで幸せでした。
日舞しか知らなかった私を大きく変えてくれて感謝しています。
さよならショーは精一杯頑張ります。
どうか、見守ってください。




