精霊流し
久美子が亡くなって初めてのお盆が来た。
拓哉は尚志くんと他の友達と一緒に鐘楼船をつくっていた。
夏の暑いさなか、みんな汗だくになって頑張っていた。
拓哉の友達の彰くんの実家がお寺なので鐘楼船も本格的に作られたのには驚いた。
私ができることは、みんなに汗を忘れられる物をつくってあげることだ。
それで私は蜂蜜入りのレモンスカッシュをつくった。
暑い時に炭酸のドリンクは一時的に暑さを忘れられる。
それと一緒に簡単なサンドイッチも作ってきた。
人数が多いのでたくさんつくりすぎたけど、大丈夫だよね。
「みんな、お茶が入ったわよ」と私は大声で言った。
「わかった、今行く」と拓哉の返事がかえってきた。
そして、拓哉は友達と一緒にレモンスカッシュを飲み、
サンドイッチを食べていました。
鐘楼船は完成したようで食事をした後に見せてもらいました。
すごく大きな鐘楼船でした。
鐘楼船は二艘作られました。
一つは久美子の物、もう一つは亮一くんと亮二くんの物を
入れるために作ったそうです。
ここまで頑張った拓哉には脱帽です。
亮一くんや亮二くんのためでもあるけど、
久美子のことも忘れていなかったことが私には嬉しかった。
久美子、今夜の精霊流しに美由紀も律子も来たよ。
律子はね、今日のためにフランスから一時帰国して来てくれたんだよ。
もちろん、雅も圭織も美紀も未来も来ているよ。
みんな、久美子のために精霊流しをしたいって言ったんだよ。
久美子、あなたは幸せ者だよね。
みんなにこうして天国に送られるんだから。
いよいよ亮二くんと一緒に西方浄土に行くんだね。
久美子、私は忘れないよ。
あなたとの友情と青春の日々を思い出に持って、これから舞台頑張ります。
あなたがいたから今の私があるのだから。
「ひろみ、腹へった」
「お疲れ様、みんな少し早いけどお昼にしましょう」
私は拓哉たちにレモンスカッシュを渡した。
「うめぇー、暑さが吹っ飛んだぜ」
「サンドイッチはたくさんあるからどんどん食べてね」
こうしてサンドイッチを食べている拓哉たちを見て、
男の子ってパワフルだなって思った。
そして、鐘楼船が完成した。
一艘は久美子のために、もう一艘は亮一くんと亮二くんのために
それぞれの気持ちを込めて作っていった。
亮一くんと亮二くんだけじゃなく、
久美子のことも覚えてくれていたことが私は嬉しかった。
鐘楼船は彰くんの実家がお寺のせいか本格的な木の船だった。
今夜はタイムトラベルの鐘楼船も流される。
これは、タイムトラベルで拓哉がKT線の事故で亡くなった人のために
精霊流しをしたいとラジオのリスナーに呼びかけたのがきっかけで、
一週間全体の精霊流しに発展したのだ。
このために集まった鐘楼船は数多く集まった。
暗くなってきて夜になってきた。
空には大きな打ち上げ花火が上がった。
たくさんの花火を合図に川に鐘楼船が流れてきた。
「オレたちのも流すか」
「用意はできているぜ」
拓哉たちは二艘の鐘楼船にそれぞれの思い出の物を入れた。
鐘楼船には久美子のCDと亮一くんと亮二くんのCDが入れられた。
そして久美子の大好きな花も二艘の鐘楼船に供えられた。
「名残惜しいが、これでお別れだ。あの世で仲良くやれよ」
そう言って拓哉は友達と一緒に川に流した。
久美子、さようなら。
亮二くんと天国で幸せになってね。
「行ってしまったな。これで心残りないやろ?」
「うん、久美子の分まで頑張るわ」
「今度の舞台頑張っていこうな」
「うん」
圭織とは久美子より長い付き合いになりそうな気がした。
一年生で学年委員を一緒にやってから圭織に何度励まされただろう。
圭織だけじゃない。
雅も美紀も未来も大切な友達だ。
美由紀と律子も高校から長い付き合いになってきた。
二人とも違う道で頑張っている。
それぞれの夢が叶うように二人は頑張っている。
久美子はいなくなったけど、私にはたくさんの友達がいる。
みんな、これからもよろしくね。
「ひろみ、花火上がったで。早く行こう」
圭織の声がした。
「わかった、今行く」
私は元気よく返事を返していた。
久美子、ありがとう。
私の背中を押してくれて。
空には花火がたくさん打ち上げられた。
そして川にはたくさんの鐘楼船が流れていた。
みんなの思いがこもった鐘楼船を見て、
私はタイムトラベルの仕事をしてよかったと思った。
寛先生からタイムトラベルの仕事をしないかと言われた時は緊張していた。
だけど、仕事をしていくうちに自分が変わっていた。
拓哉に出会えたこと、
そして交際をすることができたことが大きな転機になっていた。
ドリームランドに入団して4年になった。
加奈子先輩とはプライベートでも相談できる関係になった。
これからもっともっと頑張ろう。
そういう欲が自然とわくようになった。
舞台でお客様が感動して帰ってくれるお芝居をしていきたい。
それが今の私の使命だから。
久美子、天国から見ていてね。
私、あなたの分まで頑張っていくから。
どうか天国で見守ってください。
あなたの思い出は青春の1ページに残しておきます。
本当にありがとう。
私はたくさんの鐘楼船を見て今後の指針を見つけていた。
舞台に生きていく。
ドリームランドの女優として恥ずかしくない生き方をしていこう。
私は鐘楼船を見て自分の気持ちを奮い立たせていた。




