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ME&MYBOY  作者: 真矢裕美
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純情レジスタンス

それは大学に入って二度目の夏休みを迎えようとした時だった。

拓哉は夏休みの後半からドラマの撮影が決まった。

ヒロインは人気アイドルの中野結衣ちゃんだ。

拓哉はドラマで中野結衣ちゃんの恋人役を演じるのだ。

寛先生から話を聞いた私はショックだった。

「これは拓哉が芸の力をつけるチャンスだから耐えろ」

そう言われた私は放心状態になっていた。

拓哉は夏休みに彰くんの実家に泊まりに行った。

そこで海の写真や向日葵の写真をメールで送ってくれた。

メールだけでは淋しい気持ちになっていた。

それは嫉妬している自分がいたこと。

それは結衣ちゃんが私より明るくて元気な女の子だからだ。

「ひろみ、拓哉のこと信じてやりや。

あの子にはあんたした女はいらんって思っているんやから。

うちは中野結衣嫌いや。自己中やし、我儘やからな」

圭織は結衣ちゃんを本当に嫌っている。

「こんな女のどこがええねん、マジでムカつくわ」

「私もあんまり好きになれないな」

そう言ったのは雅だった。

「私もぶりっこして嫌い」

そういうのは美紀と未来だ。

アイドルを演じていくのが大変と久美子が言っていた。

本当の性格と違ったイメージを演じるのが大変というのだ。

結衣ちゃんは元気いっぱいのアイドルを演じているだけだ。

嫉妬することないんだ。

だけど、不安になることがある。

「ひろみ、どうしたの?」

「美奈子先輩」

「最近、元気ないけど心配事でもあるの?」

「ご心配かけてすみません、私個人の悩みです」

「正直に言ってごらん、拓哉くんのことでしょ?

拓哉くんは結衣ちゃんを好きになったって言ったの?

違うでしょ?拓哉くんを信じてあげなくちゃ可哀そうよ」

そういえば拓哉から本心を聞いていない。

拓哉が心変わりしたなら私に話してくれる。

拓哉を信じてあげなくちゃ。

「美奈子先輩にも恋愛の悩みあったんですか?」

「もう昔のことだけどね、幼なじみの彼が海外転勤が決まって

ついてきてくれって言われたの。だけど舞台が捨てられなくて諦めたの。

今では同期のなかで結婚して幸せになっている子がいるからね。

でもさ、ひろみは舞台が好きでしょ?」

「はいっ、歌姫になってからとても楽しいです」

「今を大事にしなさい。舞台が楽しいという気持ちがあれば

何でも乗り越えられるわ。頑張るのよ」

「はいっ、ありがとうございます」

美奈子先輩は優しい先輩だ。

こうして信頼できる先輩に出会えて私は幸せだ。

はるみ先輩と涼子先輩も私の話を聞いてくれる。

はるみ先輩、元気でいらっしゃるかな?

はるみ先輩は拓哉に片思いしていた時にいつも励ましてくれた。

そして私は今3年生、はるみ先輩が退団した学年と同じになった。

これからは後輩の話を聞いてあげないといけないんだ。

もう自分だけじゃないんだ。

甘えていてはいけない。

しっかりしなくてはいけないんだ。

拓哉と話す機会ができたらきちんと話そう。

自分の気持ちを正直に…。

だけど不安になる。

タイムトラベルで寛先生が結衣ちゃんの話をすると耐えられなくなる。

辛くて苦しい気持ちから逃げたい。

そんな私は気がついたら番組を飛び出していた。

もう何もかも嫌になった。

疲れてしまった。

ラジオのスタジオからタクシーに乗って家に戻ると一人で涙を流していた。

拓哉を取らないで!

泥棒しないで!私の彼なのよ!

結衣ちゃんが目の前にいたら引っぱたいていただろう。

だけど、嫉妬している私を見られてしまった。

もう拓哉に嫌われてしまった。

もう何もかもおしまいだ。

自暴自棄になった私はコーヒーを飲もうとして沸かしたお湯をポットに移した。

そして発作的にガス栓をひねっていた。

「おやっ?隣の女の子の部屋かね?ガス漏れしているよ」

「本当ですね、管理人さんを呼びましょう」

この時、私はリビングで横たわっていた。

「ひろみちゃん、ひろみちゃん」

「大丈夫ですか?しっかりしてください」

隣のおばあさんが一生懸命私を呼んでいる。

意識が遠のいている私には何も気がつかなかった。

このまま死ぬの?

目の前が暗くなるだけだった。

そして、救急車が駆けつけ私は救急病院に搬送された。

このことはラジオが終わった後に寛先生に知らされた。

「ひろみが自殺しようとした」

寛先生が拓哉に電話で知らされた最初の言葉だった。

拓哉は顔面蒼白だった。

死のうとしたなんて思いもよらなかったからだ。

拓哉は勇次師匠に伴われて病院に来た。

その時私は夢から覚めていた。

別れを告げよう。

たくさんの幸せをもらった。

ありがとうと言って別れようと…。

そして運命の時が来た。

「私より結衣ちゃんが拓哉には似合うかもしれない。拓哉、だから…」

「別れるって言うなよ。オレはおまえ以外の女はいらない。

それは今でも変わらない」

「だけど、私は…」

「オレはおまえが生きていてよかったと思っている。

オレはおまえを愛している。オレにはおまえが必要なんだよ」

「拓哉、こんな私でいいの?あなたのそばにいていいの?」

「オレにはおまえだけだ。ひろみ、おまえだけを愛している。

だから、もう何処にも行くな!」

「拓哉!」

苦しくて悲しかった私は拓哉の腕のなかにいた。

愛している。

拓哉の腕のなかで抱かれている自分が安心できるのがわかる。

私には拓哉しかいないんだ。

「拓哉、ごめんなさい。我が儘言って」

「もういいんだよ、それよりも何もかも水に流してもう一度やり直そう。

初めて心を通わせた頃に戻って」

「私、辛かったの。結衣ちゃんの話が出るといつも嫉妬していたの」

「オレは結衣ちゃんに特別な感情は持ってない、

彼女は美人だけど自己中でな、それでスタッフが毎日泣かされていたよ」

「そんなことがあったの?信じられない」

「少し安心した?」

「うん」

それから私たちはお互いにくちびるを重ねた。

初めてくちびるを重ねたファーストキスの時のように

お互いにくちびるを重ねていた。

そして夜が明けようとしていた。

私は拓哉の腕に抱かれていた。

「拓哉、ありがとう。来てくれて嬉しかった」

「ひろみ、おまえにはオレがついている。

もう自暴自棄になって死のうなんて考えるな。

おまえは一人じゃない。辛いことはオレと一緒に分け合おう。

そうすればきっと乗り越えられるから」

「拓哉、私不安だったの。結衣ちゃんに取られるのが怖かった。

ずっと信じなくちゃって思っていたけど無理だった」

「オレとおまえは結婚を約束したんだ。普通の恋人とは違うんだ。

オレは愛する女は生涯たった一人でいい。

たった一人の愛しい女と生涯を共に生きていきたいんだ」

「生涯を共に生きていく?

拓哉、こんな私でも生涯共に生きていきたいと思っていてくれたの?」

「男に二言はない。これはオヤジの受け売りだけどな。

ひろみ、オレと生涯共に生きてくれるか?」

「はいっ」

これは二度目のプロポーズになった。

初めて拓哉から本心を知った瞬間でもあった。

ありがとう、拓哉。

私、もう迷わない。

あなたを信じてついていきます。

そして晴れて夫婦になれる日まで、あなたを信じて、待っています。







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