あの微笑みを忘れないで
ドリームランドで3年生になった私は大学の勉強と
劇団のレッスンに忙しい毎日を送っていた。
ところが、拓哉は学校を登校拒否してしまいました、
それもクラス全員で授業をボイコットしたのです。
それは1週間前のことでした。
拓哉が大事な話があるからと喫茶店で待ち合わせをしていました。
「ひろみ、吉村の態度が許せないんだ。
だからクラス全員で吉村の授業をボイコットするよ」
授業をボイコットする?
拓哉、本気なの?
どうやら本気でやろうとしている。
そんな拓哉を止めることができなかった。
「それだったら他の先生の授業もボイコットしなよ。
やるんだったら思い切ってやりなよ」
私は逆に拓哉を応援する言葉を言っていた。
「わかったよ、ひろみ。やるなら思い切ってやるぜ。
これはクラスのためにやるんだからな
「負けないでね、拓哉」
拓哉はやると言ったら本気で実行する。
寛先生の芝居の稽古を真剣に頑張っている。
「芝居と舞台の力を必ずつけてやる」
そう言った拓哉の強い決意と同じだった。
それから拓哉は学校に行かず尚志くんたちとカラオケ喫茶で時間をつぶしていた。
この状態はクラスの担任の小川先生は職員会議で吉村先生に話を聞いていた。
吉村先生は過去に卒業生に宗教新聞の勧誘をしていたからだ。
そのことを会議に出席していた先生方は驚いた。
通常、生徒に政治や宗教関連の話は持ち出さないと規則にあったからだ。
吉村先生は事実を認め、1年間の停職処分となった。
この時、拓哉は彰くんが暮らしている学生寮にいた。
彰くんは小川先生からの知らせを受けて学生寮にいたクラスの仲間に言った。
「みんな、オレたちが勝ったぞ。
吉村が今までの事情を洗い浚いはいて1年間の停学処分になったぞ」
「ヤッターッ、バンザーイ」
「これからみんなでカラオケパーティーだ。
ただし酒と煙草は厳禁だからな」
私がこれを知ったのは拓哉のメールでした。
カラオケパーティーが終わってから携帯にメールが来たのです。
「また彼女にメールしてラブラブだな」とからかわれていましたが、
拓哉自身何も気にしてなかったようです。
拓哉、よかったね。
明日からの学校の授業頑張ってね。
「ひろみ、今日はジュニア公演だよ。頑張ろうね」
「そうだね、雅」
「ひろみが歌姫になって頑張っているんだもん。
私も美奈子先輩のようなカッコイイ男役になるわ」
最近では雅と美紀ちゃんがライバル意識を持ち始めていた。
二人とも美奈子先輩に憧れているようだ。
私はジュニア公演では涼子先輩の役を演じている。
涼子先輩は私を信頼して演技指導をしてくださるようになった。
美奈子先輩の役は雅が務めている。
そのためが美奈子先輩に近づきたいという気持ちが強く感じられるようになった。
それぞれみんなが本公演で大きな役につきたいと頑張っている。
それは拓哉も同じだと思う。
拓哉は俳優として通じるタレントに育てていこうとしている
寛先生はすごいと思う。
「オレは勇次師匠から一人前に育ててくれって頼まれているんだ。
その約束必ず果たして立派に育ててやる」
寛先生は拓哉を真剣に育てていこうとしている。
そのためか拓哉の相談事は真剣に聞いている。
一人っ子の自分には頼りになる兄貴ができたと拓哉は私に話してくれた。
それだけ拓哉は寛先生を信頼しているのがわかる。
どうか、拓哉の頑張りが実りますように…。
今は未知数でも必ず実ると信じています。
歌姫になった私の次の目標は真理恵先生が残してくれた歌を
ドリームランドの舞台で歌うことです。
真理恵先生が託してくれた歌を後輩たちに歌っていきます。
真理恵先生の優しい微笑みを私は忘れません。
そして拓哉にも明るい光が見えてくることを願っています。
「ひろみ、迎えに来たぜ」
いつか来るその日まで私は頑張ります。
今日の拓哉の学校のことは拓哉にとって光になったと思います。
だから今では明るい笑顔を取り戻したでしょう。
一時はどうなるかと思いましたが安心しました。
あの思いつめていた表情から今日は微笑みを取り戻したでしょう。
明日からはクラス全員での登校です。
拓哉、頑張ってね。
勉強にも仕事にもしっかり頑張ってね。
そして私はジュニア公演の幕が開こうとしていた。
私は今を精一杯頑張っていく。
いつか本公演でトップの娘役になりたいという夢ができてきた。
それはまだまだ先の話だが夢は大きく持つのも大切なことだと言っていた。
その夢に近づくまで今与えられたことを頑張っていこう。
それが私の進む道だから…。
「ひろみ、お疲れさん」
「圭織、お疲れ様」
「暗くなってもファンの子らは待っててくれんやな。
ありがたいな、うちらも頑張っていこうな」
「そうだね、一緒に頑張ろうね」
「車とってくるから一緒に帰ろう」
「うん」
私は圭織と一緒に稽古場を出て家路に向かった。
「ありがとう、圭織。また明日ね」
「お疲れさん、また明日な」
家に戻った私に留守番電話がかかっていた。
相手は拓哉だった。
「ひろみ、ジュニア公演見に行けなくてごめんな。
家に帰ってからオヤジに叱られるのかと思ったら、
逆によくやったって言われて驚いたよ。
だけど、おふくろのカミナリがおさまらなくて
今日は外出禁止を言われたんだ。
心配かけてごめんな。そして、ありがとう」
拓哉の声が弾んでいるのがわかった。
元気そうで安心した。
拓哉、私はあなたが元気になればそれで十分よ。
明日から勉強頑張ってね。
もう無茶なことしないでね、約束よ。




