ビロードの闇
夏休みになり拓哉と一緒に長崎に行くことになった。
二人で旅行に行くのは初めてで嬉しかった。
私たちは新幹線のグリーン車に乗り博多駅で
白いかもめに乗り換えて諫早駅に向かった。
諫早駅では拓哉の友達の尚志くんと和彦くんそして彰くんが待っていた。
「拓哉、紹介するよ。オレの妹の絵梨、今度のドリームランドを受験するんだ」
「よろしくお願いします」
絵梨ちゃんは明るくて素直な子だった。
容姿は娘役が似合う可愛らしい感じの子だった。
「絵梨はね、オレたちの学校の女子部なんだ。
だから、ひろみさんの後輩になるんだよ」
「私、ひろみさんに憧れているんです。
歌も踊りもとても素敵で舞台は毎回見ています。
今日は会えて嬉しいです」
「どうもありがとう、受験頑張ってね。応援しているから」
「はいっ、ありがとうございます」
和彦くんと絵梨ちゃんは双子だけど、あまり似ていない。
二人とも自分の夢に向かって頑張っているのがわかる。
彰くんは真面目な優等生。
拓哉のクラスでクラス委員をしていて、
成績が学年で十番以内に必ず入っている秀才だと聞いている。
「彰ってすごいんだぜ。この前の期末テスト、クラスで一番だったんだぜ。
それに学年でも三位だったんだから信じられないぜ。オレも負けられないな」
拓哉が彰くんを意識しているのが伝わってくる。
拓哉自身は気づいていないけど、
彰くんに負けたくないと思っているに違いない。
私も歌姫になりたくて毎日声楽の個人レッスンを受けている。
涼子先輩のように歌を歌えてお芝居もできる娘役になりたい。
それが今の私の夢だから。
「ひろみは頑張っているわね。美奈子先輩が褒めていたわよ」
美奈子先輩に褒められると嬉しい。
それだけ今の努力が上級生に認められていることになるのだから。
「今から宿泊するホテルまで電車で移動するぜ。
今からだと、ちょうど止まっている電車に乗れる。
急いで行こうぜ」
それから私たちは尚志くんたちと合流して島原鉄道に乗った。
諫早から島原まで休講で約1時間かかるそうだ。
「ラッキー、急行列車だったぜ」
「よかったね、席がすいていて」
私たちは急行列車に乗って島原駅まで乗った。
そして私たちの泊まるホテルはタクシーで約10分のところで、
海辺の景色がよく見える港の近くの場所だった。
海の景色がとても綺麗だった。
「ひろみ、いるか?」
「なぁに?」
「今夜、花火大会が近くであるそうだぜ。
いろんな屋台が出ているから楽しみだな」
「うん、そうだね」
「どうしたんだよ?何か心配事でもあるのか?」
「うん、例のストーカーが来ていたらって不安になって…」
「そうか、遠く来たからって油断できないからな。
オレたち逸れないように気をつけような」
「うん」
この悪い予感は当たってほしくない。
できればこのまま平穏無事で旅を終えたい。
そんな気持ちでいっぱいになっていた。
「ひろみ、大丈夫だ。オレがついている。何も恐れることないからな」
「うん」
拓哉に抱きしめられると安心する、
いつまでもこうしていたい。
だけど、悪い予感が当たるのが怖い。
拓哉、私だけをずっと見つめていてくれる?
お願い、拓哉。
私の苦しい気持ちを軽くして。
あなたの腕のなかにいるだけで私は幸せだから。
「ひろみ、怖いのか?震えているぞ」
「うん、怖い。拓哉、このまま抱いていて」
拓哉は返事の代わりに私の髪を撫ででくれた。
「ひろみ、愛しているよ。オレが守ってやるよ」
そして、夜になり花火大会が始まりました。
花火はとても綺麗でした。
ところが私は途中で人ごみの中に迷ってしまいました。
拓哉と逸れてしまい不安になってしまいました。
そして、悪い予感は当たってしまいました。
毎日稽古場で待っていた連中が私に近づいてきました。
とにかく私は逃げるしかありませんでした。
「拓哉、助けて!」
「こんな人ごみで助けは来ないよ。おとなしくしな」
拓哉は私がいなくなったのに気づいたのか彰くんと一緒に探していました。
私は何度も抵抗していました。
そのたびに気を失いそうになりました。
そのうちに拓哉と彰くんが私を見つけてくれました。
「何やってんだ!この野郎、待ちやがれ!」
彰くんが逃げる連中を追いかけて行きました。
「ひろみ、大丈夫か?」
「拓哉、怖かった。でも来てくれるって信じていた」
「よかった、おまえが傷つけられなくて」
それ方お互いにキスをしていた。
服は破かれていたのを見て拓哉は自分の上着を私に着せてくれた。
「拓哉、ダメだった。見失ってしまった」
「俊足のおまえでも見失うくらいなら足には自信があるんだろうな」
「それより、ひろみさんは大丈夫か?」
「危ないところだったぜ。もう少し遅かったらやられていたよ」
「とにかく、ひろみさんが落ち着くまで一緒にいてやれよ」
「拓哉、何があったの?」
心配になって尚志くんが駆けつけてくれた。
「尚志、ひろみはストーカーに遭っていたんだよ」
「なんだって!?」
「無言電話に稽古場での待ち伏せ、そして挙句の果てに
ひろみをレイプしようとしたんだよ」
「ひどすぎるよ、ファンとして許せない行為だよ」
拓哉と尚志くんの話はさらに続いた。
「拓哉、最近ファンの追っかけ本が出ていて、
その中でドリームランドの追っかけ本があったんだ。
だから、それでストーカーをしたんだと思うよ」
「それじゃ、今までのストーカー行為は
追っかけ本を使っていたっていうのか?」
「おそらく間違いないと思う。だから、許せないよ。
ファンなら堂々と応援すればいいのに」
拓哉が来てくれなかったら恐ろしい目に遭っていた。
もう二度と拓哉に顔を見せられない辱めに遭っていただろう。
それを思うと涙が止まらなかった。
「オレたち先に行くからゆっくり来いよ。行こうぜ、尚志」
彰くんと尚志くんは気を遣い、私と拓哉の二人だけにしてくれた。
「ひろみ、もう泣くな。オレが守るって言っただろう?
忘れたのか?おまえを悲しませる奴は絶対に許さない。
この仕返しは必ず倍にして返してやる」
「辱めを受けていたら拓哉に顔向けできない」
「死ぬなんて言うなよ。オレのために生きてくれ、愛しているから」
「拓哉、ありがとう」
何度も何度もキスをしていた。
だけどキスをしても足りなくなっていた。
心のなかで私を奪ってほしいと願っている、
それが恐ろしいことだとわかっていても…。
だけど、本当は怖い。
「拓哉、やめて!」
「だめなんだよ!もうキスだけじゃ繋がらないんだよ!」
拓哉の苦しい気持ちは私と同じだった。
「おまえのすべてをオレに任せられるか?イヤならやらない」
拓哉、あなたは私にキス以上の深い仲になれって言うの?
もう迷っていられない。
「女の操は愛する殿方に捧げなさい」
もうその時が来たって言うの?
私、どうしたらいいの?