表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ME&MYBOY  作者: 真矢裕美
10/40

雨のメロディー

6月に入って毎日が雨の季節になりました。

私は最近劇団の稽古がない時に圭織たちと一緒に野球観戦に行きます。

圭織が阪神タイガースのファンでよく甲子園球場に行きます。

大声で応援するとストレス発散できるから不思議ですね。

そんな圭織ですが最近元気がありません。

聞いてみたら、おばあちゃんが病気だって言っていました。

「うちの家クリーニング屋なんよ。衣替えの時いつも家の手伝いさせられたわ。

でもな、家族でなんかやるって楽しいねんで」

そう言っていた圭織は今舞台稽古に姿を現していません。

何かあったんでしょうか?

「ひろみ、圭織から電話だ」

「はいっ、もしもし圭織?」

「あっ、あんな、今朝早くにうちのばあちゃん亡くなったんやわ。

四十九日まで舞台稽古出られないから、

うちの分まで同期生引っ張ってな、たのむで」

「わかった、圭織。気を落とさないでね。

圭織が帰るまで私、頑張るから安心してね」

「ありがとう、ひろみ。みんなのこと頼んだで」

圭織から同期生みんなを任された私は、

稽古場に集合していた同期生に圭織のことを伝えた。

「みんな、私は圭織のような決断力がないから

みんなに力を貸してもらいたいの」

「大丈夫だよ、私たちは今までのひろみを信じているから

圭織の分まで応援するよ」

「ありがとう、みんな。これからみんなで力を合わせて団結していきましょう」

私は圭織が戻るまで同期生の団結力を強くしていこうと決心していた。

そして翌日、私は雅、美紀、未来と一緒に圭織の家に行った。

圭織は5人兄弟の長女で弟や妹の面倒をいつも見ていた。

「うちな、兄弟が多いから毎日戦争や。喧嘩したら親の鉄拳飛ぶからな」

そう言って私たちに話してくれた圭織。

おばあちゃんが亡くなったせいか静かに参列者の対応をしていた。

私は一人っ子だから兄弟の多い圭織が羨ましかった。

そのことを圭織に話したら、

「うちも一人っ子になってみたいわ。欲しい物みんな独り占めできるやん」

と言われたことがある。

この日私は雅たちと圭織一家に挨拶するだけにしてそれぞれの家路に着いた。

私も家族の誰かが亡くなったらどんな気持ちになるんだろう?

そう考えていた時に下の部屋からおばあちゃんの声がした。

「ひろみ、茶室でお茶をたてておくれ」

「はいっ」

私は、おばあちゃんの言うまま茶室でお茶をたてていた。

「ひろみ、人間にはそれぞれ寿命があるからね。悲しいことだけど、

それを悲しんでいたら相手が天国に行くことができなくなる。

今はしばらく友達をそっと見守っておやり。時間がたてば

必ず立ち直ることができるから」

「おばあちゃん、知っていたの?圭織のこと」

「おまえの考えていることはお見通しだよ。友達を大切にする気落ちは

わかるが、今は静かに見守るのも大事なんだよ」

「わかった、おばあちゃんが言うなら静かに見守っていくよ。

ありがとう、気持ちのモヤモヤが吹っ切れたよ」

「そうかい、それを聞いて安心したよ。

しっかり同期生をまとめて友達が帰るのを待つんだよ」

おばあちゃんは知っていたんだ。

私が圭織のことを心配しすぎてないかって。

ありがとう、おばあちゃん。

私、圭織が帰ってくるまで頑張るからね。

そして、圭織が留守の時期が長くかかりました。

その間、私の仕事は増えて忙しくなりました。

「ひろみ、頑張っているわね。この頃の1年生みんな、しっかりしてきたわよ」

「ありがとうございます、はるみ先輩」

「だけど、体を壊しちゃダメよ。心配事がその分増えるんだからね」

「はいっ、ありがとうございます」

はるみ先輩が一番の憧れの女優さん。

私もいつか誰かに憧れる女優になれるかな?

今はわからないけど、与えられたことをこなしていこう。

「ひろみ、疲れているみたいだけど大丈夫?」

しばらく激務が続いた私を心配して雅が聞いてきた。

「大丈夫だよ、次のレッスンに遅れるよ。急がなくちゃ」

「本当に大丈夫?顔色悪いよ、今日は瑠璃子先生に言って帰らせてもらったら?」

「大丈夫だよ、次のレッスンはピアノだから」

私と雅のやり取りを聞いていた美紀と未来も心配して駆けつけてきた。

「ひろみお姉さん、今日は帰ったほうがいいよ」

「そうよ、私が瑠璃子先生に話をしてくるよ」

「みんな、心配性なんだから。大丈夫だって言っているじゃない」

そう言った私は一瞬フラッとしていた。

それを見た雅が言った。

「ほら、やっぱり体調が悪いんだ。早く帰るように瑠璃子先生に言ってくるよ」

「あなたたち、廊下で何を騒いでいるの?」

たまたま通りかかった瑠璃子先生が私たちに声をかけてきた。

「瑠璃子先生、実は石川さんが気分を悪くしているんです」

「ひろみ、顔色が悪いわね。今日は帰りなさい。

寛には私から話をしておくから」

そんな時だった。

私の意識が遠のいて廊下で倒れてしまっていた。

「救急車を早く呼んで!雅は急いで寛を呼んできて!」

瑠璃子先生が急いで救急車を呼んで私は阿倍野区の大学病院に運ばれていった。

病室には寛先生が両親に私の病状を話していた。

「そうですか、娘は責任感が強いですから無理をしたんでしょう。

しばらく養生すれば元気を取り戻すでしょう」

「娘さんにゆっくりするように伝えてください。では、失礼します」

「ありがとうございました」

私は大学病院で入院することになった。

過労が原因での発作だったことから精密検査を受けることになった。

私が意識が戻った時はは病室のベットにいた。

右腕には点滴がつながれていた。

「ひろみ、気がついたのね。よかったわ、寛先生と瑠璃子先生が

知らせてくれたのよ。疲れが出たからゆっくり休みなさい」

「お母さん、みんなのことはどうなるの?」

「心配しないでいいのよ。

瑠璃子先生が代わりをしてくれることになったから。

お友達も心配してきてくれたのよ。

しばらく安静にしていたら元気になるからって

言ったら安心して帰っていったわよ。

だから何も心配しないでゆっくり休んでちょうだいね」

雅たちが来てくれたんだ。

結局、私は何をやっていたんだろう?

みんなに心配かける結果をつくっただけじゃない。

自暴自棄になった私は一人涙を流していた。

悲しくて泣いているんじゃない。

悔しくて悔しくて涙が溢れて止まらなかった。

「ひろみ、入るわよ」

はるみ先輩が雄哉さんと一緒に見舞いに来てくれた。

「また落ち込んでいるんじゃないかって思ってたら当たりだった。

ひろみは圭織の分まで頑張ったじゃないの。

3年の同期生や上級生が褒めていたのよ。

1年生は委員がしっかりしているから団結力が強いって」

「本当ですか?」

「本当よ、だから自信持っていいんだからね」

はるみ先輩の言葉に私はホッとしていた。

私の努力は周りの上級生に認められていたんだ。

頑張れば頑張った分認めてもらえる。

私の努力は報われたんだ。

「ひろみちゃん、今は体を休めて早く元気になろうね」

「ありがとうございます、雄哉さん」

雄哉さんの言葉が温かく私を安心させてくれた。

私にも安心させてくれる男性にめぐり会えるかな?

その男性が拓哉くんなら私は嬉しい。

「ひろみ、拓哉くんがお見舞いに来てくれるといいね」

「えっ?そんなことありえないですよ」

「それはどうかな?

もしかしたら、彼も同じ気持ちだったってことあるからね。

僕とはるみがそうだったから」

拓哉くんも同じ気持ちでいる?

まさか、夢物語だよ。

雄哉さんは私を励まそうとして言ってくれたんだよね、きっと。

でも本当は両思いだったら嬉しいなと私は思っていた。

私が倒れた頃、拓哉くんは学校で親友の西崎尚志くんから

私のお茶会が中止になったこと、そして入院先の病院の情報を知ったそうだ。

拓哉くんとの距離が縮まっていくのが秒読みになっていくのが

今の私にはまったく知る由もなかった。

雄哉さんの言葉どおりに本当になっていくのだろうか?

今の私は途轍のない夢物語を見ている気持ちだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ