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詐欺師の少女と旅する道化師

クリスマスの依頼とサンタの道化師(詐欺師の少女と旅する道化師 クリスマス特別短編)

作者: 浅木翠仙

クリスマス当日、午後3時くらいから書き始めたものです。

部活関係のイベントに参加していたもので、電車移動で酔いそうにながら書いたりしてました。

 やあ、地球の皆さん。どうやら君たちのところではクリスマスとやらみたいだねぇ。


 そう、クリスマス。


 残念ながら私にはそんなこと関係ないのだよ。

 ずっと廃墟に居るからね。

 世界を越えても廃墟だよ。


 ♪道化と言えば廃墟、世界の果てまで廃墟。やめれぇせん♪


 語呂が悪いね。

 地球人でも名古屋人しかわからないネタだね。いや、知っていてもわからないくらい語呂が悪かった気がするよ。


 まあラーメンはどうでもよくて、クリスマス。そんな風に私には関係ないことだと、思っていた時期もあったよ。


 過去形だ。


 何があったか、時はクリスマスの6日前に遡るよ。





 クリスマスの6日前。


 どうやらもうすぐ客が来るようだけど、一体どんな人だろうねぇ?


 可愛い女の子が良いね。

 肥え太った貴族様はやめてほしいよ。暑苦しくて堪らないからね。


「やあ、はじめまして。今日は依頼かな?」


 入ってきた人物に声をかける。

 見た目は……肥え太ってるねぇ……。

 いや、違うね。図体はでかいけど、多めの皮下脂肪の下にかなりの筋肉がある。

 どうやら彼は相当鍛えているようだ。


 そして貴族ではなさそうだね。


 大きい身体に立派な白髭、そして赤く暖かそうな服……。


「はじめまして。探しましたよ、私はサンタクロースと呼ばれる者です」


 どうやら、クリスマスは私に関係ないというのは気のせいだったようだね。

 まさかサンタクロースが依頼者とは。

 長く生きていると思わぬ経験をするものだね。


 しかしやはりサンタは身体を鍛えてるんだね。空高くからすごい速さの雪車(ソリ)に乗ってきて、屋根を登り煙突から入ってプレゼントを置いたら今度は煙突を登って帰っていく。

 生半可な体力で出来ることじゃないね。


 地球の公式サンタも、見た目はもちろん体力面でもなかなかの難易度のテストをクリアしないといけなかったはずだしね。


「それでどういう依頼なのかな?」

「世界を渡る力を使って、プレゼントを配る手伝いをしてもらいたいんだよ」


 わ、私にサンタさんの真似事をしろというのか……?


 何て面白そうなんだ!

 素晴らしい!

 こんな経験そうそう出来ることじゃあない!


 楽しさを求めるピエロとして放ってはおけないね。


「しかし、何で急に? 去年も、一昨年も、その前も一人で配っていたんだろう?」


 だが、まずは自分を抑えよう。

 事情を聞き出さないと。


 仕事をする上で、情報は重要だからね。

 情報不足というのは怖いんだ。ほら、どこぞの"こちら側"の女の人とか。


「一人ではないんだが……ええと、実はここ最近、異世界召喚とか転生とか流行っているだろう? そのせいで今まで無かった世界でもクリスマスが行われるようになってしまったんだよ……」


 ……。


「それで去年も世界を越えてプレゼントを配って回ったんだ。でも今年になって、去年始まった世界でさらに浸透して、また新たにクリスマスが出来た世界もあってね……」


 ……。


「もはやサンタの人手が足りないんだよ」


 ……。


「さらにプレゼントの準備も遅れ気味でね……」


 ……。


「サンタ総出で頑張ってるんだけど、忙しすぎて一番年長のサンタ・グレートが過労で倒れるんじゃないかとみんなヒヤヒヤしてるんだよ」


 ……どこからツッコんだら良いんだろうねぇ?

 というか異世界に行った人たち、サンタに迷惑かけてるんじゃないよ。

 いや、ていうか地球からどれだけ異世界行っているんだよ。


「それで、受けてくれるかな?」


 子供たちのヒーロー、サンタさん。

 ピエロは人々を、特に子供を笑顔にするのが仕事でもある。


 サンタを助ければ、それは間違いなく子供たちの笑顔に繋がるに違いない。


「―――準備の手伝いから、初回無料でやりましょう」

「ありがとう」


 私に断る理由も対価を請求する理由もなかったさ。



--------------




 修羅場。

 そう表現するのが一番的確であるだろう。


 とある世界のとある場所は熱気に包まれていた。


「そこっ! ノロい! 早くしろ!!」

「おいプレゼントのリボンが歪んでるぞッ!」

「何でプレゼントにサンタ帽が混じってるんだ!?」

「邪魔だ邪魔だ! 退け退け!!」

「おいついにサンタ・グレートが倒れたぞッ!!」

「俺の帽子がどっか行った!」

「発注ミスしてじゃねぇ! 今はポ○モンより妖○ウォッチの方が多いに決まってんだろ!」


 ゆうに100を超えると思われるサンタに囲まれて、一人の道化(ピエロ)も汗水を垂らして働いていた。


 それこそ笑顔も、茶化すような余裕も消して、ただ黙々と働いていた。


 スポーツをしているわけでもないのに息が上がり、腕も足も疲れ、それでも歯を喰い縛って身体を動かす。

 そんな内に彼の身体は疲れに麻痺し、動きがよくなり、気分もハイになってくる。


 周りのサンタは、それを優しい目で見つめていた。


 彼らはその段階をとうに越え、ただただ血ヘドを吐いてでもプレゼントの準備を終え配りきるために気合いだけで身体に鞭打って働いているのであった。


「終わったーッ!」


 全てのプレゼントの準備が終わったのは、あと数分でイヴを迎える最初の町が現れる頃になってからだった。


 その頃にはピエロの顔も穏やかな、悟りの境地を迎えたかのようなものになっていた。


 そこから全てのサンタが仮眠をとり、そしてクリスマスを最初に迎える場所が昼を迎える前からトナカイの準備を始める。


 これから過酷な重労働をすることになるトナカイの身体を温めないといけないからだ。


 そしてクリスマスへと日付が変わる少し前、サンタがトナカイに引かれ次々と自分たちの持ち場へと飛んでいった。


 その中には準備の途中で倒れ、その後はベッドで休まされていたサンタ・グレートの姿もあった。


 彼らは皆、優しい顔をしていた。

 子供たちへプレゼントと夢を届けるために空を、世界を駆ける。


 それは道化も同じであった。

 彼は世界を移動すると共に世界の理を弄り、トナカイに引かれる雪車に乗り込んだサンタへと姿を変えた。


 そしてその表情は、他のサンタとまったく変わらぬものだった。彼は既にサンタだった。

 道化であるにも関わらず、彼は既に心がサンタと同じになっていた。


 今年が初めてとは思えない、ベテランのサンタたちと遜色無い、本物のサンタ。



 この日、一人増えたサンタたちは夜空を駆け巡り、多くの世界に笑顔をもたらした。





「私は途中で倒れてしまい最後まで準備をやり遂げることは出来なかったが、みんなのおかげで無事、全ての子供たちにプレゼントを届けることが出来た。本当にありがとう。また来年のために頑張ろう! 乾杯ッ!!」

「「「「「「「「「乾杯ッ!!!!!」」」」」」」」」


 こうして今年のクリスマスは幕を閉じた。





 道化が後日、プレゼントも理を弄って準備すれば楽だったと気付いてショックを受けるが、それはまた別のお話。

読んでいただきありがとうございました。

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