表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

008話 開戦(1941年12月~1942年3月) 

●『1941年12月8日』

史実通り日本はアメリカと開戦した。


 南雲機動部隊は真珠湾攻撃を成功させる。

 

 ウェーク島攻略も開始したがこちらは難航しているようだ。

 

 陸軍もイギリス領のマレー半島に上陸作戦を行うと共に香港攻略作戦も開始した。

 

 また、外務省の不手際で日本の攻撃前にアメリカ政府に渡される筈であった宣戦布告通知は、攻撃後に渡され、卑怯なだまし討ちとアメリカ国民の憤激を呼び起こす事になった。


 全ては史実通りの展開だ。


 ただ、真珠湾攻撃の当日、連合艦隊司令部で開かれた幕僚会議で南雲機動部隊に真珠湾への再攻撃をとの史実通りの提言や、翌日に連合艦隊司令部で開かれた幕僚会議でこれまた史実通り、黒島参謀が南雲機動部隊へ真珠湾への再攻撃を命じてほしいと要望してきた時には、ちょっと心が動いた。


 特に真珠湾の燃料タンク(重油タンク)を爆撃してその大半を破壊炎上させれば、アメリカ太平洋艦隊の行動は大きく制限される可能性が高い。

 これは戦後、アメリカ側からも指摘されている事だ。

 ニミッツ提督も自著で、それをされたら困った事になっていただろうと語っているぐらいだ。


 それに史実では開戦初期、アメリカはドイツのUボートの攻勢で多数のタンカーを沈められてしまい、タンカー不足に陥っている。それも国民生活に影響が出るレベルでだ。その対応策としてアメリカ南部の油田地帯から北部にパイプラインを建設する事態にまでなっている。


 つまり、ハワイの燃料タンクを破壊炎上させる事ができれば、そのタンカー不足に拍車をかけ、さらにアメリカの石油事情を悪化させる事ができる。


 それに、もしうまく行けばミッドウェー島への飛行機輸送任務をしていた空母レキシントンと、やはりウェーク島への飛行機輸送任務をしていた空母エンタープライズの2隻の空母を叩ける機会が巡ってくるかもしれない。1隻でも叩ければ大きい。


 しかし、逆にこちらの空母を沈められるかもしれない。

 

 ともかく実に魅力的な案ではある。

 魅力的な案ではあるが、ここで史実から外れ歴史を動かすと、自分の狙いに狂いが生じる恐れが高いので、史実通り黒島参謀の要望は却下した。


 ところで現代日本で真珠湾攻撃の再攻撃の可能性が語られる時、どういうわけか「重油は燃えない」から燃料タンクを爆撃しても無駄という説が出てくる。


 開戦初期、キャビテ湾のアメリカ軍の重油タンクは日本軍機の爆撃で炎上している。

 1944年のトラック島大空襲で、アメリカ軍艦載機の攻撃によりトラック島にあった日本の重油タンクは炎上している。


 重油タンカーの例も沢山あるので一例だけ上げると、1944年に日本に向かう途上の極運丸は重油1万2千トンを積んでいたが、アメリカ軍艦載機の爆撃により積み荷の重油が炎上した。


 それに真珠湾攻撃の被害にあった戦艦ウエストバージニア、アリゾナ、カリフォルニアの3隻は燃料の重油に引火し重油火災を起こしている。


「重油は燃えない」なんて事は無い。「重油は燃える」

戦史が史実がそれを実証している。


 現代日本の消防法においても重油は危険物指定を受けている。

 それも引火性液体の第4類としてだ。

 ガソリン等に比べると引火点が高いため、ガソリンのような引火点の低い引火性液体に比べれば確かに引火しにくいとは言えるだろうが、燃えないという事は無い。


 一体、どこから「重油は燃えない」という説が出て来たのだろうか。全く不可解だ。


 それにしても宣戦布告の遅れは痛い。

 何とか遅れる事なくアメリカ側に宣戦布告通知を渡せないものか開戦前に工夫を凝らそうとしたが、如何せん権限の及ばない外務省の仕事なだけに難しく上手くいかなかった。残念だ。


 この件について、史実における山本五十六連合艦隊司令長官は、南方攻略作戦の掩護のためにアメリカ主力艦隊を叩く事を目的としていたとは言え、その他にアメリカ軍に大打撃を与えてアメリカ国民に衝撃を齎し戦意を喪失させる意図もあった節があるから、逆に戦意を煽る結果になり残念だっただろう。


 尤も、自分の考えでは、たとえ宣戦布告通知が攻撃前にアメリカ政府に渡されていたとしても、やはりアメリカ国民の戦意を煽る結果になっただろうと思う。


 そもそも太平洋で日本軍がアメリカ軍に打撃を与えて続けたとしても果たしてアメリカ国民の戦意を喪失させる事ができるものなのか、その可能性については「世の中に絶対は無い」から無いとは言わないが、その逆も十分あると考えている。


 自分が現代日本で暮らしていた頃のアメリカならば、海外での自軍の犠牲者に敏感で大きな被害を受ければ腰砕けになる可能性は十分に考えられた。


 1993年のソマリアの平和維持活動中に起きた「モガディシュの戦い」などはそのいい例だろう。

 ソマリア民兵との戦いで死亡したアメリカ軍兵士の死体が引きずり回される映像が世界に発信され、それを見たアメリカ国民に衝撃が走り、世論はソマリアからのアメリカ軍撤退に傾いていった。そしてアメリカ政府もアメリカ軍をソマリアから撤退させるに至る。


 それより前のベトナム戦争においても遠いアジアの地でアメリカの青年が犠牲になる事に納得できないアメリカ国民が反戦運動を起こし、その動きが最終的にはベトナムからのアメリカ軍撤退に結び付いた。


 しかし、太平洋戦争の場合はアメリカ国民にしてみれば先に攻撃を仕掛けられた自衛戦争だ。日本から遅れたとは言え宣戦布告もされている。

 ましてや攻撃を受けたハワイは外国ではなくアメリカ領土だ。

 外国での戦争ならば自国の兵士が死ぬのを忌避しても、アメリカ領土ならば、自国を守るというのならば話は変わってくるだろう。

 アメリカは現代においても国民に拳銃の所持を許し、自衛する権利というものを大きく捉えている国なのだ。


 そして自分の生きた現代日本と今の世界の大きな違いに情報伝達手段の格差がある。

 現代日本の時代の世界は、テレビがあり、携帯電話があり、インターネットがあり、国の制度にもよるが自由陣営の国の人々は世界中の情報をお茶の間にいながらにして、得る事ができた。


「モガディシュの戦い」の衝撃の映像もそうしてテレビで放送されたからこそ、アメリカ国民に衝撃を与え大きな反響を呼び起こす事になった。


 しかし、この1940年代の世界では、そこまで情報伝達手段が発達していない。

インターネットも携帯電話もテレビさえ無い。

 国民は主にラジオ、新聞、雑誌で情報を得る事をしている。

 他にはニュース映画があるが全国民が見れるというわけでもない。

 

 現代の様にテレビ等による「動く衝撃の映像」を見る機会というものは少ない。

 写真が精々で、それさえ現代のようにはカメラが普及していないから、撮られる写真の枚数で言えば現代社会には全く及ばない。

 ただ中には大きな影響を与える写真もある事にはあったが。

 

 それ故に1940年代は現代のように「映像」が人々の心へ働きかけ社会を動かすという点においては一歩劣っている。

 第一次世界大戦でアメリカ軍は13万人の兵士が戦死した。だからと言って第一次世界大戦の最中にアメリカ国内で大規模な反戦運動が起こりヨーロッパから撤退しようという大きな声が上がるような事は無かった。


 だが「モガディシュの戦い」での戦死者は19人にも関わらず撤退の大きな声が上がった。

もし「モガディシュの戦い」で死体が引きずり回されるような映像が発信されなかったら、アメリカ国民からは撤退を促す大きな声は上がらなかったのではないかと思う。


 つまり、「アメリカ国民にとり宣戦布告をされ国土を攻撃された自衛戦争」「情報伝達手段の未発達」という要素から、日本軍が太平洋で幾らアメリカ軍に打撃を与えても、自分としてはアメリカ国民から戦争を止めるという声を引き出すのは難しいと考えている。

「リメンバー・パールーハーバー」の掛け声はそう容易くは崩せないと考えている。

 

 太平洋での局地的な日本の勝利の連続はアメリカ国民を失望させるだろうが、それはルーズベルト大統領と民主党への支持率を低下させ政権の交代を早める事になる程度の事ではないかと思っている。

そしてアメリカが共和党政権になったとしても戦争は続くだろうと。



◯海外の動きとして本日、アメリカとイギリスが宣戦布告をして来た。

 それに続きアメリカとイギリスの影響の大きい中米の国々も宣戦布告をして来た。

 コスタリカ、ドミニカ、ホンジュラス、グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドル、ハイチだ。

 

 また、メキシコとコロンビアが国交断絶を通告して来た。

 まぁ史実通りだ。中米の小国達が一斉に敵対したという処だが、今の処は大して悪影響はない。お好きにどうぞ、と言ったところか。




●12月9日、特に史実から逸脱するような事は起きていない。


◯海外の動きも史実通り、パナマが宣戦布告して来た。遅いぞパナマ。みんなに遅れてるぞ。




●12月10日、「マレー沖海戦」が起こり史実通り海軍航空隊がイギリスの戦艦プリンス・オブ・ウェールズとレパルスの2隻を撃沈した。


 この日はマリアナ諸島においてグァム島攻略戦が行われたが、この島の総督兼守備隊長だったアメリカ軍のマクミリアン大佐は史実通り直ぐに降伏している。

何でもグァムは日本軍からは守り切れないとしてアメリカ軍としては降伏する事が最初からの予定だったらしい。


 マクミリアン大佐には同情する。最初から味方に切り捨てられる事が予定の指揮官にはなりたくないものだ。部下だっているのに。哀れすぎる。


 また、史実通り陸軍がフィリピンに上陸作戦を行っている。


◯海外の動きも史実通り、オランダとキューバが宣戦布告して来た。

まぁ史実通りの話ではある。




●12月11日、ウェーク島の攻略は史実通り完全に失敗した。

 そして史実通り真珠湾攻撃から帰投中の南雲機動部隊から第二航空戦隊の空母「蒼龍」「飛龍」と、第8戦隊の巡洋艦「利根」「筑摩」と、第17駆逐隊の駆逐艦「谷風」「浦風」を分派してウェーク島攻略部隊の増援に向かわせた。




●12月16日、史実から逸脱するような事は何も起きていない。


◯海外の動きも史実通り、イラクが国交断絶を通告して来た。




●12月18日、特に史実から逸脱するような事は何も起きていない。


◯海外の動きも史実通り、ベルギー亡命政府が国交断絶を通告して来た。イギリスとアメリカの歓心を買おうと必死という処か。まぁ気持ちはわかる。アメリカとイギリスの力を借りなきゃベルギー本国を取り戻す事はできないからね。




●12月20日、史実から逸脱するような事は何も起きていない。


◯海外の動きも史実通り、ベルギー亡命政府が宣戦布告をして来た。2日前に国交断絶をしたばかりだろうに。それなら最初から宣戦布告をして来なさい。




●12月22日、特に史実から逸脱するような事は何も起きていない。


◯海外の動きも史実通り、ギリシャ亡命政府が国交断絶を通告して来た。イギリスとアメリカの歓心を買おうと必死という処か。まぁ気持ちはわかる。アメリカとイギリスの力を借りなきゃベルギー本国を取り戻す事はできないからね。


 何か同じような事を書いてばかりのような気が……まっいいか。




●12月23日、史実通りウェーク島は陥落した。




●12月25日、香港のイギリス軍が降伏し史実通り香港は陥落した。




●その後も年末まで史実通りの展開が続き波瀾は何一つ起きなかった。


 ところで海軍軍令部に対し、真珠湾攻撃の成果、マレー沖海戦の成果等から、今後の戦いは航空機が主力であり、特に空母の増勢が必須であると強く要望しておいたが、きっと効き目は無いだろう。





●『1942年1月』

年が明けた。1942年の始まりだ。


陸軍の南方攻略作戦は史実通り順調に進展中。

1月2日にはフィリピンのマニラを陥落させている。

1月9日からはフィリピンのバターン半島に立て籠もったアメリカ軍に対して攻撃を開始している。

1月10日にはインドネシアへの上陸作戦を開始している。

1月20日にはビルマ攻略戦が開始されている。

1月23日にはオーストラリア領のラバウルへの攻略戦が開始されている。


南雲機動部隊も1月中旬から二手に分かれビスマルク諸島攻略支援や南方攻略作戦の支援等、史実通り頑張ってくれているようだ。


 そんな1月の清々しいある日の事、黒島参謀が「K作戦」を立案し実行の認可を求めて来た。

いかん。迂闊な事に「K作戦」の事は失念していた。史実通りなのに。


「K作戦」は大型飛行艇の二式大艇でマーシャル諸島を出撃し、途中で潜水艦から給油を受けて、夜間にハワイを空襲しようという作戦だ。使用する二式大艇は2機。潜水艦は3隻だ。

 ハワイではアメリカ軍は夜間も煌々と明かりを付け、大車輪で復旧作業を進めているらしい。

それを妨害しようというわけだ。

 

 史実での山本五十六連合艦隊司令長官はこの作戦に随分と乗り気であったらしい。

 第六艦隊(潜水艦部隊)が難色を示しても強硬に実行させたという話だ。


 だが、しかし、自分は「K作戦」を却下した。

 この作戦では二式大艇に給油するため、事前に潜水艦を3隻も改装しなければならない。

 

 しかも、その選ばれた潜水艦は「伊15」「伊17」「伊26」で、どれも1940年から1941年に就役したばかりの新鋭艦だ。

 この3隻は真珠湾攻撃に参加した後、そのままアメリカ本土西海岸にまで進出し通商破壊戦を繰り広げてもいる。


 つまり、史実よりも通商破壊戦を強化したい自分にとって、最も期待する潜水艦たちなのだ。


 戦力に余裕があるのならいいが、数が十分とは言えない潜水艦を3隻も、それも新鋭艦を改装して、かなりの期間、本来の任務から外すというのは反対だ。


 つまり「K作戦」については、史実でこの作戦に反対した第六艦隊(潜水艦部隊)と自分は意見が一致しているのだ。期待の新鋭潜水艦を3隻も給油任務につけるよりは通商破壊戦に従事させた方がいい。

だから却下した。


 そもそも開戦前、史実通り日本の潜水艦は62隻しかなかった。

 

 開戦によりハワイ方面に出撃した潜水艦は30隻で、これらは全て大型の「伊」号型の潜水艦だ。


 南方攻略部隊支援のために出撃した潜水艦は「伊」号型が16隻で、小型の「呂」号型潜水艦が2隻だ。


 さらにウェーク島等、南洋方面に「呂」号型潜水艦が9隻出撃している。

 残りは訓練用だ。


 そして現時点では既に3隻が敵の攻撃や事故等で失われている。


 史実ではこれより先、さらに潜水艦の損失は増えるし、旧式艦もあるからそういう艦は退役していく。


 対アメリカ戦に割ける大型の「伊」号潜水艦は現時点で29隻しかなく、それも一度任務から帰還した後は艦体の整備や補給、乗組員の休養の必要性もあり、常に全艦が太平洋で活動している状態にあるわけではない。

使える潜水艦は貴重なのだ。


 それに、飛行艇2機で落とせる爆弾の数は少なく、目標を捉えるのが難しい夜間爆撃である事もあり、直接的に大きな被害を敵に与える事は難しい。間接的に敵の動きを妨害するとは言ってもどこまで効果が見込めるかも不明だ。


 だが発想は悪くない。この「K作戦」の構想はもっと別の機会が訪れた時に使った方がいいだろうと黒島参謀に言っておいた。


 ここで史実と違う道を一つ選んだが、まぁ歴史に大きな影響は与えないだろう。




●1月24日、「バリクパパン沖海戦」が起き、味方の輸送船4隻が一方的に撃沈され、輸送船2隻が小破し、哨戒艇1隻が大破した。敵の損害は駆逐艦1隻が小破しただけだ。史実通りの日本の敗北だ。


 この海戦はアメリカ海軍において太平洋戦争が始まって以来、初めての水上艦部隊による海戦であり、初めて勝利だ。だからアメリカ側の呼称「マカッサル海戦の勝利」として大々的に宣伝している。

 日本は、というより大本営は被害が出たどころか、海戦があった事すら公表せずにいる。


 なるほどこれが都合の悪い事は隠す大本営発表か。いや発表していないから大本営発表にはならないか。



◯ 海軍軍令部の情報部から国際情勢に関する情報が届けられた。


 それによると、1月1日にアメリカの首都ワシントンに26カ国の代表が集まり枢軸国を敵にする事が確認されたそうだ。敵国の多さに溜息が出る。


 1月7日にアメリカのルーズベルト大統領がアメリカ議会に予算案の提出をしたそうだ。今年中に生産される船舶は800万トン、戦車は4万5千両、航空機6万機の予定らしい。

凄い数だ。


 1月17日に南アフリカ議会でイギリスからの独立運動を一旦停止する事が決まった。

 いかん。迂闊な事に南アフリカについては失念していた。イギリスから独立して中立にでもなってくれれば助かるのに南アフリカについては全く研究していなかった。残念だ。



 1月28日、ボリビアとブラジルが国交断絶を通告して来た。たまには味方が増えたという話を聞きたいものだ。



 1月29日にはソ連とイギリスがイランとの同盟条約に調印した。これでアメリカとイギリスがソ連に提供するレンドリース(軍事供与)がイラン経由で運ばれる事が可能となる。

 このルートをインド洋で遮断しなくてはならない。大仕事だ。


  全ては史実通りの国際情勢とは言え嫌な展開だ。





●『1942年2月』

 2月になった。現代日本なら一大イベント「バレンタインデー」のある月だ。

でもこの時代ではチョコを贈る習慣はまだ根付いていない。

史実通り山本五十六という男はもてる。とてももてる。従兵長が毎日のように自分あてのファンレターを持ってくるのだ。

 もし、現代のようにバレンタインデーにチョコを贈る習慣があったとしたら、自分は山ほどチョコを貰えていただろうに。残念だ。


 ちなみに女性だけでなく小さなお子様からご老人まで激励と信頼のお手紙を下さる。

 史実の山本五十六連合艦隊司令長官はそうしたお手紙に欠かさず自ら丁寧に返信を書いていたそうだ。

 だから自分も頑張って書いている。でも腱鞘炎になりそうだ。




●2月1日、史実と同じくアメリカ空母部隊がマーシャル諸島とギルバート諸島に攻撃を加えて来たが、これも史実と同じく敵空母を捕捉し沈める事はできなかった。




●2月4日、「ジャワ沖海戦」が起きるが、これも史実通り味方の損害無くアメリカの巡洋艦2隻に損害を与える展開。

 また、この日はラバウルのオーストラリア軍が降伏し史実通り完全にラバウルを占領した。




●2月14日、開戦以来、水上艦部隊としては最も遠い海域で作戦を遂行していた「第24戦隊」が無事帰還し、戦隊司令官の武田少将が連合艦隊司令部にその活動成果の報告に来た。


「第24戦隊」は「報国丸」「愛国丸」の特設巡洋艦で編成された通商破壊戦部隊だ。

 アメリカとオーストラリア、ニュージーランド間の航路で通商破壊戦に従事していた。

 所謂ドイツ海軍の仮装巡洋艦の日本海軍版だ。


 開戦前、この「第24戦隊」の使用については誘惑にかられた。

 パナマ運河を攻撃させようかと。


 太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河は海上交通の大動脈だ。

 それにアメリカの造船所は西海岸よりも東海岸に多い事もあり、軍艦の多くは東海岸で建造され就役し、乗組員を乗せ訓練しパナマ運河を通って太平洋に進出する。


 経済的流通と軍艦の移動を妨害し、戦争遂行を妨げるにはパナマ運河を破壊するのは有効な手だ。

だから「第24戦隊」を使用しパナマ運河を破壊できれば大きい。


 真珠湾攻撃開始にタイミングを合わせ「報国丸」「愛国丸」から搭載機の水上偵察機を出撃させ、パナマ運河を爆撃し破壊させるのだ。


 実は史実でドイツでもパナマ運河破壊作戦が計画されていたという話がある。

2隻のUボートに分解した爆撃機を一機づつ載せ、パナマ運河近くまで運び適当な地上で密かに爆撃機を組み立てて飛ばしてパナマ運河を爆撃させるというのだ。

 ドイツにはパナマ運河建設に携わった技術者がおり、その人物からパナマ運河の構造的弱点を知る事ができた事から爆撃する機数は少なくても破壊可能との事だったらしい。

 結局、その作戦はアメリカ側に情報が洩れ中止になったとの事だ。


 しかし、これは本当の話なのだろうか? Uボートで分解した爆撃機を運び現地で組み立てる? 初めてこの作戦の事を知った時は驚いたというより半信半疑だった。

 もし、現代日本に帰れる事ができた場合は、この作戦についてもっと詳しく調べてみたいと思う。


 ただ、自分が海軍次官の時に海軍軍令部の情報部を通じて、ドイツの日本大使館の駐在武官に指示して、ドイツ人情報協力者を使ってそのパナマ運河建設の技術者を極秘に探させたのだが、その人物は実在しパナマ運河の構造的弱点も内密に知る事に成功している。やはり実話だろうか。


 それはともかく、結局、「報国丸」「愛国丸」に搭載されている水上偵察機の爆弾では破壊力不足の可能性が高い事と、もしパナマ運河が破壊できた場合、あまりに歴史が変わり、後の自分の狙いに狂いが生じる恐れが高いので、パナマ運河の攻撃を実行させる事はしなかった。


 しかし、何れは破壊する事になるだろう。ならないかな?




●2月15日、陸軍は史実通りシンガポールを陥落させイギリス軍を降伏させた。




●2月19日、「バリ島沖海戦」が起きオランダの駆逐艦1隻を沈め、味方は駆逐艦1隻が大破する史実通りの展開に。

 また、史実と同じくこの日はアメリカ空母部隊がウェーク島に攻撃を加えて来たが、これも史実と同じく敵空母を捕捉する事に失敗し沈める事はできなかった。




●2月27日、「スラバヤ沖海戦」が起き、オランダの巡洋艦2隻と駆逐艦1隻、イギリスの駆逐艦2隻を撃沈し、味方の損害は駆逐艦1隻が小破する史実通りの展開に。

 

 それにしても、この海戦ではオランダ海軍が敷設した機雷原にイギリスの駆逐艦が入り、機雷に触雷し沈没している。連絡の不備が理由だそうだが我が軍も連絡の不備には重々気を付けなくては。



◯ 海軍軍令部の情報部から国際情勢に関する情報が届けられた。


 2月11日から12日にかけてドイツ海軍は「ケルベルス作戦」を成功させたそうだ。この作戦は戦艦シャルンホルストとグナイゼナウ、巡洋艦プリンツオイゲンがフランスのブレスト港からイギリス海峡を通ってドイツ本国に帰還するという作戦だ。

 

 イギリスの目の前を押し渡って無事に帰還したのだから、正にイギリス軍の鼻を明かしたも同然で痛快ささえ感じさせるが、戦略的にはよろしくないだろう。何故ならイギリスとしてはドイツ本国とノルウェー海域にドイツ戦艦を封じ込めたという態勢になり、フランスより出撃するドイツ戦艦を警戒するより大分楽になるからだ。


 2月13日にドイツの国防軍総司令部(OKW)が正式に「アシカ作戦」(イギリス本土上陸作戦)を中止する決定を下したそうだ。

 これは日本の戦略構想としては、ドイツを当てにしていただけに痛い決定だろう。




●『1942年3月』

3月になった。現代日本なら「ホワイトデー」のある月だ。

しかし「バレンタインデー」でチョコを贈る習慣の無いこの時代には、当然「ホワイトデー」でお返しを送る習慣も無い。

 いい事だ。3倍返しだの5倍返しだの言われた日には破産だからね。

 現代日本での「ホワイトデー」がどれほど辛かった事か……あっ涙が。



●3月1日、大本営が大海指60号を発令した。これは連合艦隊に大規模な通商破壊戦を指示したものだ。

こちらは最初からそのつもりだ。文句は無いというか、太平洋では既に史実より潜水艦による通商破壊戦を強化している。


 ハワイ方面に派遣した潜水艦には、アメリカ本土沖と、ハワイ~アメリカ本土を結ぶ航路で通商破壊戦を行うように指示している。

 

 また、史実では太平洋北東方面に潜水艦の一隊を哨戒任務で派遣し無駄に潜水艦を遊ばせていたが、今回はそれを取り止め通商破壊戦にあてさせている。


 そもそもアメリカ海軍は真珠湾で戦艦部隊が壊滅し、アジア方面の艦隊も叩かれ、今は空母部隊により南方で奇襲的攻撃作戦を繰り返す行動に出ている最中だ。


 そのアメリカ海軍が、真珠湾よりも後方になるその方面において動きを見せる事はまず無いと考えていいだろう。


 ともかく、史実より太平洋での通商破壊戦を強化した結果、当然の如くその戦果は拡大している。

 ただ、現状ではインド洋作戦が控えているため、太平洋にこれ以上の戦力投入は難しい。

 大本営には太平洋は現状で我慢してもらおう。

 これから暫くはインド洋作戦がメインになる。その中で史実通り通商破壊戦も行おう。


 それにしても、潜水艦の運用としては日本海軍が長年研究して来た対アメリカ艦隊戦略とは大きく違う戦いになったものだ。


 今でこそ潜水艦部隊は通商破壊戦に投入しているが、それは「真珠湾攻撃作戦」の成功でアメリカの戦艦部隊に大打撃を与える事ができたからだ。


 もしその成功が無かったら通商破壊戦には投入できなかっただろう。


 長年にわたり日本海軍はアメリカ艦隊と戦う上で「漸減邀撃作戦」を練り上げて来た。

主力の戦艦の数が少ないという不利を補うために、尖兵として敵艦隊を最初に叩く潜水艦に寄せる期待は大きかったのだ。


 そもそも日本の潜水艦作戦を確立していく過程で大きな影響を与えたのが第一次世界大戦であり、当時、観戦武官としてイギリスに派遣されていた末次少将だ。

末次少将の研究によりイギリス海軍とドイツ海軍の戦訓から潜水艦による敵主力艦隊への攻撃戦術を重視するに至った。


 ドイツ海軍はUボートでの通商破壊戦で一時はイギリスを苦しめたが、最終的には勝利を得られなかった。

 その結果と日本の国情から見て、通商破壊戦より敵主力艦隊の撃破に重点を置いた潜水艦作戦が形作られていった。


 特に通商破壊戦は効果が現れるのに日数がかかる。長期戦の戦い方だ。

 日本の場合は敵主力艦隊の日本近海への進出が予想されるので、それを迎撃しなくてはならないしシーレーン(海上交通路)を守らなくてはならない。


 主力艦の数が少ないのにとても最初から潜水艦を通商破壊戦に振り向ける余裕は無いというものだ。


 そもそも戦前の毎年恒例の図上演習で日本艦隊は全潜水艦を投入して、アメリカ艦隊と決戦しているが、それで勝てた試しがない。

 そして艦隊決戦に敗北すれば日本はお終いだ。


  全潜水艦を最初から通商破壊戦に投入したりなんかしたら、それこそ艦隊決戦で敗北する確率が更に高まる。

 潜水艦が敵輸送船を沈めてる間に日本は降伏という第一次世界大戦のドイツと同じ結果に終わるのは明らかだ。

 だから日本の潜水艦には対艦隊決戦用としての性能と運用が求められた。


 そういう面から言えば、今回の歴史においての日本の潜水艦運用は戦前からの運用構想と180度違って来たと言える。

全ては「真珠湾攻撃作戦」の成功のお蔭だ。


 だが困った事に連合艦隊司令部の中には、その状況の変化への理解が及ばず、まだ通商破壊戦を軽視する者達がいる。

 日本海軍は20年以上、潜水艦で敵艦隊を叩く研究をして来たのだ。それも仕方がないとは言える。

 まぁそのうち理解してくれるだろう。


 また、この日は「バタビア沖海戦」が起き史実通りアメリカの巡洋艦1隻とオーストラリアの巡洋艦1隻を撃沈した。


 この海戦では陸軍の第16軍司令官今村中将に借りができた。

 第3護衛隊の巡洋艦最上の発射した魚雷が敵艦に当たらず、逆に守るべき陸軍を運んでいた味方の輸送艦隊に命中してしまった。

 護衛の掃海艇1隻と輸送艦が1隻沈没し、輸送艦3隻が大破する惨事となった。

 

 大破した輸送艦に乗っていた今村司令官は海に投げ出され3時間後に救出された。

 第3護衛隊司令部ではすぐに今村中将に謝罪したが、海軍の大失態を咎める事もなく、この惨事は敵の魚雷艇によって被害を被ったものにしようと海軍を庇ってくれた。

史実通りの話しだが、漢だ今村中将は。

自分が南方に行った時は、お礼に酒でも差し入れる事にしよう。




●3月4日、史実通りアメリカ空母部隊が南鳥島に攻撃を加えて来たが、これも史実通り敵空母を沈める事はできなかった。




●3月7日、大本営政府連絡会議において史実通り新たな戦争指導大綱が決定された。

とは言っても開戦前に定められた「対英米蘭蒋戦争終末促進ニ関スル腹案」と大きな変化は全く無い。




●3月9日、史実通り陸軍がビルマの首都ラングーンを陥落させた。

またインドネシアでの最終目標たるジャワ島の連合軍も史実通り降伏させている。




●3月10日、史実通り第4潜水戦隊と第6潜水戦隊を解隊し第8潜水戦隊を新編成した。この潜水戦隊にはインド洋で大いに活躍してもらおう。




●3月15日、パラオで触礁事故を起こした空母「加賀」を修理のために日本に帰還させる事になった。これから予定されているインド洋作戦への参加は無理だ。戦闘以外でもこうした不慮の事態で戦力が低下する事があるから怖い。とは言っても史実通りの事ではある。


 ともかく再度、海軍軍令部には空母の増勢を要望しておいた。特設空母でいいから増やして欲しいと要望したが、頭の固い海軍軍令部にはきっと通じないだろう。


 


●3月23日、史実通りインド洋のアンダマン諸島を占領した。ここに航空部隊を置けば、インド洋東部のかなりの部分をカバーできる。



◯ 海軍軍令部の情報部から国際情勢に関する情報が届けられた。


 3月13日、インドのイスラム教徒が反イギリス武装闘争を宣言したそうだ。

 いいぞ、ここは是非ともイギリスの足を大いに引っ張って欲しい。


 3月18日、トルコが中立を宣言したそうだ。史実通りの話ではある。

 独ソ戦でドイツがもたついているから仕方がない。


 3月22日、地中海のイギリスの拠点マルタ島へ向かったイギリス補給船団を、戦艦を含むイタリアの艦隊が襲ったが撃退されたとの事。

 まぁイタリアだから仕方がない。


 3月27日、北アフリカ戦線で戦っていたオーストラリア軍の一部が、無事にオーストラリア本国に帰還したそうだ。

 オーストラリア政府は日本の南方攻略作戦の進展に危機感を抱き、次はオーストラリアが狙われると判断しているらしい。そのため部隊を呼び戻し「オーストラリア本土決戦」を唱え国民を鼓舞しているのだとか。


 ニュージーランド政府も同様に自国の防衛に危機感を抱き、イギリス軍と共に戦っていたニュージーランド航空部隊を本国に帰還させた。


 オーストラリアもニュージーランドも日本を過大評価しているようだ。

 だが、これで少しはドイツも楽になるだろう。

 とは言っても全ては史実通りの国際情勢に過ぎないが。


 3月30日、ノルウェー亡命政府が国交断絶を通告して来た。史実通りの話だが、随分と遅くなったものだ。


 それにしても日本の戦略構想としては、ハワイのアメリカ艦隊を撃破し南方資源地帯を手中にするのが「第一段作戦」であり、その後の「第二段作戦」は「第一段作戦」の状況に応じて計画される筈だったが、どうにも各組織の主張が纏まらないようだ。


 海軍軍令部としてはオーストラリア攻略とFS作戦(アメリカとオーストラリアの連絡線を断ち切る為に、フィジー、サモア、ニューカレドニアを攻略する作戦)に乗り気だ。インド洋のセイロン島攻略は困難と見ている。


 陸軍としてはオーストラリア攻略には兵力面、国力面から無理だと反対しているし、セイロン島攻略も時期尚早と見ている。


 連合艦隊司令部の参謀達はセイロン島攻略に乗り気だ。

 これも史実通りの展開ではあるが、見事に意見がバラバラだ。やれやれ。


 ともかく、ここまでは殆ど史実通りの展開だ。


 史実と違うのは「K作戦」を中止した事と、太平洋での潜水艦による通商破壊戦を強化している事だろう。

何にせよ、今は順調に戦局は推移している。

 このまま気を抜かずに行こう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ