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005話 作戦の検討

●『1937年某月某日』


 大国のアメリカを相手にいかにして勝つか。

 連合艦隊司令長官としてはできる事は限られている。

 まぁ反則的な手も使うつもりだが。


 作戦の実行と戦局の推移としては、開戦初頭の真珠湾攻撃からミッドウェー海戦直前までは、史実そのままで行こう。変更は無しだ。


 ただし、潜水艦については別だ。


 殊に史実では連合艦隊司令部には当初、潜水艦戦に詳しい参謀がいなかった。

 潜水艦担当の専任参謀の役職は無く、水雷参謀が兼任していた。

 史実では開戦した時の水雷参謀は有馬中佐だったが、この人は駆逐艦出身で潜水艦には詳しくなかった。


 この状況はよろしくないだろう。

 史実では後にこの状況は改善されるが、自分としてはそれを待たずに、潜水艦出身の参謀を司令部に入れたい。

 そして通商破壊戦を史実より強化したい。


 ところで真珠湾攻撃時に攻撃した飛行隊の総隊長だった人物はその自叙伝で、真珠湾攻撃以後の南雲機動部隊の作戦行動について、山本五十六連合艦隊司令長官を批判してる。


 それを簡単に言えば真珠湾攻撃以後も、もっと積極的にアメリカ艦隊と戦うべきだったという事を言っている。他にも色々言ってるが。


 しかし、こちらにはこちらの考えがある。南雲機動部隊の作戦行動については変更は無しだ。

 何故、「ミッドウェー海戦」直前までそのままなのかは…それは、まぁ後の話にしよう。


 その最初の転換点である「ミッドウェー海戦」だが、今度の歴史では、まぁ恐らく勝てるだろう。


 そもそも「ミッドウェー海戦」については、アメリカ側からも日本が勝てた可能性を指摘する声は多い。

 その代表はアメリカ太平洋艦隊司令官だったニミッツ元帥だろう。彼は戦後に出した自著の中で日本が勝利できた可能性を指摘している。


 だが勝負は時の運だから負ける可能性は否定できない。

 

 とは言え、ミッドウェー海戦での敗北の原因はわかっている。

 それは防衛研修所戦史室が編纂した日本の公刊戦史である「戦史叢書」の第43巻「ミッドウェー海戦」に載っているし、各国の専門家が自著で指摘していたりするので、そうした点を改善すれば、勝利する可能性はとても高まるだろう。


 そしてミッドウェー海戦で勝利できれば、その後の歴史は大きく変わる。


 何故なら、アメリカ軍もミッドウェー海戦で敗北すれば、史実のようにはガダルカナル島攻略は行わないだろう。そんな余裕は無くなるだろうから。


 つまり、ミッドウェー海戦で勝利すれば、史実で起こったガダルカナル攻防戦から始まる消耗戦は回避される。


 一方、史実での日本は「ミッドウェー海戦」に勝利した後の計画としては、アメリカとオーストラリアの連絡線を断ち切る為に、フィジー、サモア、ニューカレドニアを攻略する「FS作戦」を7月に予定していた。

 そしてその後にハワイ攻略を視野に入れていた。


 史実では陸軍は「ミッドウェー海戦」の決着が着く前に、3個師団にハワイ攻略の準備命令を出している。

 そのハワイ攻略は9月以降を目途にしていた。それも敗北で流れてしまったが。


 アメリカ軍も「ミッドウェー海戦」時には日本の次の狙いがハワイにあると予想していた。

 だからミッドウェー海戦で敗北すればハワイの防備をより一層固めようとする筈だ。


 ハワイ攻略の時には再び艦隊決戦が起きるかもしれない。

 アメリカ軍も残った軍艦を総動員で投入する事も考えられる。


 ところでハワイを攻略するとなると、かなりの輸送船が必要になる。

 3個師団を動員するとなると60万トン相当の船舶は必要となる。

 ここで問題なのは日本は南方資源地帯から資源を日本本土に運ばなくては国民の生活と工業力を維持できなくなるという事だ。


 その日本の民需用に必要な船舶量は300万トン。


 史実では開戦時、日本の民間の船舶量は630万トンだった。


 それを南方資源地帯攻略のために陸軍が240万トン、海軍が180万トン徴用した。その結果、民需用には240万トンしか残らなかったが、これは一時的なものであり、南方資源地帯攻略後は陸軍の徴用船は多くが徴用解除される予定であるから問題は無いだろうとされた。

 実際、陸軍では徴用を解除している。

 

 ただし、史実ではその後の戦況の変化により、再び多くの船舶が徴用され民需を圧迫する結果となっている。

 

 ハワイ攻略は1942年9月以降の予定とされているが、その頃の日本の船舶の状況はどうか。

 

 史実では「ガダルカナル島攻防戦」の頃、1942年8月の時点で船舶量は626万トンだった。


 アメリカに撃沈された船もあるが、日本軍が鹵獲した船や新造した船もあり、開戦時とそう船舶量は大きく変化していない。

 この時点で陸軍は138万トンの船舶を徴用しており、そのうち68万トンをガダルカナル戦につぎ込む事になる。海軍は177万トン徴用していた。民需用には311万トンがある状況だった。


 つまり、「ミッドウェー海戦」で勝利すれば「ガダルカナル島攻防戦」は起こらないだろうから、史実で「ガダルカナル島攻防戦」に使用された船舶量68万トンはハワイ攻略戦に当てる事ができる。


 その68万トンならハワイ攻略に予定されていた3個師団を運ぶ事が可能だろう。

 ただ「FS作戦」もあるので、その分の船舶も必要になる。


 しかし、民需用船舶にはまだ徴用できる余裕11万トンがあるのでそれで充当できると考えられる。

 ともかくハワイ攻略戦は船舶量的には作戦は可能だ。

 だから陸軍も3個師団に準備命令を出していたのだろう。


 ハワイ攻略は陸軍の仕事となるが3個師団では恐らく足りないだろう。

 しかし、制空権、制海権を日本軍が握れば圧倒的に優位に立てる。

 実際、南方資源地帯を攻略した時も、常に日本軍の方が兵力が少なかった。

 それでも攻略できたのは日本軍が制海権と制空権を握り敵を孤立させ有利な状況に立てたからだ。


 まぁ、ハワイ攻略で兵力が足りなければ増援を送り込めばいいだけの話ではある。

 ハワイ攻略の前提条件としてアメリカ海軍主力の壊滅があるわけだし、アメリカ海軍の戦力が著しく増強されるのは1943年以降の話だ。

 時間的余裕はあるだろう。


 ハワイ攻略時に、できればハワイの海軍用燃料タンクは無傷で手に入れたい。それが出来ればその後の艦隊運用で大きな利益となる。だが難しいだろうな。


 更に言えばハワイ攻略後は、できればハワイ駐留日本軍とハワイに進出する艦隊への食糧調達を現地で行いたい。

 もともとハワイは農業王国だ。

 日米開戦前は、サトウキビとパイナップルの輸出にシフトしていたが、以前は米や芋を輸出していた事もある。それに漁業も盛んだ。


 それにハワイでは1930年代から有事になった場合には食糧の増産を行うという計画も立てられていたから、ハワイを占領する頃には食糧増産も行われているだろう。

 実際、史実では戦時中にハワイで食糧の増産が行われていた。


 ハワイで日本軍向けの食糧供給を速やかに行えたなら、日本軍の補給の負担はかなり楽になる。

 アメリカ軍がハワイ防衛時に焦土作戦を行う事も考えられるが、その可能性は小さいのではないかと思う。

 陸続きに後退の余地のある土地ならばともかく、孤立した島で焦土作戦をすると、守るべき民間人を巻き込んで自分達が飢える可能性がある。

 そのような危険は恐らくおかさないだろう。

 だが、万が一という事もある。焦土作戦を行わないでくれると助かるのだが。


 ハワイを占領されたとしてもルーズベルト大統領は決して日本との戦争は止めないだろう。

 

 史実では真珠湾攻撃後、日本軍を過大評価したのかルーズベルト大統領は、日本軍がアメリカ本土に進攻して来た場合は、アメリカ本土奥深くに誘い込み日本軍の補給の限界が来たら反撃するという計画を持っていたそうだ。


 その反撃の地点の候補はシカゴだというから物凄い過大評価だと言えるが。

 それを考えるとハワイが占領されたぐらいではルーズベルト大統領は参ったりはしないだろう。

 つまり長期戦の覚悟が必要になる。


 そして長期戦になればなるほどアメリカの巨大な工業力が発揮され、日本とは比べようもないくらいの大量の兵器を産み出してくる。


 史実では大戦中に就役させた空母は大型、小型を含めアメリカが135隻で、日本は16隻。

 巡洋艦は、アメリカが45隻で日本が7隻。

 駆逐艦と護衛艦は、アメリカが764隻で日本が230隻。

 戦闘機は、アメリカが10万機で日本は3万機。


 兵器の種類と数はまだまだあるが、どれをとってもアメリカは日本の数倍を生産している。


 大戦後半は日本本土が爆撃を受け、大戦期間中を通じて日本が工業力をフルに発揮できなかったとは言えかなりの差だ。たとえ本土が爆撃を受けなくても、生産量の差はかなり開いたろうと予測できる。


 国力の差は大きい。たとえ南方資源地帯を占領しても、その差はすぐには埋まらない。

 だからこそ、アメリカを敗北させるには「奥の手」が必要となる。


 ただ、アメリカの巨大な工業力から生産される兵器量は膨大だとは言っても、その全ての兵器の完成が開戦1年目からでは無い事にも留意すべきだ。

 それは日本にとって重要なファクターだ。


 現代日本のミリタリー雑誌などで、太平洋戦争中のアメリカの空母建造について、よく「月間正規空母」「週間護衛空母」という言葉が散見される。


「月間正規空母」は一カ月で次々と正規空母を就役させ、「週間護衛空母」は一週間で次々と護衛空母を就役させてきたかのような言葉だが実際は違う。


 太平洋戦争は月で計算すると45カ月間だった。週で計算すると177週間だった。

 もし一カ月で一隻の正規空母を就役させ、一週間で一隻の護衛空母を就役させたなら、アメリカは戦争中に45隻の正規空母と177隻の護衛空母を就役させた筈だ。


 しかし史実において実際にアメリカが大戦中に就役させた正規空母は17隻だし、護衛空母は軽空母も含めて118隻だ。

 これを1942年の1年間だけに限ると正規空母は1隻しか就役していないし、護衛空母は14隻しか就役していない。


 いかにアメリカに大工業力があろうとも正規空母1隻の建造には1年以上かかっているし、護衛空母の建造には最低でも5カ月はかかっている。

 それが何故、「月間正規空母」「週間護衛空母」と言われるのかというと、戦争が始まり一斉に建造が開始された艦船が大戦中盤以降から次々と就役し始めるからだ。


 1943年に就役した護衛空母の数は58隻にも及ぶ。

 大戦中盤から後半にかけては確かに週4隻の護衛空母が就役したりもしているが建造期間で言えば決して一週間では無いのだ。


 アメリカでもっとも建造された護衛空母はボーグ級で合計50隻建造されたが、1943年6月の時点ではアメリカ各地の造船所で18隻が同時に建造中だった。


 つまり、アメリカと言えども開戦1年目からあらゆる兵器を大量に生産し完成させる事はできていない。


 兵士の訓練も同様だ。すぐには兵士は養成できない。


 開戦から半年以上経った「ミッドウェー海戦」で、アメリカ空母の艦載機パイロットには訓練未完了の者さえおり、そうした技量の未熟なパイロットでさえ出撃させなければいけない状態だった。


 アメリカは決して無敵でもなければ万能でもない。だからこそ史実でフィリピンを日本に攻略されてもいる。


 つまり、開戦初期のアメリカはその長所たる国力を発揮できていない。

 だからこそ、開戦初期のできるだけ早いうちに日本に有利な態勢を整える事が重要となる。大勢を決する事ができればなお良い。


 それと、イギリスも忘れてはいけない。

 

 インド洋での作戦は重要だ。

 イギリスより先にアメリカを敗北させるとは言っても、史実よりインド洋に投入される戦力は多くなるだろう。

 それで別にイギリスが先に音を上げるなら、それはそれで構わない。

 そもそも史実では根本的に戦力不足という問題があるにはしても連合艦隊で適切な戦力の使い方が行われていたとは思えない。


 今回の歴史では、もっとインド洋での通商破壊戦を強化できるだろう。

 インド洋での通商破壊戦は重要だ。


 インド洋はビルマ戦線とアフリカ戦線のイギリス軍、中国戦線の中国軍、東部戦線のソ連軍への重要な補給ルートであり、イギリス本国への戦略物資の輸送ルートでもある。


 これを遮断する事は日本にとっても大いに意味のある重要な事だ。

 それに史実では1942年から1943年前半はイギリスにとって海上交通路がドイツのUボートに脅かされ、危機的状況にあった。


 特に1942年におけるイギリスの海外からの物資の輸入量は開戦前の7割程にまで落ち込んでいる。その落ち込んだ輸入量の中でも、穀物等は消費量が輸入量を上回る結果になり備蓄で何とかもたせた状況だった。

 商船用の燃料の保有量もかなり落ち込みイギリス政府に非常な危機感を抱かせていた。

 正にイギリスは危機的状況だった。

 当時、イギリスの首相だったチャーチルはその回想録で「(戦争中に真に不安を与えたのはUボートだった)」と記しているが、それも尤もな話だと頷ける。


 つまり、史実では日本のインド洋での通商破壊戦が不調だったにも関わらず、そうしたイギリスの危機的状況をドイツのUボートが作り出していたのだ。


 では、日本がもっとインド洋での通商破壊戦に力を入れていたらどうなるか。


 日本の通商破壊戦がそれなりに大きな戦果を上げる事ができれば、開戦前に東条首相や永野海軍軍令部総長が言っていたように、イギリスを餓えさせ敗北に追い込むという可能性も出てくるかもしれない。


 だからインド洋での通商破壊戦は重要だ。

 日本がインド洋での通商破壊戦に成功すれば、必ずイギリスは苦境に立たされるだろう。


 あと重要なのは連合艦隊司令部内での意識改革だろう。


 どうにも連合艦隊司令部には、各部隊は連合艦隊司令部の命令に大人しく従っていればよいという考えが強すぎ、第一線の声に耳をかさない傾向があるように思える。


 例えば潜水艦の戦術がそうだ。

 真珠湾攻撃の後、潜水艦部隊からハワイのような守備の固い重要な拠点近くでの監視任務は敵の警戒も厳重なため難しく、通商破壊戦を要望する声が上がったが叶わなかった。


 潜水艦戦は日本の戦史上では初めてとなる戦い方だ。

 後方で踏ん反り返って頭の中だけで考えている連合艦隊司令部の面々よりも、実戦で貴重な経験を得た者達の方が現状を把握しているのは当たり前だろう。その言葉には耳を傾けるべきだ。


「珊瑚海海戦」にしても世界史上初となる敵味方双方が複数の空母を投入した戦いだ。その戦訓を取り入れるべきだろうに何もせず「ミッドウェー海戦」で敗北している。


 あれでは、現代日本の会社組織にもよくある、上が現場の事をよく知りもせずに机上の空論で無理難題な課題を押し付け破綻する例とまるで一緒だ。

 それではいかんだろう。


 開戦までには、やるべき事も考える事もまだまだ山ほどある。

 だが、勝つためだ。努力しよう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


2016年5月14日 0時05分


読者の皆様、いつもいつも拙作「栄光の勝利を大日本帝国に」をお読みいただき、有り難うございますでおじゃる。


かなり遅くなったでおじゃるが、実写映画版「ちはやふ●」(下の句)の公開記念として【宮様、頑張る】の第5話を書いたでおじゃる。


よかったら読んでね、でおじゃる。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



  【宮様、頑張る】(海軍編)



第005話『とある航空本部長の憂鬱』



19◯◯年◯月◯◯日

『海軍軍令部総長室』


机の上に両肘をつき顔の前で両手の指を組むようにしていた伏見宮総長はサングラスを煌めかせながら徐に重々しく口を開く。

その姿はまるでどこかの秘密組織のうとまれる事に慣れている司令官にそっくりであり、最近、総長が好んでとるポーズである。

たぶん、いや、確実にそのポーズが自分には決まっているとか恰好よく見えるだろうと総長は考えているのだろうが、まぁ何も実害は無いのだからほっとけばいいだけの話ではある。


「山本君、今日、君を呼び出したのは他でもない、これからの帝国海軍の将来について思うところがあるからだ」


「はい、総長」


「私は君の空を重視する考えに賛成だ」


「賛同いただけるとは嬉しいかぎりです」


山本五十六航空本部長は内心で心躍らせていた。

自分がいかに航空重視を説いても海軍全体からすれば主流は大艦巨砲の戦艦中心主義だ。

だが、海軍軍令部のトップたる伏見宮総長が航空重視の姿勢を打ち出せば、戦艦中心主義に一石を投じるどころか爆弾を投じるぐらいの影響が出るだろう。

これからは飛行機の時代なのだ!

そう山本航空本部長は胸の内で強く思う。


だが、しかし……

次に総長が口した言葉が山本航空本部長を不安にさせる。


「そうだ、左を制する者は世界を制……あっ違った

リバウンドを制する者は……あっこれも違う

いかん、いかん、どうも歳をとるとうっかりが多くなるなぁ。

空を制する者は世界を制す、だ!」


「総長?」


「失敬、失敬、はっはっはっ、細かい事は気にするな」


笑って誤魔化そうとする総長に山本航空本部長は何とも言えない顔をした。

大丈夫なのかこの人? そう思わずにはいられない山本航空本部長だった。


「さて、空を重視するとして、私の考えた腹案を見てくれたまえ」


そう言って総長が机の引き出しから一束の書類を取り出し山本航空本部長に渡す。


そこに書かれている文書の題名は「G計画」とある。


山本航空本部長はページをめくって驚いた。


絵が描かれていた。構想図だ。それは別に問題はない。だが、描かれている物が問題だった。


飛行船だった……


武装した飛行船だった。


それも大砲を何門も積んだ重武装の飛行船だった。


その重武装飛行船には「空中戦艦」と名前が付けられていた。


しかもその船体には、着物を着た少年少女達が正座しその前に札が並べられ、その中の一人の少女が「カルタしよう!」と言っている絵が描かれていた。完全に意味不明である。なんじゃこりゃ?状態である。


山本航空本部長は唖然とした。


既に日本軍が飛行船を運用しなくなって久しい。


飛行機の急速な発達は飛行船を過去のものとしている。


それなのに今頃になって武装飛行船! 総長は何をお考えになっているのか! 空に目を向けるのは必要だが、これでは時代に逆行しているではないか!

それに「かるたしよう!」って何なのだ!

そう山本航空本部長は胸の内で嘆いた。


だが、嘆いてばかりもいられない。こんな武装飛行船は不採用にして飛行機をもっと増強するよう総長に要望しなければ。そう山本航空本部長が思い発言しようとした時、総長の机の上に一冊の本がある事に気が付いた。


阿武●風の「太陽●勝てり」だった。


これか! 総長はあいつの小説を読んだのか! 阿武の小説を。それを真に受けてこんな馬鹿な事を言い出したのか?

山本航空本部長は内心で呆れると共に大きな溜め息をついた。



(説明するでおじゃる。

「太陽は勝て●」とは昭和初期の小説家、阿武天●が1930年に発表したIF戦記小説でおじゃる。80年以上前の作品でおじゃるよ。

その「太陽は勝て●」には「空中●艦」なる武装飛行船が登場するでおじゃる。

「空中軍●」や他の超兵器の活躍で日本軍はアメリカとイギリスに勝つというお話でおじゃる。


阿武●風は本名を阿武信一と言い元海軍少尉で海軍兵学校32期卒でおじゃる。

つまり山本五十六と海軍兵学校で同期でおじゃる。

ちなみに海軍兵学校32期の卒業生は192名でおじゃる。

阿武信一少尉は日露戦争に参加した時に負った傷が元で退役し、後に小説家になったでおじゃる。

史実において実際に山本五十六が同期だった阿武信一(ペンネーム・阿●天風)の小説を読んでいたかは不明でおじゃる。


誰でおじゃるか? 「空中戦艦」を「天空の●ラ●●●」に出て来た「飛●戦艦ゴ●●●」なんて言ったのは?

「G計画」のGを●リアテだとか、某有名ロボットアニメのMk2開発計画だとか言ったのは?

アニメの見過ぎでおじゃるぞ。廊下に立って反省しなさい!でおじゃる)



総長ともあろうお方が市井の小説を真に受けてどうする!

小一時間ほど説教してやりたい!

そう山本航空本部長は内心で思ったが、相手は総長である。宮様である。偉い人である。それはできない。


こちらを期待の目で見て鼻息を荒くしている総長を見て、これは説得して正気に立ち戻ってもらうのは骨が折れそうだと山本航空本部長は内心で大きな大きな溜め息をつき、憂鬱になるのだった……


                                                                                       【つづく】




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


<次回予告>

イカレタ作者は何を考えているのか、いないのか……

読者様からの不評を柳に風と受け流し、まだ続編を書くつもりでいる。

もう、そこには良識どころか常識さえ無い……かもしれない。

次回「・・・・・・・・・」

ご期待しないで下さい。




《と、いう夢を昨夜見たので、またまた「宮様、頑張る」を書いてみました。

 前回は最後におかしな声が聞こえましたが、それはきっと何かの誤解。

 そんなわけで「宮様、頑張る」は、これで本当にお終いです。

 第6話はありません……たぶん》







《えっ反応が無い?》

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