003話 続く検証
●『1937年某月某日』
さて今度は日本が敗北した原因について振り返ってみよう。
日本が敗北した原因については「昭和天皇独白録」に陛下が四つの敗因があったと述べていたとある。
それを要約して簡単に言うと…
一つ目は「兵法の研究が不十分で、孫子の敵を知り己を知らねば百戦危うからずを体得していなかった」
二つ目は「精神論を重視しすぎて科学の力を軽視した」
三つ目は「陸軍と海軍の仲が悪すぎた」
四つ目は「往年の山縣有朋、大山巌、山本権兵衛のような大人物がおらず、力量に欠けた者ばかりだった」
なるほど正にその通りだ。
しかしこれ、自分の現在の海軍次官という立場からではどうにもできんよ。
いずれなる連合艦隊司令長官の立場からしても、一つ目を連合艦隊に反映させる事ぐらいしかできん。
一つ目については特に陸軍は無理だ。陸軍は伝統的に対ソ連戦の研究に重点を置き、対アメリカ戦の研究には力を入れていない。それについて海軍次官や連合艦隊司令長官が陸軍にとやかく口出しはできんよ。
二つ目も無理だ。これは国力が絡んでくる。科学力は国力の上に成り立つ。それは予算と人員と資源の問題でもある。
史実では開戦九か月前に軍が新庄大佐をアメリカに派遣してその国力を調査させた結果では、アメリカの国力は日本の十倍という結果が報告されている。なお人口は2倍だ。
戦争では科学力も競争となる。大国相手にそうそう五分にはいかん。それを補うための精神論重視と言える。
結局、日本は戦争中に科学力に基づき進歩するアメリカの新兵器に対応できなくなっていった。
この問題も自分の現在の海軍次官という立場や、いずれなる連合艦隊司令長官としての立場からではどうにもできん。
三つ目の陸軍と海軍の仲も何とかしたいがどうにもならん。
陸軍と海軍の仲が犬猿の仲なのは伝統的なものもある。平時には予算の分捕り合戦をしているし。
そもそも戦争時に陸軍大臣を兼任していた東条首相自身が、海軍には秘密で陸軍で輸送用潜水艦を造れなんて部下に命令を出していたぐらいだ。
最も陸軍と海軍の仲を取り持って戦争を遂行させなきゃいけないトップの人物がそれなのだ。
海軍は海軍で、陸軍がわざと海軍に燃料を渡さずにいたと本気で主張する者がいて「敵は陸軍」とまで言っていたぐらいだ。
この燃料の問題についても頭が痛い。
南方の資源地帯を占領した時、複数の油田を占領したが、その管理は陸軍と海軍で別々に行われ、海軍は最も質のいい油田を押さえた。しかし、戦争中における海軍の燃料消費量は当初の予想よりはるかに多く、海軍の管理する油田から供給される燃料だけじゃ足りなくなった。
そもそも海軍は押さえた油田の数も陸軍に比べれば少なかったという事もある。それで生産量に余裕のある陸軍の管理する油田から燃料を貰おうとしたが、陸軍が渋ってなかなか渡してくれなかったという話なのだが。全く困ったもんだ。大国相手に戦っている時に内部争いしているとは。
この陸軍と海軍の仲の悪さも、自分の現在の海軍次官という立場や、いずれなる連合艦隊司令長官の立場でもどうにもできん。
せめて海軍省と軍令部に、南方資源地帯を占領する時は海軍管理化の油田をもっと増やすようにと、適当な理由を作って提案しておくくらいしかできんか。それでも管轄外の事に口出ししないでいただきたいと言われそうだがね。
四つ目もどうしようもない。手の打ちようが無い。
この問題も自分の現在の海軍次官という立場や、いずれなる連合艦隊司令長官の立場からではどうにもできん。
お手上げだ。
結局、連合艦隊司令長官というのは実戦部隊を動かすのが役目なわけで、その立場から言えば日本のマクロ的な視点から見た敗因を取り除くのは極めて厳しいとしか言えない。
現在の海軍次官という立場にしても同様だ。職分を超える。
勝利への道はほんと険しいな。
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2016年3月19日 0時30分
読者の皆様、いつもいつも拙作「栄光の勝利を大日本帝国に」をお読みいただき、有り難うございますでおじゃる。
本日からとうとう待ちに待った実写映画版「ちはやふ●」(上の句)の公開が始まるでおじゃる!!
日テ●プラスでは、それを記念してお昼の12時からアニメ「ちはや●る」の第一期全話を一挙放送するでおじゃる!
えっ? それが「栄光の勝利を大日本帝国に」に何の関係があるのかって?
何も無いでおじゃるよ!
ただ単にろくでもない作者、何とかの商人エスとか名乗っているどうしようない奴が「ちはや●る」の事が好きなだけでおじゃるよ。
仮想戦記を読む人が「●はやふる」を読んでるとは思えないけど、それでも書かずにはいられないのがファン心理ってやつでおじゃるよ。
そして敢えて言うでおじゃる!
「ち●やふる」は単なる少女漫画ではないでおじゃる!
「かるた」なんて、「少女漫画」なんて、と言わずに読んでみれば見てみればわかるでおじゃる!
あれはスポ根漫画でおじゃる!
「スラム●ンク」や「シャカ●キ!」を読んでいた時の熱い情熱が再び湧いてきたでおじゃる!
そんなこんなで、
何がそんなこんなかはともかく、実写映画版「ちはや●る」公開記念に【宮様、頑張る】の第3話を書いたでおじゃる。
よかったら読んでね、でおじゃる。
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【宮様、頑張る】(海軍編)
第003話『とある軍令部の驚愕』
19◯◯年◯月◯◯日
『海軍軍令部会議室』
この日、海軍軍令部で定例会議が開かれていた。
特別な議題や、厄介な問題が討議され紛糾するという事もなく平穏に会議が終盤に差し掛かった時だった。
その時、歴史が、あっいや、伏見宮総長が動いた。
「諸君、私から一つ重要な提案がある」
「拝聴いたします」
会議に参加している一同を代表して軍令部次官が返答し、皆は改めて姿勢を正す。
伏見宮総長が自らこうした提案を言い出す事は珍しい。
いつもは下からの提案を決済する事が殆どで、しかも提案を却下するという事も珍しい人だ。
伏見宮総長は自ら率先して能動的に動く人ではないのだ。
それ故に皆は伏見宮総長の言う「重要な提案」を重く受け止める気持ちだった。
「率直に言おう。将兵の訓練方法に新たに加えたいものがある」
「と申しますと」
会議に参加している皆は軍令部次官に応答を任せつつ、訓練の話ならばそれほど大きな問題ではないだろうと肩の力を抜いた。その時だった……
「訓練に【競技かるた】を取り入れたい」
「「「「「「「はっ?」」」」」」
みんなの気持ちが一つになった。
軍令部次官も第一部部長も第二部部長も第三部部長も第四部部長も特務班班長も、そしてその副官達も動きを止めた。
その時、会議室内の時間が確かに止まった。
皆、伏見宮総長が何を言ったか理解できなかった。
競技かるたと言ったのは理解できたが、あまりに以外な言葉で訓練の話に結びつける事ができなかったのだ。
競技かるた? 将兵の訓練に? そんな馬鹿な!!
伏見宮総長を除いた全員が胸の内でそう叫んでいた。
そして第一部長は胸の内で競技かるたなんて子供の遊びだろうと嘆息した。
第二部長も同様で前代未聞の話だと嘆いた。
第三部長は、もしこの話が外部に漏れたら、それも陸軍に知られたら海軍の面目が丸潰れだと青ざめた。
特務班班長は、伏見宮総長はこれまでおかしな言動や行動をした事はないのだから、こんな事を言い出したのは、お疲れか、もしくはどこか悪くされているのではと総長の身体を心配した。
取り敢えずここは自分が何とかしなければなるまいと考えたのが軍令部次官だ。
元々海軍軍令部においては責任問題に発展するような事態があった場合でも皇族の伏見宮総長に責任をとらせるわけにはいかない。
その身代わりとしての軍令部次官であり、突発事態にも強い問題処理能力の高い者がその地位に就くようにされていた。
取り敢えず軍令部次官は伏見宮総長の真意を確かめる事にした。
「競技かるた、でございますか?」
「そうだ。競技かるただ」
伏見宮総長は重々しく頷くと、おもむろに立ち上がり拳を固く握って熱く語り始めた!
総長はまるで闘気を纏い情熱を迸らせているかのようだった!
「いいかね諸君!
競技かるたでは優れた記憶と集中力!
そして極めて高い反射神経と瞬発力!
そして一日に何試合もこなすための強い体と体力が求められているのだ!
これは海軍の将兵にも求められる要素だ! 違うかね!?」
皆は反論しようと思ったが、伏見宮総長から立ち昇る熱い闘気と怪しげオーラに圧倒され何も言えない。
そこに伏見宮総長が畳み掛ける。
「仮想敵の米海軍は我が帝国海軍よりも戦力は上だ。
米艦の数は日本より多い。
その数の多さに打ち勝つには技術だ。
つまりは将兵の練度だ!
帝国海軍は現状でも練度を上げる訓練は勿論の事している。
それを更に高めるために将兵一人一人の能力の底上げをするのだ!
そうすれば帝国海軍の質は更に上がる!
そのための【競技かるた】だ!
刻々と変化する戦況を、敵艦の位置を、下される命令を確実に覚える記憶力、
上からの命令を間髪を入れず実行する反射神経と瞬発力、
そして長期の戦いにも耐えうる体力、
【競技かるた】には海戦に通じるものがある!
諸君、それ故に【競技かるた】を訓練に取り入れるのだ!
そして近江神宮の大会で海軍が優勝するのだ!」
怪しげな情熱を迸らせる伏見宮総長に皆は何も言えなかった。
中には海軍高官にあるまじき事にあんぐり口を開いて驚愕している者もいた。
軍令部次官はここは自分が何とかしなければとは思いつつも言葉が出てこない。
そんな皆をよそに伏見宮総長は「競技かるただぁ!!」と叫んでいるのであった。
なお、この時代に近江神宮で競技かるたの大会はまだ開かれていない。
それを知っているのか知らずにいるのか、伏見宮総長は「近江神宮で優勝するのだぁ!!」と叫んでいる。
会議に参加している海軍軍令部要職の面々は、ただただ茫然とその姿を見ているだけであった……
【つづく】
<次回予告>
人は望むと望まぬとに関わらず組織の歯車に埋め込まれていく。
だが伏見宮総長の熱いドドメ色の情熱は堅い組織の中で再び雄叫びを上げる。
伏見宮総長の彷徨うオタ魂が軍令部を再び震撼させた!
次回「続・とある軍令部の驚愕」
ご期待しないで下さい。
《と、いう夢を先日見たので、また「宮様、頑張る」を書いてみました。
前回は最後におかしな声が聞こえましたが、それは疲れていたからきっと幻聴。
そんなわけで「宮様、頑張る」は、これで本当にお終いです。
第4話はありません……たぶん》
『と、言うのが夢なのでおじゃる』
《えっ今度も?》