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0011話 次なる作戦計画(1942年6月中旬~下旬)

『1942年6月中旬』


●6月11日、連合艦隊旗艦「大和」はミッドウェー海域から内地(日本)に向け帰投中だ。

そして連合艦隊の主力もだ。


ミッドウェー島の滑走路の修復が完了し「第6航空隊」が予定通り展開した。

「第14航空隊」の二式大艇と九七式大艇の分遣隊も到着した。

 まだ防御陣地や地上施設は一部しか完成していないが順調に工事は進んでいる。


 二式大艇をハワイ方面に偵察に出しているが、今のところは新たなアメリカ空母部隊が出てくる様子は無い。


連合艦隊司令部の幕僚達の判断では、現在、太平洋にアメリカの無傷の大型空母はいないか、いても1隻程度で、そのため出て来ないのだろうという判断だ。


 そこで南雲機動部隊(第1機動部隊)の大部分と主力部隊の一部、それに攻略部隊の大部分を内地に帰還させる事になった。


 南雲機動部隊(第1機動部隊)で内地に帰還するのは次の部隊と艦艇だ。

 「第1航空戦隊」の空母「赤城」「加賀」の2隻。

 「第2航空戦隊」の空母「飛龍」

 「第3戦隊第2小隊」の戦艦「榛名」「霧島」の2隻。  

 「第8戦隊」の重巡洋艦「利根」「筑摩」の2隻。 

 「第10戦隊」の軽巡洋艦「長良」

 「第4駆逐隊」「第10駆逐隊」「第17駆逐隊」の計12隻の駆逐艦。

 「第1補給隊」の給油艦3隻。

  つまり空母3隻、戦艦2隻、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦12隻、補給艦3隻だ。


 主力部隊で内地に帰還するのは次の部隊と艦艇だ。

 「第1戦隊」の戦艦「大和」「長門」「陸奥」の3隻。

 「第3水雷戦隊」の軽巡洋艦「川内」

 「第11駆逐隊」「第19駆逐隊」の計8隻の駆逐艦。

 空母「鳳翔」とその護衛駆逐艦「夕風」

 水上機母艦「千代田」「日進」

 「第1補給隊」の給油艦1隻にその護衛駆逐艦「有明」

 つまり旗艦大和を含む戦艦3隻、小型空母1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦10隻、水上機母艦2隻、給油艦1隻だ。


 攻略部隊で内地に帰還するのは次の部隊と艦艇だ。

 「第3戦隊第1小隊」の戦艦「金剛」「比叡」の2隻。

 「第4戦隊第1小隊」の重巡洋艦「愛宕」「鳥海」の2隻。

 「第5戦隊」の重巡洋艦「妙高」「羽黒」の2隻。

 「第7戦隊」の重巡洋艦「熊野」「鈴谷」「三隈」「最上」の4隻。

 「第2水雷戦隊」の軽巡洋艦「神通」

 「第4水雷戦隊」の軽巡洋艦「由良」

 「第2駆逐隊」「第9駆逐隊」「第16駆逐隊」の計11隻の駆逐艦。

 空母「瑞鳳」と護衛駆逐艦の「三日月」

 給油艦3隻、補給船5隻。

 つまり戦艦2隻、小型空母1隻、重巡洋艦8隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦11隻、給油船3隻、補給船5隻だ。


総計で、空母5隻、戦艦7隻、重巡洋艦10隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦33隻、水上機母艦2隻、補給・給油船12隻が内地に向けて帰還中という事になる。


なお大破した空母「加賀」と兵員と資材を下ろした輸送船は護衛を付けて、我々に先駆けて内地に向けて出発させている。その輸送船には負傷兵と沈んだ空母「蒼龍」の乗組員の生存者、アメリカ軍捕虜を載せている。


ミッドウェー島に残るのは高須中将指揮下の「第1艦隊分遣隊」だ。

「第2戦隊」の戦艦「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」の4隻。

「第9戦隊」の軽巡洋艦「北上」「大井」の2隻。

「第8駆逐隊」の駆逐艦「朝潮」「荒潮」の2隻。

「第15駆逐隊」の駆逐艦「黒潮」「親潮」の2隻。

「第27駆逐隊」の駆逐艦「時雨」「白露」「夕暮」「有明」の4隻。

「第11航空戦隊」の水上機母艦「千歳」「神川丸」の2隻にその護衛駆逐艦「早潮」

「給油隊」は「知床型給油船」の「佐多」「鶴見」に「隠戸型給油船」の「鳴門」の3隻。

戦艦4隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦9隻、水上機母艦2隻、給油船3隻だ。


 他に新設された「ミッドウェー根拠地隊」として「第1魚雷艇隊」のT1型魚雷艇5隻と「第21駆船隊」の駆潜艇4隻と新たに改編した「第1哨戒艇隊」の哨戒艇5隻が配備される。

 航空隊は「第6航空隊」の零戦部隊に「第14海軍航空隊」の二式大艇と九七式大艇の分遣隊が配備される。


 輸送船団もまだ数隻はミッドウェー島に停泊し島内施設の建設の進捗状況に合わせて物資と資材の積み下ろしをしているので残っている。


「第1艦隊分遣隊」への補給計画は飲料水は大湊から、食糧その他は横須賀から運ばれる計画だ。

 燃料については南方資源地帯の油田から直接ミッドウェー島にピストン輸送させる手配になっている。 この燃料輸送には敢えて旧式な老朽艦である知床型給油船や隠戸型給油船をあてる計画になっている。


 かなりの戦力をミッドウェー島に残す事になった。

 これで島内の防御陣地や施設を建設している設営隊や守備隊は安心して作業を進められるだろう。


 だが、その為に「第1艦隊分遣隊」を残す事にしたわけでは無い。

最大の理由は数日前、海軍軍令部の情報部より遅まきながらアメリカの戦艦部隊が5月末にアメリカ本土西岸を出撃したという情報が入って来たためだ。戦艦の数は残念ながら不明。

ただ、「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」の前に連合艦隊司令部で推定していたアメリカ軍が出撃させるであろう戦艦の数は2隻から3隻だった。


 このアメリカ軍の戦艦部隊出撃は史実通りの話だ。

 その戦力は戦艦7隻(コロラド、メリーランド、ペンシルベニア、テネシー、ミシシッピ、アイダホ、ニューメキシコ)で、さらに小型空母「ロングアイランド」が随伴している。

 そしてアメリカ本土西海岸への日本艦隊の攻撃を阻止する役目を負っていた。アメリカ本土西海岸とはかなり日本軍を過大評価しているというものだろう。

 この戦艦部隊は、アメリカ軍の「ミッドウェー海戦」勝利の報を受けてアメリカ本土に引き返す事になる。


 しかし、今回の歴史では日本が勝った。

 その為、この戦艦部隊がどう動くかはわからない。アメリカ本土に引き返すのかハワイまで進出してくるのか。

 それとも「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」阻止に出てくるか。

 ハワイより先、つまりミッドウェー島まで進んで来る可能性もあるし、またはマーシャル諸島方面か、ソロモン諸島からラバウル方面へ来る可能性も無いとは言えない。


 大きな敗北を喫した後だけに、アメリカ軍としてもどこかで勝ちたい気持ちはあるだろう。


 連合艦隊司令部の幕僚達には、敵戦艦部隊がミッドウェー島に来ず、他方面に来る可能性も皆無では無いので、今回の勝ちに浮かれず各方面の警戒を厳重にしておくようにとは言っておいた。

とは言ってもやはり来るとしたならば、ミッドウェー島に来るかアリューシャン方面に来る可能性が最も高いとは思う。


真珠湾より来たとみられるアメリカ軍の飛行艇が盛んにミッドウェー島を偵察しているようでもあるし、それで南雲機動部隊がいないとわかれば、アメリカ軍はどうでるか……


 それに史実によれば、「ミッドウェー海戦」には間に合わなかったものの、アメリカ本土西海岸のサンディエゴで修理中だった空母「サラトガ」が修理を完了し、第11任部隊を編制して6月1日にはサンディエゴを出港している。


 そして昨日の6月10日には大西洋にいた空母「ワスプ」と戦艦「ノースカロライナ」がパナマ運河を通過し太平洋に進出した筈だ。なかなかどうしてアメリカ軍も動きが早い。


 早くも新戦力を送り込んで来るとは。やるなぁルーズベルト大統領!

だから今日か明日にでも、戦艦部隊や第11任務部隊の姿がハワイ方面で発見されてもおかしくはない。


 だが、連合艦隊司令部の幕僚達は当然の事ながらそうした史実を知らないし、まだどこからも情報が入って来ていない。

 だから、幕僚達は太平洋にアメリカの無傷の大型空母はいないか、いても1隻程度でしかいないと推測している。


 そして1隻程度しかいないのであれば、アメリカ軍としては貴重な空母をここで出して来るのはリスクが高すぎるだろうと考えている。

その為、アメリカの戦艦部隊も来ないのではないかと判断している。


今や海戦の主力は空母となった。

戦艦部隊だけで攻撃を仕掛けてくるような真似はしないだろう。来るなら残っている空母を随伴させたい筈だ。しかし、空母は1隻程度しかいない。もし、その空母を失ったらダメージが大きすぎる。だからこの戦艦部隊は来ないのではないか。それが幕僚達の主だった考えだ


そしてもし、出てくる事があったとしてもその戦力は多くても最大で大型空母1隻、小型空母2隻、戦艦4隻から5隻程度ではないかと幕僚達は見ている。

 敢えて戦艦を本土から出してくるのだから戦艦の数の増勢が見込まれ、「ミッドウェー海戦」では発見に至らなかった小型空母もこの劣勢では出してくるだろうというのが幕僚達の判断だ。


 その戦力が相手ならばミッドウェー島に来た場合は、空母の無い「第1艦隊分遣隊」でも「第6航空隊」の掩護下に戦えば五分以上に戦える幕僚達は判断している。


「第6航空隊」の零戦だけでは数が少ないようにも思えるが、零戦1機は敵戦闘機5機分に匹敵するので、そういう計算も成り立つという幕僚達の考えなのだ。

 

 それでも自分としては零戦の数が少ないと思ったが、致命的な計算ミスでもなかろうと口には出さないでおいた。


 実際、戦いが発生して「第1艦隊分遣隊」が敗北したり全滅したとしても日本にとっては致命傷ではないし、ミッドウェー島を奪回されても同様だ。


 逆に「第1艦隊分遣隊」の戦艦4隻が戦う機会に恵まれ敵に少しでもダメージを与える事ができたならば、それは上出来の部類だろう。史実での戦艦「伊勢」「日向」「山城」「扶桑」は残念な事にあまり活躍する事なく終わったのだから。


 ただ、もし水雷戦隊が全滅したりしたら、それは手痛い損害となるだろう。

 戦艦よりも水雷戦隊の方が役に立つ戦い方に時代は変化したのだから。


 アリューシャン方面に来たとしても「第2機動部隊」が返り討ちにするだろうと幕僚達は判断している。

自分もそうあって欲しいと思うが、些か戦力不足かもしれない。


 だが、実際のところ自分としてはアメリカの戦艦部隊に限らず、暫くはアメリカ艦隊は攻撃を仕掛けて来ないのではないかと思っている。


 何故なら史実での「ミッドウェー海戦」後のアメリカ軍の動きがそうだからだ。

「ミッドウェー海戦」で大勝したにも関わらず、その後も暫く続いていた日本軍の「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」にはアメリカ軍の戦艦部隊も空母部隊も姿を見せなかった。


 それどころか8月にガダルカナル島を攻略してくるまでアメリカ軍は動きを見せなかった。

それは何故かと言われれば、「ミッドウェー海戦」で勝ったアメリカ軍も態勢の立て直しに必至だったからだ。


「ミッドウェー海戦」に参加したアメリカ軍を見ればわかるだろう。

  最前線のミッドウェー島に配備された戦闘機でさえ旧式機が多く、しかもパイロットは訓練不十分。艦載機のパイロットも同様で訓練が完了していない者もいた。

勝ったとは言え、その戦術はとても褒められたものではなく、多くの犠牲を出した。


 アメリカ軍にしても「ミッドウェー海戦」後は、パイロットの練度向上と機体の補充、それに戦術の練り直し等々、やる事は幾らでもあったのだ。


 それが今回の歴史では「ミッドウェー海戦」で大敗北し、史実よりも多くの戦力を失っている。

「ミッドウェー海戦」で勝ってさえ直ぐには動けなかったアメリカ軍なのだ。

敗北したなら、いっそう動けなくなるのではないかと思う。

恐らく今はハワイの防備を固めつつ航空部隊の練度と戦力を高めるのに必死になっているのではないだろうか。


 だから現時点ではあまりアメリカ軍の攻勢は心配していない。

 アメリカ軍が出撃させた戦艦部隊が7隻もの戦艦を擁しているのに、ミッドウェー島に残した第1艦隊に4隻の戦艦しかなくても、空母を1隻も残していなくても自分が心配していない本当の理由がそこにある。

「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」を遂行中の「第2機動部隊」を心配していない本当の理由がそこにある。


 ところでミッドウェー島に残り指揮をとる「第1艦隊分遣隊」の高須中将は、アメリカの戦艦部隊が来る事を期待しているようだ。

 それは残る事になった「第1艦隊分遣隊」の将兵全員の思いでもあるらしい。


  内地に帰投する前に打ち合わせで旗艦「大和」に来艦していた「第1艦隊分遣隊」の参謀長が、これまで空母部隊ばかりが大活躍していたから今度は自分達の番だと皆、張り切っていると教えてくれた。

 頼もしい事だし南雲機動部隊をあてにしないでいてくれるのは有り難い。


 南雲機動部隊は戦力を消耗し過ぎた。

 ミッドウェー島の滑走路が修復され第6飛行隊が飛べる以上、南雲機動部隊は一刻も早く内地に帰したいのだ。


 それにしても「ミッドウェー海戦」で敵空母を3隻沈めた結果、アメリカ軍に残る空母は少なくなった。 史実を参考にすれば、現在、太平洋にはアメリカの大型空母は「サラトガ」と「ワスプ」しかいない。

 小型空母は「ロングアイランド」1隻だ。「ロングアイランド」は速力が遅く約16ノット程度しか出ないため、「サラトガ」や「ワスプ」のような30ノット近く出せる空母と艦隊を組むのは難しい空母だ。低速の戦艦の航空援護か飛行機輸送に使うしかない。実際、史実でもそうしていた。


 大西洋には空母「レンジャー」があるが、この空母は防御力を犠牲にして速力と搭載機数を大型空母並みにしたという事情があり、とても太平洋で日本の空母と渡り合うのは無理だろうと、練習空母にされていた空母だ。


 他は護衛空母の「チャージャー」がいるだけで、これも練習用の空母だ。

もし、これで「サラトガ」と「ワスプ」を失うような事態にでもなったら、アメリカ軍のダメージは大きいものとなるだろう。


  史実において今月(6月)から年末までのアメリカにおける大型空母の就役状況も低い。

 護衛空母は徐々に増えてはいる。

 今月(6月)には護衛空母「コパヒー」が就役する。

 8月には護衛空母「ナッソー」が就役する。

 9月には護衛空母「ボーグ」「オルタマハ」の2隻が就役する。

 11月には護衛空母「カード」が就役する。

 12月には大型の正規空母「エセックス」と護衛空母「コア」が就役する。


 この6月から就役する護衛空母は全て「ボーグ級」で搭載機は約30機になるが、速力が遅く17ノットでしかなく、防御力も低いため、日本との空母戦には投入されていない。主にハワイや南洋の島々への飛行機や物資の輸送任務についている。


 また護衛空母「ボーグ」「カード」は大西洋で任務についている。


 正規空母「エセックス」にしても「エセックス級空母」の一番艦なため、慣熟訓練や運用における問題で実戦投入は就役してから半年は掛かっている。


 なお、この他にイギリス海軍向けに就役している「ボーグ級」護衛空母が4隻ある。

 9月に護衛空母「アタッカー」が就役する。

 10月に護衛空母「バトラー」と「サーチャー」が就役する。

 12月に護衛空母「ストーカー」が就役する。


 こうしたイギリス向けに建造された護衛空母やアメリカ海軍で大西洋で任務についた護衛空母はドイツのUボートと戦う事になる。


 つまり年内には日本の空母と渡り合えるアメリカの新造された大型空母が戦場に姿を現す事は無い。

 当分の間はアメリカ軍は「サラトガ」と「ワスプ」で戦うしかないのだ。


 勿論、犠牲が出る事を覚悟して「レンジャー」「ロングアイランド」や護衛空母を戦場に投入する事はありえるだろう。

 

 それにまず間違いなくイギリスがアメリカに空母を送って来る。

 史実でアメリカ軍は度重なる戦闘の結果、1942年10月に太平洋で無傷な大型空母が0隻になるという非常事態に陥っている。

 その後も暫くはアメリカにとって大型空母の少ない状況になるが、これを援けるためにイギリスはパナマ運河経由で空母「ヴィクトリアス」を太平洋に送っていた。この空母「ヴィクトリアス」はソロモン諸島での戦いに参加している。

今回の歴史でもイギリスは空母を太平洋に送るだろうが、その時期は早まるかもしれない。


 アメリカ軍は果たしてこの状況でどう動くのか……


 ともかく自分の考えでは今後暫くはアメリカ海軍の活動は低下するだろうと思う。

 ただ、既に歴史の流れは変わり始めているので実際にどうなるかはわからない。

 油断せずに行こうと思う。



●6月12日、日本へ向けて帰投中の旗艦「大和」にて、連合艦隊司令部の幕僚会議を開き、今後の方針を話し合う事にした。


  海軍軍令部が「FS作戦(アメリカとオーストラリアの連絡線を断ち切る為に、フィジー、サモア、ニューカレドニアを攻略する作戦)」の延期を連絡して来たからだ。


 元々「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」を行うのと引き換えに「FS作戦」の実行を海軍軍令部と約束としていた。当初の予定では「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」終了と共に「FS作戦」を即実行という計画もあった。

 

 しかし、海軍軍令部も「ミッドウェー海戦」での南雲機動部隊の損害を知り、流石にすぐに「FS作戦」を実施する事は無理だと判断したらしい。


 当然の判断だ。それにたとえ損害が無かったとしても自分には「FS作戦」を直ぐに実施する気は寸分もなかった。


 元々、南雲機動部隊には艦艇の整備と休養、補充しているパイロット達の練度向上が必要だった。

 特にパイロットについては真珠湾で一割のパイロットを失い、その後の作戦でも犠牲が出ているので補充はしていたが、その補充されたパイロットはもっと練度を高める事が望まれた。

 それを承知で無理に「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」をやらせたのだ。


 南雲機動部隊には長期間の建て直しが必要だ。「FS作戦」を直ぐにやらせるのは無茶過ぎる。

 

 それに、そもそも自分は「FS作戦」の効果自体を疑っている。

 アメリカとオーストラリアを結ぶ海上交通路はフィジー、サモア、ニューカレドニアを占領したからと言って遮断できるものではない。


 確かにアメリカ本土からハワイ経由でオーストラリアのシドニーとブリスベーンを結ぶ航路と、アメリカ本土から直接シドニーを結ぶ航路は、フィジー、サモア、ニューカレドニアの西を通っている。


 しかし、アメリカ本土からニュージーランドの首都ウェリントンを経由してシドニーに至る航路は、一番遠くて東に位置するサモアの更に東を通っているのだ。

 サモアを占領してさえ、その航路を遮断する事などできない。

 それにアメリカとしてはサモア付近が危険なら航路をもっと東寄りにしてしまえばいいだけの話だ。


「FS作戦」については史実で山本五十六連合艦隊司令長官も消極的だったというが、自分も同意見だ。

 この際、この「FS作戦」は無期延期にもっていきたいと思う。


 今後の作戦方針とは言っても、まず直ぐに行わなくてはならないのは南雲機動部隊の立て直しだ。

 その為、できる作戦は限られてくる。


 太平洋での海戦は戦艦中心から空母中心となり空母抜きには考えられない為、「南雲機動部隊」の戦線離脱は正直痛い。


 現在、日本の空母は「赤城」「加賀」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」「隼鷹」「龍驤」「鳳翔」「瑞鳳」の9隻がある。


「赤城」と「飛龍」は旗艦「大和」と共に内地に帰投中だが、オーバーホールの時期に来ている。

「加賀」は先行して内地に帰投中だが大破して長期修理が必要だ。

「翔鶴」は内地にいるが、大破していて長期修理の予定だ。きっとまだ修理に取り掛かっていないだろう。

「瑞鶴」は内地で健在。


 この5隻は南雲機動部隊の中核を担い、連合艦隊の主力と言っていいが、「赤城」「飛龍」「加賀」は平均でおよそ四分の一のパイロットと艦載機を喪失しており、航空隊の立て直しが必要だ。


「翔鶴」「瑞鶴」の航空隊はもっと状況が悪く半減しており、こちらも建て直しが必要だ。


「隼鷹」と「龍驤」は現在「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」の最中だが、「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」から引き続き作戦を行わせたので、帰還したら流石に休養と整備が必要だろう。


 特に「龍驤」は「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」の前には「インド洋作戦」にも参加していたので尚更だ。航空隊の損失が少ない事を祈る。


「鳳翔」は今、旗艦「大和」と共に内地に帰投中だが、その後は練習空母になる事に決定している。元々小型で艦載機は15機しか積めず、日本で、また世界初の空母という事もあって艦齢も古いから仕方がない。それに艦載機パイロットの養成は急務だ。


「瑞鳳」も現在、旗艦「大和」と共に内地に帰投中だ。ただ、この空母の戦闘機は零戦ではなく旧式の九十六式艦上戦闘機を使っている。零戦の生産が間に合っていないのだ。それも頭の痛い問題だ。

 

 現在、何かあった場合、万全の状態で送り出せるのは小型空母の「瑞鳳」と「鳳翔」くらいだ。

 もうすぐ西で動きがあるというのに困ったものだ。


 連合艦隊司令部としは予てからの計画通り、今後は10月を目途に「ハワイ攻略作戦」の準備に入って行く。その頃には南雲機動部隊も万全の状態になるだろう。


 その間、他にも作戦を考えてはいるが、アメリカ艦隊が出てこなければ、暫くの間はアメリカに対して「第6艦隊(潜水艦部隊)」が主役となる。

 つまり通商破壊戦だ。


 現在、「第6艦隊(潜水艦部隊)」には六個の潜水戦隊があるが、そのうち2個の潜水戦隊が専属でアメリカに対する通商破壊戦を展開している。


第六艦隊直属 「伊」号型潜水艦3隻 ミッドウェー島攻略作戦に参加

第1潜水戦隊 「伊」号型潜水艦8隻 アメリカ本土西海岸沖で通商破壊戦

第2潜水戦隊 「伊」号型潜水艦7隻 ハワイ~アメリカ本土西海岸沖で通商破壊戦

第3潜水戦隊 「伊」号型潜水艦7隻 ミッドウェー島攻略作戦参加

第5潜水戦隊 「伊」号型潜水艦8隻、「呂」号型潜水艦4隻 インド洋で通商破壊戦

第7潜水戦隊 「呂」号型潜水艦9隻 オーストラリラ北方で通商破壊戦

第8潜水戦隊 「伊」号型潜水艦12隻 インド洋で通商破壊戦


現在の潜水艦部隊の使い方は、かなり史実とは違っている。

史実ではこれ程多くの潜水艦はハワイ~アメリカ本土西海岸やアメリカ本土西海岸沖に継続的に投入されなかったし、「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」に参加した潜水艦は8隻も少ない。


 史実では太平洋北方海域での哨戒活動に潜水艦が継続的に投入されていたが、視界が狭く速度の遅い潜水艦では効率が悪いのでさせていない。代わりに北方海域は飛行機による哨戒活動を増やさせた。


 史実では潜水艦をあちらこちらに派遣するような任務状況だった。例えば「第2潜水戦隊」は開戦時のハワイ攻撃作戦に参加した後はインド洋で作戦し、その後は太平洋北方海域で哨戒任務にあたっている。今回は、こうした事もさせず、同じ任務海域で活動させるようにしており、その海域での経験を蓄積し糧にして次の任務で役立てるようにさせている。

 そうした結果、通商破壊戦での成果は、史実より数倍以上の戦果を上げるに至っている。


 元々史実での潜水艦の使い方が通商破壊戦に全力を入れたものでは無かったのだから当たり前の結果と言われれば、そうなのだが。


 なお、宇垣参謀長などは史実通り潜水艦による通商破壊戦に否定的な考えをしているが、実戦部隊からの通商破壊戦を要望する声と、既にアメリカ艦隊の大型艦の多くを沈めたという事情により何とか納得させている。


史実でも今回の歴史でも開戦直後、12月17日にドイツの海軍総司令官レーダー元帥がドイツ駐在の野村中将に要望した事がインド洋での日本海軍による海上交通路の遮断及び通商破壊戦による輸送船の撃沈だ。


  今後、ドイツと日本で毎月80万トンから100万トンの連合国の輸送船を撃沈できれば、イギリスを敗北させる事が可能という話だ。

 そして史実では1942年に撃沈した連合国の輸送船は780万トンだ。

 

 レーダー元帥の言う撃沈数で、1ヵ月100万トンとして計算した場合は、1年で1200万トンとなるから、今年はあと420万トン上積みして沈めなければならない。今は6月だから1ヵ月あたり70万トンだ。

この数字は日本にとってかなり厳しい。


 史実では確かに日本の潜水艦は通商破壊戦に投入される事が少なかった。

 終戦までに実戦に参加した潜水艦154隻の中で、通商破壊戦を行った潜水艦の数は59隻で約三分の一でしかない。

 しかも、その通商破壊戦を行った潜水艦のうち42隻は通商破壊戦を行った期間が3ヵ月以下だった。


 それを考えれば、今回の歴史では早い時期から日本海軍の潜水艦は通商破壊戦に投入されているので、史実よりも遥かに戦果は上がっている。

 とは言えその戦果にも限界がある。


 史実では日本の潜水艦で通商破壊戦に7ヵ月以上従事した潜水艦1隻あたりの戦果は、作戦行動期間1ヵ月平均で約1隻でしかない。

 では1隻の潜水艦が1年に12隻の戦果が望めるのか、というとそうではない。

 

 史実でも今回の歴史でも「伊」号型の潜水艦の中でも大型の潜水艦は約2ヵ月間作戦に従事し、その後、約1ヵ月は艦の整備と乗組員の休養に当てられている。だから1年間では8ヵ月作戦し4ヵ月は整備と休養をしている事になる。

 つまり1年間で望める戦果は8隻だ。

 この大型の潜水艦が現在27隻ある。この27隻で1年間で望める戦果は216隻となる。


「伊」号型の潜水艦の中でも中型の潜水艦は約1ヵ月作戦に従事し、その後、約20日間は艦の整備と乗組員の休養に当てられる。

 だから1年間では約7ヵ月作戦している事になる。

 つまり1年間で望める戦果は7隻だ。

 この中型の潜水艦が現在14隻ある。この14隻で1年間で望める戦果は98隻となる。


「呂」号型の小型潜水艦は約三週間作戦に従事し、その後、約10日間が整備と休養に当てられる。

 ただし、現在保有している「呂」号型潜水艦は殆ど老朽艦なので戦果は期待していない。

 つまり、現在保有している日本の潜水艦で1年間に望める戦果は314隻だ。


 史実において、大戦中に日本の潜水艦が沈めた輸送船は171隻で84万9千トンだった。1隻平均のトン数は4964トンだ。

 

 この1隻平均のトン数を戦果が望める314隻にあてはめると155万8696トンだ。1ヵ月あたり12万9891トンで約13万トン。

必要とされる70万トンにはとても届かない。


 ただし、レーダー元帥の言う撃沈数で、少ない方の1ヵ月80万トンで計算すれば年間では960万トンとなる。史実の1942年に撃沈した780万トンを引けば、あと180万トンとなり、これからの半年で上積みして必要とされる撃沈数は1ヵ月あたり30万トンとなる。

 13万トンではこの30万トンにも届かないが、水上艦部隊による通商破壊戦を実施すればまだ望みはある。


 史実において1942年4月にマレー部隊(小沢南遣艦隊)がインド洋ベンガル湾で通商破壊戦を行った時の戦果は18万4千トンだった。しかもこの戦果は1週間での戦果でしかない。


 もし、継続的にそれなりの規模の水上艦部隊をインド洋で通商破壊戦に投入すれば、潜水艦の戦果と合わせて1ヵ月30万トンには届くだろうし、毎月は無理でも1ヵ月70万トンに届く可能性もあるだろう。

ただ、それなりの規模の水上艦部隊を派遣すれば、それこそ輸送船が航路を変えたり運航がストップして戦果が少なくなったりする事は当然起きるだろう。


 それに、イギリスの艦隊が出てきて激戦になる可能性も高い。

 しかし、インド洋の海上交通路は大きく乱れ、イギリスは困難に直面する事は間違いない。

 それにドイツ海軍のUボートによる戦果の上積みも期待できる。


 史実でも今回の歴史でも、ドイツの駐日海軍武官ヴェネッカー海軍中将が、日本海軍の潜水艦によるハワイとアメリカ本土間の通商破壊戦を要望してきている。それを行えば、アメリカは大西洋にいる護衛艦の一部を太平洋に割かねばならず、その分、Uボートの戦果も上るというわけだ。

 これは今回の歴史で行われている。

 日本海軍としてはハワイの防備強化を妨げるために行っているわけだが、それがUボートにも有利に働くというわけだ。


 だから太平洋でもインド洋でも通商破壊戦は重要だ。


 それにしてもレーダー元帥、ドイツと日本で毎月80万トンから100万トン撃沈って、元帥もイタリア海軍には期待しとらんのですね。

 まぁ気持ちはわかる。

 自分も期待しとらんですよ。


 しかし、潜水艦による通商破壊戦での問題は、現在使用している潜水艦に老朽艦が多いという事だ。

「呂」号型潜水艦は特にそうで先々月の4月には2隻が除籍となっている。

現在使用している「呂」号型も13隻中、11隻はもういつ除籍してもおかしくない艦齢だ。

本来、深度60メートルまで潜れるところを安全のために深度40メートルに押さえさせている。

 史実通りの話とは言え難儀な話だ。


「第7潜水戦隊」は全艦「呂」号型だが、比較的あてにできるのは「呂33」「呂34」の2隻でしかない。


「呂」号型も更に色々な型に細分されるが、この2隻は「海中五型」で同型艦はこの2隻しかない。

 この「海中五型」は高性能を追及した型で生産性に難があるものの、性能は優秀で艦齢も他の「呂」号型に比べれば10年は若い。


 それにしても、オーストラリア北部での通商破壊戦で、あてにできるのがたった2隻しかないというのも問題だ。


 インド洋で通商破壊戦を行っている「第5潜水戦隊」も実は老朽艦を集めた部隊だ。

第6艦隊司令部直属の3隻も老朽艦で元は機雷敷設用潜水艦で「K作戦」に使用したものだ。この潜水艦3隻はせっかく飛行艇に給油できるように改装したのだから飛行艇と組ませて偵察任務にあてた方がいいだろう。いつ除籍してもいい艦齢である事だし。

 そんなわけで2個潜水戦隊は老朽艦の集まりだ。


 真にあてにするのは「第1潜水戦隊」「第2潜水戦隊」「第3潜水戦隊」「第8潜水戦隊」の4個潜水戦隊だ。


「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」に参加した第3潜水戦隊は、そのままアメリカへの通商破壊戦に参加させるつもりだが、インド洋にももっと潜水艦が欲しい。

 

 そう、もっと潜水艦が欲しい。

 取り敢えず今月(6月)は「伊」号型が1隻就役する。

 来月は就役の予定は無い。

 8月は「伊」号型が3隻就役する。

 9月は「伊」号型が1隻と「呂」号型が1隻就役する。

 10月は「呂」号型が2隻就役する。

 11月は「呂」号型が1隻就役する。

 12月は「伊」号型が2隻と「呂」号型が1隻就役する。


 つまり、年内に就役するのは「伊」号型が7隻に「呂」号型が5隻。

 今、使用している老朽艦全てと置き換える数にも足りない。

 まだ、暫くは老朽艦にも頑張ってもらはなくてはならない状況だ。


 本当に頭が痛い。

 しかし、史実より通商破壊戦で戦果を上げているのは上出来だ。

 さらに通商破壊戦で戦果を上げられれば言う事は無い。


 潜水艦の運用はそれでいいとして、直ぐにとり掛かりたい作戦が一つあるのでそれを幕僚達に提案した。

 アメリカの潜水艦への対応策だ。

 アメリカ軍は現在、空母部隊が大ダメージを負ったから潜水艦部隊に期待するところは大きいだろう。


 現時点においては、史実通りアメリカの潜水艦によるシーレーン(海上交通路)での被害は大きくはない。

 だが来年にはアメリカの潜水艦は著しく増強されてくるし魚雷の欠陥も改善され、その脅威は格段に増す。今のうちに一隻でも多くのアメリカの潜水艦を叩いておきたい。


 そこで更新前の旧暗号が解読されている事を逆手に取り、偽情報を流してアメリカの潜水艦を誘き寄せ、それを叩く作戦を提案したのだ。

誘き寄せるのはミッドウェー島への補給航路だ。


 ミッドウェー島へ「ハワイ攻略作戦」のための物資と資材を満載した輸送船団を出港させるという情報を流せばアメリカ軍は放っておく事はできず、潜水艦を集めて攻撃させるのではないかと思う。

それを駆逐艦と飛行艇により叩くのだ。


 そうすれば、南方資源地帯と日本を結ぶシーレーン(海上交通路)からアメリカの潜水艦を引き離して被害を減らせもするだろう。

南方資源地帯とのシーレーン(海上交通路)からアメリカの潜水艦を引き離し、その潜水艦も叩こうという一石二鳥の作戦だ。

作戦名はまだ仮称だが「MT作戦」とした。


 ただ、問題は日本海軍の対潜攻撃能力に問題があるという事だろうか。

 あぁ高性能なソナーが欲しい。


 ミッドウェー島への補給線を餌にアメリカの潜水艦を叩くつもりでいるわけだが、ミッドウェー島への補給自体についてはそれほど心配していない。

 現状では島にいるのは守備隊に設営隊に労働用に残した捕虜、根拠地隊に航空隊の人員が約8000人だ。

 それに第1艦隊の乗員が約1万2000人。

 合わせてミッドウェー島周辺には約2万人がいる。


 日本軍では2万人の食糧補給量は1日あたり約20トンとなる。一ヶ月で約620トンだ。三ヶ月で1860トン。

 守備隊が1日あたり消費する弾薬が約4トンで、一ヶ月で124トンだ。三ヶ月で372トン。ただし戦闘が無ければ当然の事ながら弾薬は消費されない。

 

 距離の問題もある。

 ミッドウェー島は日本(横須賀)からは約4200キロも離れている。決して短い距離では無い。

 これが地上で補給線を設けるならば輜重部隊(補給輸送)のトラックか、または馬が大量に必要になるだろう。

 しかし、海での補給線の場合は陸での補給線とは事情が異なる。

 輸送船1隻あれば大量に物資を運べる。


 ミッドウェー島周辺にいる2万人の将兵への補給は、食糧に限って言えば小型の2000トンクラスの輸送船1隻でも1度の輸送で三ヶ月分を運べる事ができるし、その他の生活必需品を運べる余裕さえある。


 なお、ミッドウェー島を攻略する地上部隊を輸送した輸送船団は14隻からなるが、一番小さい輸送船でも4900トンで、一番大きい輸送船は1万2000トンだ。一番多かったのは8000トンクラスの輸送船で6隻だった。

 この輸送船団が運んだ、食糧、弾薬、燃料、各種物資と資材の量は、人員輸送分を除いても7万トンにもなる。暫くは補給無しでも持久できる量だ。


 海上での補給線の構築と陸上での補給線の構築では根本的に違いがあるのだ。

 だからこそ、日本海軍は日本本土より遥かに遠い南洋の島々を占領しても太平洋戦争初期に補給を破綻させた事などなかった。


 アメリカ軍との最前線に位置するギルバート諸島のタラワ島などは南洋で日本軍が占領した最も遠い島の一つで、ここに日本軍は最終的に約4800人の将兵を配置した。

 このタラワ島は日本の横須賀からの距離で言えばミッドウェー島よりもさらに遠く5600キロも離れている。

 だが1943年11月にアメリカ軍が攻めて来るまでは別に補給は破綻していないし将兵は飢えてもいない。


 太平洋戦争中に南洋の島々で補給が滞り出したのは日本軍が制空権も確保できない場所で戦おうとしたり、航空戦力をアメリカ軍との戦いで消耗し制海権を握れなくなったためだ。

 要は制空権、制海権を確保できる限りは現時点での日本の勢力圏は維持でき補給は心配無い。


 問題が出るとすれば「第1艦隊分遣隊」の燃料の方だろう。

「第1艦隊分遣隊」の艦艇の燃料を満タンにするにはおよそ4万トンの重油が必要になる。扶桑級、伊勢級の戦艦は1隻あたり5000トンが必要だ。駆逐艦も1隻あたりおよそ600トンは必要だ。


 取り敢えず連合艦隊の主要な部隊がミッドウェー島の海域を離れる時に、「第1艦隊分遣隊」の艦艇の燃料は満タンにし、残る事になった給油艦3隻のタンクも満タンにはしておいた。

 それで暫くは持つ筈だ。


 よく日本の軍艦は日本本土近海での作戦を考えられていた為、航続距離が少ないとか足が短いと言われる。

 だが扶桑級、伊勢級にしても速度を16ノット程度に抑えれば2万キロは航行できる。これはミッドウェー島と横須賀の間を2回往復してなお3000キロ以上航行できるという事だ。


「第1艦隊分遣隊」の駆逐艦にしても航続距離の短い艦艇でも7200キロは航行できる。

戦闘状態に入り最大戦速を出さなければいけない時には燃料の消費量も跳ね上がるが、現状では「第1艦隊分遣隊」の全艦艇が毎日、最大戦速を長時間出す必要があるという状況でもない。尤も今後はわからないが。


 そして、「第1艦隊分遣隊」への燃料補給には「知床型給油船」を掻き集めあてる事にした。

 何故「知床型給油船」なのかは、何れ語る時も来るだろう。 

 これらの給油艦の航路はインドネシアの油田からトラック島を経由しさらにウェーク島を経由して行う予定だ。護衛は航路途中の各根拠地隊に任せる。

 これで何とかなるだろう。


 そういう訳で現状ではミッドウェー島を含め海軍の補給体制に不安は抱いていない。


 それよりも気になるのは、これから実行されるだろう陸軍の「リ号研究作戦」と、それに続く「レ号作戦(ポートモレスビー攻略作戦)」だ。


 史実では本日6月12日に大本営陸軍部が南洋の第17軍に陸路でのポートモレスビー攻略の「研究」を命じる。それが「リ号研究作戦」だ。

 5月の海路での「MO作戦」が失敗したから今度は陸路でというわけだ。


 まずはニューギニア島東部の北側に上陸し、そこからからポートモレスビーのある南側まで陸路で突っ切るわけだ。言葉にすると簡単でいかにもできそうな気もする。

 しかし「言うは易く行うは難し」で、その行程はジャングルを進み、ニューギニア東部中央に聳え立つオーエン・スタンレー山脈を越えなければならない。直線距離で200キロ以上、実距離では360キロと推定される。これは大変な道程だ。


 この作戦に投入される兵力は8000人という計画だっだ。

 とり敢えず工兵部隊を主力とする先遣隊を送り込み現地にいる敵部隊の排除とポートモレスビーまでの道程の偵察と調査が開始される。それが「リ号研究作戦」だ。


 大本営陸軍部も第17軍も「リ号研究作戦」で実際に陸路進攻が実行可能かどうか見極めようとした。

 海岸部はともかく内陸部のジャングルと山岳地帯には幅広い道路などは無く小道らしきものがある程度でポートモレスビーまでは困難が予想された。


 史実では第17軍で独自に補給の計算をしてみた所、ジャングルと山脈を越えての行程で8000人の弾薬と食糧を不足なく供給するには輜重部隊(補給部隊)が3万人も必要という数字が出た。トラックも走れない馬も連れていけないような場所では全て人力に頼るしかなく、そういう計算になった。


 だが、しかし、事態は急変する。

 まだ先遣隊の調査が終了していない時に大本営陸軍部から視察に訪れた辻政信参謀が、既に大本営はこの作戦実行を決定しているとして、第17軍に「レ号作戦(ポートモレスビー攻略作戦)」の開始を指示したのだ。


 しかし、実はこれ辻政信参謀の独断で、この時点では大本営陸軍部では作戦実行の決定はまだ下していなかった。大本営陸軍部でも先遣隊の調査結果を待っていたのだ。

 もし、その調査結果で無理という事ならこの作戦は実行されなかったかもしれない。

 しかし、一人の参謀の独断が歯車を動かしてしまった。


 史実では8月18日から本格的に始まるこの「レ号作戦(ポートモレスビー攻略作戦)」に投入された「南海支隊」の8000人の将兵は、限られた装備と食糧で奮闘する。

 ポートモレスビーまで直線距離であと50キロという地点まで到達がするが、兵力は消耗し補給も続かず撤退する事になる。部隊では食糧が欠乏し餓死者も出る惨憺たる状態になり犠牲者が多数出る事になる。

できるなら、このような史実を今回の歴史では繰り返させたくはない。


 正直、この「リ号研究作戦」と「レ号作戦(ポートモレスビー攻略作戦)」が行われるのなら止めたいところだが、実行するのが陸軍なだけに自分にその権限は無い。


 空母を投入しての「第二次MO作戦」を行い海路から進攻作戦を行う事を提案すれば、あるいは中止させる事ができるかもしれない。

 だが、現状では南雲機動部隊は動かせない。

 残りの空母にもさせるべき作戦がある。

 さて、どうしたものか。


 海軍ではなく陸軍の兵士とは言え同じ日本人だ。ましてや下っ端の兵士達には何の罪も無い。その彼らが上からの無謀とも言える命令に従い無茶な作戦に身を投じる事になる。

「ドーリットルの東京空襲」を敢えて見逃した自分が言うのも何だが、それでも「ドーリットルの東京空襲」の場合は、後の戦略に繋げるために、戦争に勝利するために、敢えて犠牲に目を瞑った。


 しかし、この「リ号研究作戦」と「レ号作戦(ポートモレスビー攻略作戦)」の場合は、史実通りに進展すると、そこに生ずる犠牲で戦争を勝利に導くという事は無い。

 だからこそ悲惨な運命にあう前に止めれるものなら止めたいし、救えるものなら救いたいが。


 それにこの「南海支隊」の作戦に拘るのはもう一つ理由がある。まぁそれはそのうち書くとしよう。

ともかく困った。

何かできないか考えてみよう。



●6月17日、ミッドウェー島の二式大艇がハワイ方面で空母1隻を発見したとの報が入る。


これは朗報だ。

「サラトガ」か「ワスプ」か、どちらにしろ空母1隻がハワイ方面にいるのなら、その分「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」の成功確率が高くなる。


 それと「第1艦隊分遣隊」からの報告ではアメリカ軍のB17爆撃機がたまに飛んで来て爆撃を行うが、高高度からで爆弾の数は少なく艦隊を狙っているので命中弾は今のところ無いそうだ。現在までにミッドウェー島への爆撃は一度も無いとの事。

 この報告により、連合艦隊司令部の中で前の暗号が解読されているという意見に懐疑的であった者も今や解読されているのは事実という考えに傾いてきている。

傾いてないで信じろ。



●6月18日、「第2機動部隊」より「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」成功の報が入る。

 どうやら史実通りアメリカの戦艦部隊も空母部隊も出てこなかったようだ。

 一安心。

 ただ、気になるのは、とある零戦の損失がどうなったかだ。


 史実の「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」では6月3日(3日はアメリカ時間、日本時間だと4日)にウラナスカ島のダッチハーバー港を空襲した際に、零戦の1機が失われてしまう。

 

 その零戦は地上からの対空砲火で損傷を受けてオイル漏れを起こし飛べなくなった為に、ダッチハーバーから約40キロ離れた隣の島のアクタン島に不時着するも横転しパイロットは首の骨を折り死亡した。

 味方機はパイロットが生存しているのかどうか上空からではわからず、不時着した機体を銃撃して破壊する事を躊躇い帰投した。

 

 その機体を7日後の10日にアクタン島上空を飛んだアメリカ軍の飛行艇が発見する。アメリカ軍は直ぐにこの零戦を回収しアメリカ本土に移送した。

 そして零戦は徹底的に調べられ、その弱点がアメリカ軍に知られ、また対零戦用の戦術が生み出される。

 

 この鹵獲された零戦については「アメリカにとって太平洋戦争で最も価値ある鹵獲物」と言われたり、「日本にとってミッドウェー海戦の敗北に匹敵する」との声が現代でも上るほどだ。それを否定する声もあるが。


 ともかく、このアメリカ軍による零戦の鹵獲によって日本軍が不利になった事は間違いない。

できれば、今回の歴史では史実通りに運んではほしくないのだが、どうなるか。


「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」は実行されたとは言え、史実とは実行日が違うし、「第2機動部隊」も「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」に参加し、その航空隊に損害を受け再編しているから、航空隊も史実と全く同じというわけではない。

 どうかその辺りが作用して今回の歴史は史実とは違い、アメリカ軍による零戦の鹵獲は起きなかったという事になれば嬉しいのだが。

 これはもう祈るしかないか。



●6月19日、旗艦「大和」他、連合艦隊主力は内地に帰還した。


 広島湾では歓声を上げる多くの漁船に迎えられた。嬉しい限りだ。

 ついでに刺身が食べたくなったよ。



●6月20日、海軍軍令部から伊藤次長が航空参謀と潜水艦参謀を引き連れ旗艦「大和」を訪れた。


 日にちはずれたがこの伊藤次長の訪問自体は史実通りだ。

 伊藤次長は宇垣参謀長の前に連合艦隊の参謀長を務めていた人物だ。


 伊藤次長から戦勝の祝いの言葉を貰った後は今後の方針の確認だ。

 最優先事項として南雲機動部隊の立て直しでは意見の一致を見た。

 まぁ当然だわな。

 空母の増勢が必要である事も見解の一致を見た。

 まぁ当然だわな。

 

 ここで宇垣参謀長が戦艦「伊勢」「日向」の航空戦艦への改装を提案し、是非、研究して欲しいと要望した。この宇垣参謀長の提案は史実通りの話。

 

 それからミッドウェー島に配備したばかりの「第1魚雷艇隊」について配備先の変更を提案した。


 アメリカ軍もミッドウェー島には魚雷艇隊を配備していたが、今回の戦いでは為す術も無く空からの攻撃の前に撃破され全く役に立たなかった。


 今や海戦の主役は飛行機だ。大海原の孤島に魚雷艇隊を配備しても小型艇の活躍できる場面はそれ程あるとは思えない。

今、ミッドウェー島にいる「第1魚雷艇隊」もアメリカの魚雷艇隊と同様な未来が待っているのではないか。

 と、いう懸念がある事を伝え、大海原に孤立している感のあるミッドウェー島よりも、島々が多く、それ故に飛行機に見つかりにくく敵艦との交戦距離も縮める事が比較的可能なソロモン諸島方面の方が、魚雷艇の活躍の場として向いているのではないだろうかと話し、ラバウルやツラギに「第1魚雷艇隊」を送り込んだ方が良いのではないかと提案した。


 史実ではアメリカの魚雷艇はソロモン諸島で大いに活躍する。

 できるなら今回の歴史では最初からこちらの魚雷艇をソロモン諸島に送り込み活躍させたかった。

 

 だが、海軍軍令部が決めた魚雷艇隊の配置を明確な理由も無しに強引に変える事は要らぬ軋轢を生むだけだ。

 ただでさえ海軍軍令部の反対を押し切って「真珠湾攻撃作戦」に「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」を行ったという負い目もある。

 これ以上の軋轢はできるだけ避けたい。

 たった5隻の魚雷艇の話でしかないという事もある。

 

 それにしても「自分は歴史を知っている。アメリカは魚雷艇をソロモン諸島で大活躍させるのだ。今回は先手を取ってこちらが魚雷艇を活躍させるのだ」と言えたならどれ程いいか。いや、言っても信じてもらえないであろう事が問題なのだが。

 

 だから今回の「ミッドウェー海戦」でアメリカ側の魚雷艇隊が役立たなかった事を理由に、ここで「第1魚雷艇隊」の配備先の変更を提案した。

 

 史実でも今回の歴史でも「第1魚雷艇隊」の「T-1型魚雷艇」は3隻がウェーク島に2隻がタラワ島に配備されていたが、ミッドウェー島占領後の守備戦力とするために水上機母艦「日進」に搭載され、「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」に参加した。

 史実の場合は「ミッドウェー海戦」に敗北した事から元の配備先に戻る事になった。


 今回の歴史では「ミッドウェー海戦」に勝利したため史実の計画通りミッドウェー島に配備されたのだ。

 できるなら魚雷艇を搭載した水上機母艦「日進」をそのまま反転させてラバウルかツラギ島に向かわせたかったくらいだ。

 だが、水上機母艦「日進」にはミッドウェー島に進出してくる「第14航空隊」の飛行艇部隊の支援という役割もあるため、そう意味からも勝手にはできなかった。

まぁとにかく「第1魚雷艇隊」にはソロモン諸島に活躍の場を与えたい。


 更に哨戒艇を集め「第2哨戒艇隊」を編成し「第4艦隊」に配属する事も提案した。

 既にある「第1哨戒艇隊」には5隻の哨戒艇を集め、ミッドウェー島の「第1艦隊分遣隊」に配属するようにしてある。


 哨戒艇と言うと哨戒を専門の任務とする艦艇のように聞こえるが、日本海軍の場合は少し違う。

 日本海軍での哨戒艇は開戦前に12隻あったが、3タイプの旧式駆逐艦を改装したものだ。

「樅」型駆逐艦が9隻。「峯風」型駆逐艦が2隻。「若竹」型駆逐艦が1隻が改装された。


 その改装とは魚雷発射管と後部砲塔を撤去し機関のボイラーを減らし、その代わりに大発を1隻から2隻、兵員を約230人~250人運べるようにしている。

 つまり上陸作戦用を目的に改装したと言ってもいい艦であり、哨戒艇と言うよりは揚陸艦だ。

 ただし中には大戦中、大発を積まず機銃を増やして対空戦闘能力を増やして船団護衛任務についた艦もある。


「第1哨戒艇隊」をミッドウェー島に配備したのは後の「ハワイ攻略作戦」を考慮しての事だ。

 今回、「第2哨戒艇隊」を編成し「第4艦隊」に配属するというのは、これからの南方方面での作戦を考えると哨戒艇を集め集中運用した方が良いと思えたからだ。

 既に「第4艦隊」に配属されている哨戒艇もあるが、もっと数を増やしておいた方がいいだろうという自分の考えだ。


 宇垣参謀長の航空戦艦改装の件と「第1魚雷艇隊」「第2哨戒艇隊」の件については「軍令部に戻って検討してみます」との言質を伊藤次長から得た。

 是非とも頼むよ伊藤次長。

 そして更なる提案を伊藤次長にした。更新前の旧暗号が敵に解読されいる可能性があり、さらにそれを逆手にとって敵潜水艦を撃滅する作戦を行うつもりだから一つよろしくと言ったら驚いていた。無理もない。


 伊藤次長が海軍軍令部に急ぎ帰って連合艦隊司令部の方針を報告してくれたが、海軍軍令部では前の暗号が解読されているらしいという事や、それを逆利用するという作戦に少し騒ぎになったらしい。

 暗号は解読されない絶対の自信があった上に、既に破棄した暗号を再利用するなど、これまでの海軍の戦術からは考えられない異質な作戦なので戸惑いも大きいという事のようだ。


 たかだか解読された暗号を逆手にとる、とるに足りない作戦くらいで騒いでくれるな海軍軍令部。

 作戦が失敗する可能性もあるのだし失敗しても大して影響は無いのだから。



●6月21日、南洋のソロモン諸島を担当範囲とする基地航空部隊の「第11航空艦隊」司令部より、ソロモン諸島のガダルカナル島に飛行場に適した土地を発見したとの報告が入った。


 史実より少し遅い報告だ。

 史実とは違い「ミッドウェー海戦」で勝利し、内地に帰って来るのが遅かった事が影響したのだろうか。

 ともかく、その報告は黙殺する事にした。

 史実では「ミッドウェー海戦」で敗北した後に連合艦隊司令部はソロモン諸島に航空基地を建設していく「SN作戦」を推進する。その一端がガダルカナル島での飛行場建設だった。

 しかし、今回の歴史ではガダルカナル島に飛行場を建設するのは無しだ。

 これで史実とは違いガダルカナル島で悲惨な消耗戦をする事も無いだろう。



●6月22日、大本営海軍部軍から「大海指107号」が発令された。

 

 これは連合艦隊に通商破壊戦の更なる強化を指示したものであり、その重点はインド洋だ。

 前日の6月21日に、北アフリカのイギリス軍が守る要衝トブルクをドイツ軍が攻撃し陥落させた。ドイツ軍は余勢を駆ってエジプトに進撃する勢いを見せているらしい。

 そこで大本営の目が西に向いたというわけだ。


 それに史実でも今回の歴史でも、今年の三月の時点でドイツ海軍のフリッケ海軍作戦部長からドイツ駐在の野村中将に、ドイツ軍とイタリア軍のエジプト侵攻に呼応して日本海軍がアフリカ東方沖で活動して連合国の海上交通路を遮断してほしいという要請がなされている。

 同盟国への配慮も必要だというわけだ。

 自分としても異存は無い。

 もともと通商破壊戦は自分の構想する連合国に勝つための戦略の一つだ。


 史実において、この時、連合艦隊は潜水艦部隊を集中的にインド洋に投入しようとした。

 潜水艦部隊だけではなく水上艦部隊を投入して通商破壊戦もしようとした。

 

 7月末に南方地帯を作戦範囲とする「南西方面艦隊」が、連合艦隊からの命令でインド洋での通商破壊戦をするためにマレー半島のメルギーに集結させようとした水上艦部隊の兵力は、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦18隻だった。

 

 6月22日に「大海指107号」が発令されているのに、7月末とは随分と遅いが、これには「ミッドウェー海戦」で敗北し多くの航空機を失ったために、連合艦隊司令部が当初はインド洋への水上艦部隊の派遣に乗り気ではなかった事に起因する。

 結局、史実ではこのメルギーに集結しようとした艦隊はガダルカナル攻防戦の発生と共にそちらに回され、インド洋で行動する事は無かった。

 インド洋に派遣された潜水艦部隊もガダルカナル攻防戦に回される事になる。

 

 そしてインド洋での通商破壊戦は少数の部隊が細々と行う事になる


 しかし、今回の歴史では、ここでインド洋へ投入する戦力はかなり大きくなる。 

 そもそも、「第5潜水戦隊」などは史実では「ミッドウェー海戦」に参加したが、今回の歴史では参加せずインド洋で通商破壊戦を続けている。

 投入予定の水上艦部隊には小型とは言え、空母も派遣するつもりだ。

 史実でも今回の歴史でも、4月に「南雲機動部隊」のインド洋作戦時に、「マレー部隊(小沢南遣艦隊)」がインド洋のベンガル湾で通商破壊戦をした時の兵力は小型空母1隻、重巡洋艦5隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦9隻だった。

 今回も、その程度の水上艦部隊は送るつもりだ。


「第3航空戦隊」の小型空母「瑞鳳」と護衛駆逐艦「三日月」

「第7戦隊」の重巡洋艦「熊野」「鈴谷」「三隈」「最上」の4隻。

「第19駆逐隊」の駆逐艦3隻に「第20駆逐隊」の駆逐艦の4隻。

 給油船2隻。

 つまり、小型空母1隻、重巡洋艦4隻、駆逐艦8隻、給油船2隻だ。


 これらの部隊で「第3機動部隊」を編成しインド洋で作戦にあたるのだ。

 これだけの規模の機動部隊をインド洋に派遣するのだから期待は大きい。

 是非ともイギリスの輸送船を沈め、または捕獲し捲ってもらいたい。

 作戦名は史実通り「B作戦」となった。


 この機会に太平洋でも一つの作戦をしてみようと連合艦隊司令部の幕僚達に提案してみた。

 アメリカの残存する空母を叩くための作戦だ。

 これは「第2機動部隊」が「AL作戦(アリューシャン攻略作戦)」から帰還し休養をした後での計画となる。


 まず、解読されている前の暗号を使いインド洋に「南雲機動部隊」が出動したとアメリカ軍に思わせる。

 ここは暗号だけでなく開戦劈頭の「真珠湾攻撃作戦」で行った偽装電波発信工作を再び行うのもいいかもしれない。


「真珠湾攻撃作戦」の時は日本本土で南雲機動部隊が発していると思わせる偽装電波を発信し、いかにも「南雲機動部隊」は日本にいると見せかける工作を行った。


 今度は適当な船舶に「南雲機動部隊」を偽装する電波を発信させつつ日本本土から南方方面へ移動させれば、暗号解読と合わせて真実味が増すというものだろう。


 それに、これは現在マダガスカル島を攻略しているイギリス軍への牽制ともなる。

 アメリカ軍とイギリス軍は情報を共有している。

 それで「南雲機動部隊」がインド洋に来ると知ったらマダガスカル島のイギリス軍は慌てるだろう。

 それでイギリス軍はどう動くか。

 マダガスカル島攻略から海軍戦力を抜き出し、マダガスカル島攻略の手が緩まるかもしれない。

 上手くいけばマダガスカル島はフランス軍が保持という事になるかもしれない。


「南雲機動部隊」の偽情報を流した後は、ミッドウェー島海域にいる「第1艦隊分遣隊」から戦力を引き抜く。

戦艦「伊勢」「日向」に巡洋艦部隊の一隊を内地に引き揚げさせる。「伊勢」と「日向」は航空戦艦へ改装するつもりだから丁度いい。


「南雲機動部隊」が太平洋におらず、ミッドウェー島の「第1艦隊分遣隊」も戦力が半減しているとなったらアメリカ軍はどう出るか?


 アメリカ軍にしても空母は少なくパイロットの練度に問題があるにしても、この状況はアメリカ軍にとってとても有利だ。放っておくには惜しい状況だろう。

 うまく行けば、アメリカ軍はこの餌に食い付くかもしれない。

 ミッドウェー島を餌にアメリカの空母を釣り出してそこを「第2機動部隊」で叩くのだ。


「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」における敵空母の誘き出し構想をもう一度というわけだ。あぁこれは芸が無いかもしれない。夢よもう一度というわけだし。


 だが、もし最高にうまく行けば「第二次ミッドウェー海戦」が起こり、アメリカの大型空母は文字通り全滅するという事もあるかもしれない。


 だが、悪くすると史実の「ミッドウェー海戦」のように、こちらの「第2機動部隊」が全滅する恐れもある。

 何せこちらの主力はは中型空母1隻と小型空母1隻にミッドウェー島の航空隊だ。

 それに対してアメリカ軍は最低でも大型空母2隻だろう。あと小型空母、護衛空母の投入も有り得る。

 こちらの有利な点はパイロットの技量で優っている点。

 零戦1機が敵戦闘機5機分に相当するという計算なら五分以上に戦えはするが。


 幕僚達は皆、乗り気で作戦計画を練り上げると言っている。

 作戦名はまだ仮称だが「M三号作戦」とした。

 いや「ミッドウェー島攻略作戦」の前に「戦略・戦術の基本は戦力の集中だ」何て言ってた手前、こんな少ない兵力でもう一戦やらかそうなんて批判を受けても仕方ないと思うのだけど、幕僚陣の誰も止めた方がいいとは言わないね。「ミッドウェー海戦」の勝利で勢いづいてしまったかな。


 根本的に解読された暗号の利用や偽装電波にアメリカ軍とイギリス軍が騙されない可能性もあるが、それならそれで別に構わない。

 その時はただ単に太平洋では戦闘が発生しないか、アメリカ軍が戦闘をしようという場合もそれほど状況は変わらないだろう。元々アメリカ軍も投入できる戦力には限りがあるのだから。

 インド洋でも特に味方の艦隊が不利な状況に追い込まれるわけでもない。

 暗号と偽装電波に関しては失敗してもこちらにダメージは少ないのだ。



●6月23日、海軍軍令部に「特殊部隊」の創設を提案した。


 現在、ヨーロッパ戦線では史実通りイギリス軍がコマンド部隊を創設し、各地のドイツ軍に対し奇襲作戦を実行している。

 その日本版の部隊を作ってアメリカ軍に対し投入しようという構想だ。

 今のところ最大の狙いはハワイだ。

「ハワイ攻略作戦」において特殊部隊を投入、攻略戦の一助にしようというわけだ。


 実は史実においても日本版コマンド部隊は編成されている。

 1944年3月という敗色の色濃い時期に「呉鎮守府第101特別陸戦隊」が編成されている。

潜水艦で敵地まで行き密かに上陸し敵重要目標を破壊するのが目的だ。

潜水艦のSubmarineの頭文字Sをとって通称「S特」と呼ばれた。


「S特」は他に「佐世保鎮守府第102特別陸戦隊」が編制されている。

 隊員は生還の望みが無い事から志願制で長男は除外され、武道の有段者である事が資格とされていた。

 当初はラバウル方面に投入予定だったが、「S特」の訓練が終了する前にアメリカ軍はサイパンに上陸するという戦局になり、ラバウル方面に投入する時期は逸する事になった。

 その後、サイパンへの投入やレイテへの投入という話もあったが種々の事情により見送られる。


 そして1944年12月に出て来た計画が何とアメリカ本土西海岸への奇襲作戦だ。

 目標はロサンゼルス近郊のロッキード社のバーバンク工場とダグラス社のサンタモニカ工場だ。

 もう、この時期になると日本の敗北は必至であり、敵の工場を一つ二つ破壊したところで、敗勢を覆せる望みは全く無い。


 それでも海軍軍令部の作戦課の参謀は作戦決行を推進したそうだ。

日本はこの戦争で負けるが、その前に敵本土に攻撃を掛けて日本民族の意気を示して再起の拠り所にしたいという考えがあったらしい。


 ただし、同じ海軍軍令部の情報部の参謀などは、この作戦を「バカげたプラン」と言っていたそうだから必ずしも海軍軍令部の全員が支持していたという作戦でもないようだ。


 結局、このアメリカ本土西海岸への奇襲作戦も流れる事になる。

 その代わりに浮上したのがマリアナ諸島のグアム島、サイパン島のB29長距離戦略爆撃機を破壊しようという「剣作戦」だ。

 

 一式陸上攻撃機の武装を外して臨時輸送機とし、「S特」の隊員を乗せてグアム島、サイパン島の敵飛行場に強行着陸してB29長距離戦略爆撃機を破壊しようというもで、成功すれば日本本土決戦のための準備時間を稼ぐ事ができるという狙いがあった。

 当初はグアム島とサイパン島の飛行場が目標だった。

 しかし、原爆が8月6日に広島に、8月9日に長崎に落とされ、その原爆を投下したB29長距離戦略爆撃機がテニアン島から飛び立ったという情報を得ると、攻撃目標にテニアン島も加えられる。

 だが「剣作戦」が実行される前に、日本は降伏し「S特」が実戦に投入される事は遂に無かった。


今回の歴史では、その「S特」を約1年9ヵ月も早く前倒しで編成し、実戦に投入しようというのだ。

史実では、陽の目を見ないで終わった「S特」に、今回は是非とも活躍の場を作ってあげよう。


 ところで、史実で計画された「S特」によるアメリカ本土西海岸への奇襲作戦の原型は、以外な事に一民間人の提案によるものだ。

 1944年の秋にとある民間人が海軍に、自分の所に決死隊200人がいるので潜水艦でアメリカ本土に送り込んでくれれば暴れ回ってみせると提案したそうだ。

 この人物は一民間人とは言っても元は船を十数隻持ち、海軍の物資輸送に従事していた企業家だ。戦局の趨勢により海軍に船を供出したそうだが、その代価は払われている。


 まぁそういう海軍との繋がりが無ければ海軍も一々、民間人の応対はしていられないだろうし耳をかす事もなかっただろう。


 結局、海軍側でその話は断ったが、アイデア自体は生かされ、それが「S特」によるアメリカ本土西海岸への奇襲攻撃という計画になったのだ。これも流れてしまったが。


 ところで、その民間人の話はまだ終わらない。

 日本には海軍の他にもう一つ軍隊がある。

 そう陸軍だ。

 この民間人は今度は陸軍に新たな提案を持って行った。

 大型の漁船に兵隊を乗せてアメリカ本土西海岸へ行こうというのだ。そして現地で車を奪い首都ワシントンまで行こうという計画だ。


 うーーーん、何と大それたアバウトで荒唐無稽な計画か。

 しかし、それも愛国心故の事だから笑っちゃいけない。当時の日本は民間人がそういう事を考えるほど追い詰められていたのだ。

 それはともかく流石に陸軍もこの提案を断った。

 

 しかし、まだこの民間人の話は終わらない。

 この民間人はアメリカ本土への攻撃は諦めざるをえなかった。

 だが、民間人決死隊による特攻隊を編成し陸軍から特攻艇(モーターボートに爆薬を積み体当たり攻撃を仕掛ける小型艇)50隻の提供を受ける事には成功したのだ。

 ただ、民間人決死隊による特攻隊が出撃する前に日本は降伏する事となり、犠牲者を出す事なく終わった。


 民間人にも色々いるものだと思う。

 今回の歴史では、日本が追い詰められる事などさせる気はないから、この民間人が出てくる場面は無いだろう。

 だが、面白そうな人物ではある。機会があれば一度会ってみたいものだ。



●6月24日、旗艦「大和」艦上で連合艦隊司令部の幕僚陣、南雲機動部隊の幕僚陣、第2艦隊(ミッドウェー島攻略部隊)の幕僚陣、第6艦隊(潜水艦部隊)の参謀を集めて戦訓研究会を行った。


 簡単に言えば「MI作戦(ミッドウェー島攻略作戦)」の反省会だ。ここで問題点を洗い出して、次の作戦に生かすのだ。


色々と問題点や改善点が出て来て改善案も検討したが、その途中で南雲機動部隊の幕僚からは謝罪された。

山本長官の言う通りに二段索敵を行っておけば敵に先駆けて敵空母を発見できた可能性がありましたと。また直衛機も増やしておけば蒼龍が沈む事は無かったかもしれませんと。

今更、彼らを責めたところで結果は変わらない。

この戦訓を是非、次の機会に生かして欲しいと言っておいた。


連合艦隊司令部の幕僚陣からも「第2機動部隊」がいなければ敗北した可能性があり、山本長官の言う通りでしたと言われたが、最初に提案したのは源田参謀だ。だから源田参謀の功績だと言っておいた。


 何だか、この戦訓研究会では山本長官の言う事は正しかったという雰囲気と印象が強く残る事になったような感じだ。照れる。

 しかし、これで以後、少しは自分への信頼が高まり、色々とやりやすくなるだろう。

 ミッドウェー海域からの帰途、連合艦隊司令部の幕僚は既にもうそういう感じになっていたけどね。


 ただ、自分としても反省点は大いにある。

 現代日本において防衛研修所戦史室が編纂した日本の公刊戦史である「戦史叢書」の第43巻「ミッドウェー海戦」に載っている敗北の原因は6点あった。要約すると以下のようになる。


1.情報戦の敗北。アメリカ軍は日本軍の暗号を解読しその作戦を知っていたのに、日本軍はアメリカ軍の状況を知らなかった。


2.心に緩みがあり計画にも作戦実行にも慎重さが足りなかった。


3.連合艦隊司令長官が出撃したため、その位置を秘匿するため情報の伝達が阻害された。


4.航空戦・空母戦の研究不足。索敵や報告の訓練が疎かにされ、空母の被害対策の研究も足りていなかった。


5.決戦日において二度の兵装転換して弱点を作った事。


6.戦艦部隊が後方遠くにいて何ら戦いに寄与できなかった。


 自分は結局、この6点のうち5点については何一つ改善できなかった。

 改善しようとはしたが上手くいかなかったと言っていい。


 1番目の情報戦については、持論の暗号が解読されていても勝てるという考えがありはしたが、それでも「K作戦」で少しでも情報収集しようとした。しかし結果的に失敗した。残念。


 2番目も将兵の気持ちを引き締めようと訓示を行ったが効果は無かった。残念。


 3番目は未だ連合艦隊内部に根強くある戦艦中心主義と、司令長官が戦場にあるのが伝統という前時代的な考えを払拭する事はこの時点ではできなかった。残念


 4番目は二段索敵や直衛機を増す提案はしたが実戦部隊を納得させるには至らず採用されなかった。残念。


 5番目については「第2機動部隊」を参加させる事で戦力を上げた事が好結果を生んだ。良かった。


 6番目については、全くもってその通り。何かしらチャンスが訪れるかと思ったが、全て「南雲機動部隊」で片づけてしまった。残念。


 これだけじゃない。結局、旗艦「大和」や戦艦「長門」「陸奥」、他にも重巡洋艦などで全く戦闘に参加していない艦艇の乗組員には不平不満が見られるそうだ。

無理も無い。これまで連合艦隊の主力であり花形だったのにずっと出番無しだ。

空母・飛行機派 VS 戦艦・大艦巨砲主義派の対立が、連合艦隊内部で大きな不和を起こさないか心配だ。

 

 でも、まあ問題点はあったにしろ勝ちはしたのだ。

 後はこの勝ちを次に繋いで行こう。



●6月25日、横浜港から「日米交換船」の「浅間丸」が出港した。


 この「日米交換船」は、日本とアメリカが戦争になったため相手国に取り残された自国の外交官や商社の人間とその家族、留学生等を交換しようというものだ。


 交換場所は中立国ポルトガルの領土で東アフリカのロレンソ・マルケス(現代世界でのモザンビーク共和国の首都マプト)だ。

 

 あと上海から28日にイタリア船籍の「コンテ・ヴェルデ号」という客船が交換船として出港する事になっている。

 この「コンテ・ヴェルデ号」はイタリアと上海を定期航路とする客船だったが、第二次世界大戦の始まりで、イタリアに戻れなくなり上海に留まっていた船だ。

 それを日本政府がチャーターして「交換船」の一隻として利用するという事になった。


「コンテ・ヴェルデ号」と「浅間丸」はシンガポールで合流し、ロレンソ・マルケスに向かう事になっている。


 一方、交換相手のアメリカからも6月18日にニューヨーク港より大勢の日本人を乗せたスウェーデン船籍の「グリップスホルム号」という船が出港しロレンソ・マルケスに向け航行している筈だ。


 当然の事ながら、この交換船については枢軸陣営も連合国陣営も攻撃が禁止されているし、この船達がどこの航路をいつ通るかも公けにされている。さらに船には大きく白十字が描かれている。

 間違っても撃沈してはいけない。

日本海軍の全艦艇に両国の「交換船」の安全を徹底させるよう既に通知はしてある。


 この「交換船」については史実通りの事ではあるし、無事に交換を終える事は承知しているが、それでも少し心配だ。

実は史実で危うく、我が方の潜水艦が「交換船」を攻撃しそうになったという話があるのだ。


 今回の歴史でも早く交換を終え、同胞の日本人を無事連れ帰って来てほしいものだ。

そう言えば、来月にはイギリスとの「日英交換船」も予定されている。交渉に当たっているのは外務省だが大変だろう。


 ところでこの「交換船」の「浅間丸」には乗組員に見せかけた海軍士官が乗っている。せっかく、東アフリカまで安全に行けるのだ。その周辺の航路や船舶の状況を調べ通商破壊戦に役立てない手は無い。

尤もこれも史実通りの話ではある。



●6月26日、「B作戦(インド洋通商破壊作戦)」に従事する予定の「第3機動部隊」の指揮官と幕僚陣が決定した。大川内伝七中将が「第3機動部隊」の司令長官となった。


 大川内中将は偶々、海軍軍令部付で異動しやすかったらしい。

 史実では大川内中将は7月に「第1南遣艦隊」司令長官になるのだが、今回はインド洋で機動部隊を率いて大いに働いてもらおう。


 何せ大川内中将は井上成美中将と同期だが、その井上中将の弁によれば海軍兵学校37期では大川内伝七、草鹿任一、小沢治三郎が戦上手との事。

 その戦上手の手腕に期待しよう。



●6月27日、海軍軍令部がミッドウェー島の「第1魚雷艇隊」の配備先変更と「第2哨戒艇隊」の編成を連絡して来た。こちらの提案を飲んでくれたようだ。


「第1魚雷艇隊」の新しい配備先はツラギ島となった。

 ミッドウェー島で補給品を下ろした輸送船を1隻、「第1魚雷艇隊」の輸送に割り振るとの事。

 これで「第1魚雷艇隊」はウェーク島とタラワ島から北上してミッドウェー島へ、そして今度は南下してツラギ島に行く事になる。

 北へ南へ、行ったり来たりと慌ただしい事になってしまった。

 まぁこれも戦力の有効活用のためだ。我慢してもらおう。



●6月28日、海軍軍令部が「特殊部隊」の創設決定を連絡して来た。


 やはり通称は「S特」だそうだ。

 それにしても早い対応だ。もっと遅くなると思っていたよ。

 ともかく、これで「ハワイ攻略作戦」で使える持ち駒が増えるだろう。

  有り難い事だ。



●6月30日、「第3機動部隊」が「B作戦(インド洋通商破壊作戦)」のため出港した。

期待してるぞ。



●海軍軍令部の情報部からの情報によるとアメリカ国内では石油不足で5月1日からガソリンの配給制度が始まったとの事。

 これは史実より半月も早い。恐らく日本の通商破壊戦が役立ったのだろう。いい兆候だ。

 

 それに6月23日には北アフリカで、ロンメル将軍が率いるドイツ軍がリビア・エジプト国境を突破しエジプトへ侵入したそうだ。これは史実通りの展開だ。

 

 これでこれから予定されている日本艦隊のインド洋での大規模な通商破壊戦が功を奏せば、イギリス軍は補給に苦しみ、ドイツ軍が勝利してエジプトを奪取するかもしれない。

いい流れだ。


今までも忙しかったが、これからも忙しくなりそうだ。

「B作戦(インド洋通商破壊作戦)」

 ミッドウェー島への補給線と解読された暗号を使用してのアメリカ潜水艦隊撃滅を狙う「MT作戦(仮称)」

 さらに「南雲機動部隊」がインド洋に派遣されたとアメリカ側に思わせ、ミッドウェー島を餌にアメリカ空母部隊を誘き寄せて撃滅する「M三号作戦(仮称)」の三本立てだ。


 だが、どの作戦も戦力不足は否めない。

 そこがちょっと厳しい。

 しかし、ここが踏ん張り所だ。頑張りますか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


2016年8月21日 午前4時45分


お久しぶりでおじゃりまする。

そして当作品の更新をお待ち下さっている極少数の読者の皆様、申し訳ございませんでおじゃる。

諸種都合により当小説「栄光の勝利を大日本帝国に」の更新はまだ先になる予定でおじゃりまする。

誠に申し訳ございませんでおじゃる。<(_ _)>


そこで、お詫びの一環として「宮様、頑張る(海軍編)」の兄弟作として陸軍編を書いてみたでおじゃる。

「そんなものを書く暇があったらこっちを書け!」というお叱りはご尤もでおじゃりまする。<(_ _)>

しかし、書かずにはいられなかったでおじゃりまする。

何かの衝動に突き動かされてしまったでおじゃりまする。

きっと変な電波でも受信しちゃったのかもしれないでおじゃりまする。

そういうわけで許してくださいでおじゃる。


今回の主人公も4回目の憑依だか転生だかトリップだかをした某人物でおじゃりまする。


まぁ「栄光の勝利を大日本帝国に」「宮様、頑張る」の主人公と同一人物でおじゃりまする。

今度は「閑院宮載仁親王」となるのでおじゃりまする。

1940年10月まで陸軍参謀総長だった人でおじゃるよ。


ではお読み下さいでおじゃる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



  【宮様、頑張る】(陸軍編)


第001話『とある大佐の新任務』



1936年◯月◯◯日

『陸軍参謀総長室』


閑院宮載仁親王、それが今の陸軍参謀総長室の主である。

立派なお髭をお生やしになられている事から「髭の参謀総長」と影で呼ばれている。


そこまでは史実通りだった。

しかし、この歴史の閑院宮総長には史実には無い噂があった。


経済界の片隅で声を潜めて語られる噂。

それは密かに閑院宮家の財産、土地や建物、代々伝わる家宝や名品を全て担保にして資金を作り、幾つもの投資を行い、驚くべき事に、その投資の全てに成功して莫大な財産を築いたという噂。

その驚くべき成功に経済界より密かに閑院宮総長に奉られた二つ名が「投資の帝王」


そして密かに造船業界の一角で流れている噂もあった。

それは閑院宮家に繋がる企業が水上機をも搭載する大型砕氷船や複数の船を発注し、それが間もなく就役するという。


莫大な資産を築いた閑院宮総長は果たしてこれから何をしようとしているのか……

経済界の片隅から密かに注目している者は多い。


そんな噂が経済界に流れていたが、閑院宮総長当人はそれを知っているのか知らずにいるのか、それは全くわからない。


その閑院宮総長は、今は机の上に両肘をつき顔の前で両手の指を組みサングラスを煌めかせていた。

その姿はまるでどこかの秘密組織のうとまれる事に慣れている司令官にそっくりであり、所謂「司令官座り」の姿勢をしていた。


その閑院宮総長の前に、総長から呼び出された一人の大佐が立っていた。


「大佐、わざわざ君を中国から呼び戻したのは他でもない、君に是非とも受けてほしい極秘の任務があるからだ」


「どのような任務であろうと喜んでお引き受け致します。総長」


「そうか。それは嬉しい事を言ってくれる」


そう言って顔を綻ばせると閑院宮総長は机の引き出しから地図を取り出して机の上に広げた。


大佐には最初、その地図がどこを描いたものなのかわからなかった。一度も見た覚えがないからだ。


大佐の内心の疑問に答えるかのように、閑院宮総長が一言言う。


「これは南極の地図だ」


それは大佐にとり想定外であり、思わず驚きの成分を含んだ声を出してしまう。


「南極、でありますか……」


「そうだ南極だ」


閑院宮総長は重々しく頷き肯定すると、徐に事情を話し始める。


「現在、ドイツが極秘に南極に調査隊を送る準備をしているという情報が入って来た。

しかも南極の広範囲な地域を調査し領有する狙いがあるらしい。

ドイツの思惑はともかく南極は各国が領有宣言を行っている。

我が国もまた然り。

だが、我が国の人間が南極に行ったのは今から20年以上前の1912年に民間で白瀬隊が一度行っただけだ。

これでは我が国が南極の領有権を主張する根拠に弱い。

そこで改めて我が国も新たに調査隊を送る事にした。

この調査隊は我が帝国陸軍が主導し、その下で鉱物資源探査や気象、海洋など多岐にわたる分野の民間科学者や専門家も数多く参加する」


「それは重大事でありますな」


「うむ。

そうだ。国益を賭けた重大な任務となる。

そして生易しい任務ではない。

極寒の、それも殆ど未踏の地に挑む事になる。

ましてや日本から遠く離れるために現地で問題が生じても国からは援ける事はできん。

しかも多くの民間人科学者や専門家も統率しなければならん。

知勇兼備にして人望のある者でないと、この南極調査隊隊長という大役は務まらん。

白瀬隊は内部分裂を起こす醜態を晒したが、我が帝国陸軍が調査隊を主導する以上は、そのような醜態を晒す事は絶対に許されん」


「ご尤もであります」


「うむ。

それ故、儂は君をこの南極派遣調査隊の隊長に選んだ」


「私がでありますか!?」


「そうだ。かつてカムチャツカ半島縦断という過酷な任務をやり遂げた経験を持ち、部下達からの信望も厚い君ならば、必ずやこの南極調査を成功に導けるものと信じている」


「こ、光栄であります。万難を排し、全身全霊を持って任務を成功させてご覧に入れます!」


「うむ。頼むぞ大佐。

そこでだ、今回の南極調査の第一目標地点として南緯77度30分、東経106度00分の地点に到達してもらいたい。おおよそここら辺だ」


総長が指さした地図の一点は南極のかなり奥深くを指していた。

だが大佐は臆せずに力強く了承してみせる。


「了解いたしました」


「これは極秘の話だが、過去に南極を探検した外国人の中には、どうやらこの地点で何かを見た、または何らかの体験をした者がいるらしいのだ」


「体験でありますか?」


「うむ。詳しい事はわからんが、地底都市らしきものがあり、そこで暫く暮らしていたというような事を言う者がいるらしい。残念ながらその者の身柄はドイツ政府が確保してしまったようだが」


「地底都市でありますか? では、ドイツが極秘に計画しているという南極探検も……」


「うむ。そうかもしれん。地底都市の真偽はわからんが、ドイツという国が動く以上は何かがあると思っていいだろう。できればドイツに先んじて何があるのかを確認したい。

それに地底都市なぞ無くとも有望な鉱物資源でも発見できれば、との考えもある。だから鉱物資源探査の専門家も調査隊に加わっているのだ。

南極大陸は未だ我々の知らない部分が大半を占める。今回の調査で少しでもその実態を解き明かすのだ。

頼むぞ牟田口大佐」


「全力を尽くします!」


こうして南極調査隊隊長に任命された牟田口廉也大佐は、閑院宮総長の副官より改めて山ほどの資料を手渡され退室していった。


閉められた総長室の扉を眺めながら閑院宮総長は胸の内で呟いていた。


さて、これで歴史はどうなるか?

盧溝橋事件で現地部隊の連隊長だった牟田口廉也大佐を南極に派遣するわけだが、盧溝橋事件はどう変化するのか?

史実通りに戦争になるのか? それとも衝突は拡大せずに終わるのかな? まっどっちでもいいが。


それにしても牟田口廉也という人物は、史実ではインパール作戦での第15軍の指揮ぶりから実に悪名が高いが、この佐官時代や師団長ぐらいの頃の評判はそれほど悪くもない。

部下の先頭に立ち引っ張っていくタイプだったとか、部下思いだったとかいう話もある。

昇進が人を変えたのか、それとも年齢が上がると共に考え方か、性格が変化したのか……

人というのは実に興味深い。


まぁそんな事より南極だ。

南緯77度30分、東経106度00分の地点。ここの厚い氷の下にはボストーク湖がある。

そして「月刊ム◯2014年2月号」によると、ここら辺には異星人の子孫が造った都市だか、タイム・トンネルだか、スター・ゲートだか、地底王国に繋がる洞窟だか、ナチス第四帝国の秘密基地だかがあるらしい。

まぁこの歴史ではナチス第四帝国の秘密基地はまだ建設されていないだろうが。


ともかく「月刊ム◯」よ。

この儂が南極の秘密を暴いてくれるわ! ぐわっはははははははははははははははははははははは。


そのために財テクに励んで砕氷船まで建造させたのだ!

ドイツの南極調査隊なんざ、史実では1938年に南極に行くから、まだ準備も計画もされておらんわ。

単なる南極調査の口実にドイツの話を前倒しで引き合いに出しただけの事。ぐわっははははははは。


あぁ南極では何が見つかるか、実に楽しみだわい。ぐふっぐふっぐふっ。




〖度重なる憑依だか転生だかトリップだかの人生で、今回の主人公はどうやらオツムに何かしらキテしまったらしい……

オカルト雑誌の記事を真に受けるとは……

今回の主人公はもうダメダメかもしれない……〗                                   



【つづく】






<次回予告>

総長の熱いオカルト魂……ではなくて考古学への熱い想いは止まるところを知らない。

そのドドメ色の熱き思いに民間人さえ巻き込まれていく。

総長の混沌たる妄想に歪んだ欲望に翻弄される男達の悲劇はまだ終わらない……


次回「とある公爵の憂鬱」

ご期待しないで下さい。

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