第3話
桜井の家は、木造の平屋だった。すぐそこにビルが見えるのに、彼女の家はまるで田舎の中にあるようだった。
「散らかってるけど、気にしないでくれ」
桜井はそう言いながら引き戸を開けた。古い引き戸は立て付けが悪いのか、ガタガタと音を立て、途中で引っかかりながら開いた。
引き戸が開いてすぐ目に飛び込んできたのは、玄関先で背筋を伸ばしお座りしていたたシェパードだった。かなり大きく、キリッとしたその面持ちは紳士を思わせた。
「ルイ、ただいま」
桜井はそう言ってルイとよばれたシェパードに抱きついた。シェパードも嬉しそうに桜井の顔を舐めた。
「この子はルイ。捨て犬だったんだ。奥にも沢山動物がいるけど、気にせず上がってくれ」
僕は桜井に言われるまま靴を脱ぎ、廊下の突き当たりにある部屋へ歩いた。桜井はそこが居間だと言っていた。
廊下の突き当たりにある部屋の障子を開くと、桜井の言う通り、沢山の動物がいた。猫に、犬に、インコ。全部で10匹以上はいるだろう。猫は気ままに昼寝をしてるし、犬は、特に小型犬は、走り回っている。
「な、沢山いるだろ?」
玄関からルイを連れてきた桜井は、得意気な笑みを浮かべた。
「凄いです。みんな捨てられてたんですか?」
「みんなって訳じゃないけど、ここにいる子は色んな事情を持ってるのは確かだよ」
よく見れば、猫や犬の中には片目が傷ついたもの、義足のもの、怯えてゲージから出て来ないものもいる。虐待などで傷付いた動物を保護しているのだろうと察した。
ふと、8畳ほどの居間の隅に膝の上の仔猫と猫じゃらしで遊んでいる少女が目に入った。夢中になっているのか、僕らに気付いていない。少女は、高校生くらいだろうか?ジャージ姿で、肩まであるストレートの黒髪。左目には白い眼帯を付けている。
少女は視線に気付いたのか、こちらに目を向けた。僕と目が合うと、驚いたような表情を浮かべた。
「あ、初めまし・・・」
「ナイトっ!!」
少女は勢い良く立ち上がると、僕に抱きついた。