第1話 家庭崩壊
嵯峨央斗、高校2年生。
この年の男子ならば、友人とバカ騒ぎしたり、恋愛に没頭したり。
とにかく青春まっただ中だろう。
放課後を迎えた今も、部活や遊びに胸を踊らせる奴らの声で溢れかえっている。
俺には無縁な話だ。
滅多に帰ってこない両親。
残されているのは、いつも月の初めに用意される一ヶ月分の生活費。
我ながら見事な家庭崩壊。一緒に食卓を囲んだことなどまず無いし、旅行だのレジャーランドだの夢物語。
それでも俺は、寂しいと思うことはなかった。
寂しいとは、愛された人間が感じる感情。そんなもの、俺には一生かかっても起こらないだろう。
家に帰ってきても、灯りが付いてることなんてないに等しい・・・・
「・・・・付いてる」
ほんのり付いているリビングの灯り、父親か、母親か。
・・・どうでもいい。
鍵を開け、家へ入ると目に入った二足の靴。
二人共いるなんて珍しい。
「あら央斗、どこほっつき歩いてたの」
「別に」
「どうでもいいが、問題だけは起こすなよ。厄介事はごめんだ」
リビングに入ってきても誰ひとりとして視線すらよこさない。
父親は荷物の整理をし、母親は資料に目を通している。
(問題なんて、起こす気にもなれねぇよ)
よく青少年で問題を起こすのは、周囲へのSOSのサイン…なんてよく言うが、そんなやつはまだ救いようのあるやつだ。
ここまで綺麗に家庭崩壊していると、暴れる気すら失せてくる。
あんな関係でなぜ結婚して、子どもなんて作ったのか。
そもそも・・・結婚とか愛とかわけ分かんねえし。
ま、知る必要なんてねぇか。
きっとこの先も俺はこんな調子で生きていくのだろう。
(愛なんて、必要ないだろ)
この時の俺は、確かにそう思っていた。
次の日、自分の運命を大きく変える出逢いが訪れるなんて知る由もなく。