見知らぬ洞窟
あれから数日たちヤンの足もすっかり治ったようだ。お父さんには刀を持ち出したことがバレ痛めた足で一時間以上正座させられながら説教を受けたみたい。
わたしは調子のいいことに魔法を一つ習得することができた。これでわたしが使える魔法は二つになり、少しずつ前進している。
いつものように錬金術をしているとき、ヤンが部屋にやってきた。どうやら家族が家にあげたようだ。
「くっせー」
部屋に入って来るなり鼻をつまみながら文句を言ってくる。嫌なら入ってくるな。
どうやら昨日村の近くで新しい洞窟を発見したらしくそれを伝えに来たようで、今から行かないかと誘われている。
「危ないでしょうし、ご遠慮いたします」
わたしは親切ご丁寧に断った。
「行こうぜー、一人だとつまんねーし」
「わたしは忙しいの」
そう言い錬金術の続きを再開した。
「ならこれならどうだ?」
付いて来てくれるとどうやらわたしが作ったアイテムを買ってくれるらしい。いつもの常連のくせに嫌らしい、でも、今お金が少ないんだよね。
「交渉成立ね」
わたしたちが部屋を出たときそこにはルミちゃんが居た。どうやら話を聞かれていたらしくわたしも連れていってと頼まれた。危ないかもしれないからつれて行く気はなかったんだけど、親に言うと脅され仕方なく連れて行くことにした。
「ここだ、わかりにくいだろ」
洞窟は岩と岩の小さな隙間を何度も通たところにあった。これは好奇心旺盛な人しか気づかないだろう。
洞窟の中は光が入る場所がないせいか真っ暗で、そしてこの中は夏場みたいに温度が高くじめじめと暑い。できれば入りたくないな。
「こんな暗いところどうやって進むの?」
「ちゃんとライトを持って来てるぜ」
そう言うとヤンはライトを取り出した。数は二つしかなくもう一つはわたしが持つことにした。
「ルミちゃん、ちゃんとわたしについて来てね」
ルミちゃんは頷き、手を繋いで歩くことにした。
洞窟の中はあまり広くはなく地面もボコボコと足場が悪い、時折外から風が入ってくるみたいだが温風でまったく涼しくない。どこまで進んでも生き物の気配もなく気味が悪い。
「何にもねーなここ」
ヤンはライトを辺りに回しながら歩いている。
ルミちゃんは暗闇に慣れたのかわたしの手を放しヤンの後ろをついて行く。わたしは二人の様子を見ながらゆっくりと後ろからついている。
ヤンは急に足を止める。どうやら歩いている左の方の足場がなくなっているようで、気をつけて歩くように言われた。左の方をライトで照らすと足場がなくなっており大きながけが開いている。
これは恐いな、さすがに気をつけて進まないとまずいかも。
わたしはさっきよりも距離を取り、気を引き締めて進むことにした。
「何もないしそろそろ帰ろうか」
ヤンはそう言うとこちらに振り返った。ルミちゃんもこちらに振り返ったのだが右足ががけの方に近づき踏み込んだ瞬間、バッキという音とともに足場が砕け散り体のバランスを崩して行く。わたし達は慌てて手を差し出すが間に合わなかった。
「お姉ちゃーん」
「ルミちゃーん」
ルミちゃんは暗闇の下に消えて行った。わたしは何度もルミちゃんの名前を叫んだが返事が返って来ない。わたしは力が抜けて崩れ落ち、涙が止まらない。
気がつけばヤンもそばに居なくなっていて、暗闇の中、悲しみと孤独感で押しつぶされそうになった。
「おいメル、速くこっちに来い」
どこからか帰ってきたヤンがわたしの手を引っ張って歩いて行く、わたしは歩く気力すら無く足を引きずられて行く。
「しっかりしろ、ルミはまだ無事だ」
励まそうとしてくれているのか知らないけどこんな所から落ちたらどう考えても無事じゃない。しかし、わたしを引きずりながらがけをくだって行く道なのか、どんどん下がって行く。
すると微かになつかしい声が暗闇の中から聞こえて来た。
「お姉ちゃーん」
何度も何度も聞こえて来る。
「ルミ大丈夫かー?、今すぐそっちに行くからその場所から動くなよ」
「わかったー、わたしは何とか大丈夫みたい」
「お前も速くシャキッとしろ、ルミを探すぞ」
真剣な表情で体を揺さぶって力を戻してくれる。
「うん」
わたしは立ち上がり涙を手で拭いて叫んだ。
「ルミちゃん、絶対、絶対助けるから待っててね」
「わかったお姉ちゃん、待ってるから」
わたし達は少し進むと分かれ道に出会った。別れて二人で探したほうが速いし、ルミちゃんを長くほっとく訳にもいかないのでわたし達は別れることにした。
「一人でも大丈夫か、お前も気をつけろよ」
わたしは頷き右の道に進んだ、ヤンは左に進みわたし達は別れた。ちなみにわたしのライトは泣いた所に落としたままで、変わりに魔法で手の上に火を出しながら進んでいる。よかったのか悪かったのかこちらの方が辺りをよく見渡せ視界がよかった。
ルミちゃんも無事だと言ってるし、本当によかった。神様ありがとう。
わたしはできるだけ急ぎながら足場の悪い道を進んでいった。
すると途中で広がった部屋をみつけた。中を覗いてみると何もなく殺風景だが奥で何か光っている、気になったわたしは少し覘いて見ることにした。