森のキング
ヤンは広場を一気に駆け抜けると素早く石の上に飛び移り、腹部めがけて斬りかかる。しかし、ボスは座ったまま体をひねり、牙で刀ごと軽々とヤンを吹き飛ばした。ヤンが立ち上がっているうちにボスはヤンに向かって突進していく。ステップで上手くかわしながらすれ違いざまに刀で斬りつける、急いで間合いをあけたヤンは刀を構えた。
今のは完璧に決まったはず、もしかしたらホントに勝てるかも。ヤンってこんなに強かったんだ。
ボスは何もなかったように振り返り雄叫びをあげた。
再び突進してくるところをステップでかわし斬りかかろうとするヤンに対して、ボスは急停止し顔を振り上げた。不意を衝かれたのかヤンはもろに攻撃を受け、地面を転がっていく。追い討ちかけるようにヤンに向かって走って行くボス。何とか立ったヤンだけど今度はかわせなかったのか、二本の牙を正面で受け止めた。しかし、パワー、体格差からわかるようにその場で踏ん張れず、あたり全体を覆うほどの砂煙を出しながらすごい勢いで後ろに押されて行く。
「後ろ気をつけて!」
このまま押されていけば後ろの木にぶつかることがわかった瞬間、思わず叫んでいた。
後ろを振り向き状況を理解したのか、うまく横に転がりボスから放れたヤンは一目散に刀を回収しこちらに走ってきた。
「急いで逃げるぞ」
ヤンはわたしの手を引っ張って全力で走っている。しかし、運動音痴のわたしが居るせいか後ろを見るとすぐ近くにまで迫って来ている。
近くで見るとすごく大きいし、威圧感を感じる、恐いよ。
「メル、何かいいアイテムないのか」
「全部使ったって言ったじゃん」
わたしはもう恐怖のあまり半泣き状態だ。
「だから止めようって言ったのに」
「魔法、そう魔法、何か使えるようになったか?」
「まだだよぉ、全然実践レベルじゃない」
二人の息も上がってきていた。このままでは無理だと思ったのかヤンはわたしの手を離した。
「こいつはオレが引き付けとく、だから今のうちに逃げろ」
今度はヤンからボスの真正面に向かって行く。紙一重で横にかわす、それと同時に顔面めがけて斬りつけた。
ボスは急ブレーキをかけ、進路を変る。そのまま動かずしばらくヤンと睨み合いになっていた。
この隙に逃げるべきかどうか悩んだが、わたしにはヤンを置いて逃げることができなかった。きっとわたしにも何かできることがあるはずだ。
硬直後、ヤンとボスはお互いに引けをとらないほどいい戦いだった。しかし、疲れてきたのだろうか、ヤンの動きは一気に鈍りピンチとなっていた。
ヤンが危ないと思ったわたしは近くに駆け寄り、魔法で加勢することにした。
わたしは両手にエネルギーを集め始める。中央に赤色の炎の玉が出現したところで、一気に大きくしていく。しかし、フレアボムは悲しいことに維持することができず投げる前に消えてゆく。わたしはもう一度作り上げ、今度は維持できるギリギリの大きさでボスめがけて投げつけた。
「くらえ」
フレアボムは最初はいい感じで飛んでいたが、小さく不完全なためか少しずつ小さくなっていき、届く前に完全に消滅していた。
「そんな……」
ヤンをなぎ払ったボスは次にわたしめがけて牙を振り回してきた。わたしはかわすことができず遠くまで飛ばされてしまった。
地面に落下すると同時に衝撃が体に走る、痛みに苦痛の顔を浮かべてしまう。牙が当たったところは特に激痛が走っている。それに強く体を打ちつけたことで呼吸がうまくできなくなっている。
「痛い」
わたしは痛みにもがきながらも、ボスが角を向け突っ込んで来ていることに気づいた。しかし、まだ激痛を感じておりまったく体はいうことをきかない。
やっぱりヤンが言うように逃げるべきだったな。間違えちゃった。お父さん、お母さん、ルミちゃんごめんね。ちゃんと言うことを聞かないせいで、先に死んじゃって。
涙で歪んでしまった世界の中で、少しずつ迫って来る物体は急に目の前から消えた。
「うぉぉりゃー」
突然視界にぼやけたヤンの姿が入ってくる。
「くそっ、重たいんだよ」
わたしには何が起きたのかまったくわからなかった。けど、どうやらヤンが助けてくれたみたいだ。
「今のうちだ、早く逃げるぞ」
ヤンはわたしを抱え走り出した。
わたしは痛みと疲れのせいか意識を失ってしまった。
バトルシーンを書くのがこんなに難しいとは思ってなかった。
キャラの設定をまだ細かく決めてないのだが、ヤンの身体能力が高すぎて自分でもビックリしてしまった。