メルルの冒険記
プロローグ
まだ魔法が使えるようになってから二千年ほどしか経っていない頃の話。この時代では魔法が使えるものはほんの一握りだったが、ルンティーヌで育ったメルルは運よく魔法を使うことができた。それともう一つ三千年前から少しずつ研究され始めた錬金術、こちらは千五百年前に一人の男によって一気に進歩した。彼は賢者の石、エリクサーを作ることができていたと書物にも残されており奇跡の男として錬金術界では崇められている。二つの作り方も書物に残っているのだが、彼以外に成功したものはまだいない。彼のおかげか錬金術は絶大な人気を誇り、今でも一部の間で錬金術の研究が続けられている。その時代に生まれたメルル、彼女は最強の魔法使い&凄腕の錬金術師を目指している。
ルンティーヌ編
わたしは自分の家の庭でフレアボムの魔法の練習をしている。
両手を前に差し出し手のひらにエネルギーを送る、すると両手の中央に小さな火の玉ができてくる。そして次に手のひらのエネルギーを中央に集める感覚で火の玉を少しずつ大きくしていく。それなりの大きさになると今度はその大きさを維持して安定させなければならない、そうしないと火は消滅するためフレアボムは失敗となってしまう。わたしはこの維持して安定させるところが苦手で、練習を始めてからもう三ヶ月も経っている。参考にしているこの初級魔法書によるとこのフレアボムは二週間でできる初歩魔法。火が消えていくたびに何度も虚しくなり、わたしはなんて才能がないのかと思い知らされる。すでに何度挫折しかけたかはもう覚えていない、そのたびに妹のルミちゃんに励まされなんとかやってこれた。もう一つ頑張れた理由もあるけどあまりいい気がしないんだよね、運動オンチでチキンで背もかなり低くて特にいいところが何もないわたしだけど、唯一自慢できるのが魔法を使えること。だからすごい魔法を使えるようになって、わたしもすごい部分があるんだよって自信をつけたいんだよね。でも現実の結果はひどいありさま。つらい日課だよ。
今日もダメだったな、いつも通りのまったく同じ場所で何の進歩もなく時間を無駄にして終っちゃったし。使うたびに疲労感もすごいし、もうやめようかな。
何度も練習して疲れたので、今日はもうやめることにして家に戻る。
縁側では妹のルミちゃんがこっちを見ていた。今日もいつもどおり髪は整えてはおらずぐしゃぐしゃだ、ちゃんとしているときは髪がふわふわしていてとても可愛く肌も色白でとても綺麗なのに家ではいつもこうだよ、手抜きばかりして。もう昼過ぎだってのにパジャマのままだし。わたしと一歳しか変わらず十四歳なんだからもうそろそろちゃんとして欲しいよ。
そのわりに身長だけはしっかり伸び150cm超えてわたしより高くなるなんて…… うらやましい。
「お姉ちゃん、どうだった?」
「今日もダメだった」
わたしはがっくししながら縁側から家に入る。
「そっか、でも練習していればかならずできるようになるって」
いつも通りわたしを励ましてくれる。それはありがたいけど、申し訳なくも感じてしまう。
「そうかな、練習始めてからもう三ヶ月経つけどずっと進歩ないよ」
「大丈夫だって、お姉ちゃんなら絶対できるよ」
簡単に言ってくれるよね、魔法ってとても難しいのに。やってみたら絶対にそんなこと軽々しく言えないよ。
「うん、できるだけ頑張ってみる。それと今から錬金術始めるから邪魔しないでね」
「わかった、でも爆発させないように気をつけてね」
「もうそんなミスしないって」
嫌なことの後は趣味である錬金術にかぎるよ。わたしが小さい頃に錬金術師のお姉さんに会ったことがあって錬金術を見せてもらった、その時とても感動しちゃったんだ。手の内側が光りだしたと思ったらいきなりきれいな石が出てくるんだもん、目の前で物体が違うものに変わるんだよ、すごかった。そんなことがあってから錬金術にはまったんだよね。しかも錬金術でできた石をお姉さんはくれたんだ、その石はめずらしいものらしくて今ではわたしの宝物になっている。
昔の楽しかったことを思い出して、今の嫌な気分をルンルンの気持ちに切り替えて自分の部屋に入る。
入った瞬間にツーンと衝くような臭いが鼻に押し寄せる、クサイ。それは薬品やら鉄やら植物やらの臭いが混ざりあって異様な臭いが充満しているせいだ。でもさすがわたしの部屋だ、錬金術師のかがみだね。この臭いも五分もしないうちになれるから大丈夫。部屋の中にはいろんな物が無雑作に散らかりまくっている、いつかは整理しないとといつも思っている。そう思いながらすでに一年以上たっているけどね。やる気がないわけじゃないんだよ、また今度でいいかなと思い続けた結果こうなっただけ。いつかはちゃんとやるよ。
わたしは錬金術で使う道具散らばった中から集めだし、自慢の釜の前に立った。この釜は八年前にお小遣いの十年分、前借で買ったんだ。当時は前借なんてよく意味がわからなかったから、買ってくれるならって適当に頷いてたけど。すぐに後悔することになったよ、だってずっとお小遣いがもらえないんだもん。子供にそんなことしたらだめでしょ、一種の詐欺だよ。錬金術をするにはお金が必要、でもお金はもらえない、だから親の手伝いをしたりしてお金を貯めてきてたんだ。今では錬金術で作ったものを友達に売ったりして稼いだりもしている。苦労するよ、ホント。でもおかげで思う存分錬金術をしてこれた、憧れていたやり方と少し違うとたまに思うこともあるけど。それにこの釜のデザインも気に入っている。金色の模様が釜の周りを包んでおり、大き目の宝石がちりばめられている、これが大中小の三点セット付き。だからとても満足もしている。
在庫もなくなってきたし今日はまずリキュールボムでも作ろうかな、これはビンの中に錬金した液体を入れ真空にすることで次、空気にふれるとちょっとした爆発を起こすことができるもの。これは町の外に出たとき遭遇する獣に使えるんだ。獣のすぐそばに落とすことで爆発を起こし、それを聞いた獣は逃げて行くの。これはわたしのお出かけ必須アイテム。
作り方はベースとなるお酒のリキュールと小さくすり潰した発火草を釜の中に入れ高温で熱しながら混ぜ、合成することで作ることができる。
わたしは手早く四つのリキュールボムを作り上げた。これは明日、ホルンの森に行くときに持っていくものだ。外に出て錬金術の材料を採取するときは危険がつきものだからね。
そのあとは次の日になるまで、たまに爆音を鳴らせながらまだ作ったことのない新作づくりに没頭した。