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社の罅に這入った子供  作者: 不埒者
第一章 過去/荒廃
7/10

第七幕

――行くのか?

狩りが始まる前に行った問答を、再び繰り返した。

あの時は詳しく話せなかった話。

“狩り”によって埋められていた別れ。

ギンは、改めて司の気持ちを再確認したかったのだ。

「そうだ、ね。名残惜しいけど、区切りをつけなくちゃいけないから。前から思っていたんだ。いつかはここを出ようって」

――そうか……そうだな。レオは外の世界を見てきたほうが良い。外の世界を、知ってくるといい。

「ありがとう」

――礼には及ばないさ。

「ギンは、これからどうするの?」

――そうだな。……もうココには誰もいないから、用は特にないのだが……。だがまあ、移動する理由も無いからな。ここに居座る事にするか。

「ここは、いい場所?」

――そうだな。レオと出会えたのだから、いい場所なのだろう。

「そっか……」


辺りに咆哮が鳴り響いた。

――やはり、締めにはこれだろう?

司は笑った。

「そうだね」

――出会った時と同じだ。

「うん」

――嗚呼。やはり月は美しい。司、空を見上げてみろ。星が綺麗だ。

ギンは、司を司と呼んだ。

二人の旅を始める前の、呼び名。

無論、司もそれがどう言うことを指すかわかっている。

わかっているからこそ、敢えて断った。

「今じゃなくても、いいんでしょ?」


ギンは、少し戸惑っていた。

だが、ギンは思い出した。司の性格を。

『ああ、こいつはこういう奴だった。こいつは、全てをわかっている。わかっているからこそ、敢えて……』

ギンは涙を流し、心底嬉しそうに、頷いた。

「どうしたの。何か痛いことでもあった?」

ギンは思った。

ああ、こいつは外に出さなきゃならない。そうしなければ、報われない。こんなにも優しさを持ち合わせていながらこいつは、それに何一つ気付いていない。

それではあまりに不憫だ、と。

――ああ、嬉しかったんだ。

「嬉しかった?」

――外の世界に出れば、セカイで色々なことが起こっているのがわかる。司は、いろんなことに触れて、いろんなことを学ぶといい。そこから得られるものは沢山ある。殺すことだけが生きるコトじゃない。それが、外に出ればわかるさ。今はわからなくともいい。わかったときには、何故私がないて、嬉しく思っていたかもわかるだろうさ。同じ様なコトで、司もなくかもしれない。

「なく?」

司の疑問は尽きない。

――涙は、痛くて流すだけではないんだ、司。

まだギンが何を言っているのか、よくわかっていないようだった。

司は、嬉しいと言う感情は出るようになった。

だがそれは、物事から一直線に『嬉しい』と感じる場合だけだった。

曲がったり、折れたり、返ったり。

感情が出るまでには多様な道が存在する事を、司はまだ知らなかった。

――外に行けばわかるさ。

「……そう」

――わかるといいな。

「そうだね」

――また何かあれば来るといい。但し、土産話は必須だぞ?

司は笑いながら言った。

「何の話をすればいいの?」

――何でも良いさ。外の世界で感じた事を話してくれれば、それでいい。

「それなら簡単そうだ」

――そうか。それは良かった。

「撫でてもいい?」

――血だらけだがな。いいのか?

「ああ、いいよ」

司は、毛並みに手を載せた。

「ああ……柔らかい」

――ふふ。気に入ってもらえたか。

「うん。こんなに柔らかいんだったら、またがってみるんだったな」

――冗談だけにしておいてくれよ。

「冗談だよ」

ギンは、いつものように笑い出した。

――司が言うと冗談も冗談ではないような気がしてな。

「む。失礼だな。僕にもそれくらいわかるよ」

――ふふ。そうか。

「そうだよ」

その言葉が、区切りとなった。

「それじゃあ……行くね」

――ああ。またな。

「うん。また」

さよならは言わない。

それは、二人の共通の思いだった。


司はギンを一瞥した後、背を向けて歩き始めた。

高く手を振りかざして。


呼応するように、ギンが鳴いた。

ギンがこの山で鳴いたのは、初めてのことだった……。

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