表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社の罅に這入った子供  作者: 不埒者
第一章 過去/荒廃
6/10

第六幕

司とギンが目覚めたのは、昼過ぎだった。

夜起きている分、長めに睡眠をとっておくというのが、二人の作戦だった。


「それじゃあ、支度を始めようか」

司は森へ入ると、アカガシを探し始めた。

すぐにそれは見つかった。

日ごろから森を駆けている賜物だ。

切り倒すと、石手に持ちやすい大きさまで石刀で削っていった。

数時間で、短めの木刀が二本出来上がった。

――ほう。刀か。

「うん。やっぱり刀が良いよ」

――しかし、今までレオの狩りの姿を見た限り素手が多いようだが。

司は、舌を出して笑った。

「結局最後は、からだ一つで戦うことになるかもしれないね。でも、やっぱさ。折角戦うのならば、それを楽しまなくちゃ」

――そうだな。



陽が傾き始めた。

狩りの時間は、刻一刻と迫ってきている。

司とギンは、手分けして食料を集めていった。

司は植物、ギンは獣。

短時間で、軽く一日は越せる食料が集められた。

持久戦などにするつもりは毛頭ない二人であったが、念には念を入れていた。

食料調達が終わると、司は身の回りを片付け始めていた。

狩りが終わる。それは即ちここを去ることを意味する。

――ここを出るのか?

ギンの声は、これまでとは少し違う色をしていた。

「どうした。らしくないよ、ギン」

――そうか。確かにな……。

表にはあまり出なかったが、ギンの覇気がいつもより弱いのは明らかだった。

そんなギンを見て、司は初めてギンの弱さを感じた。

ギンを励ますように、司はおだやかな声を出した。

「大丈夫だよ。逢おうとすればいつでもここで逢えるさ」

ギンが、笑いを含んだ声を発した。

――ふふ。レオに気を使われてしまうとはな。私も老いたものだ。

「何を言っているんだ。いつだってギンは強かったじゃない。少なくとも、僕の理想だよ。ギンは。それは今だって変わらない」

――泣かせる事を言うじゃないか。レオは変わったな。

「そんなことはないよ」


風の流れが変わった。

――お話は一旦休憩にしようか。

司も、変化に気付いていた。

「そうしよう」


足跡を潜ませていようが、音を除ききることは出来ない。

くわえて、ギンの嗅覚は人の何倍も良い。住人達の行動は筒抜けだった。


ギンは、面を上げた。

――さて、今後について話そうか。

司は、ギンの思惑に気がついた。

「そうだね」

――何処へ行くのだ? 

「まだ、決めてないよ」

――ふむ……。外の世界も、昔とは違うのだろう。人の世が如何なものか、少々興味がある。レオ、少し教えてくれ。

「残念ながら、僕も行ったことはないんだ。生まれてから、ずっとここだったからね」

――そうなのか。


目前にまで、敵が迫っている。

だが、まだ早かった。

彼らが油断を見せるその瞬間を、二人は待っていたのだ。


案の定、隙は簡単に生まれた。

彼らが、剣を振り上げた一瞬。彼らは勝利を確信したばっかりに、大振りだったのだ。

二人がそれを見逃す筈がなかった。



司は、彼らの顎を的確に突き上げていった。

その動きに無駄は一切なかった。

単純だが確実。機械のように計算されつくした正確な打撃。

それが、司の最大の特徴であると共に、最強の武器だった。

「なんで! こんなハズじゃ……」

「悪いね。昨日の話を聞いてしまったんだ。恨むのなら、聞いてしまった僕を恨むんだね」

ひっ、と言う声がいずこからか聞こえた。

しかし……もう既に全ては遅かった。戦いのゴングは、とっくの昔に鳴り響いていたのだから。


淡々と彼らをないでいく司の横では、狂喜に満ちた寅が、唸り声を上げながら住人達を蹂躙していた。


こちらでは、あまりの速さに声を上げる暇もないようだった。


ギンは、白い牙を用いて人々を狩っていた。

牙には人の血が塗られ、牙はぬらりと輝いていた。

ギンが人々を狩るたびに、牙は月に照らされ、血の軌跡を描いていた。


刀を一閃するかの様に、ギンは彼らをを蹂躙し続けた。



――――時は流れて。


狩りの時間は終わった。

辺りは血の海と化していた。

淀んだ空気は血の臭いを孕んでいた。

司の身体はどす黒い血潮にまみれていた。

レオは鮮血を浴び、真の獣へと変貌していた。


「終わった」

――ああ。

「早かった……のかな」

――どうだろうな。


既に生き物とは呼べなくなったそれらを一瞥し、二人は歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ